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その無限の先へ 作者:二ツ樹五輪(*´∀`*)

第三章「遠き呼び声」

27/107

Prologue「戦い終わって」

日刊じゃないです。(*´∀`*)
-1-



 様々な影響を各方面にバラ撒いて俺達の新人戦は終了した。
 あの後会ったおっさんには、停滞していた< ウォー・アームズ >の攻略を進める起爆剤になるとも言われたし、同期連中の反応も良かった。
 リリカも絶賛の連呼だったし、クロに至っては号泣していた。何がそんなにあいつの琴線に触れたのかはよく分からなかったが。

 新人戦は結局負けたものの、色んなところから高評価を貰っている。
 試合の動画は凄まじい勢いで売れているらしいし、それに合わせるように俺達のトライアル攻略の動画も売上を伸ばしている……らしい。
 残念ながら、トライアルの攻略動画はギルドの一括買取だし、新人戦は全試合規定の金額しか出ないので、俺達の懐にはあまり関係ないのだ。
 それでも、風俗などに無駄遣いするわけでもないので、生活費にそれ程困ってはいない。うん、とても良い事だと思う。決して負け惜しみではない。

 ギルド職員からは、今月のトライアル突破者が多くなるだろうとの話も聞いている。
 そこまで大規模に影響があるとか、自分ではちょっと信じられないのだが、現に直後からクリア者が増えていたらしい。

 試練は失敗してしまったが、すぐに次の試練も出るという事で、ユキもそんなに気にしていない様子だ。
 男性化の進行が止まったというのも大きいと本人は言う。

『そうだね。あれだけでも、普段から感じてた焦燥感とか、そういう感情がかなり消えた感じかな。』

 言わなければ気づかない程度ではあるのだが、言動や態度が若干丸くなっているようにも見える。
 根本的なものは変わらないようなので、ゲーム脳的な部分は女になったとしても変わらないだろう。
 女だった頃からそんな感じだったみたいだし。

 それよりも問題は、ダンジョンマスターが残していった最後の伝言だ。
 あの後、何度か連絡を取ったものの、ダンジョンマスターからの折り返しはない。
 きっと忙しくて連絡する暇がないとか、そんな感じだと信じたい。逃げたんじゃないよね。



「で、そろそろ聞かせて欲しいんだけどさ」

 新人戦の次の週から行われているタイムアタックイベントの終了後、3人で反省会をしているとユキが切り出してきた。
 場所はいつものギルド会館食堂だ。そろそろ定位置になってきた。
 今はランチタイムが終了しているので喫茶店になっている。

「来週のマゾヒズム・コンベンションの事ですね。関係者チケットがまだありますので、大丈夫ですよ」
「いや、それじゃないから。……チケット出さなくていいから」

 コンベンション開催するのかよ。会場はどんな魔窟になってしまうのだろうか。絶対行きたくない。

「聞きたいのは"ミユミ"さんの事だよ。
あの後、閉会式が始まって聞きそびれて、書類地獄も合ったからここまで伸びちゃったけど、いい加減いいでしょ。
……それとも、何か聞いたらマズい話なのかな。ダンジョンマスターのあの口振りだと例の4人目だよね」
「そうだな、別に隠してるわけでもないし話そうか」

 かつて、俺が渡辺綱だった頃。……いや、今も渡辺綱だな。

 かつて、日本で生きていた前世の頃の話だ。高校時代に岡本美弓という、ちょっと頭のアレな女の子がいた。1つ下の後輩だ。
 ポニーテールをチャームポイントと称して止まない、ウザい系少女だったが、ミユミという名前と俺個人のメッセージだった事を考えるとアレしかありえない。
 この世界では前世の名前がシステムに残ったりするので、同じ名前だとしてもまったくおかしくない。
 大体、俺がツナのままだったし、ユキも似たようなもんだ。サージェスは知らん。

「えーとな、説明が難しい奴ではあるんだが、ミユミはおそらくトマトだ」
「?」
「なるほど、そういう野菜が進化した種族が存在するわけですか。流石迷宮都市ですね。奥が深い」

 いや、そういう事ではない。
 確かにいそうだけどさ。

「あ、あの時に話してた後輩さんの事か」
「そう。前世の名前は岡本美弓……勝手に言っていいのかな。いいか、あいつだし。
俺もユキも同じようなものだから分かるだろ、そのまんま転生したんじゃないか?」
「野菜人ではないという事でしょうか?」

 トマトとアレは切り離せない関係だから、野菜から離れろとは言わんが、なんだその超強そうな種族は。変身したりするのか?
 尻尾生えてたりするんだろうか。……まさか、だから次回作を大猿にとか……考えすぎか。

「トマトってのはアレだ、渾名、ニックネーム。お前も何かあるんじゃないか? ユキとか"兎さん"とか呼ばれてるみたいだし」
「私は掲示板などでは"変質者"や"露出狂"と書かれたりしますが、そういう事でしょうか」

 いや、それはちょっと違うんじゃないか?

「もうちょっと、本人固有の特徴とかを現したものだな」
「兎は別にいいんだけど、< 獣耳大行進 >のマスターがウサ耳だから、ちょっと混同されそうなんだよね」

 巷では、兎といえばあいつらだからな。
 一切キャラが被ってないのに混同されるというのは凄い。

「ではアレでしょうか。掲示板で、"裸ージェス"と書かれた事があります。上手いもんだと思いましたが」
「そうそう、そんなの」

 酷いニックネームだと思うが、今更こいつが何と呼ばれてようが構わん。
 むしろ大人しい渾名だと思うぞ。

「そうそう、……じゃなくてさ。トマトさんが4人目って事なのかな」
「あー、多分な。正直、あんまり会いたくない奴ではあるんだが、前世の知り合いがいるとなると、会ってみたくもある」
「どんな人だったの?」
「今とは流石に性格違うと信じたいんだが、ウザい奴だった」

 きゃはっ、とか、思い出すだけでぶん殴りたくなる。

「ツナだけがそう思ってたんじゃなくて?」
「高校時代の部活仲間は共通の認識だった。良くプロレスの技掛けられてたぞ。
もう顔も覚えてないが、部活仲間の……確かレタスあたりがインディアン・デスロックの練習台にしてたのは覚えてる」

 ちなみに、俺はその後リバース・インディアン・デスロックの練習台にした。
 表裏両面からの連続デスロックだ。奴には地味で痛い系の技が良く効く。

「じょ、女子高生だよね、その子。というか、ツナの友達はみんな野菜なの?」
「俺の影響で、周りの奴らの渾名が無理矢理サラダ関連になっていっただけだな。
プロレスに関しては大丈夫だ。体操着だったし、凹凸のない体つきだったから、そんな状態でもエロくなかった。
掛けられた時も『ぉうごおぉぉっ!!』とか言ってたし」
「いや、そういう問題かな」
「中々良さ気な技ですね。痛いんですか?」
「元々インディアン……そういう名前の部族の拷問から来てる技だからな。絵ヅラ的には地味だが、痛いぞ。
脚の関節技でな、うつ伏せの相手に掛けるのと仰向けのやつとがあって……」
「いや、プロレス技とか、今はいいから。サージェスは後で掛けて貰うといいよ。
全然話が進まないんだけど、そのトマトさんが……」

「君が渡辺綱だな」

 ユキが何度も話の腰を折られてイライラしている所に、更なる乱入者が現れた。名指しだから、俺の客だろう。
 俺達のテーブルにやって来たのは、覆面をした上半身裸の2人組。
 筋肉を隆々とさせた、いかにもな感じの男達だ。

 昼時を過ぎ、一般向け喫茶店になった食堂でも、こういう輩は割といる。ギルド会館だと珍しい光景でないというのが毒されている感じがして嫌だ。
 日常的な風景なのか、一般人らしき客も一切気にしていない。カウンターでコーヒーを啜っているスーツ姿のリーマンなど何の反応もない。

「えーと、< マッスル・ブラザーズ >の人達ですか?」

 ユキは嫌そうな顔で言うが、< 赤銅色のマッスル・ブラザーズ >は過去に数回クラン勧誘にやって来ている。
 俺だけじゃなく、サージェスやユキも勧誘してくるのだ。
 ムキムキのユキとかあまり見たくないので、いい加減やめて欲しい。

「違う。我々をあんな俗物共と一緒にしないで欲しい。心外だな」
「心外だな」
「あ、そうなんですか、すいません」

 いや、あいつらじゃないにしても、こいつらも大概だと思うんだが、何謝ってるんだよ。上半身裸の覆面だよ。

「渡辺君」
「渡辺綱君」
「はい、何スか?」
「我々は< レスラーズ >という闘技場ギルド所属のクランだ。君を勧誘に来た」

 闘技場ギルドって事は、こことは別のギルドか。
 ここ、迷宮ギルドの他にも、迷宮都市には数多くのギルドが存在する。
 ギルドというのは基本互助会のような集まりで、同じ商売などを行っている者達が集まって出来る組織だ。
 迷宮都市でもそれは例外でなく、農業ギルドや、衣料ギルド、海もない筈なのに水産ギルドなどもある。冒険者と直結してそうな鍛冶ギルドなども別だ。
 その中で先日新人戦を行った闘技場、ここで日夜行われる競技を専門にしたギルドが闘技場ギルドだ。

「我々の専門は迷宮ギルドではないが、ギルドは兼任も可能だ。是非、我々とプロレスをして頂きたい」
「迷宮ギルドの方で、< マッスル・ブラザーズ >以外のどんなクランに入ろうがこちらは構わん」
「ぷ、プロレス専門なんですか」

 闘技場で行われてる競技は多数存在する。中には格闘だけでなく、対モンスターの戦闘や、陸上競技なども含まれるらしい。
 こうしたプロレスなどを専門に行うクランもあるのだろう。

「いや、興味ないんで」
「何故だ! トライアルで見せたあの腕拉ぎは素晴らしい繋ぎだった」
「凶器攻撃で外されはしたが、流れるようなチョークへの移行も素晴らしかった」
「いや、興味ないんで」

 何故だ、じゃねーよ。
 何で迷宮都市にまで来てプロレスしなきゃあかんねん。
 職業冒険者じゃなくて、職業プロレスラーとか、ファンタジー感が一切なくなってるじゃないか。
 そもそもクラスも違うし。組み技は人間相手には有効だが、モンスター相手だとかなり制限されるからな。

「時々、試合に出る位なら考えてもいいですが、クランに入る気はないです」

 無限回廊攻略が第一だ。
 それを主目的とする迷宮ギルドのクランならともかく、何故プロレスメインのクランに入らなくちゃいけない。
 ここに来た当初なら考えても良かったが、こっちで食っていけそうだしな。性にも合ってる

「というか、格闘ならこっちだろ。サージェスさん。打撃系主体だが、格闘性能は折り紙付きだぞ。
プロレスみたいな技の掛け合いとかも大好きだよな」

 組み技はあまり得意じゃないようだが、打たれ強いし、殴る蹴るなら得意だ。
 ついでに現役B+ランクの冒険者相手にフライング・ボディプレスを掛けたという実績もある。

「だ、駄目だ。確かに彼も強いが、彼はプロレス団体からは出禁を食らっている」
「彼はマズい。クランがなくなってしまう」

 何したんだよ。

「彼は、散々技を食らって興奮した後、完全なタイミングを見計らって中継中に《 パージ 》したのだ。
あの試合はあまり視聴率は良く無かったが、迷宮都市中のお茶の間に晒してはいけないものをお披露目してしまった。今でも伝説となっている」
「勘弁して貰いたい」
「いや、それ程でも」
「「褒めてはいないっ!!」」
「サージェス、なにやってるのさ」

 サージェスの《 フル・パージ 》が禁止された経緯が明らかになってしまった。
 別に知りたくなかったんだけど。

「そんなわけで無理強いはしないが、興味があったらクランハウスまで来るか、この名刺の連絡先まで連絡をくれ」
「決して、決してだ。< マッスル・ブラザーズ >出張ギルドの< マッスル・マッスル >や、我らがライバルの< ヒーラーズ >には所属しないでくれたまえ、いいねっ!?」

 何だその回復魔法使いそうなクランは。 ……あ、悪役のヒールか。

< レスラーズ >の2人組は名刺を渡した後、直に去って行った。ポージングしている写真入りのむさ苦しい名刺だ。
 結局、覆面も取らなかったが、< マッスル・ブラザーズ >よりは遥かに紳士的だし、しつこくもなかった。あいつらはいきなり光り出すからな。迷惑極まりない。
 まあ、連絡する事はないだろうが、プロレスを見るのが嫌いないわけでもないので、TV番組で中継でもしてたら見てみるか。

 こういう風に迷宮ギルド以外からも勧誘が来たりするんだな。
 他のところからも来たりするんだろうか。どんなギルドあるかも分からんのだが。

「で、何の話だっけ?」
「全然話が進まないよね」



-2-



「"ミユミ"だよね。名字のほうは入れなくていいのかな」
「さあ。岡本ってのも前世のものだしな。とりあえずミユミだけでいいんじゃないか」
「リーダーの後輩というだけで、どんな性癖の持ち主かワクワクして来ますね」
「ウザいだけで、性癖はそこまでおかしくはなかったと思うぞ。腐女子の気はあったが、本人自体はノーマルだし」

 俺達はギルド会館の4階、講習会などを行う3階より上のこの階は冒険者向けの資料室、図書館がある。
 デビュー前で、登録だけした人間では4階に上がる事も出来ないが、俺達はそれをクリアしている為、こうして入る事が出来るのだ。
 ここでは各種資料が閲覧可能となっている他、ダンジョンの情報やモンスター、冒険者、スキル、クラスの情報を検索する為の端末が存在する。
 パッと見た感じではパソコンだが、専用の端末で、寮から繋げられるようなネットとは切り離されたものらしい。

 冒険者はここで各種情報を調べる事が出来、有料ではあるが、ステータスカードにダウンロードも可能のようだ。
 ただし、ダウンロード機能や、カードでの閲覧機能もGPでの拡張が必要の為、俺達はまだ情報を持ち出す事は出来ない。ここに来れば見れるし、他の機能の方が優先だろう。
 ダウンロードした情報やメモ以外、本等の紙媒体は持ち出し禁止。持って出ようとすると警告を受ける。
 自由に動画・写真撮影しても良いらしいし、プリントもコピーも安価で利用可能だから、GPの足りない下級冒険者は基本そっちを利用する。

 また、検索自体も権限が設定されており、上位クラスに行くに従って解放されていく仕組みのようだ。
 一部の情報はGPで解放する事も可能らしい。

 以前、スキルの情報を調べたのもここだ。というか、情報の一次ソースは基本ここの為、ここで分からない事はほぼないと言っていい。
 こうして俺達が調べてる近くでも沢山の冒険者が別の端末で調べものをしている。

「あ、あった。多分この人だよね。ダンマスもハーフエルフとか言ってたし」
「どれ……」

 俺達が調べてるのはトマトさんであろう冒険者の情報だ。
 俺としてはあまり触れたくなかったのだが、奴を迎え撃つには色々情報を仕入れておく必要もあるので、こうして渋々ユキの誘いに乗ったのだ。
 技掛けるにしても体格とか分からないとな。

「まるっきり面影はないな」

 画面に写っているのはミユミという名前を初めとするパーソナルデータと、カードに表示される顔写真だ。
 免許証の顔写真のようなものなので、大抵の人は真顔になる。中には猫耳のようなドヤ顔や、ウケを狙ったのか変な顔の奴もいるが少数だ。
 ミユミの写真は真顔だ。顔の作りも髪や目の色、そもそも種族さえ違うので、面影もくそもない。
 唯一、ポニーテールはそのままだ。まあ、あいつが自称するアイデンティティだから、当然なのかもしれない。

「前世の美弓さんと似てたりしない?」
「面影は髪型位だ。というか、想像以上に小さいっぽいな。カードの写真って1年毎の更新だったよな」
「そうだね。上の方にいくと期間が長くなるらしいけど、ここに書いてある更新時期は最近だよ」
「あまり、特殊な性癖を持っているような顔には見えませんね」
「だから、お前の同類ではないと思うぞ」

 こっちで変な性癖に目覚めてない限り。
 つーか、幼いな。まるきっり小学生じゃねーか。前世でも小さくて幼児体型ではあったが、これ程じゃなかったぞ。

「ランクはC-。凄いね、上級一歩手前だ。メインクラスは< 射撃士 >。確かこれはツリークラスだよね。その下のクラスは情報ないや」
「あんまり情報がないな。保有スキルはどうだ?」
「非公開だね。ここまで上に行くとあんまり公開しないものなのかもね。
……経歴情報もないね。……これはHPのアドレスかな。備考情報に"トマト倶楽部"って書いてあるよ」
「間違いなくなったな」

 名前がミユミで、そんな名前付けるのはほぼ確定だろう。
 サラダ倶楽部から、トマトだけが出張してるのか。

「ホームページあるなら、部屋に戻って見てみようか」
「ここでは見れないのか?」
「無理みたいだよ。ここ、図書館内だけの独自ネットワークだし、カードの外部アクセス機能も使えないみたい。電話とか。
ひょっとしたらここ、ダンジョンや訓練所みたいな独立空間なのかもね。入り口が会館の4階にあるってだけで。地下2階の倉庫とかもそうでしょ」
「確かにそれっぽいな」

 地下2階にある倉庫は、カードを使って個人スペースに入る事が出来るのだが、入り口は共通だ。
 複数ある入口のどこから入っても、自分のスペースに出る。ここは共用の空間で、他の人間もいるが、似たような感じなんだろう。

「あれ、君達も調べ物かい?」

 脇から話し掛けられ、振り向いてみると、見慣れた金髪がいた。フィロスだ。
 こいつだって、デビュー後の冒険者なんだからいたっておかしくないな。

「ああ、別の冒険者のデータをな。そっちは?」
「こっちは無限回廊低層の情報収集。前回は結局15層で断念しちゃったから、次は20層行きたいし。
……2人は30層までクリアしたんだよね。いや、そっちのサージェスもそうか」
「ああ、といっても特訓がてらの挑戦だったから、ちゃんとクリアするつもりではあるぞ。サージェス抜きで」
「え、何故私が外れるんですか?」
「いや、お前はちゃんとクリア経験あるだろうに」

 ちゃんとクリアしてないのは俺とユキだけだ。
 サージェスは俺達とチームを組む以前に、別のチームで攻略済である。
 おっさん達におんぶにだっこでクリアしましたじゃ、ちょっとかっこ悪いしな。
 そもそも、E+への昇格に必要なGPも貯まってないんだ。どちらにしても潜る必要がある。

「ふむ、まあそう言われればそうですね。ボス戦以外は、グワルさん達が舗装した道を歩いたようなものでしたね。
なら挑戦の日程が開きそうですし、私は最近オープンしたという『鮮血の城』にでも行ってみますか。拷問系トラップが多いらしいですし」

 リゾートに出かける様な雰囲気で言っているが、聞くだけで痛そうなダンジョンだな。
 メンバー集まるのか? まさか1人で行く気だろうか。

「あの訓練期間中、サージェス的には、道中の攻略難度ってどれ位違ったの?」
「そりゃあ、かなり違いますよ。攻略ルートも最短になってましたから、距離も何分の一かでしたし、何より罠がありませんでしたからね。
簡易コテージの存在も大きいですね。あれがあるだけで疲労がかなり違ってくるでしょう」

 あれ値段確認したけど、桁間違ってるんじゃないかって位高かったからな。

「やっぱり問題は罠か……。僕ら3人だから、< 斥候 >か< 罠師 >がいないのはキツイな。誰か誘うしかないんだけど」

 デビュー直後のこの時期、パーティメンバーは元々トライアルで組んでたメンバーで大抵固定だ。
 フィロスもゴーウェンやガウルと組んでいるのだろうが、どちらも前衛だし、他から< 斥候 >だけ連れてくるのはハードルが高い。
 なによりデビューしたての新人冒険者は、挑戦タイミングに遊びなんて存在しない。
 中6日の期間を過ぎたら最短で挑戦するものなのだ。今週はこのパーティ、来週は別のパーティという事はやっていられない。

「ユキは、パーティ募集の情報とか詳しかったりするのか?」
「一応調べてるよ。やっぱり僕らみたいなデビュー直後とか、下層を攻略している中で募集が多いのはダントツで< 斥候 >か< 治癒魔術師 >だね。
次点で< 治癒師 >か< 測量士 >、ある程度慣れてくると< 荷役 >も募集が多いみたい」

 サポート職ばっかりか。戦闘職は確かに余りそうだ。
 どうしても自分で戦えるクラスに就きがちだよな。後から変えられるっていっても、弱体化は避けられないし、気分的にも抵抗はあるだろうし。

「僕のほうも掲示板とかで探してるんだけどさ、どこも考える事は一緒なんだよね。
逆に入れてもらうっていうのも、中々厳しいみたいでさ。募集があるのは大体クラスが決まってるんだ」

 フィロスの悩みは、多分これから俺達も直面する問題だ。
 ダンジョン内で収入を上げるにはドロップだけだとどうしても限界がある。宝箱に入ってるアイテムはドロップ品よりもかなり高価なものが多い。
< 魔法の鍵 >を使ってもいいが、あれは高いし、採算割れの可能性もある。
 トラップを警戒するだけなら、最悪喜んで肉壁になるサージェスを使うという手もあるが、鍵開けないと宝箱の中身は手に入らないし、道中の罠も対策も必要だ。
< 斥候 >はかなりの必須職である。
 猫耳を脅すという手もあるにはあるが、それだとサージェスを外す意味がないだろう。あいつは更に上の中級ランクなのだから、誘うにしても31層以降だ。

「< 斥候 >の人も分かってる人が多いのか、有料で請け負いますって人や、中での取り分をかなり多く要求してくるケースもあるみたいだよ」
「世知辛い世の中だな。やはり金なのか」

 円は偉大である。
 まさか、異世界に来てまで円で悩む事になるとは思わなかった。

「同期の知り合いでは< 斥候 >はクローシェ位かな」
「クロは< 斥候 >だったのか。まあ、言われればそんな感じもするが、アーシャさんのイメージが強いからな。前衛だと思ってた」
「フィロスも駄目元でクローシェに聞いてみたら? 本人が駄目でも顔広いみたいだし、誰か紹介してもらえるかも」
「そうだね、ちょっと当たってみるよ」

 と言い残すとフィロスは再び調べ物に戻っていった。
 足取りが重い様に見えるのは、現状抱えてる問題が大きいのもあるのだろう。

「僕らも課題だよね。そもそもが6人で挑むところを3人で戦ってるわけだし。
今回のタイムアタックイベントだって、6人だったら結構順位違ってたんじゃないかな」

 タイムアタックイベントというのは、定期的に開催されるダンジョンのクリアタイムを競うイベントだ。俺達は先程これに挑戦してきた。
 毎回対象のダンジョンは異なるのだが、今回使われたのは『崩壊都市の水路』という比較的難易度の低いダンジョンだったので挑戦してみたのだ。
 だが、クリアそのものは出来たものの、タイム自体は箸にも棒にもかからない程度の順位しか取れなかった。
 期間中は何度でも挑戦可能なのだが、この分だとトップ10にも入るのも不可能だろう。ランク制限もあるのに、上の方はタイムがおかしな事になっていた。
 特にトップを独走してた謎の覆面が頭おかし過ぎる。

「あのトップはソロだったから置いとくにしても、6人いれば順位は上げられるだろうな」
「タイムアタックは罠が問題だからね。専門職じゃないと、警戒してても限界あるよ」
「痛い系の罠なら、私が何とかするという手もありますが」
「罠ってそれだけじゃないし、爆破トラップでお前がバラバラになったら、お前は良くても俺達がピンチだろ」
「ふむ、悩ましいですね。ダンジョンなら治るのが分かってるから手足の2、3本程度ならOKなんですが」

 それを言えるのは多分お前位だよ。
 俺はむしろお前が進んでトラップにかかりに行かないか不安だよ。

「中級に上がるまでには罠を何とかできる人と、< 測量士 >が必要になるからね。< 冒険者 >ツリーのクラスは必須なんだよね」
「サポート系クラスは< 冒険者 >ツリーに集中してるから、パーティに1人は< 冒険者 >って事か。職業冒険者の俺達が言うのもなんだが」

 でも、ここまで聞いた< 冒険者 >ツリーのクラスって、どれも戦闘力がいまいちっぽいんだよな。
< 荷役 >に< 測量士 >に< 道具士 >。これに加えて、< 遊撃士 >ツリーのクラスも必要になると。こっちはある程度戦闘力あるんだがな。

「罠もそうだけど、話に聞いてる31層以降のダンジョン構造が問題なんだよね」
「ああ、確かに聞いてます。言われてみれば< 測量士 >は必須ですね」
「話に聞く30階の壁って奴か? 確かにモンスターは劇的に強くなるのは動画で見たが、それ以外に何かあるのかよ」

 30階と50階に冒険者の壁があるというのは何回か聞いた話だ。何せ、あのブリーフさんが雑魚キャラだ。
 動画も、道中はほとんどカットだし、マップと付きあわせて見ることもないから、そこまで変わった気がしなかったが。
< 測量士 >が必須になるという事は、マップが極端にデカくなるとかだろうか。もしくは迷路が複雑になるとか。

「ああ、ツナは戦闘かボス動画しか見てなかったりするのかな。……31層以降はダンジョンが立体構造になるらしいんだよ。
~層ってのは良く言ったものだよね。一層の中に何階っていう表現が出てくるんだから。
サイトとかでも結構どの層からどう変わるかとか、検証してるところがあるからそういうのも見たほうがいいね」

 何だそりゃ。確かに何階とは言わなかったけど、そんな理由があったのかよ。
 それは、大変そうだな。……って、人事じゃないんだからちゃんと調べないとな。

 D級の昇格試験もそうだが、ここら辺もクリアしないとまずいんだよな。
 まだ先と思ってたらあっという間にやって来そうだし、さっさと上に行きたいのも確かなんだから。

 相手の人格や能力もあるし、該当のクラスだからいいってわけでもないしな。



-3-



 ところ変わって俺の部屋。
 例の番組に合わせて大型TVを借りたせいか、何かあると俺の部屋に集まる事が多くなってしまった。
 今回はPCだから関係ない筈なんだが。

「結局、ここも借りたままになってるけど、そろそろ引っ越し考えないとな」

 無料期間は過ぎてしまったが、新人戦などがあった関係からまだ寮を使っている。
 賃貸情報などは目を通しているのだが、まだ実際に部屋を見に行ったりなどは出来ていない。

「サージェスは部屋借りてるんだっけ?」
「ええ、寮も半年位は利用しましたが、外で借りてもあまり賃料は変わらないですからね。
場所は、ここからだとちょっとありますが、ダンジョン転送施設には近いですよ。
マゾヒズムレッスンに通うのに電車が必要になるので、駅近くにしました」

 割りと高そうな場所なのに、選んだ理由はそれなのかよ。

「マンションか? 一戸建て……は賃貸であるのか分からんけど」
「マンションですね。2Kの部屋で1室はほとんど器具置場になってます」

 何の器具かは聞くまい。

「僕も早く探さないとね。あんまり妥協したくないけど、ちゃんと湯船張れるお風呂が欲しい」
「大浴場じゃ駄目なのか?」

 そういえば、こいつ大浴場で1回も見た事ないな。

「あのねー、僕の状況で男の人ばっかりのお風呂に入れるわけないでしょ」
「そういうのは気にするのか」

 中身的にはともかく体は男だろうに。
 いや、むしろその方が嫌だったりするんだろうか。プラプラさせてるの見られるのが嫌とか。

「気にするよ。人の裸とか見たくないし、見られたくもないし」
「見られるのは得意ですが」
「サージェスとは一緒にしないで欲しいかなっ!!」

 難儀な奴だな。となると使ってるのは個室になってるシャワーだけか。大浴場デカくていい感じなのにもったいないな。
 近くの銭湯や、健康センターも無理だな。……色々キツイ生活してるんだな、こいつ。

 というかユキの場合、水着とかどうするんだ? 一応今なら、上半身裸でも少年誌にそのまま載れるレベルで合法だよな。
 ……ん、あれ、このまま試練突破して、段階的に女になっていった場合はどうなるんだ? 扱いが難しいな。
 どこまでだったら、ヌーディストビーチ状態にならないんだ?

 ……残念ながら、迷宮都市には海がないわけだが。いや、残念。
 果たして、その謎が解かれる日は来るのだろうか。

「ミユミさんのページ見つけたよ。トマト倶楽部」
「早いな。ってそりゃURL貼ればいいだけだから見つかるか」
「リンク使えないから、メモからの直打ちだけどね」

 ユキが見せてきたページにはトマト倶楽部というロゴと、ハーフエルフのでかい画像。
 顔写真では分からなかったが、このドアップで映っているウザい笑顔は間違いない。

「完全に奴だ。あの生命体とまったく同じウザさが漂っている」
「そんなにウザいかな。可愛いんじゃない?」
「お前は奴に会った事がないから言えるんだ。知れば知る程、この笑顔がムカつくようになる」
「どんな人だよ」

 トマトさん以外のサラダ倶楽部では共通認識です。

「どんな情報が載ってるんだ?」
「えーとね。自分のイベントとか、グッズとかの情報がメインだね。……何かタレントみたい。
一応、ダンジョン挑戦スケジュールとか、遠征?の日程も書いてあるね。今はいないんだね」

 あいつがTV出演とか、握手会とかしてたりするのか。想像が付かないんだけど。
 いや、性格的に向いてる……のか?

「グッズって?」
「歌とか出してるみたいだよ。フィギュアもある。写真集も……何か手当たり次第って感じ。
……使用したアイテムのオークションへのリンクもあるね」

 何やってるんだ、あいつは。
 見た目だけなら許容範囲なのか? ハーフエルフになった事で、見た目だけならレベルアップしてるし。

「後、同人誌も出してるみたい」

 最早タレントなんだか、同人作家なのか分からんな。

「BL本だね。レタス×シーチキンって書いてある……これ、まさかツナの事?」
「何やっとんじゃ、あのアホっ!!」

 慌てて画面を見たら、何か2人の半裸の男が絡んでるサンプル画像が。

『レタス、俺はそんなつもりじゃ……。』
『何言ってんだ。お前もそのつもりだったのはバレバレだろ。』
『や、やめろ、隣の部室にはドレッシングが……』
『シーチキンが声出さなければ大丈夫だろ。』

「ぎゃーっ!! 目がっ!! 目がっ!!」
 一瞬目に入ったサンプル画像はそんな感じだった。見たくなかった。
 内容も酷いが、名前がサラダだからセリフもギャグレベルで酷い。隣にドレッシングがいるとか、元ネタ知らなきゃ意味分かんねーだろ。

 いかん、気が遠くなってきた。
 異世界まで来て自分のBL本とか見せられるとか、想像してもいなかった。

「でも、面影はあるけど、あんまり似てないね。少女漫画的な絵柄だし」
「いや、少女漫画的な美化はされてるけど、特徴は確かに前世の俺だ。
レタスの顔は覚えてないけど……何か見たことあるな。さっきのは……鬼畜眼鏡じゃねーか? いや、見せんでいいから」

 ユキさんや、タブレットを近付けるじゃありません。
 もう目に入れたくないんです。いや、やめて。

「審査の時の人だっけ? でもその人って元女なんだよね。レタスさん本人じゃないだろうけど」

 そいつがレタスに似ているのか、レタスがそいつに似ているのかは知らんが、何か因果関係を感じる。
 まさか、トマトさんと鬼畜眼鏡、知り合いじゃないだろうな。審査の時にケツ触ってきたのも、これが影響してたりしないよな。

「というか、ツナが受けなんだ」
「いや、知らんがな」

 何故、こんなところで自分が受けか攻めかの談義をせにゃいかんのだ。
 男同士の絡みでどっち役になるとか考えた事もないわ。
 前世であいつが書いてたホモ小説も読んだことなかったし。

「私とはあまり趣味が合いそうにないですね。こっち方面はちょっと……」
「お前と趣味が合う奴のほうが稀だと思うぞ」
「人気あったりするのかな、結構シリーズ続いてるみたいだし。攻め側は毎回違うけど、ツナはどれも受け側なんだね。
……同人でドラマCDも出してるみたいだよ」

 ふざけんなっ!! 人が手出しできない所で何してやがるんだ。
 肖像権の問題とか、迷宮都市の法律はどうなってんだ。
 しかもこれ、明らかに俺が迷宮都市に来る前から活動してるじゃねーかっ!!

「サンプルボイスあるけど、聞いてみようか。ポチっとな」
「いや、お止め下さい。ユキさん。いや、ほんと、やめろってっ!! マジで、後生でござる」
「あはははっっ!!」

 面白がってサンプル再生しようとするユキを必死に止める事になった。
 くそ、あいつが現れたら折檻してやる。


 それともまさか、今はあいつの方が強かったりするんだろうか。
 今更デスロック返しとかされないよね?



日刊じゃないんだからね。(*´∀`*)
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