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もしも世界が百人の村だったら……?
作:忘後 十夜



世界がもし百人の村だったら?

……ぼくは、某ベストセラーの本を読んでから、たまに他人にそう訊くようになった。
……何故だかは分からないけれど。
大抵の奴は、あんまり面白いことは云わない。
せいぜい、
「俺は全く変わらないだろうね」
とか、何か馬鹿みたいなこと云ったり、
「そんなもん想像できねえよ」
みたいな低脳丸出しの答えが関の山だ。
でも、たまには興味深い返答をする人もいる。


兄さんに訊いたときのことだ。

「世界がもし百人の村だったら?」
「は?」
「兄さんはどうする?」
「また、いきなりだなお前は。ふむ。…………さあな。俺がどうなるのかは、知らん」
「へえ……」
「だが、多分世界は今よりは平和になるだろうな。百人しかいないなら、大量破壊兵器やら何やらもあったもんじゃない。それに、例えもしも人類が絶滅したって、それは百人分の悲しみにしかならないだろうからな」
「それが兄さんの答え?」
「ああ」
「ありがと」

何だか兄さんらしいようならしくないような答えだった。
もっと破天荒なことをいうかと思っていたけど。


その次に姉さんに訊いたときのこと。

「世界がもし百人の村だったら?」
「あ、あたしそれ読んだよ」
「姉さんはどうする?」
「え?……ああ、そういうこと?うーん……。そうね、多分、少し淋しいんじゃないかな」
「……何で?」
「だって、多分だけど確率的に云うとあんたも兄さんも友達も、みんなその村にはいないのよ?そんなの淋しいじゃない」
「……その村にはその村で友達とか出来るんじゃないの?」
「んー、でもね多分弟はいないんじゃない?」
「かもね。……それが姉さんの答え?」
「え、うん、そう」
「……ありがと」

……いい加減、姉さんはぼく離れしないのだろうか。
別にいいけど。


授業の合間に友人に訊いたとき。

「世界がもし百人の村だったら?」
「ん、何だい、そりゃ?真面目に訊いてるのか?」
「うん」
「じゃあ、真面目に答えると。……世界に百人しかいないなら、ぼくは世界一の変人になるだろうな」
「……そ、それがきみの答え?」
「そうだけど?」
「……あ、ありがとう」

……既に、かなりのレベルの変人だと思う。
そういってやったら、彼はすごくうれしそうな顔をする。


昼休みに机に突っ伏す友達に訊いたとき。

「世界がもし百人の村だったら?」
「だったら?」
「どうする?」
「……取り敢えず寝る」
「いやいや、寝る前に真面目に答えてくれないかな?」
「うー……。あのね、」
「うん」
「もし百人の村だったらね」
「うん」
「私、もっと幸せかなぁ……?」
「…………さあ、ね」
「ここは、嘘でも“うん”って云おうよ……」
「ごめん」
「……むにゃむにゃ」
「……ありがとう」

人生、色々。
彼女が何か悩んでいるのか、
ぼくにはそんなこともわからないけど。


映画館からの帰り道で親友に訊いたとき。

「世界がもし百人の村だったら?」
「……は?」
「お前はどうする?」
「え、え、そんなの……困る、かな」
「何で?」
「何でって……。だって、もし世界に百人しかいなかったらお前はそこにいないだろう?」
「多分ね」
「……そんなのは嫌だ。絶対に」
「……姉さんみたいなこと云うね」
「え、そうなのか……?お前の姉さんみたいなこといったのか?」
「ちょっと似てた」
「……ふーん」
「?……まあ、それがお前の答えか?」
「あ、うん」
「どうも」

……友達思いというか、何というか。
いい奴なんだよなあ。
…………ふう。


読者中の某本屋の新人アルバイトに訊いたとき。

「世界がもし百人の村だったら?」
「ボクはそこにはいないだろうね」
「……即答だね。でも、何で?」
「ボクは百人に一人の確率如きでは絶対に生まれないからだよ」
「……じゃあ、どれぐらいなら生まれてくるの?」
「トンネル現象が起きるぐらいの確率だね」
「…………それが、答え」
「そう」
「ご協力感謝します」

……せめて、一度くらい本から顔を上げて欲しいものだ。


たくさんの人に、訊いた。
どことなく被ってる答えもあった。
だけど、少しだけやっぱり違う。
どんな答えにしろ、この答えは、個性が出る。
ぼくは何故こんなことを訊くのか。何か求めている答えでもあるのか。
分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。
……きっと何かが分かりたい訳じゃないのだろう。

そんな、走馬灯のような、思い出。
懐かしい、日々。




そして、今。


夜道に出会った少年に訊くとき。


ぼくは、回想を終え、“今”に戻ってくる。

回帰する、現実。
避けられぬ、未来。
眼前の、絶望。

何時もの下校する道だった。そこがまさに地獄。そう、例えるなら地獄と云ったところか。
一瞬前までの平穏は既に無い。
ぼくの目の前には、赤く染まった刀を持つ少年が。
ぼくの足下には血まみれで倒れる友達が。
酷く現実味の無い光景。
……全く吐き気がする。
刀を持った少年が何か云う。
「ーーー、ーーーーーーーーー?」
……聞き取れない。
いや、ぼくの脳が理解しようとしていないだけか。
だから、ぼくはその言葉を無視して訊いた。
何故か口から言葉が出た。
何故か。

「世界が、もし百人の村だったら?」
「?」
「君は、どうする?」
そいつは迷わず答えて云った。
「一週間に一人ずつ殺す。百週間後には、人類が絶滅する。それだけだ」
思っていた通りの答えだった。
自分がわかってることを他人に訊くな。……昔、誰かにそういわれたのを思い出した。
「……あんまり、時間ないから。悪いけど殺すよ」
彼は淡々と云った。謝罪の言葉には、あまり感情はこもっていなかった。
彼は刀を振り上げた。
あれが降りてくればぼくは死ぬ。

ぼくは目を閉じた。

死ぬときは目を瞑るべきだと、とある本で読んだから。
振り上げられた刀が下ろされるまでの一瞬と云う名の永遠。その間にぼくは問う。
まだ見ぬ君に。そして、ぼく自身に。

……世界がもし百人の村だったら?

少しの間、考えた。
なんと答えるのかを。
すぐに答えはでた。
ぼくは目を開けた。
死は目の前に迫っていた。
ぼくは答えた。
「どうでもいいけど」

目を閉じる必要なんてない。
だって、
ぼくはまだ、死ぬ気は、ないから。

…………は。


ーーー(了)ーーー














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