挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
奴隷法 作者:鈴本耕太郎
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

4/17

4.奴隷

 登録ナンバーI三二四四が今の彼女の呼び名である。
 元の名前はマイクロチップを埋め込まれる際に消されてしまった。親しかった友人もいたはずだが、今となってはその記憶がどの程度正しいのかも怪しい。

 彼女の人生が大きく変化したのは高校生の時だった。
 両親が事故で亡くなったのだ。身寄りのなくなった彼女と弟を誰が引き取るのか。親戚にあたる大人達は話し合ったが、誰も引き取りたくはなかったようだ。結局、たらい回しにされたあげく彼女は一人で母親の祖母、彼女から見れば曾祖母にあたる人物に引き取れる事になった。弟がどこに引き取られたのかを知ろうとしたが、彼女に知らされる事はなかった。

 曾祖母は彼女に対して優しく接してくれたが、年金だけでは当然のようにすぐに生活が苦しくなった。
 彼女はいろんな所でアルバイトをして家計を助けた。大変ではあったが曾祖母との暮らしはそれなりに充実したものだった。しかし彼女が高校を卒業して働き始めた翌年、曾祖母が事故にあって亡くなった。
 曾祖母の信号無視が原因だったと言われた。それにより連鎖的な事故が起こり、他に死者は出なかったものの大きな被害が出てしまった。結果として彼女に対して多額の請求がきた。訳が分からないまま謝罪をして、言われるままにサインをした。

 気が付けば十九歳にして多額の借金が出来てしまった。
 彼女が騙されたと気づいたのは、すでに奴隷になる事が決まってからの事だった。

 奴隷販売所に来てから、彼女の生活は一変した。
 毎朝五時に起きて、夜十時に眠るのが決まりとなり、起きている間に料理や掃除等の家事全般や、礼儀作法等を徹底的に学ばされた。食事も三食しっかり食べられ、思った以上に好待遇に感じられた。
 その事を同室の先輩に話すと、世間知らずだと笑われた。理由を聞けばいろいろと教えてくれた。

「待遇が良いのは奴隷の価値を高めて、少しでも早く買いとって貰えるようにする為。個人相手が一番高く売れるから販売店としては、そこで売りたいのよ。もし一年以内に売れなければ企業相手の販売所に移される。出来れば移される前に、買って貰えるように頑張った方がいいよ」
「どうしてですか?」
「個人相手だと買い手によっては大切に扱ってくれる可能性があるから。でも企業相手だとそうはいかない。一般企業ならまだいいけど、あなたみたいな若い子は風俗関係やアダルト関係の会社に買い取られる可能性が高いの。だから優しそうな買い手がいたら、しっかりアピールするのよ」
「はい。でももし、ここでも企業相手でも買われなかったらどうなるんですか?」
「国が買いとるの。そうなったら最悪はモルモットにされておしまい」
 先輩が自らの首の前で手を振って首を斬る動作をとる。
 半分笑いながらしてるのに、目は少しも笑っていない。そう、それは決して冗談ではないのだ。

 研修期間が終了し、客の前に出る事になった。
 服を脱がされ全裸にされる。非常に恥ずかしかったが命令された言葉に身体が素直に従ってしまう。屈辱的に感じつつも待機室で自分の順番を待った。
 前の人に付いて指定された部屋に入り、ステージの上に立つ。ステージと言っても五人が並べばいっぱいになってしまう程に狭い。前を見ればお客さんらしき人がタブレット端末を持ってこちらを厭らしい目で眺めている。その眼に嫌悪感を覚える。しかし、それを表にだしてはいけない。ただ必死に耐えるだけだ。

 そんな日がどれだけ続いたのだろうか。
 いつからか時間の感覚が麻痺してしまっている。優しく色々と教えてくれた同室だった先輩は何日か前に買われ、今は違う人と同室になっている。先輩は優しい人に買って貰えたのだろうか。自分は優しい人に買って貰えるのだろうか。
 そんな事を考えながら、彼女はその日も客の前に並んだ。

 最初にその男性を見た時、彼女は不思議な既視感を覚えた。
 その事に疑問を感じながら部屋を後にする。待機室に戻っても既視感の正体が掴めないままでいた。
 それからしばらくして、再び部屋に行くことになった。どうやら候補に選んで貰えたようだ。
 これまでも何度か候補には入ったが、結局ここに残ってしまっている。今回はどうだろうか。買って貰いたいような、買われたくないような何とも言えない感覚が彼女に押し寄せる。
 どちらにしても彼女に決定権はない。様々なモノを諦めて部屋へと入る。
 再び男性を見る。目が合った。優しげに微笑んでくれたが、彼女には作り笑いにしか見えなかった。
 そして、既視感の正体に気が付いた。
 眼が同じなのだ。
 自分や一緒に売られている周りの奴隷達と。
 毎日のように見て来たその眼だが、お客さんに見たのは初めてだった。

 いくつかの質問をされたが無難な事しか聞かれなかった。
 結局今回も買われる事はないのだろう。
 そう思っていた彼女の元に、もう一度部屋に行くようにという指示が入った。
 想定外の事に驚きつつも部屋に入れば、自分と同じ絶望を宿した眼が彼女を出迎えた。

 目が合うと男性が優しげに微笑んでくれたので、彼女もそれに微笑み返す。
 でもやっぱり、作り笑いに見えてしまった。

 困ったなと思いつつも不思議と嫌悪感はなかった。もしこの男性に買われたなら、優しくして貰えるような予感がした。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ