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奴隷法 作者:鈴本耕太郎
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15.葛藤の果てに

 どうしてこうなったのだろうか。
 久しぶりに凛を見た亮司は大いに動揺していた。
 前までは目に入れても痛くはない程に、溺愛していた娘。それが自分と血が繋がっていないと知った瞬間から嫌悪の対象へと変わってしまった。
 凛に罪はないと分かっていても、その気持ちを抑える事ができない。そんな矮小な自分が嫌になる。
 凛に渡された手紙を、亮司は震える手で開いた。
 そこにあったのは元妻からの謝罪と、凛を宜しくという短い言葉。そして申し訳程度に包まれた紙幣が数枚だけ。
 あまりの内容に亮司は怒りよりも強い落胆を覚えた。
 目の前には泣き腫らした顔の凛が、所在なさげに佇んでいる。

 もしここで自分が拒否すれば、凛はどうなってしまうのだろうか?
 そんな事は考えるまでもない。
 でも……。
 頭では分かっていても、亮司の心が拒絶する。手紙を持ったまま立ち竦む亮司の手は今尚、震えている。どうする事もできなくて、でも自分が答えを出さなければいけなくて……。
 何かを言おうと開きかけた口からは、空気の漏れる音が出ただけだった。

 どうするのが正しいのか分かっていても、心がそれを拒絶する。
 人として、一人の大人として、ここで見捨てるのは最低だとわかっている。それでも亮司の身体は動いてくれない。凛を受け入れる為の言葉が出ない。
 だからと言って、今この場で見捨てるような行動をとる事もできなかった。

 どうすればいいのだろう……。

 そんな時、不意に重ねられた手。
 隣を見れば涼音が微笑んでいた。
 大丈夫。
 声に出さずに、口の動きだけで亮司にそう伝えた。
 たったそれだけの事で亮司は冷静になれた。

 そしてようやくしっかりと凛の姿を見る事ができたのだ。

 凛は震えていた。
 下を向いて必死で涙を堪え、小さな手は服の裾を強く握り締めている。

 こんなに小さな身体で、必死に耐えているのだと分かる。
 一度は自分を捨てた親の元に来て、頭を下げる。
 小学校にも上がっていない子供に一体何をやらせているのだろうか。
 亮司は大きく息を吐き出すと、凛の頭に手を置いた。

「大きくなったな」
 こぼれた言葉はその状況に不釣り合いなモノだった。でも両親に捨てられたと思っていた凛にとっては、それ以上ない希望の言葉のように思えたのだった。

 顔を上げた凛の目から涙がはらりとこぼれた。
 一度溢れてしまえば、もう止まらない。堰をきったように、後から後から流れ出る凛の涙。
 それでも尚、声を上げない強さを凛は持っていた。
 良い子でなければいけないと自分に言い聞かせ、大声を出して亮司に縋りつきたい気持ちを必死で抑え込んでみせたのだ。

 その様子を見て、凛の気持ちを察した亮司の胸は強く、強く締め付けられたのだった。


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