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奴隷法 作者:鈴本耕太郎
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10/17

10.休日に

 普段より少しだけ遅く起きる休日の朝。
 窓を開ければ随分と涼しくなった朝の空気が流れ込んでくる。それを肺いっぱいに吸い込むと亮司は大きく伸びをした。朝日に照らされた街を見ながら、昨日約束したパフェの店への行き方を頭の中で組み立てた。

 リビングに行けば亮司に気づいた涼音がすぐに駆け寄って来る。水色のシンプルなエプロンで覆われた彼女の胸が揺れる。目を奪われそうになるのを必死で堪えて、笑顔を向けた。
「おはようございます」
 聞き慣れた心地良い涼音の声に、挨拶を返して昨日マッサージを頼みながら寝てしまった事を詫びた。
「全然大丈夫です。疲れは取れましたか?」
「うん、大丈夫。ありがとう」
 亮司の言葉に涼音はニッコリと微笑んで朝食の準備に戻っていった。
 この日の朝食は、パン、目玉焼き、サラダに野菜スープだった。料理と言っていいか微妙な簡単な物ばかりだが、そのどれもが丁寧に作られている事が伝わって来る。亮司は感謝しながら食事をとった。
 食事が終わると、食後のコーヒーと共にティラミスが運ばれて来た。涼音が作るお菓子の中で亮司が最も好きな物だ。口の中に広がる甘さと適度な苦みを堪能しつつ、目の前で幸せそうにティラミスを頬張る涼音を見る。
 来たばかりの頃に比べて随分と馴染んできたようだ。言葉遣いも良い感じに崩れてきて、表情からも警戒心がほとんど見られない。
 亮司は穏やかな気持ちでコーヒーを飲んだ。

 のんびりとソファーに座って読書を楽しむ。そうやってダラダラと過ごしていると、一通りの家事を終えた涼音が隣に座った。
「お待たせしました。もういつでも行けます」
 いつの間にか可愛らしいワンピースに着替えており、眩しい程の笑顔を向けてくる。
 そんな涼音に亮司はつい意地悪をしてしまう。
「え?どこに?」
「そんな……」
 瞬間、涼音は今にも泣きそうな顔になる。
「冗談だよ。でもパフェ食べるなら午後からの方が良くないかな?」
 亮司の言葉に笑顔は戻ったが、午後からと聞いて再び落ち込んでしまった涼音の頭を優しく撫でる。涼音のサラサラの黒い髪は、非常に手触りが良い。しおらしくなった涼音が少し可哀想に思えてきた。
「パフェは午後からだけど、今から出かけるのも悪くないかもな?」
 亮司の言葉に涼音がパッと顔を上げる。表情を見るに後一押しだろう。
「いつも頑張ってくれてる涼音に何かプレゼントでも買おうか。何か欲しい物はあるかな?」
「良いんですか?」
「もちろん」
「ありがとうございます」
 あれだけ落ち込んでいたのが嘘のように、涼音の声は明るい。
 やっぱり女の子には敵わないな、と亮司は内心で苦笑した。

 涼音を連れてやって来たのは、様々な店舗が入っている大型のショッピングセンターだった。
 プレゼントは亮司に選んで欲しいという涼音に対して、すぐに良い物が思い浮かばなかった。その為、何をプレゼントするか色んな店を見て考える事にしたのだった。

 まだ開店後間もないにも拘らず、店はだいぶ混雑していた。
 はぐれないようにと、二人は手を繋いで歩いた。少し恥ずかしかったが、亮司はその状況を楽しんでいた。 

 いくつかの店を見て回ったが、残念ながら良い物が見つからなかった。どうしようかと涼音の方を見れば、顔にかかった髪を耳にかけようとしている所だった。
 それまで髪で隠れていた耳や首筋が露わになる。
 たったそれだけの事に思わずドキリとしてしまった。そしてふと思いついた。
 涼音の綺麗な黒髪に合う髪留めを贈ろう。

 目的を持って探せば、それはすぐに見つかった。値段もそれほど高くはなかったので、気分で使い分けられるように何種類か買ってあげた。涼音は亮司にどれが一番似合うと思うかを尋ねた。亮司は少し迷ったが最初に目に留まった、青い花が付いたピンを選んで渡した。涼音はそれを笑顔で受け取ると、その場で髪に付けた。
「どうですか?」
 涼音の黒い髪にそれは良く映えていた。
「良く似合ってる」
 亮司の言葉を聞いた涼音の顔はとても嬉しそうだ。

 時計を見ればすでに昼を少し過ぎていた。
 移動するのが面倒だったので、このままショッピングセンター内で食事をとる事にした。今回は多少無理やり、涼音に意見を言わせてオムライスを食べる事となった。美味しいと噂の店だったが、涼音の作ったオムライスの方が美味しいと亮司は感じた。
 それを涼音に伝えた所、否定しながらも頬が緩みっぱなしだった。

 食事が終わればいよいよデートのメインイベントである。
 フルーツたっぷりのパフェを食べに行こうとショッピングセンターの出口に向かう。
 未だに頬が緩んだままの涼音と手を繋いで外に出た所で人だかりができていた。
 一体なんだろうか。
 涼音と顔を見合わせて、人だかりの中心にあるものを見ようと歩み寄る。
 そして……。
「えっ」
 間の抜けた声を出して、涼音の顔から表情が消えた。

 亮司は涼音に少し遅れて、ようやく何があるかが見えた。
 そこにはまるでペットのように首輪をつけられ、鎖で繋がれた四つん這いの女性がいた。
 女性は、胸と下腹部を申し訳程度の布で覆っているだけだった。剥き出しになっているガリガリの身体には、いくつもの痣とマジックのような物で書かれた卑猥な言葉があった。傷んでバサバサになった髪で顔が見えないのが救いだろうか。
 そう思っていると女性がこちらを向いた。筋張った頬と落ち窪んだ眼がまるでホラー映画のように見えて、亮司は思わず息をのんだ。

 なんとなく嫌な予感がして隣の涼音を見れば、アレと目が合ってしまったのだろう。完全に固まってしまっている。早くこんな場所から立ち去ろう。
「なぁ、涼音。早くこんなところから、涼音?」
「どうして……」
 涼音の眼から涙が溢れていた。
「涼音?」
「いやぁ……」
 涼音は、力なく首を振りながら一歩、二歩と後ずさる。
 それを唖然として見ていた亮司だったが、すぐにハッと気づいて涼音の視線を遮るように抱きしめた。
「大丈夫だから」
 涼音に何があったのか。アレを見てしまったのが原因で間違えないだろう。しかしこんな糞みたいな世界で生きていれば、そこまで珍しい光景ではないはずだった。では涼音はどうして。

 亮司は一旦考えるのをやめた。
 放心してしまった涼音を抱き上げて車へ向かうと、そのまま自宅へと引き返した。

 ショッピングセンターの駐車場から出る際に、バックミラーを見る。
 そこには主人だろう人物に蹴られている、あの女性がいた。
 
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