勇者・・・
この世で息をする人間の希望・・・
この世で生きる魔物の天敵・・・
圧倒的な力を持つ人ではない者・・・
世界に闇が溢れている時だけ大事にされる人々の希望・・・
闇が消えれば無用の長物・・・
勇者が魔王を倒してしばらくして人々が言った・・・・・『勇者の力は脅威だ!』『あの力を俺たちに使わないなんて誰が言えるんだ!』『今のうちに殺そう!』『奴が寝てるうちになら俺たちでも息の根をとめられる!』『殺せ!』『殺せ!』『殺せ!』『殺せ!』『殺せ!』『殺せ!』『殺せ!』『殺せ!』『殺せ!』『殺せ!』
『『『『『『『殺せ!』』』』』』』
それから数年後、元勇者は生き延びていた。
「まったく、俺が魔王を殺したから今の平和があるんだぞ!なのに何で俺が迫害されなきゃなんねーんだよ!マジでわけわかんねぇ!」
酒場で愚痴をもらしながら・・・
「まぁまぁ、そんなに騒いでると正体がばれるよ〜」
「そうそう、また追っ手に追われる日々を過ごすのはもうやだよ〜」
元勇者の仲間達―双子の剣士と魔法使い―がそんなことを言う。
「いいじゃねぇかここのマスターも俺の事は知ってるし・・・」
「その油断が」「いけないんですよ〜」
「二人でひとつのことを言うな!」
そんな話をしながら酒場のすみに集まる3人。この酒場で何でも屋をやっている3人だ。この3人の噂は何でも屋を始めてすぐに広まった。良い意味でも悪い意味でも・・・
良い意味では、やたらと強い事。
悪い意味では、討伐の依頼などでやりすぎる事、戦闘以外の能力がやたらと低くて失敗する事、極め付けがどんな依頼でも必ず町の一部を破壊する事。
故にそんな彼らには仕事が無かった。
「あ〜、暇だ!仕事をよこせ!敵を切らせろ!」
「・・・もう完全に」「危ない人だね・・・」
そんな会話を繰り返すしかない3人。
「お前達うるさいぞ。少しは周りの事も考えろ」
「あぁ、マスタァ。仕事を・・・仕事を下さぃ・・・」
「・・・気持ち悪いからやめてくれ」
マスターが心底嫌そうに呟いた後「そうだ、丁度お前達しか出来ない仕事があるんだがやってくれないか?」と言うといきなり説明しだした。
マスターの依頼はこうだ。
この町から南にしばらく行ったところに洞窟があるらしい。町の人達がそこに最近魔物の気配がすると言うのでマスターが行ったところ魔物ではなく悪魔もしくは精霊の類の気配だと言う。少なくとも魔物には出せないプレッシャーがあったと言う。しかしマスターは魔物ならば倒せるが悪魔や精霊クラスの敵には敵わない。そこで元勇者御一行にその気配の正体を探ってくるのとできる事なら処理して欲しいとの事だ。
話を聞き終えると元勇者は
「悪魔クラスか・・・いいだろう。久々に腕が鳴るぜ」
「楽しい狩りの」「始まりですね」
3人は嬉しそうに洞窟へと向かって行った。
「ここだよな?」
「えぇ、そうですね」
「全然気配を感じませんね」
「ああ、悪魔はおろか魔物の気配すらかんじねぇ」
「「でしたらふたつにひとつです」」
「もういないのか」「僕達が来るのを感じて気配を消したか」
「前者なら最悪だが後者なら・・・」
「腕が」「鳴りますね」
「ああ、祈ってるぜ。強い奴がいるのをなぁ」
そう言って進む先は暗い闇に包まれた暗黒の洞窟。気のせいかいつもに増して薄暗く感じる洞窟に3人が入っていく。
洞窟に入ると、元勇者一行を魔物達が襲い掛かってきた。それを殺しながら奥へ奥へと進んでいく。ある程度進んだころ。
「なぁ、この気配ってまさか・・・」
「あなたもこの気配に」「覚えがありますか」
「てことは、やっぱり・・・」
「ええ」「おそらく」
「「「魔王」」」
「まぁ、あのころほどの威圧感は」「感じませんけどね」
「似てるのは確かか・・・」
迫りくる魔物達を切り殺しながら会話をする元勇者達。入り口から数えて500以上もの魔物を殺しているのに疲れた様子も見せない。すると不意に3人以外の者の声が響いた。
「おぉ、誰が来るのかと思えばお前は勇者か?だとしたら魔物ごときにお前達の相手は無理だろうな。お前達、もう襲う必要は無いぞ。無駄だからな」
そう言うと今まで襲い掛かって来ていた魔物達が嘘のように動かなくなった。
「これでこちらまで来れるだろう?な〜に遠慮は要らん。私もあのころの私ではない。襲い掛かったりしないから安心するが良い」
その声を聞きながら元勇者達は、魔王の元へと向かっていく。
重たい両開きの扉を開けるとそこには魔王がいた。
「よく来たな、勇者よ」
魔王は愉快だと言わんばかりの笑顔で言ってきた。
「戯言はいい、ここで死ね」
元勇者は、まったく感情がこもっていない。完全に自分の意思を消して言った。
「くくく、相変わらず本気で殺しあう時は己の感情を消そうと頑張るか・・・その姿なんとも健気で愛おしいものよ」
その言葉に元勇者は忌々しげに顔を歪める。
「何が言いたい」
「いや、何・・・我もお前も人間共に嫌われておるからのぅ。ここら辺でいがみ合うのはやめて手を組まぬか?」
「は、俺がお前と?冗談だろ?」
「冗談ではない!我は魔王だ!だがしかしそれ故に我を恐れ逃げるものは多い。人間はもちろん悪魔でさえ我からは逃げていく。力が強いと言うのも考え物だな・・・」
「・・・」
「そこで、我と同等もしくはそれ以上の力を持つお前なら逃げることは無いだろぅ?だから・・・我の仲間にならぬか?」
元勇者達は喋れない。同じ境遇だから。力があるから友だと思っていた者達に逃げられ時には裏切られ・・・。元勇者達が今《3人組み》だと言うのも仲間に逃げられたからだ。魔王にたった3人で挑むはずが無い。最初は約50人いた。しかし逃亡と裏切りで今はもう3人しか残っていない。最初は魔王を恐れて逃げ出しているのかと思った。しかし彼らは確かに勇者に恐怖を抱いて逃げていた。
「だが、俺にはこの世界の人々を守る義務が・・・」
「恐れられ、迫害され恐怖の対象だった我、魔王と同じ立場を味わったのなら分かるはずだ。人間は、守るに値しない・・・とな」
強すぎる力は恐怖でしかない。たとえそれが味方の力でも。故に迫害する。故に排除する。
「勇者よ。我はお前と新たな世界を築きたい。強者が恐れられぬ世界を・・・共に築こうではないか。我はお前となら、お前ならば共に築いていけると思ったからこうしている。今までも信用できる者もわずかだがいた。しかし、その者達も結局は我の力に恐怖し逃げていった」
「だ・・だが、俺は人間だ。お前と一緒に世界を築くにしても俺はすぐに死んでしまう」
「我にかかればお前を我の同族にする事など簡単なことだ」
「また、俺はお前を殺そうとするかも知れないんだぞ?」
「その時は止めるまでだ」
「いいのか?俺は一度お前を殺してるんだぞ?」
「あれぐらい・・・我に対してもっと酷い事をした者を仲間に引き入れたこともあるぞ」
「本当にいいのか?俺を恐怖しないのか?共に歩んでいけるのか?」
「ああ、お前が望む限り我はお前と共に在ろう」
人が人である限り、孤独には勝てないのかも知れない・・・たとえそれが闇の奥へと続く道だとしても。そしてこの場にいながら傍観していた双子の剣士と魔法使いが何か喋っている。
「たとえ世界を敵に回しても」「たとえ力が無い者を殺しても」「歩みを止めない」「ヒカリを消さない」「「それがあなたの望む道なのですね」」
そして契りは結ばれる。ヒカリと闇との甘い契りが・・・
勇者は落ちる深くて甘い闇の中へと・・・
すべては、何も変わらない。ただ正しい形に戻っただけ・・・
天使も勇者も神だろうと、この世に闇に染まらないものは無い・・・
それはとても悲しい現実・・・
だから誓おう、ボクは仲間を決して見捨てないと・・・
未来が無くても力が無くても恐怖があっても何があってもボクは仲間を見捨てない。ボクは仲間から逃げたりしない。死と隣り合わせでも仲間が望む限りボクは仲間と共に在る・・・
それがボクの生きる意味だから・・・
仲間を守りたいから・・・
他の人間なんてどうでもよかった・・・
だから何も変わらない・・・
ボクはただ・・・仲間を守って生きるだけ・・・ |