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泡沫の大地の詩 [バージョン2]
作:スピリットQ



  〃  (5)


互角だった二人の闘いは、終わることを知らなかった。
だが、見ることに飽きたオルハーが二人の剣戟けんげきの間に割って入ると、
一応は腰に据えている剣で両者の剣をそれぞれ跳ね飛ばし、無理矢理終わりにこぎつけたのだった。
突然の王子の出現に、レッグドとアルディは唖然となって立ち尽くした。

「お、王子……?」
「いつまでもくだらん争いをやってんじゃねーぞ」

そう言ってオルハーは、その場を立ち去った。
肩透かしを食らった二人、それに見物人の騎士や傭兵たちは、呆然と王子の猿行く後ろ姿を見つめたままだった。

「す…素敵〜〜〜!!」

女たちはうっとりとした目で騒ぎ始めたが、

「く、くだらんだと……? 神聖な剣術を……騎士道をくだらん…と……」

レッグドが身を震わせながら意気消沈してうなだれた。



               *



「いやぁ〜、それにしても王子、なかなかやるなぁ。見直した」

後を追って来たアルディが、オルハーの背中に向けて言い放つ。

「剣は結局人殺しの為の道具だぞ? そんな闘いなど願い下げだ」
「しかし王子もなかなかの腕前だったが…、いつ訓練を?」

相変わらず憮然とした表情でスタスタ足早に歩く不機嫌な王子に、追いついたアルディが質問を投げかけた。

「昔ちょっと習ったくらいだ。習ったと言っても、相手の剣を払いのけることに利用するまでだ」
「いやいや、この御時世に、全くもって貴重な存在だよ王子は…」

うんうんアルディは一人うなずき、

「しかし俺のような傭兵は、それで飯を食っているからな」

そう言うと、目の前の王子の足が止まった。

「全く世の中腐り切っている」

深いため息をついたオルハーは、クルリとアルディの方を振り返り、元来た道を突然駆け出した。
何ごとだ……?
アルディが怪訝な顔をしていると、向こうからザッハンが足を引きずるようにして走って来るのが見えた。

「王子! また授業をさぼりましたね! パロウ老がカンカンでしたよ!」

なるほど……。
アルディは納得した。

「よし、ザッハン! 王子は俺に任せておけ!」 

そう言うとすぐに走り出し、王子をあっという間に捕まえたのだった。
体力的には、筋肉隆々なアルディの方が断然上だった。




「…くそ、アルディの奴! 協力的な時もあれば非協力的な時もあったのか」

こってりパロウ老にしぼられ、クタクタになったオルハーは愚痴り出す。

「何グチグチ言ってるんですか。私にしてみれば協力的だったわけですから、素晴らしい傭兵ではないですか。
 …それで、協力的な時とはどんな時だったのですか?」
「いつぞや俺とお前の馬を、あいつに頼んでこっそり城外へ連れ出してもらった時だ」
「ああ、王子が抜け穴を教えてくれたあの時の…、あれはアルディに頼んでいたのですか」

アルディは去年、シスカ城に傭兵として雇われた。
オルハーに気兼ねなく身分を越えて話しかけたりするので、オルハーはその堂々振りが気に入り、
とりわけ親しい間柄になっていたのだった。

「それよりも王子、はやく王の所へ行って下さい!」
「王の所…? 父上がどうかしたのか?」
「王子をお呼びでした。何か頼みごとがあるようでしたよ」
「頼みごと? 何だそれは?」
「…さぁ、私にはわかり兼ねます」




アンモスは腹を立てていたが、そこは王、寛大な気持ちで息子を迎え入れた。

「父上何か用ですか?」

オルハーはアンモスの前に歩み寄る。

「唐突だが、お前に今からメレクシール男爵の元へ赴いてもらいたい」
「今更何の用があって行かなければならないのですか? もうじき日が暮れますよ」
「……これを見てもまだわからぬのかお前は!」

そばに置かれた大量の食料を指差す。

「お前は令嬢に、またもや無礼を働いたそうだな。その時のお詫びだ」
「そういうことですか」
「そういうことだ。急ぎ出立せよ。外では騎士たちがお前を待っておるぞ」

「気をつけて行くのですよ…」

王の隣りに並んで座る王妃が、心配そうな目で息子を見送った。



「出発ー!」

「寒くないですか王子? 今夜は冷えますよ」

ザッハンが寄って来て言った。

「白々しいな、お前…。本当は知ってて俺を呼びに来たんだろう?」
「何のことです? 私にはわかり兼ねます」

さっきと似たようなセリフで、あくまでとぼけるザッハンをオルハーはひとにらみした。



 












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