泡沫の大地の詩 [バージョン2](1/9)縦書き表示RDF


ベースはバージョン1とほぼ同じですが、
内容やキャラ名など大幅に変更されているのもありますので、
別物としてお読みいただければ幸いです。
泡沫の大地の詩 [バージョン2]
作:スピリットQ



序 章 (1)


 聡明なのは、涼しげな表情からもすぐにわかった。
穏やかなその瞳が向けられ、目が合った瞬間、彼女の全身に電流が走った。

  あの人は誰----------?
    一体どなたなの---------?

 遠い国から来たというその男は、魔法師だった。
皇帝である父に紹介され、彼女の胸は高鳴った。
 生まれて十四年、未だ恋も知らない一国の姫にとって、初めて抱く淡い恋心であった…。



             *



 セッツェン大帝国第三十四代べモンドルは、歴代の覇王を輩出したスモンジェルダン家の血を、
色濃く鮮明に受け継ぐ帝王として君臨してきた。
 代々、スモンジェルダン出身の皇帝たちは皆、冷酷・残虐・頑固の三拍子で名を馳せ、
べモンドルもまた、気性の激しい帝王として恐れられてきた。
 彼には『貪欲どんよく王』という別名も付けられていたほどだった。
しかし、それも昔の話、そんな恐れられた貪欲王は今、勝ち目のない戦いの真っ只中にいた。
 敵はすこぶる強靭で、皇帝の身体をむしばみ続ける病魔だった。 
その敵にだけは、人生で初めて苦戦を強いられていた。
 
 べモンドルが臥床がしょうするようになってから、ほぼ二ヶ月が過ぎた。
身体はやせ衰え、身体を起こすこともままならぬ状態。
 眠っては目覚め、目覚めては眠りに就く病人そのものの日々を送っていた。
もはや、かつての皇帝の威光はどこにもない。

「-----お目覚めですか?」

 べモンドルは、くぼんだまぶたをうっすらと開けていた。
側にいつも付き添う専属医師のウェンリッグが、優しげに皇帝の様子を伺う。

「ウェンリッグよ…、余は懐かしい夢を見ていた…」
「どのような夢ですか?」
「若かりし頃の…ぺネロジ山脈に遠征に行った頃の夢だ…」
「おお、それは、貴方様が皇帝に就かれて初めて錦を飾ったあの遠征ですな?」

 べモンドルは、懐かしそうな笑みを浮かべながら遠くを見つめる。
久しぶりに会話が続いたことに、今日は身体の調子が良さそうだと、ウェンリッグも安堵する。

「----あの頃は、病にわずらうこともなく、人生を謳歌おうかしていたものだった…。
それがまさか、かような姿になろうとは……貪欲王が聞いて呆れる」

 そう言って自分を嘲笑するが、医師は首を横に振った。

「そのように御自身を卑下されてはなりませぬ。べモンドル様は、今も尚、
勇猛果敢に戦う真の覇王なのでございます。
何を弱気なことをおっしゃられますか」

 先帝の御世から仕えてきた医師・ウェンリッグは、自分よりも二十以上も若い皇帝に叱咤しったした。

「昔からそなたには、色々力になってもらってきた…。随分励まされたものだ。
 -----叱られても来たがな……」
「どちらかと言えば、叱った数の方が多かったですな」

 べモンドルの寝室に、久しぶりに笑い声が響き渡る。

「それよりも、国は今どうなっている…? 海岸と河岸は…? 東方や山地は…?
 民はちゃんと穀物と税を納めているか…?」
「はい。御心配には及びません。今は、ガイン様とロイゼン卿が中心となって一切を率いてますれば、
何の問題がございましょう」
「…そうだったな。今は余の代わりを、あれが引き継いでいるのだったな…。
あれは…、ガインはよくしているか?」
「----はい。采配を振るうガイン皇子のお姿は、若き日の貴方様と瓜二つにございます」

 べモンドルは、そこで何故か失笑した。

「瓜二つか…。あれも余に似て、融通の利かぬれ者よ。
大波に揺られて自分が乗った船を沈めねばよいが……」

 皇帝は、天蓋てんがいを見上げながら、若き嗣子ししが周囲に翻弄されて孤立しないことを祈った。
 べモンドル自身、孤立こそしなかったが、信頼を寄せていた重臣に裏切られた過去が幾つもあった。

「----余り無茶をするなと…あれに伝えてくれ…。それからガインを…、宜しく…頼…む」
「ベモンドル様っ!?」

 突然急変した皇帝の容態に、ウェンリッグは慌てて聴診器を胸にあてがう。
呼吸が乱れ、身体全体に浮き上がる汗と顔色が異常を物語っていた。
 しかしベモンドルは、医師のその手を払いのけ苦しそうに呻いた。

「いくら…、皇子といえど…、お…前は----------…」
「皇帝!? ベモンドル様--------っ!!」




 ベモンドルの訃報は、すぐさまガイン皇子にも伝えられた。

バ--------ン……!!

「ロイゼンッ!! 皇帝が崩御したっ!!」

 扉を荒々しく開け、ガインは父・ベモンドルの寝室にではなく、魔法師・ロイゼンの部屋へ駆け込んだ。
 窓際に立って、外を眺めていた長身長髪の男は、突然飛び込んで来た皇子に視線を移す。

「…それはおめでとうございます。いよいよ皇帝の座とこの国が、あなた様のものとなるわけですね」

 うっすらと微笑を浮かべ、青いローブ姿のロイゼンが静かに呟いた。

「この瞬間をどんなに待ち望んだことか!! ふははは…!! 皇帝だ!!
ようやくこの私が皇帝に即位する日が来たのだ!!」

 実父の訃報に悲しむわけでもなく、ガインは辛辣しんらつな笑い声をあげる。
そして魔法師の部屋に反響し、壁に映るガインのその影は、まるで悪魔が高笑いしているかのようだった。



コチラの方が読みやすいかも…?











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