作戦なんてあったものじゃなかった。
最初に普天間基地を飛び立った時にいた仲間が十六機。途中合流を繰り返しながら六十機の大所帯になって、それからどんどん数が減って。
眼下に見えるのは東シナ海の海面ではなく、粘性に富んだ何か。アメーバのようにくねるそれは、こちらの不意をついて唐突に触手を伸ばしてくる。
『陽光、聞こえるか? 俺たちは今、八機しかいない。ファーストアタック以外こちらの攻撃は成功していないんだ。このままじゃジリ貧で、いずれ墜ちるだろう』
無線を通して憔悴した声が聞こえる。確かにこのままではやられる。『月光』の言う通りだ。ただ一つ間違いがあるとすれば、ファーストアタックが成功したかはかなり怪しいということだ。
緩慢に動いていた目標を囲み、一斉にミサイルを放つ。当初、これで決着はつくはずだった。
しかし、こちら側の予想を遥かに超える再生力と、こちらの攻撃に対する驚くべき対応能力に大多数が落ちた。
生き残っている者に対して再度ミサイルを放つように指示が飛んだが、再度放ったミサイルは相手に到達することすら出来なかった。
敵は触手を何本も伸ばし、ミサイルのすぐ横を撫でるように振り切った。
近接信管が作動し、誘爆する。
そして、今に至る。
『月光、弱気になるな。「これからがショータイム」って言ってくれよ』
口癖を真似て僕は機体を左右にゆらす。正確に十秒。
『ああ、どうせ死ぬもんな。行こうか!』
馬鹿みたいな叫び声が聞こえ、右前方の月光が右側へとダイブする。
数瞬遅れで僕は左側へ。
眼下に見える敵が、無防備に突っ込んでいく僕たちを歓迎するかのように触手を伸ばす。
それをロールしながら避けて、垂直に上がる。
僅かな揺れ。掠ったか?
後ろを見ると、わずかに遅れて触手が追尾して来ている。F−15のキャノピィでだから出来ること。面白い。
半ループからのきりもみ。
虚を突けたのか、触手の動きが少し、止まる。
海面、いや、粘液すれすれを飛行する。新たな触手が敵本体から生み出されそうになるが、遅い、遅い、遅い。
トリガーを引き、ミサイルを解放。この距離なら外さない。
ゆっくりとミサイルが離れるのを振動で感じ、急上昇。体にかかるGが生きていることを教えてくれる。
これで、どうだ?
反転して下を見る。傷口の修復が見える。
『まだだ!』
無線から声。
見ると一つの動点が傷口めがけて突っ込んでいくのが見えた。
『死ぬ気か!?』
それには答えず、無線からは唸り声が聞こえる。
『止めろー!』
下で小規模の爆発があって、海水が跳ねて。水しぶきが上がって、敵が沈むのが見えて。
でも、月光は上がってこなくて、静寂が訪れて。
気づいたら一人で、誰もいなくて。
『HQ、こちら、陽光。目標の撃破を確認』
簡単な報告に向こうも黙っている。何も、喋らない。
『帰投しま――』
レーダーに機影を確認し、辺りを見渡す。
斜め下から風を切る音が、風防越しに振動として伝わってくる。
『……助かった』
『良かった』
私は連絡を入れた陽光に黙とうをささげた。本部にいる全員が目をつぶっているだろう。
先ほど痺れを切らして放たれた中国の核ミサイルが、かれらのいる場所を『滅菌』するまで後三分といった所か。
可哀想に、と思う反面、彼らを羨ましく思う。
ここで戦いを終えることができる喜び。
嘘でもいい。三分間の幸せを願う。 |