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シカテマ疾風伝<第二部>
作:スピリットQ



謹慎 (8)


「…お前、策士としてなら頭が回るが、女のことになるとてんで駄目だなぁ〜…」

マリヤが出て行った後、呆れ顔のコテツに対して何も言い返さないシカマルは、
後片付けを始めていた。
それを見届けるカカシが、ひじを机に着いて呟く。

「いや、そうでもないぞ。----あの娘、マリヤと言ったか…。
果たして、雲隠れの里の上忍にあんな子、いたかな…?」

コテツとイズモがお互いの顔を見合わせる。
確かに、彼らにも見覚えがなかった。
すぐさまイズモが今回の会議の参加者の名簿を取り出し、
雲隠れのマリヤのリストを探す。

「…ありません。そういう名は載っておりません。侵入者でしょうか!?」
「今はまだそっとしておけ。シカマル、あの娘とはどこで知り合った?」
「親睦会が行われている間、屋上で会っただけですよ。それに----…」
「…ん?」
「いえ、後で報告します」

まだその辺にいて、聞き耳を立てているかもしれない…。

ドアの向こうを見やるシカマルを見て、カカシは彼の心中を読み取ると、
黙って頷いた。

----今は取り敢えず謹慎していなさい。

それを黙認したシカマルは、机上の書物を手にして言う。

「これ、しばらく借りてもいいですか?」

----何か掴んでいるんだな…。

おそらく、マリヤが乱暴されたという件で素直に彼が認めたのにも、
何か深い考えがあってのことだろうと、カカシはシカマルを信じて任せてみることにした。

「それらは本来持ち出し禁止だが、まぁ、お前なら特別に許そう」

それは、五大国についての情報が記された巻物などだった。
その中には、詳細な雲隠れと砂隠れについての文献も勿論あり、
特に彼が毎日集中的に読んでいた物。

カカシは、彼がマリヤの何かを突き止めている最中であることを確信した。





退出し外に出ると、シカマルは偶然にもテマリと出くわした。
彼女はまだ警戒しているのか、瞬時に数歩、あとずさる。

「…何もしねーよ」

シカマルが肩をすくめる。
彼女は、何かの巻物を手にしていた。
相変わらず仕事熱心なんだなと、シカマルは思う。
同時に、まぁ、自分も幾つもの巻物や本を手にしてはいるが…
ということは棚に上げておく。

「はぁー…ったく、あんた帰ったんじゃないのか。あいつは?」

いつも一緒にいるはずの男の姿が見当たらず、シカマルは辺りを見回す。

「さ、先に帰ってもらった。私はまだ、やり残した仕事があるから…」

たかがこんな奴にいつまでも怯えて逃げてなどいられないと、
テマリは気を引き締める。
そして、彼の両手をふさいでいる物を見て、当然疑問を投げかける。

「その文献は何だ? どこへ行く?」
「ちょいとお暇をいただきました」
「はぁ?」

次第にいつもの彼であることに、自然とテマリの緊張も解かれていく。
だが彼女の双眸はきついままだ。
そんなどこまでも強気なテマリを見て、あの時の女らしい彼女をもう一度見てみたくて、
再度キスしてみようかという衝動に突き動かされたシカマルだったが、
たった今、謹慎処分の命令を受け自宅謹慎となった身。
大人しくしているかと思い留まる。

それでもテマリを目の前にすると、自分のコントロールが効かなくなる。
つい、いたずら心が揺さぶりをかける。

ゆっくり彼女の横を通り過ぎて行こうとするが、

「…オレに近づくと危険だってことが、まだわかんないの?」

身をかがめて彼女の耳元で囁いた。
その声は低く、甘い切なげな囁き-----

「!!」

バシッ! と、彼女が振り払う。
彼は瞬時によけるが、両手に担いだ文献を落としそうになった。

「おっと…冗談だって」
「ふざけるなっ! お前、とことんどうかしてる! 医者に見てもらえっ!」

完全にからかわれていると思ったテマリは、ワナワナと拳を握って憤慨する。
それとは反対に、シカマルの顔には笑みがこぼれている。
どこか吹っ切れたような微笑で。

「そう簡単に治るようなもんじゃねーよ。…だけど、もういい。 
-----あいつと、幸せになれよ」

「!?」

シカマルは、片方の文献を肩に担ぎ直すと歩き出す。
テマリは、自分の耳を疑っていた。

-----あいつと、幸せになれ……?

あんなに切なげな目で、唇で、自分に迫ってきていたのは一体何だったのか?
心のどこかで、それがイヤというわけでもなかった。
もっとしてほしい…もっと近くに来てほしい…、
そんなことを思っていたかもしれない。

信じられなかったが、自分の中の誰かがそう切望している。
彼の背中がとても寂しそうにテマリの目に映る。
それとも、テマリの気持ちが彼女自身に、そう見えさせていたのだろうか。

「そん…な…勝手なこと言うな--------- っ!!」

テマリが大声で叫ぶと同時に、巨大な扇子がシカマルに向かって飛んできた。
振り向いたシカマルはギョッとし、間一髪よけ切った。
扇子が大音声を立てて道端に落下する。

「お、おまえなっ! オレを殺す気か!?」
「うるさいっ!」
「それに何だよ、勝手なことって? 何も間違ったこと言ってねーだろ」
「うるさいっ! あいつとは、名異斗との婚約は、いつの間にか話が大きくなっただけだ! 
こんなことになるとは思ってもみなかった…」
「何だよそれ…?」

シカマルが呆然とその場に立ち尽くす。

「お前に話したい、相談したいというのはそのことだったんだが…」
「…何でもっと早く言わねぇ?」
「言おうとした! だけど、いつも何かと阻まれた。この前はお前に襲われかけたし…」
「わーるかったよ。で、何であいつとこんなことになったんだ?」
「…お互い惹かれ合うところがあったんだろう。その内、あいつに好きだと言われた。
私もあいつのことを嫌いではなかったから、拒む理由がなかった」
「---ならいいじゃねーか。そのまま結婚しちまえば」
「お、お前は…、それでいいのか?」
「---何で…オレに聞く…?」
「い、一応、聞いてみたかったんだ。ホ、ホラ、お前とは色々行動も共にしてきた仲だろう?」
「聞いてどうする? 婚約解消しろと言ったらするのか?」
「解消してほしいのか?」
「例えばの話だよ」
「…もう遅いだろうな。私はあいつとこうなる運命だったのかもしれない。
お前となら…って思ったときもあったけど------」
「……」
「あ、いや! ち、違う! お前とは絶対あり得ないと思ったの間違い…」
「-----そーかよ。もう、あんたには迷惑かけねーよ。……じゃあな」
「ま、待て! まだ話の続きが…」

どこか傷付いたような顔をして、シカマルは去って行った。

…また彼を傷付けてしまった…

テマリの心はしぼんで、まるで小さな少女のように、
はかなげで頼りなくなってしまっていた。
うつむいて下を向いていると、涙がこぼれてきそうだった。

「何で-----止めてくれないのよ……」

テマリの声は徐々に小さくなっていた。
しかし、自分が壊れてしまいそうな感覚に陥る寸前、

「風影の血筋の自分が、そんな弱気な人間でどうする!?」

そう弱虫な感情の自分を、何とか押し込める。

命よりも大切な扇子を、気づいたら投げ飛ばしてしまっていた。
生意気なあいつに向かって…。
無意識の内のその行動が、一体どういうことを意味するのか、
そんなことを考えたくもなく、テマリは深呼吸すると扇子を拾いに向かった。


            
              *



自宅に辿り着くと、シカマルは自分の部屋に持ち込んだ文献を早速開き始めた。
不意に、部屋の入り口に人の気配がして、サッと身構える。
しかし、そのまま自分を渋く老けさせた姿が立っていることに気付き、
面倒な奴が入ってきたぜと、息を吐いて脱力する。

「シカマルよぉ〜、話は聞いたぜぇ〜。
お前も年頃なのは父ちゃんもよくわかるがなぁ〜、まだまだ修行が足りんなぁ〜」

馴れ馴れしく寄り添ってきたかと思うと、シカクは息子の肩を抱く。
そんな父親に対し、うっとうしげな表情をシカマルは浮かべている。

「父ちゃんも昔はなぁ〜、そりゃあ、モテてモテて悩んだもんだぜ〜ぃ。
母ちゃんにするか、他の女にするか…」
「だからって、何であんなきつい母ちゃんを選んだんだ親父よー」
「そりゃお前、あの微笑みを見りゃわかんだろ?」
「微笑み…?」
「母ちゃんのあの微笑みはまるで…、
砂漠で倒れた忍に、生きる勇気と希望をもたらすオアシスのようだった……」

突然陶酔して、自分の世界に浸りきる父親を、シカマルは無視することに決めた。
文献に再び目を戻す。

「母ちゃんはなぁ〜、オレにイチコロだったんだぜ〜ぃ?」
「-----マジかよ…?」

息子の怪訝な目が父親に向けられた。
まるで信じていないという目つきだった。

「ふっふっふ〜…。父ちゃんは、やるときゃやる男だ。
母ちゃんはそんなオレにメロメロさぁ〜」
「メロメロねぇ…」

そこへ、母のけたたましい声が入ってきた。

「あなた------ っ!! いつになったら大根買って来るつもり------ っ!?」
「は、はい------ っ!! 今行きま------すっ!!」

慌ててシカマルの部屋から飛び出して行った、父・シカク。
母・ヨシノの怒鳴り声に即座に反応する父を見て、
その情けなさに、息子・シカマルは更に脱力してしまう。

「……どっちがイチコロなんだか」

そんな父親に、何だかまるで数年後の自分を見ているかのようで、
つい苦笑いにもなる。

「似るのは容姿だけで勘弁。オレは、尻に敷かれたくはねーぜ…」







To Be  Continued …














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