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シカテマ疾風伝<第二部>
作:スピリットQ



すれ違い (5)


噂話にも耳も貸さず、わき目もくれず、ここのところ毎日、仕事だけに没頭していた。
自分に与えられた仕事だけが、それを忘れさせてくれる。
興味なさそうにふるまうことで、忘れようとした。

でも、一体、何に…?

あいつは戦友だと割り切ったはず--------



           *



あの二人だけがもうしばらく滞在すると聞いて、見たくなくても目に入ってしまう日がまだ続くのかと思うと、
シカマルは憂鬱になった。

「いっそ、とっとと帰ってくれた方がまだましだ」

挨拶を交わすどころか、まだ一言もテマリと口を利いていない彼だったが、何度か遠くから見かけたりはするが、
今一歩近づけないままでいる。
誰も寄せ付けないほど二人が愛し合っているオーラを発しているせいからなのか、
その内、話せるだろうと思っていてもそれも適わず、時間だけが虚しく通り過ぎていく。

「別に…今更話すことなんてねーし」

そう自分に言い聞かすも、それもそれで何だか納得できない。
確かにあれだけの美男美女がいつも一緒にいれば、町の中をツーショットで歩いたりもすれば、
相当目立つのだから、あっという間に噂も立つ。
悪事千里を走るとは言うけれど、シカマルにとって、それがまさに悪事のようにさえ思えてしまう。
そんな自分がうっとうしい。

「…ったく! オレってこんなに女々しかったかぁ?」

頭をかきむしると、腹の底から深いため息を吐き出す。
同時に、モヤモヤしていた黒い物体も吐き出たような気がした。
最近の自分はおかしい。
どうにもならない自分にイラついている。
そしてそれは、自覚もしている。

「ああ、めんどくせー! チョウジのとこにでも行ってみっかー!」

考えるのも面倒になったシカマルは、しばらくチョウジの家に行っていなかったことを思い出し、
親友の家に向かって歩き出した。




チョウジの家に辿り着くと、彼の父親が出迎えてくれた。
玄関を見れば、少女の靴が並んであったが、それが誰の物かは一目瞭然だった。
中に入るよう勧められ、シカマルは慣れた足取りでチョウジの部屋へ向かう。

「おーい、チョウジいの、いるかー?」

部屋の扉を開けると、チョウジといのが抱き合っていた。

「!?」

シカマルは目を見開いた。
しかし、何度も瞬きをすると、二人が抱き合っているように見えたのは錯覚だったと思うようになった。
自分と目が合っても、二人は楽しそうに笑っていて、
シカマルに気づいても何事もなかったかのように笑顔を振りまいている。

----今のは何だったのか…
 
いのはそうでもなかったが、チョウジがいつものチョウジではなかったかのように見えたのは気のせいだろうか?
自分が、来てはいけない所に来てしまったように感じたのも、幻だろうか?

「あら、あんたも来たのー? 何だか久しぶりねー。元気ぃー?」

いのが立ち上がってシカマルの方へ寄って来る。

「シカマル、今日はお仕事お休みなの?」

チョウジが訊く。 

「…ああ」
「ちょっとあんた働き過ぎなんじゃないのー? あんたのご両親心配してたわよー? 
ただでさえ年寄り臭いんだから、ほどほどになさいよー」
「…ああ」

まるで、魂が抜けているかのようなシカマルの返答に、いのが口を尖らせる。
確かに自分は疲れているのかもしれない。
だから、さっきのもきっと幻覚なのだろう。

「----やっぱオレ帰るわ。どうも疲れてるみたいだ」
「あんまり無理しないでね。あ、ボク、シカマルを送って来るよ」

三人の中でも一番大きな体格のチョウジが立ち上がり、シカマルの方へ近寄った。
だが----

「いい、私が送る。私も帰ろうとしていたところだったから。じゃあねー、チョウジ」
「え、もう…? 今来たばかりじゃない…」

シカマルの腕をグイッと引っ張って、いのがチョウジの部屋から連れ出した。

「じゃ、じゃあまたなチョウジ。 …って、おい、そんなに引っ張んなって」

二人が消えた後、一人残されたチョウジは、どこか寂しげな面持ちで佇んでいた。






「----で、オレは何でこんな所にいる?」

シカマルの向かいには、ニコニコ微笑んだいのが座っている。

「やだぁー、お疲れのあんたを癒そうとしてるんじゃないー。おばさーん、あんみつ2つねー!」

いのは、あれからまっすぐお気に入りの甘味処『甘栗甘』に、シカマルを強制連行していた。
有無を言わさず連れて来られた彼の疲れは、どっと増していた。

「むしろ癒されているのはお前の方だろーが。ったく、オレはあんみつなんて甘ったるいもんは食わねーぞ」
「何言ってんのー? 私が食べるに決まってるじゃなーい」
「…あっそ。で、それを支払うのは、どうせオレなんだろ?」
「さっすがシカマルねー! よくわかってるじゃなーい」
「ったく、何でオレが…」
「給料いっぱいもらってるでしょー! 男のくせにケチケチしないの!」
「お前のための給料じゃねーんだよ。それにオレはまだ見習いみてーなもんだから、そんなにもらってねーんだよ」

眠そうに欠伸をするシカマルだったが、口を閉じると突然真顔になった。
まるで、睨んでいるかのようなシカマルに、尋常ではないものを感じたのか、
いのもその視線の先を振り返る。

「…あ、テマリさんと名異斗さん」

テマリも、シカマルといのに気づいている様子だった。

「そう言えばこの前、チョウジと二人でテマリさんたちを木ノ葉案内したんだけど、
本当、お似合いのカップルで憧れちゃうわ----って、ちょっとシカマルどこ行くのー? 
まだ私食べてないわよー?」

シカマルは何も言わずに、そのまま店を出た。

「す、すみませーん! あんみつキャンセルでー」

いのも、慌てて彼の後を追う。
その声に気づいた名異斗が、いのの後ろ姿を目で追っていた。

「あれ? あの子は確か…」

テマリは、自分たちが入って来た途端に無言で出て行ったシカマルに向かって、軽蔑のまなざしを送っていた。




「ちょっと何よー! あそこの甘味処が一番好きなのにー!」

ズボンのポケットに両手を突っ込んだまま、黙って歩く目の前のシカマルに向かって、いのは文句を言い続ける。
だけど彼は、相変わらず黙ったまま早歩きで先を進む。
普通に歩いていては離されるので、彼女も必死でついて行くが、
それでも距離が縮まらないので、時々駆け足になっていた。

「ちょっと待ってよシカマルー!」

いのは不安になっていた。
このままでは、彼がどんどん遠くに行ってしまう。

…捕まえなきゃ。

いのは、自分よりも何もかもが大きくなった幼馴染のその腕を、掴んだ。
するとシカマルは立ち止まり、優しくいのの腕を払いのけると、

「-----悪い、一人にさせてくれ…」

目を合わせずに静かに口にした。
その声は、いのが今まで聞いたことがない程、憔悴し切っているような、悲しい、力のない低い声だった。 
それ以上、シカマルの後を追うことも、並んで歩くこともできなくなったいのは、その場から動けなくなってしまった。
頭が真っ白になって、周りの喧騒が耳に入らない。全てがスローモーションに感じる。

「-----やっぱり、私では駄目なのかなぁ……」

一人立ち尽くすいのはうつむき、やがて雫が頬を伝い、地面にこぼれ落ちた。
肩を震わせ、嗚咽を漏らす。

「うう…うっ…シカマルの…バカ…」

口と目を手で押さえながら、いのは歩き出す。
すれ違う人々が、見てみぬふりをしながら通り過ぎて行く。

そこへ-----

「いの…」

顔を上げると、チョウジが立っていた。
いのの潤んだ瞳から、次々涙がこぼれだす。

「チョウジィイイイ-------!!」

泣きながら、チョウジの胸に飛び込んだ。
チョウジはいのを優しく抱きしめる。

夜の帳が降り、町は徐々に賑やかさを増していた。



          *



廊下を歩いていると、また会いたくない連中に出くわしたので、シカマルは呆れてため息をついた。

------あんたたち、まだいたのかよ…。

廊下の一角で、噂の砂隠れの里のカップルが、楽しそうに話をしていた。

------あのバカップル、仕事熱心なんだか、それとも何か企みでもあるのか…。

内心、毒づく。
テマリの方に視線をやると、眩しい笑顔が男に向けられている。
それは、シカマルの胸に痛く突き刺さる。

------その笑顔、誰にも見せんなよ…。

嘆息しつつも、知らない振りを装って、その場を通り過ぎようとした。
その時-----

「おい…、ちょっと話があるんだが…」

男勝りなテマリの声がする。しかし、どこか遠慮気味な。
シカマルは、二人の前を黙って通り過ぎて行く。

「おい! 聞こえてんだろ!? 数年ぶりに会って、挨拶もできないのかお前は!」

ピタッと、シカマルの足が止まった。
だが、正面を向いたままで、彼女の方を振り向かない。

「----どうも、お久しぶりです」
「なっ!」

他人行儀な挨拶に、テマリの拳がきつく握られた。顔も引きつっている。

「話って何ですか? 婚約の件でしたなら、申し遅れました。ご婚約おめでとうございます」
「お前…っ、それ、本心から言ってるのか?」
「これから仕事がありますので…それでは、ごゆっくり」

最後まで無表情で背を向けたままだったシカマルは歩き出す。
テマリは納得が行かず、彼の後を追って行こうとしていたが、名異斗に腕を掴まれた。

「まぁ、いいじゃないか。挨拶も済んだことだし、僕らももう行こう」

それでもテマリは、今度ばかりは彼の言いなりにはならなかった。

「悪い名異斗、先に帰っててくれ。私はまだやらなければいけないことがある」

歯を食いしばる彼女を見て、名異斗も肩をすくめた。

「----…。仕方ないな。わかった。気をつけるんだぞ」

それが道中の安全を意味するのか、はたまた何か別の危険を心配しているのか、テマリは気づいていなかった。

「…ああ」

テマリはすぐさま少年の後を追った------





To Be Continued …



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



次回、テマリが、シカマルが、あ〜れ〜〜〜……フッ。

大変お待たせ致しました

待て次号! 読め次号!















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