戦友と妖影 (3)
屋上で空を見上げていると、幾つものちぎれ雲が、間隔を置いてゆっくり風に流されていく。
真っ白な雲に、夕日の光が反射し赤く染め渡る。
黄昏がまぶしくて、コンクリートに横たわっていたシカマルは方目をつぶった。
そして両目をつぶると自然に浮かぶ、屈託のない無邪気なあの笑顔。
だがすぐに、昔の彼女の姿が浮かんでは消えた。
代わりに浮かんできたのは、先程目にしたさなぎから抜け出た、
華麗な蝶のような美しき風の使い。
やっと追いついたと思ったのに、それは風のように蝶のようにすり抜けていく。
----お前もはやく上忍になれ…。
そう彼女は言っていた。
面倒臭いとは口にしたけれど、それを糧に、この二年頑張ってきたような気がする。
彼女の言葉があったからこそ、自分はここまでこれた。あの時励まされていなければ、
自分は今ここにはいなかったかもしれない。
きっと、中忍のまま適当に稼いで、美人でも不細工でもない普通の女と結婚して、
子供は二人くらいで、将棋を指しながら、気ままにのらりくらりと悠々自適の暮らしをしていくだろう。
それが自分の生涯設計だった。
面倒なことは抜きにして、適当に生きていく。
なのに、その未来設計図ともかけ離れて行っている気がする。確実に。
それは多分、あの女に出会ってしまってから--------
時々、テマリとコンビを組んで予定外の任務につくことも幾つかあった。
何故かいつもこの女と組まされる。
確かに、戦力としてはいいコンビネーションだと感じていた。
自分が影で固定し、あいつが風で薙ぎ払う。
後味もさっぱりしていて、面倒なことは何もない。
お互いのチャクラが一つに合わさった時の連係プレーは、もしかすると、
チョウジ以上に最適かもしれない。
戦友としては最高だった。
だが、どこかでしっくり行かない点もあった。
それはテマリが女だということ--------
女を戦友として見ることが、彼には抵抗があった。
勿論、いのやサクラたちのように、幼馴染や仲間として見ることはできるが、
テマリに関しては、もっとそれ以上の強い絆の何かが当てはまる気もした。
コントロールができないあのモヤモヤした得体の知れない何かを、シカマルは心の奥に押しやったつもりだった。
面倒なことになる前に、忘れ去ろうとしていた。
あの不意を突かれた笑顔に抱いた気持ちは、なかったことに、気のせいにしようと思うことにしていた。
なのに、いざ、本人を目の前にすると、それがうまくいかない。
「くそっ、封印したはずなのに…」
「------いい所ね。素敵だわ」
突然女の声がして、シカマルは咄嗟に体を起こした。
鳥の気配さえ感じなかったと言うのに、いつの間にかそばまで来ていた。
だがシカマルは、自分が深く考え事をしていて、周囲に気を張るのをつい怠ってしまっただけだと思うことにした。
上忍として、それはあってはならない最低限のことではあるけれど…。
「あんた、誰だ…? いつからそこにいた?」
見たことのない女だった。髪は艶やかな漆黒をしていたが、瞳は深い緑色をしている。
テマリと同じ色のその瞳に吸い込まれそうになり、シカマルは一瞬たじろいだ。
それに、どことなくテマリに容姿も雰囲気も似ている。髪が黒いと言うだけで、他はそっくりかもしれない。
どこかの隠れ里の上忍であることは間違いなさそうだったが、先程、各国の上忍たちの顔を眺めた時には、
こんな女はいなかったはずだ。
そんな彼の怪訝な視線を気にする様子もなく、夕日に照らされた木ノ葉隠れの里を見下ろしていた女は、
長い黒髪を棚引かせながら振り返って言った。
「私、さっきからここにいたのよ。気づかなかった?
会議とかパーティーとか面倒なことが嫌いだから、ここにずっといたの」
道理で見たことのない顔だと納得すると共に、女がいた気配に気づかなかった自分にも落胆する。
女は、フフッと微笑んで、シカマルを見つめていた。
シカマルは立ち上がって、フッと笑みをこぼす。
「面倒って…あんた、どこかオレに似ているぜ…。
あー、ところで、オレは木ノ葉の奈良シカマルだ」
「……マリヤよ」
「……」
名前まで似ていたことに、シカマルが苦笑し顔を引きつらせる。
そしてマリヤが近づき手を差し出してきたので、シカマルも右手を出し握手を交わそうとした。
だがその手はすり抜け、突然シカマルの手を掴むと、マリヤは自分の方に強引に引っ張った。
目の前に突如現れた妖艶な顔に、シカマルの心拍数が跳ね上がる。
近くで見ると、マリヤはますますテマリに似ていた。テマリより少し年上に見受けられたが、
そんなことを考えている内に、妖しくきらめくその真っ赤な唇が自分の唇に吸い込まれていった。
「!?」
シカマルの目が見開かれる。
マリヤのやや熱を帯びた柔らかな唇が、何度もシカマルの乾いた唇に優しく押し当てられる。
女の手が、シカマルの背中や首に回され、柔らかいその豊かな胸も、形が歪むほどシカマルの胸に当たっている。
そしてゆっくり唇を離すと、うつろな目でシカマルの顔を見上げた。
何が起きているのかわからず、棒のように突っ立ってされるがままだったシカマルは、慌てて女を突き放した。
「あ、あんた一体…、何の真似だ!?」
マリヤは、余裕綽々に微笑みを浮かべたままでいる。
「私、あなたのように頭の切れる男って好きなのよね」
「はぁ? あんた、会議に出てなかったんじゃないのか? 何でオレのこと知ってる?」
「…知ってるわよ。もう何年も前からね。だって、中忍試験の頃からあなたのこと見てたもの。
あの時あなたは、砂隠れのくノ一と対戦してたわね。素敵だったわ」
「あんたもそこにいたのか。で、あんた一体どこの忍だ? いいかげん教えてくれてもいいんじゃねー?」
シカマルが真顔でマリヤに問い質す。
マリヤも観念したのか、口を割る。
「…一応、雲隠れの里よ」
「雲隠れ…雷の国の忍か。で、あんた、オレのこと好きだって?」
「…そうよ。ずっと見つめてたわ」
「悪いがオレ…、あんたのこと全く知らねーけど?」
「構わないわ。今はまだ私の片想いだもの。…でも、近い内にあなた、私に振り向くわ、絶対に」
「-----そーかよ。たいした自信だな。ま、がんばんな」
そう言いながらシカマルは、きびすを返して歩き出した。
そして、
「めんどくせーのはわかるが、パーティーぐらい顔を出せよ。じゃなきゃ、あんた、一体木ノ葉に何しに来たんだ?」
片手を振り上げながら、その場を後にした。
一人残されたマリヤは相変わらず微笑をもらし、いつまでもシカマルの後ろ姿を見ていた。
「そんなの…、あなたを奪いに来たに決まってるじゃない…。素敵だわ」
パーティー会場に戻って来ると、カカシもナルトたちも沢山の人々に囲まれて楽しそうに話していた。
その輪の中に風影の我愛羅もいて、彼はナルトと何やら話していた。
シカマルはさっきと同様、壁にもたれて気だるげに会場を眺めているが、ふと隅の方に、
二つの影が寄り添って椅子に腰掛けているのが目に入った。
「あれはテマリ-----…と、誰だ…?」
テマリの横では、知らない金髪の男が寄り添って彼女の肩を抱いていた。
しかもテマリは、その男の肩に、自分の体を預けて眠り込んでいる。
「そういえば会議の時…」
テマリの隣りに、あんな男が座っていたことを思い出す。
「あいつも砂隠れの上忍か? でも何であんな親しげなんだ…? あれじゃあ、まるで…」
「----テマリの恋人じゃん」
カンクロウの声がして、シカマルはハッと我に返った。
そして一瞬間を置いて、素っ頓狂な声を発した。
「はぁっ!?」
「お前も驚くか。だよな〜、あの気の強いテマリに婚約者だもんな〜」
「婚約者!?」
「でもあの男のおかげで、姉貴もしおらしくなりつつあるじゃん。
何てったってあいつの言いなりだ。信じられるか? あのテマリがだぞ?」
-----ああ、だから髪型も変わって、随分綺麗になったのか…。
「オレには関係ねーことだ…」
「-----だな。お前はただの戦友じゃん?」
戦友-------…。
自分もそう思いたかった。
いっそ、単純にそんな言葉で片付けられるものならどんなに楽か…。
しかし心の底では、どす黒い何かがうごめき続けている。
その言葉に対しても、あの男に対しても。
そしてもどかしい自分自身に対しても。
To Be Continued…
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新キャラ続々・・・
“生涯設計”・・・と言う文章を目にして、
第●生命か!と突っ込みを入れたアナタ、
“適当に生きていく”・・・という文章を目にして、
高●純次か!と突っ込みを入れたアナタ、
そして、未来予想図と書かずに未来設計図と書いて、
ド●カムにならなかった自分にグッジョブ!!
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