最終話 〜A to Z〜 (11−A)
どんよりとした灰色の空の下だというのに、緑の木々たちがサワサワと風に揺れ、
二人の心の中にまで心地良く吹いていた。
こうして一緒に歩くのが久しぶりで、前回歩いたのが、もう何年も昔のことのように感じる。
それでも以前は、たわいもない話をしながら肩を並べて歩くのが普通だった。
それが今では違っていた。
二人の間に見えない亀裂が生じたかのように、少しだけ距離を置いて、
二、三歩遅れた場所をテマリが歩いている。
彼女の目と鼻の先には、ここ数年であっという間に大きくなっていた年下の少年の背中が見えていた。
しばらく会わない間に、広い男のものになっていたその背中。
その肩には、彼女の武器である巨大な扇子が片手で担がれてある。
チャクラを練りこんで持てば、自分もそういう持ち方を余裕でできるのだが、
素手で軽々と片手で持ち上げられた時は、正直ギョッとした。
「何だ…、思っていたよりも軽いんだな」
そう言われ、非力そうに見えていてもやはり男だったんだなと、テマリは殊勝な気持ちになってしまった。
それに彼女は、逞しいその背中を見つめながら、何度も何かを話しかけようとしてやめていた。
らしくないとはわかっていても、目の前の背中が何となく言わせてくれなかった。この少年が、
以前とどこか違うことに気づいていた。そしてそれは、自分自身に対しても同じだった。
人々が行き交う賑やかな喧騒の町を抜け、ようやく静まった場所に出れば、
二人の間を閉ざす大門はもう目の前だった。
次第に二人の歩く速度もダウンし、ゆっくりとなっていく。
別れを惜しむかのように、この一時を共有していたいと思っているからだろうか。
門の横にはいつもは誰かが受付として配属されているのだが、
どこかに行ってしまっているのか誰も見当たらない。
今ここにいるのは、自分たち二人だけ-----
テマリは、これから砂に帰ってからやるべきことを考えていた。
名異斗とまず話し合って…と思っていたものの、確かなことはまだ何もわからないが、
それは危険なことだと止められてしまった。
本当は早く帰って、彼に本当のことを訊きたかった。
けれど今ここを抜け出してしまえば、今度はいつこの少年と会えるかわからない。
もしかすると、二度と会えないかもしれないのだ。
そう考えると、何故か駆け出していく気にはなれないテマリ。
緊急の伝令によって砂隠れの元へも、名異斗とマリヤの情報は行っているだろう。
きっと名異斗は、マリヤ同様、拘束され尋問を受ける。
自分の憶測がまさかこんな形で、しかも今目の前にいる少年によって実を結んでしまうことに、
心のどこかで後ろめたいような気持ちもあった。
まるで、身内を売り飛ばしてしまったような、密告してしまったような…
そんな罪悪感が…。
裏切りなど、命令であっても木ノ葉崩しの時のような思いは、もう二度とごめんだった。
けれど名異斗の不可解な件を、あのまま黙って見過ごすことも自分にはできなかった。
彼が本当にマリヤと繋がっているのかもはっきりしていない上に、あのマリヤ自身、
何者で一体何が目的なのか不明なままなのだが、今頃名異斗も拘束され、
マリヤのように尋問されているのだろうかと考えると、気が気でなかった。
「名異斗…酷いことされてないかな…」
心配になってうつむき、悲しげな声でつい漏らしてしまう。
「彼のことだから、きっと何かの間違いかもしれない。すぐに誤解を解かれる。
第一、何も悪いことなんてしてないじゃないか。
そりゃ確かに私の気を吸っていたといえばそうなのかもしれないけど、それのどこが悪い」
シカマルは背後のテマリに背を向けたまま、黙って何も答えない。
「同じ雲隠れの忍だからと言って、あの女と何の関係がある?」
だんだん理不尽に思えてきたテマリは、腑甲斐にも怒りが沸々とこみ上げてきていた。
「そもそもあの女は一体何なんだ!?」
「だから今頃、尋問部隊が色々聴いている」
そこでようやくシカマルが素っ気無く答える。
その返答に眉を寄せたテマリは、
「そう言えばお前、何で名異斗があの女と同じように吸引していたとわかったんだ?」
合点が行かず、質問をぶつけてくる。
シカマルは肩を使って息を吐き出すと、簡単な説明をし出した。
「あんたがあいつと口付けした後の脱力の仕方が異常過ぎていた。
普通、あそこまで力が抜けるかっての。で、マリヤの場合もそんな感じだったが、
まぁ、オレの場合は密かに術を発動させていたから大丈夫だった」
「つまり、お前もあの女とキスしたってことだな?」
するどい指摘に、彼は一瞬沈黙を返す。
「……。どうだっていいじゃねーか、そんな過去のことは」
「よくない答えろ!」
「----あの女のことを知るためには、色々しなきゃいけなかったんだよ」
「い、色々だとっ!? キス以上のこともやったのか!?」
「……」
「この…っ、ケダモノ!」
「何も言ってねーだろ。第一、オレが誰とどうなろうとあんたにゃ関係ないし、
何でそんなにムキになるんだ?」
「そ、それは…」
「そういうあんただって、あいつと同じ宿に泊まっていたじゃねーか。
どうせ部屋も一緒だったんだろ?」
「婚約者なんだから当たり前だろ!」
「ふーん…」
憤慨するテマリの声を耳にし、シカマルはようやく後ろを振り返る。
その表情はどこか冷めていて、自分とは正反対な彼女を見下ろしていた。
「勘違いするな。誤解のないように言っておくが、ケダモノのお前と違って名異斗は紳士だ」
「わーるかったな。…でもな、紳士があんな強引にキスするかよ。
----てことは、まだ…?」
何を訊かれたのかわからず、一瞬ためらったテマリだったが、すぐに意味を知ると益々赤面した。
「何がだ!? 何でそんなことまでお前に言う必要がある!?」
「あんただって訊いて来たじゃねーか」
「それとこれとは違う!」
あまり変わらないと思うが…?
そう言い返そうとするが、面倒なのでやめた。
その代わり彼の口から吐き出された言葉は…、
「---さっきもそうだったが、あんた、あいつをかばっているのか?」
シカマルの黒蜜のような瞳がまっすぐテマリに向けられ、彼女も振り上げていた手を止めた。
「まだ確かめてもいないのに、そんなに簡単に忘れられるわけないだろう。
----あいつは本当に優しいんだ」
不意に、彼女の瞳が遠くを見つめたかと思うとゆっくり閉じられた。
その仕草は儚げで美しく、目の前の少年の心を捕らえないはずがなかった。
だが、そんなことを知る由もない彼女の心が、まだ名異斗に向けられてあることを知ると、シカマルの心も豹変する。
突然、テマリの扇子が地面に置かれたかと思うと、
一瞬の内にシカマルの腕の中にテマリは抱きすくめられてしまっていた。
シカマルは自分の手をテマリの腰と頭に置き、顔を黄金の長い髪の中にうずめていた。
テマリは、呼吸もまともにできないほどきつくきつく抱きしめられていた。
それは、今まで無理矢理抑えていた気持ちが、一気に噴き出してしまったかのような彼の不可解な動作だった。
「あっ…!」
苦しげに漏れた言葉はそれが限界だった。
なのに、彼の腕に更に力がグッと加わった。
どこにそんな力があったんだという疑問も消し飛ぶほど、その圧迫感は強大で、
まるで彼の術によって体全体が縛り上げられているかのような状態だった。
苦しくて、このままではテマリは意識を失ってしまいそうだった。
だが、もがこうにも全く身動きができない。
「----この髪型も、あんたが賛美するあの紳士の好みか?」
そう皮肉を込めながら、シカマルの骨太の指がテマリの蜂蜜色の髪をすくい上げる。
かと思うと、それを彼は自分の唇に押し当てた。
「!?」
テマリの翠の目が大きく見開かれるが、相変わらず身体は微々とも動かない。
刹那、ようやく身体からフッと圧力が抜けた。
シカマルがテマリから腕を解いたのだ。
「…はぁっ! お、お前っ! 殺す気かっ!? 一体何のつもりだっ!?」
全身で呼吸をするテマリは、怒りに満ちた真っ赤な顔をしてシカマルを睨みつける。
しかし彼は、何も悪いことをしていないとでもいうような涼しげな顔のままだった。
殺気立ったテマリは、突然、回し蹴りをして襲い掛かってきた。
それを見抜いていたシカマルは、咄嗟に後ろに飛び去って回避した。
その間にテマリは、地面に置かれた扇子を手に持つと身構えた。
「武器なしでも全然いけるぜ、あんた。今度あいつにキスされそうになったら、
それかましとけよ。でも、これであんたも女だってことがわかっただろ。
案外、力ねーな」
「油断してただけだ! 覚悟しなっ!」
「おいおい、冗談だろ。オレと今ここでやり合ってどうすんよ?」
「私の敵はお前だ! この間から本当におかしなお前が腹立たしい!
今ここで、その歪んだ根性を叩っ切ってやる!」
-----歪んだ根性……
それは他でもないシカマルの嫉妬だということを彼女は気づこうとしない。
しかしテマリは、両手で持ち上げた扇子をかざしながら、
「私は名異斗との婚約の本当の理由を火影にも知らせて、名異斗に嫁ぐつもりだった。
お前も、いのとか言う彼女といつか一緒になるんだろう?」
そんなことを口にするが、
心外なことを言われたせいで、シカマルの体から力が抜けてしまった。
「だーから、いのは彼女じゃねーって何度言ったら…」
「デートしてたじゃないか。何を今更ごまかす必要がある?」
テマリの目は真剣だった。
「…あのなぁ、それを言うならあんたと歩いてる時だって、デートになるってことだぜ?」
彼女の眉間にしわが寄る。
「…それは違うな」
「-----…だろ? つまり何でもないただの友人だ」
言って、シカマルの眉間にもしわが寄っていた。
テマリが即答で「違う」と口にしたことに対して納得がいかず…。
二人の間から会話が忽然と消えた。
木々のザワザワと立てる音だけが、やけに耳に入ってくる。
まるで時間が止まったかのように、二人は向き合ったまま、しばらく口を開こうとはしなかった。
ザザーッと、風が木々の葉を揺らす。
二人の間にも疾風が駆け抜け、テマリの背中まで伸びた髪を流して行った。
「…お前が以前、私にキスしたのは、エネルギーを吸引されていたのを知ってて補給してくれたんだろう?
さすがだな」
「ったく、そんなんじゃねーよ。オレはエネルギーが吸われないよう自分のチャクラを縛っただけで、
相手に与える技までは持ち合わせていねーよ。あいつらじゃあるまいし…」
「じゃあ、何であの時キスした?」
テマリがやや頬を染めて、上目遣いで睨んでくる。
----今更それを言わせるのかよ…。
「----なぁ、あんた、本当はわかってんだろ? てか、あんただって……」
「何がだ。それにあんたじゃない。テマリだ」
「じゃあ、オレのことも、いい加減名前で呼んでくんねぇ? …テマリ」
「…お前はお前だ」
「呼ばねーなら、----するぜ?」
シカマルの顔と妖しい唇が、急接近する。
それを見て、テマリが慌てて叫んだ。
「…シ、シカマルッ!!」
「……」
初めて名を呼ばれた気がして、シカマルの胸に熱いものがこみ上げた。
だから嬉しくて、思わず彼も愛しげに囁く。
「もう一回呼んで。----テマリ」
その甘く囁きかける声に、テマリの胸がドクン…と、跳ね上がった。
「----シ、シカ…って、お、お前っ! どっちみちしようとするな!」
「てっ!」
身を屈めて近づくシカマルの額に、テマリは指でピシッとはじいた。
「何すんだよ」
「こっちのコントロールの修行もしておくことね、鹿のお面かぶった狼クン」
「お面…って、オレは暗部じゃねーぜ」
いつもの少年らしいふてくされた顔に戻った彼を見て、思わずホッとしたテマリもつい微笑んでしまう。
「婚約は解消するんだよな」
「どうだろうね」
「…すんなよ」
「ん?」
「無茶すんなよ。あんた頑張り過ぎ」
「お前だってしてるだろ」
「オレはいーの、男だから」
「また男だ女だ言うのか? だったら、危なくなったら助けに来い」
「だから危険なことすんなって。さっきの回し蹴りなんかで、本気で倒せると思うなよ…」
いつの間にかシカマルは、テマリの手を掴んでいた。
そして自分の方に引き寄せると、唇が触れそうになる。
何故だかテマリも、それを受け入れたいと思ってしまった。
拒もうともせず、その唇へ自然と引き寄せられていく。
と、その時------
「何でオレとサクラちゃんが、今日だけ受付に回されるんだってばよ…って…、
ああ--------っ!? 何かいいことしようとしてるってばよ!! やっぱりお前らってできて…」
「ちょっ、このバカッ!! こっち来なさいっ!!」
ハッとしてテマリは、慌ててシカマルから距離を置いて離れた。
サクラがナルトを引っ張って茂みに隠れたが、時、既に遅し。
場違いなナルトの声が聞こえ、シカマルは拍子抜けする。
額に手を当てため息をついた。
「っきしょー…、ナルトのヤロー、いいところで…」
しかし、怒るかと思っていたテマリの顔は、意外にも穏やかだった。
そして、お互いの目が合うと、何だかおかしくなって笑い合ってしまった。
久しぶりに彼女の大輪の花のような笑顔を見せられて、
シカマルも心の底から嬉しくなり微笑んだ。
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・・・うっわ! なっげーよ
しかも、かな〜り乙女要素入ってるすぃっ!! そこ〜、吐かないように〜…。
思っていたよりも、長くてしまりがない内容になっちゃった。
かと言って削るのもイヤン。
まとめ切れん!!
・・・てことで、(11−Z)へ続きま〜す。ナヌ〜?
「めんどくせー」 By,鹿
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