らしく。(7/36)縦書き表示RDF


らしく。
作:五十崎由記



7.見上げた夜空


その日は雲ひとつない星空で、下弦の月が冴え冴えと白く浮かんでいた。

数歩前をいくオカダは、道行く人の目をまったく気にしない風で鼻歌を歌っている。

その曲は日本の曲なのか、外国のそれなのかさっぱりわからないけれど、どこか陽気なフレーズで。両腕を頭の後ろで組んで歩く後姿が、今日子の目にはおおらかそうに映った。


思えば――、と今日子はオカダの背中をじっと見つめた。

思えばこの男に、今日は二度も助けられた。

王様ゲームでさんざんからかわれたのは腹が立ったけれど、あのまま誰も助けてくれなければ今頃どうなっていたかわからないのだ。

オカダは恩人。

それは間違いのない事実だった。

「あの……」

今日子は思い切って、オカダのひょうひょうとした背中に声をかけた。

「あの、オカダ、さん?」

名前を呼ぶとオカダは立ち止まり、くるりと振り返る。


きょとんとした表情のオカダを見た瞬間、やっぱりアンバランスだ――と今日子は思った。

今日子とさほど歳が変わらないように見える童顔は、ぼけっとした表情をのせて、余計にあどけない印象で。

でも首から下はクラスメイトの男子達より線が太く、格好もサラリーマンのそれだ。 

「今日は、本当にありがとうございました。色々と助けていただいて」

今日子はぺこりと頭を下げ、オカダに愛想笑いを浮かべた。

人付き合いがいいとは言えない今日子にしては、これでも頑張ったのだ。

恩人であるオカダに対して、精一杯感謝の気持ちを伝えたつもりだった。

――この時点までは。


オカダは鼻歌をやめ、こっちに引返してきた。そして背を屈め、ニッと笑ってみせる。

「お前もバカだよなあ。気が無いなら無いでさ、最初からそっけなくしてればいいのに」

連れ出されそうになった今日子の側にも問題がある、とでも言いたいのだろうか。

口の端を上げて笑うその顔には、同情などどこにも感じられない。それどころか、文字通り今日子をバカにしている風な口調だった。

今日子はその口ききにカチンときて、オカダに嫌味を言い返すべく考えを巡らせた。


そもそもこの男だって、人のことを言えた義理ではないはずなのだ。

ずっと隣に張り付いていたケイを冷たくあしらうでもなく、オカダはご満悦な様子で酒を飲んでいたのだから。

それなのにこうしてオカダが送っているのはケイではない。

もしかするとケイは、席をたったまま戻ってこないオカダを、いまも待ち続けているかもしれないのだ。

「お、オカダさんこそ! ケイちゃんを置いて帰って良かったんですか? ずいぶん親密そうだったのに」

揚げ足を取ってやったつもりで言い返し、今日子はふふんと鼻を鳴らして笑ってみせた。

あんただって同じでしょ? と、そんな感じで。

なのに、今日子をじっと見つめる奥二重の瞳は、音をたてそうなほどゆっくり瞬いていて。

嫌味のつもりだった一言は理解されていないのか、今日子を満足させるような反応はまったく見受けられなかった。

やがて。

オカダは、「ああ、わかった」と手のひらを打ち、

「オレのこと気になるんだ?」

と、真顔で訊いてきた。更に、

「そういや今日子ちゃん、ずっとオレの事ばかり見てたよね?」

と付け加えている。

「なっ、何であたしが!? 悪いけどそれ誤解だから!」

思いもよらないリアクションに、今日子は焦って反発した。

まったく、自意識過剰なのにも程があるというものだ。

どこをどうしたらそんな話になるのか、オカダの思考回路はさっぱり意味不明で。

「とにかく違いますから」

今日子はなるべく慇懃に言うと、ムッと口を尖らせた。

なのに。

「だって、ヤキモチ焼いてたじゃん」

オカダは相変わらず勘違いをしたままで。面白いものを見るみたいに首を傾げると、今日子の頬を人差し指で突付いてくる。

途端に膨らんでいた頬がしぼみ、『ぷうっ』と愉快な音が出て。

それが今日子の神経を逆撫でし、激昂させた。

「ちょっとお! 何よあんた。――もういい、帰る」

今日子はオカダを冷たく一瞥すると、その脇を足早にすり抜けた。


もう、すっかり酔いは引いていた。

それはぼんやりしていた頭が、冴えてきたわけではもちろんなくて。

今日子のぎゅっと握り締めた拳から、怒りが血の流れに乗って全身を駆け巡っていた。

オカダになど、送ってもらういわれはない。

むしろこんな男の話し相手になるくらいなら、ひとりのほうがずっとマシだ。


だけど、敵もなかなか手ごわいらしい。

軽快に駆ける足音が近づいたかと思えば、平然と隣に並んでくる。

おまけに、つんとすまして正面を見据える今日子の視界を遮るように、顔を覗かせてくる。

「今日子ちゃんて案外ガキっぽいよね? すぐ顔に出しちゃって」

オカダはそう言うと、クククッと含むように笑った。

今日子はオカダなんて眼中にないといった態度を貫き、目線さえ動かさないまま先を急いでいる。それをまたバカにするようなオカダの声が、隣から聴こえていた。

「図星さされてシカトしてんだ? 今日子ちゃん、絶対B型だろ? Bの女って無駄にプライドだけは高いんだよなあ」

今日子はいじられて平然と笑っていられるような性格ではない。

可愛げがないのは百も承知だが、これでも男たちからチヤホヤされてきた身だ。

バカにされても媚びへつらうような、そんな女になる必要などあるわけがなかった。

それにしても、腹が立つ。

手のひらにはきっと爪の痕が付いているはずだ。それほどに強く握り締めていた。

今日子は隣のオカダになど目もくれないでどんどん進んでいた。

どうせ構ってほしくてからんでいるに違いないのだ。

相手をしないまま放っておけば、そのうち諦めてついてこなくなるだろう――と、思いながら。


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今日子は近道をするべく、繁華街を抜けた先の公園に足を踏み入れた。

人気のない公園は、ジャングルジムやブランコがひっそりと佇んでいて。南から吹いてくる夜風に、背の高い木々が葉と葉を擦り合わせる音が、すこし気味悪い。


いくら近道でも、こんな所を通ったのは失敗だったかもしれない。

ななめ前には真っ暗な公衆トイレが見える。

あんな所にもし連れ込まれたら――と、今日子は相変わらずついてくる隣のオカダを、ちらっと見上げた。

視線に勘付いたらしいオカダは、おどけた視線をこっちに向けてきた。反射的に、ふんっと今日子は顔をそむける。

そんな気の強いふりを見せていても、内心今日子は穏やかではなかった。

はやく、この界隈を抜け出したほうがいい。

居酒屋では善人ぶっていたオカダも、所詮は男だ。いつ新垣のように豹変するかわからないのだから。

今日子は一刻も早く公園通りを抜け出そうと、歩くピッチを速めた。普段は履かない踵の高いミュールの足音が、こつこつと響いている。

オカダは歩いたり、時折走ったりしながら、つかず離れず一定の距離を保っているようだった。

振り返ってはいないけれど、そんな気配が背中から感じられた。

そして、思い出したように茶化すのだ。

絶対口きいてやらない、なんて思ってるんだろー? といった具合に。

それが一々的を射ていて、今日子の歩くペースを一層上げさせた。


実のところ、今日子は少し無理をしている。

ちょっと前からつま先が痛くてしょうがないのだ。

けれどここで立ち止まったら負けを認めたようなもの――と、今日子は奥歯を噛み締め、我慢を押し通していた。

そんな時、ふと、背後からまたオカダの軽い足音が近づいてきて。並ぶのかと思いきや、オカダは今日子の前へおどり出た。

「足、どうかした?」

行く手を遮ったオカダは、顎を引き気味に小首を傾げていて。笑いを浮かべていない口元と、上目遣いの瞳が、心配してくれてそうに見えた。

ムカつく男ではあるが、どうやら気遣ってくれているらしい。

今日子はほんの少し気持ちがほだされ、ううん大丈夫、と返事をする気になっていた。

けれど。

「顔が赤くなってんじゃん。ムキになって急ぎ足してるうちに疲れちゃったんだろー?」

一瞬早くそう言ったオカダに、ぷっと吹き出されて。

今日子はムラムラとわきおこってきた新たな怒りに頬を膨らませると、オカダめがけて吠え立てた。

「うるさいってば! ついてこないでよっ」

そして今日子は痛む足をせわしなく動かし、まるで走るみたいにしてオカダの横をすり抜けた。


等間隔に並ぶ水銀灯の灯りが夜道を照らしていた。

ふたりの足元から長い影が伸びて、それが離れては近づき、また離れ――といった具合に追いかけっこをしていた。

いい加減追いかけてこなければいいものを、オカダは延々とついてくる。そして今日子を小バカにする一言も忘れない。

「もっとゆっくり歩けばいいのにさ。ホント可愛くない女だよなあ、無理しちゃって」

そう言ってくすくす笑い、無視を続ける今日子を煽るのだ。

「女の子は素直じゃないとモテないよー?」 


そのセリフは聞き捨てならない。

合コンに参加したからといって、男に飢えているわけじゃないのだから。

今日子はぐっと眉根を寄せ、その場に立ち止まった。カツンと合わせた踵が、小気味いい音を夜道に響かせている。

今日子は自分を見下ろすオカダをキッと睨み上げ、

「お生憎様。言っとくけどあたしはね、男には全っ然困ってませんからっ!」

と吐き捨てた。そして黙ったままのオカダを鼻で笑い、また歩き始めた。


意外なことに、それきりオカダの足音は消えてしまった。

今日子は少々不審に思い、背後の気配に意識を集中していた。

何せ、おかしい。

オカダほどしつこい男が、あの一言で立ち止まるなんて。

そう考えれば考えるほど、その疑問はあるひとつの仮説を思い起こさせた。


もしかしてオカダは、今日子に気があったんじゃないだろうか。

そして、さっきの一言で傷ついたんじゃないだろうか。

自惚れとも思うが、否定する要素もない。


そんなあれやこれやに思いを巡らせる今日子の耳に、闇をつんざく大笑いが聴こえてきた。

「アーハッハッハ! あたしモテます発言デター!」

近所迷惑なほど豪快な笑い声に、今日子は驚いて振り返った。

オカダは背を屈め、遠目にもわかるほど肩を揺らして大爆笑している。

そして笑いのさめやらぬまま小走りに駆け寄ってきて、呆然と立ちすくんだ今日子の隣に、また並んだ。

「すげえなあ、オレ自分で自分をモテるって言った人初めて見たー」

オカダは尚もそう言って今日子の顔を覗きこみ、「この顔がモテるの?」とでも言いたげな風で笑い続ける。


こんなにバカにされたのは生まれて初めてだった。

しかも、男から。

じんじんと痛むつま先から頭のてっぺんまで怒りがつき抜け、胸の奥ではひどい屈辱感が渦巻いていた。

今日子は歯噛みする思いで顔をそむけ、遠くに見え始めた海岸通りを目指して駆け出した。

あと少し。もう少しの辛抱で家に着くのだ。

あの通りにさえ出れば、この男とも別れられる。そう自分を励ましながら、今日子は最後の力を振り絞っていた。

「おいおい、走るのかよー?」

背中から不満そうな声と、まだ追いかけてくる足音が聴こえて。

「うるさいっ! ついてくんな。ばーか」

今日子は正面を向いたまま、叫ぶように暴言を吐き散らした。
 
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慣れないミュールでさんざんに走った今日子は、海岸通りに出ると、そこがゴールだったみたいに座り込んだ。

もちろんゴールはここじゃない。

家はすぐそこのカーブを曲がった先にあるスナック。

案外近いのだが、いまはそこまで歩けそうにないのだ。

運動不足のふくらはぎはパンパンに張り、普段よりも一回り太くなった気がする。

それに、つま先だけじゃなく踵までも痛いのは、靴擦れのせいかもしれない。

今日子としては、さっさとこの場でサヨナラしたい気は満々だ。

けれど、颯爽と家路につくには、もう少し体力の回復を待たねばならなかった。


今日子はガードレールに片手をつき、荒い息を繰り返していた。

駅から家まで、普通なら30分はかかる。今夜はその3分の2で着いているらしいことを、携帯電話が教えていた。

オカダに煽られてついつい早足になったせいだろう。この早さは、過去最高記録に違いない。


隣のオカダは、さっさと帰ればいいものを、今日子につき合っているつもりなのか海を向いて鼻歌を歌っている。

ふくらはぎを擦っている今日子の脇に立ち、ガードレールに両手をついている。そこから身を乗り出すようにして、夜の海を眺めていた。

切り取られた爪みたいな細い月が、海にその姿を映している。

黒くうねる波間に、形を変えながらたゆたっていた。


「あっ」

鼻歌が止んだかと思えば、いきなり驚いたような声をあげ、オカダはこっちを見下ろしてきた。

そして今日子の肩を揺すり、

「なあ、あれ見て」

と、海の上に広がる夜空を指差している。

「はあ?」

意識してそっけない返事を口にしたけれど、今日子は自分を見下ろすオカダの表情に一瞬目を奪われていた。

それはまるで、小さな子供が電車の窓の外を指差しているようで。

『ねえねえお母さん、アレ見て!』

と、言われているみたいに思えたのだ。


元々、初対面からどこか少年っぽい印象のオカダだ。

まるっきり子供のような、好奇心でわくわくした目を向けられると、それを無視するのも大人気ない気がして。

本来なら冷たくあしらいたいところなのに、つい、突っぱねることが出来なかった。

今日子は大きく息をつくと、渋々立ち上がった。そしてオカダの真横から、首を伸ばして同じ夜空を見上げた。

「どれ?」

そこには瞬く星がたくさんありすぎて、どれを指しているのかわからない。

「あれだよ、あれ」


説明の足りないオカダに多少苛立ちを感じながらも、今日子はなんとかその一つを見極めようと指差した。

「もっと詳しく言ってくれないとわからないよ。あの一等星――?」

そして隣を振り返った瞬間。


夜空を指差していたはずのオカダは今日子の両頬を手のひらで包み込むと、顔を傾けて口唇を重ねてきた。

あっけにとられた今日子は、至近距離にあるオカダの、その閉じられた瞼を凝視していた。そして呆然としているうちに、やがて口唇は離れていった。


いくら今日子が子供でも、どうやら騙されたらしいことくらいはわかる。

それに一度は免れたはずの、好きでもない男とキスをするというタチの悪い遊びが、いま現実になったことも。

けれど。

「お前さあ、目くらい瞑れよなー?」

オカダはまるで悪びれていない様子で。それどころか苦情めいた口ぶりで注文まで付けている。

そんなオカダの平然とした態度が、抜け殻のようにぼーっと立ち尽くしていた今日子の息を吹き返させた。

「あ、あ、あっ、あんた、あんた何すんのよ」

今日子は脳内で火山が噴火したくらいに血が上り、腹が立つやら恥ずかしいやらで呂律が回らない。

オカダは動揺が隠し切れない今日子を見て、面白そうに笑っている。上体を屈めて、肩を震わせて。

「アッハッハ! お前真っ赤になっちゃって。意外とウブなんだなあ?」

今日子はぐっと拳をかため、オカダを睨みつけた。そうして気丈に振舞っていても、手足が震えているのが自分でもよくわかっていた。

「なっ、何がおかしいのよ。この変態っ! あんたも結局新垣と一緒じゃん」

冷静に言ったつもりの非難は、声が上擦って、興奮しているようにしか聴こえなかったかもしれない。今日子の意思とは裏腹に、ただのヒステリックな叫びみたいになってしまった。

そんな今日子にうんざりしたのか、オカダはため息まじりの声を出した。

「2回も助けてやっただろー? 面倒くせー女だな。いいじゃねーかよ、このくらい」


その一言に、今日子は本日最大級の怒りがふつふつとこみ上げていた。

アスファルトの地面から足を伝って、徐々に負のエネルギーが体内に取り込まれていくみたいだ。胸の内ではどす黒いマグマが渦巻いて、噴出し口を求めている。

ひょっとしたら目のあたりから、涙になって流れ出そうだった。


まったく、自分がバカだった――と、今日子は口唇を噛み締めた。

こんな事なら、適当にその辺の男と済ませておけば良かったのだ。

17になるまで取っておいたのが間違いだった。相手なんてその気になれば、いくらでもいたはずなのに。

「ホントお前ガキだよなあ? 合コンなんだから当たり前だっつの」

口の端をニッと上げて笑うオカダは、罪悪感なんてちっとも感じていない素振りで。そんな態度が、余計に今日子を逆上させた。

今日子は手の甲で乱暴に口を拭い、

「もういい、帰る。二度と会うことなんかないだろうけどさようなら!」

と、足音荒く、風を切って歩き出した。

アスファルトに長い影が伸び、踵を踏み鳴らす高い音が夜道に響いていた。


一発くらい、殴っても罰は当たらなかったはずだ。

ニヤニヤ笑う、あの横顔を。

けれど今日子は、キスに動揺する自分をこれ以上曝け出さないまま、気丈に背を向けることを選んだ。

これ以上オカダの前にいると、喉につかえた熱い塊が、屈辱的な形になってあふれ出そうだったのだ。


大きなカーブの最後の曲線にさしかかり、明かりの灯るスナックの派手な看板が目に入った。

あと少し。もう少し――と思った時。

「気をつけて帰れよー?」

背中に、オカダの呑気な声が聞こえた。

あの男はどこまですっとぼけるつもりなのか――と、今日子はバッグの柄を握り締めた。

一体どの口が言っているのだろう。夜道よりも何よりも、オカダのほうがずっと危険だ。

今日子はオカダの声を無視したままカーブを曲がり、小走りに家の灯りを目指した。

返事なんてしてやるつもりは毛頭ない。

振り返るのだって、ごめんだった。


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夏の夜風は火照った頬を冷ますのには足りなくて、カラオケの音が漏れ聴こえる家に辿り着いたあとも、今日子は当分その熱さにさいなまれた。

八つ当たりをしてドアを激しく閉めたあと、バッグをベッドに放り投げ、乱暴に自分も腰掛ける。

沈み込んだ反動で、バッグが床に落っこちて。そして今日子は名刺の事を思い出した。

今日子はバッグを掴み逆さまにして中身を全部床に出した。散らばった鞄の中身から名刺をかき集め、指で捲ってみる。

4枚。

全員分あるそれは同じ社名の入った味気ない紙で、裏には手書きでメアドが書かれていた。

ふと一枚だけ、何も書かれていない名刺があって。

表には――、『岡田 啓二』。

それがまた余計馬鹿にされた気がして。

今日子はそれをビリビリに破くと、ゴミ箱めがけて放り投げた。







  





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