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地方都市の受難

「のう、ケルテンや、これをどう思うか?」


 ここ数日グランローズ海峡の工事が終わった夜は、マギーと二人してアウフヴァッサーの実家にいる。そんな晩餐の席で爺さんから書類が渡された。


「おいおい、勘弁してくれよ。こんな所まで来て書類かよ。」


 文句を言いながらも書類を開くと、見慣れたノイエブルク王家の紋章があった。その下に書いてある文章に目をやるとそこには驚愕の要求が記されていた。


「これはひどいな。爺さん、この要求どおりでやっていけるのか?」


「いや、お前さんのおかげで蓄えがあるとは言え、きびしいことには代わり無いのう。」


 本来ノイエブルクには無い植物、魚や肉の新しい加工法、他にもいくつかの改革をこの町に教えてある。それによって作られた余剰な食物は、ノイエブルクに内緒でローザラインが買い取っていた。ここアウフヴァッサーまで船でメタルマから3日程で来ることができる。


「ねえ、どうしたの?私が見ちゃ困るかしら。」


「わしは構わんよ、ケルテンがどう思うかは知らんがのう。」


 マギーは興味を持った様だが、少し遠慮して一言断ったようだ。爺さんが許可したので、手にしていた書類をそのままマギーに渡した。


「・・・ひどい、酷過ぎる。こんな要求に従っていたら、地方の町なんて干上がるわ。」


 書面に書かれているのはラダトームに治める税の値上げである。基本的な税10%を2倍の20%に、そして自治保証金を1.5倍にとある。さらに来年の分の自治保証金も、今年の内に治めることを義務づけるともある。


「普通に考えればそうだのう、じゃが新しい国務大臣殿は平民のことなど気にも留めぬようじゃ。新しく赴任した弁務官もはっきりとそう言っておった。さてどうしたものか、何かよい考えはないか?」


「う~ん、難しいな。いっそのことローザラインに移住するというのはどうだ?」


「駄目じゃよ、若いお前達と違ってこの地にこだわる者も多い。そんな者達を残してここを去ることなどできぬよ。お前も一国の宰相ならば分かるだろう。」


 爺さんの言うことはまあその通りだ。今のローザラインがもし同じ窮地に陥ったとしても、見捨ててどこかに行くなど考えられない。


「言葉も無い、余計なお世話だったな。許してくれ。」


「お前の優しさ故の言葉じゃ、怒ってなどおらぬよ。それでどうすればいいと思う?悪名高いローザラインの宰相殿なら何か妙案があるのではないか。」


「そうだな・・・まず第一にこれは何を目的にしたものか?そこから考えよう。マギー、どう思う?」


「えっ、私?どうもこうもお金が無いのではなくて?」


 突然話題を振られたマギーが、動揺しながら当たり前の答えを出した。


「まだまだだね。金が足りないのは分かっている、ではなぜ金が足りないのかが問題だ。何か建設を予定してのことか?食糧の備蓄が無いのか?軍備の増強か?ただ単に蓄えたいだけなのか?その答えによってこちらの選択肢が変わる。爺さん、何か心当たりはないか?」


「そうじゃな、建設に関しては全く聞いておらぬ、もしあるのなら人手を出す様要請があるはずじゃ。食糧の備蓄は無いはず、ノイエブルクでは地方に較べて食料に関する物価は二倍と聞いておるからのう。これはお前さんのせいじゃな。」


「これまた耳が痛い話だな。あとは近衛騎士の立て直しの為に金が必要になるし、金が欲しいのは当たり前か。一度くらい自分の懐を削ればいいのに・・・うまく使えばいずれ帰ってくる、それすら分からんか。」


 なんとなく分かって来たな、集めた税の使い道は食糧と軍備。ならば嫌がらせの方法はある。


「ケルテン、あなた、また悪い顔してるわよ。」


「分かるか?爺さん、税はできるだけ金で払ってやれ。もし現物で支払う時は布や糸、その他食べることの出来ない物で払うんだ。」


「ほう、ずいぶんと意地の悪い話だ。食糧が足りぬと分かっていてそうするとは、次の手を考えておるな?」


「まあね、ここで取れる農作品や魚などは加工してローザラインに売ってくれ。いつもより2割ほど高く買い取るぞ。」


「ふむ、わしは助かるがお前さんが困るのではないか?」


「そんなことはないよ、買い取った食糧品は他所を介してノイエブルクに売るだけだ。多分ノイエブルクの民に迷惑がかかるだろうが、他に手が無い。」


「そういう平民に迷惑がかかるやり方は嫌いじゃなかった?」


 そう言うマギーの目が俺を責めている。


「嫌いだよ。困るなら統治者が困るべきだ、その考えは変わらない。だけど一度治めた税が平民に再配分されることなんか無い。だったら最大限に利用させてもらう。」


「ケルテン、お前さんの考えはよく分かった。わしとしても弁務官への言い訳は立てばそれで構わぬ。自治保障金の値上げと向こう一年分の先払いが仇となっているとはのう、ノイエブルクの連中が気の毒じゃ。」


「えっ!ええっ!どういうこと?私に分かる様に説明して。」


 マギーには理解できなかったようで俺の方を見て、助けを求めている。


「マギー、つまりこういうことだ。アウフヴァッサーの自治保証金は年間10万G、値上げで15万、さらに2年分を払うとなると30万Gが必要だが、そんな量の物資を運ぶことはまず無理だ。だから運びやすいゴールドに変えたと言い訳できるのさ。」


「あ、ああ、なるほど、そういうことね。全く気付かなかったわ。」


「俺は爺さんが治めてきた税を見ていた。ノイエブルク側は届いた分しか認めない、例え途中で腐ろうが盗賊に奪われようがそんなことは考慮してくれない。如何にして楽に運ぶかも統治者の責任なのさ。」


 元々貴族のマギーが気付かないのは仕方が無いことだ。今の生活でも直接的な税は取っていないから、そんなことは考えたこともないだろう。いずれ必要になるだろうから、二人でいる間にいろいろ教えておかないといけないな。


「ではお前さんに甘えることにさせてもらおう。2割高く買い取ってもらえれば少しは楽になるし、城の連中には悪いが、わしとしてはノイエブルクよりこの町の方が可愛い。」


「よし、これで決まりだ。じゃあ、今日はもう寝させてもらうぞ、毎日限界まで魔法を使っているから疲れてたまらん。」


 冗談ぽくそう言って寝室へと移動する。なぜかマギーはすぐには来なかった。


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「ああ、マギーさんや、ちょっといいかのう。」


 腰を上げかけていたマギーが呼び止められた。


「どうか致しましたか、お爺様。」


「ふむ、苦労をさせておるのではないかと心配でな。あいつに振り回される大変さはわしが一番理解しておる。」


「くすっ!当の本人はともかく周りの者は、なぜそんなことをしなくてはならないか分からないままですわ。ですが、この5年の急成長にあの人の知識が役に立ったことは誰もが認めています。それに私は毎日が楽しいのですよ。」


「そうか、楽しいか、それはよかった。」


「そうですわ、ノイエブルクで一貴族の当主でいるよりずっと楽しい人生を送っています。それに最近は一緒にいられますから今までで一番幸せ。たぶんこれ以上の幸せは考えられませんわ。」


「ほう、ほう、これ以上はないか。そこまで言わせるとはずいぶん成長したものだ。じゃが、まだお主らの知らぬ幸せがあるぞ。」


「と、言いますと?」


「わしとしては二人の子供が見たい。きっと誰もが祝福する幸福が見れるであろう。では後はよろしゅう・・・。」


 そう言葉を残すと、軽く頭を下げ部屋から出て行った。残されたマギーは何か考えていたが、意を決して良人の待つ部屋へ急いだ。

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