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脱ノイエブルク

 婚礼の日から三日、ライムント16世が退位を表明してから二日、執務室にいる俺の前にノイエブルクに送ってあったシャッテンベルクが立っていた。


「私の代理で即位の式典に出席させてすみませんでした。それで、新しい国王はどうでしたか?」


「可も無く不可も無く、そんなところでしょうか。ちなみにその父であるシュタウフェン公爵が国務大臣の地位につきました。高齢故に王位にはつきませんでしたが権威は欲しいみたいです。」


「なるほど全て元老院の思惑通りですね。辞意を表明した近衛騎士はどうなりましたか?」


「あっさり受理されました。元々身分の低い者ばかりでしたので留意を求める者もいなかったみたいです。今は家族共々こちらで保護しています。当人達の希望を聞いて順次然るべき地にお送りします。」


「結構、全てお任せします。他になにか気付いたことはありますか?」


「近衛騎士隊長に王家の誰かをつけるそうです。詳しいことは分かっていませんが、近いうちに報告できると思います。」


「新生近衛騎士隊に箔をつける・・・か。今更飾ったところで光り輝くとは思えないけどね。」


「これはこれは宰相殿も意地の悪い言われようです。」


 そう言いながらもシャッテンベルクの顔には少し笑みが浮かんでいる。


「いえね、ただ踊らされる者達がかわいそうだと思っただけですよ。」


「ではこちらが躍らせている側の報告書です。いつの間にか報告書に混じっていました。」


 渡された書類は他のものと書式が異なる。例の影は見込んだ通りいい腕をしているようだ。


「この内容はご存知ですか?」


「いいえ、バーゼル男爵のことなど知りません。」


「知らない・・・ね。ああ、そのバーゼル男爵のことですが、シュタウフェン公の下で重職に付く予定みたいですよ。それと男爵の荘園ですが、ある使用人に丸投げしているおかげでうまく運営できているとも書いてあります。」


「ではその使用人にいつもの様に接触してみますか?」


「無理みたいだね。代々使えている者だからその忠誠心は揺るがないとある。」


 手にしていた書類を渡して中身を見るように促す。シャッテンベルクが無言で書類に目を通すと、俺に返してきた。


「地位も財も磐石では打つ手がありません。いっそのこと毒か魔法で暗殺してはどうですか?例の影に任せるか、宰相殿なら何の証拠もなく命を奪うことができるのではありませんか?」


「そんな簡単に済ませたら面白くない、それに何の証拠もなく命を奪うなんて不可能だ。」


 そう言ってシャッテンベルクを睨みつける。本当は可能だが、表向きは不可能ということにしておきたい。


「そうですか、残念です。では手を拱くままにしておくつもりですか?」


「そうは言わない。別にこちらに来てもらわなくても、男爵から引き剥がすことはできるだろう。」


「なるほど、宰相殿のお考えは分かりました。ではより上位の王族に働きかけてみます。都合のいいことに人手不足に悩んでいた王族がいましたね。」


「結構、では一任します。いずれ全てを奪った後に王家への楔にします。」


「宰相殿、そんな怖い目で見ないで下さい、敵は私ではありませんよ。では戻りますが、くれぐれもお嬢様をよろしくお願いします。」


 無意識ではあるが俺の悪意のある視線を軽く受け流すと、去り際に今度はシャッテンベルクが怖い目を残していった。


 -----------------------------------


「元近衛騎士副隊長ステファン、開拓村グレンゼに着任、及びグランゼ統治副責任者ホフマンス殿をお連れしました。」


「同じく近衛騎士隊員ジョルジョ以下20名着任致します。」


 グランゼの中央広場でサイモンを前に20名を越える騎士が並んでいる。皆同じ様に影の無い笑みを浮かべている中、ホフマンスだけが難しい顔をしていた。


「馬鹿だな、お前等。こんな僻地に自ら来ることないのに・・・。それにここには騎士隊なんか無いから着任じゃねえよ。」


「馬鹿は隊長譲りです、反省して下さい。これ以上私の手を煩わせない様にして下さいよ。」


 涙が浮かぶ目をごまかす為に憎まれ口を叩いたサイモンを、いつものようにステファンが嗜めると一同に笑いが起きた。


「ふん、まったくお目出度い連中ばかりで困る。精神論だけでやっていけるほど簡単な話ではないぞ。」


「そう言うな、ホフマンス。俺はお前達を歓迎する、今は村でしかないがいずれノイエブルクに負けない町にする。心配するな、ローザライン宰相の懐刀もここにいる。」


「ことはそんな簡単な話ではない。いくらローザラインの宰相と友人とはいえ、何時までも無限の援助が約束されているわけではない。金なり物なりを返していかねばならない、それが国と国の付き合いと言うものだ。」


「国?どういう意味だ、ホフマンス。飛び地とはいえここはノイエブルクの領地にすぎないぞ。」


「やはり理解していなかったか、ローザライン宰相の思惑はここを独立させることにある。つまりここをお前を国王とする国と成すつもりだ。」


「おい、それって反逆者・・・。」


 自分で言った反逆者の言葉の意味にサイモンが絶句する。周りにいる者達も言葉が出ない。


「そうだ、本国の者はお前のことを反逆者と言うだろう。だがここにいる者はそうは思わんはずだ。お前もなんとなくは分かっているだろう、公爵に喧嘩を売った瞬間からお前はここの王になった。だが、反逆者とは思いたくないから民を盾に自己弁護していたにすぎない。そろそろ覚悟を決めて欲しいものだな、お前の友人はお前にその資格と能力があるから支援してくれるのだぞ。」


「分かった。確かに俺は逃げていた、今ここにその考えを改める。ここグランゼを最終的に国とすることを目標にしよう。俺が反逆者と言われても付いてきてくれるな。」


「気付くのが遅いですよ。僕達の剣を見て何も気付かないとは、隊長の目はどこについているのですか?」


 ジョルジョにそう言われたサイモンは、並んでいる元近衛騎士達の剣を視線を送る。そこには質素な柄と鞘になっている打ち鋼の剣が佩かれていた。


「おい、そろそろ話は纏まったか?俺としては今後の話をしたいのだが。」


 いつの間にか近寄ってきていたクロウが口を挟んだ。並んでいた者達の目が睨みつけても怯むことは無い。


「ああ、皆に紹介しておく。ローザラインから出向してもらっているクロウだ。この村の運営に関すること全てを助言してもらっている。」


「助言ね、それじゃあ口だけみたいじゃないか。まあいいや、ちょうどいいから今の内に言っておく。さっきホフマンスが言っていたことはほとんど正しい。うちの宰相の思惑はローザラインとここで連合することにある。」


「連合?」


 クロウを除く全ての者が不思議そうな顔でクロウを見る。


「ああ、宰相が円卓会議で確かにそう言った。」


「連合か。確かにここだけではノイエブルクには対抗できない。だがローザラインと共にあるなら可能だ。よし、近い将来ここを国としよう。」


 サイモンの声が皆に届くと開拓村に歓声が沸きあがった。

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