第19話 開戦
アーシュ達がハールの試験?に合格した翌日。
里の緊張感が高まっている。
アーシュ達やハール達、そして里の他の者達を見れば分かる。
いつもとはあきからに違う。
戦の前だ。
武器を手入れする姿がよく見られるし、作戦会議のようなものにアーシュ達も参加していた。
おそらく、オークだろう。
あの、ハイオークキングを倒しにいく。
あれからそれなりの時間が経っているが、オーク達はどこまで進化しているのか想像もつかない。
アーシュを罠で捕えたあのオーク達が、さらに恐ろしい武器やアイテムを開発していないかと思うと、アーシュ達が心配になってくる。
心配にはなるけど、成長したアーシュ達を思えば、その心配は杞憂なのかもしれない。
それに、棒である俺がアーシュ達に代わって戦いにいく!とか言えないし。
俺はアーシュに使ってもらってこそだ。
運命共同体である。
アーシュと共に、俺はオーク達を倒す!
その日の夜、アーシュはいつも以上に俺を艶々に磨いてくれた。
そしてベットで一緒に寝ながら、明日の戦いを思っているのだろう。
アーシュは興奮した様子もあるけど、ちょっと緊張して不安な表情も見せる。
俺は癒しと、愛情を込めた魔力をアーシュに流す。
アーシュは微笑んでくれた。
そして一緒に眠る。
そう、あの夢を見るようになった日から、俺は毎日眠るようになった。
アーシュと一緒に。
そして夢を見る。
目が覚めると全て忘れている夢。
でも、きっとその夢は素敵な夢に違いない。
夜を越える度に、その想いは強くなる。
なぜなら、俺はきっと夢の中で……アーシュに逢っている。
アーシュと逢って、話をしている。
この世界の言葉は分からない、でもアーシュとは話せている。
いや解り合えている。
そんな気がするから。
翌日、戦への準備を終えたみんなが集まっている。
リンランディアがみんなに作戦の最終確認なのか、冷静な声で話す。
終わって、登場したのはハール。
ハールは楽しそうにみんなの顔を見ると、声を一言だけ。
その声にみんなが雄叫びを上げて応える。
アーシュ達も声を上げ、いざ戦へと!!!!
アーシュ達の進軍はすさまじいスピードだった。
狼だ。
狼に跨って移動している。
この狼はハールの僕か、召喚獣のようなものなのか。
ハールの口笛と共に、大量の狼が里にやってきた。
それに跨り次々と走りだすみんな。
ハールは8本脚の軍馬に乗り、リンランディアは氷の羽で飛ぶ。
戦に行くのに食料とか補給物資が見当たらなかったのは、一気に戦いの場まで行くからか。
オークの巣が近いのか、狼達は足音を消すように、慎重に走るようになった。
そして……。
これは奇襲となったのか?
それとも、オーク達は俺達が攻めてくるのを予想して、防衛線を張っていたのか?
どちらにしても、有利なのが俺達なのに変わりはない。
最初に戦場の火蓋を切ったのは、やはりハールだった。
特大の雷を落とし、それが合図となり双方とも戦闘開始となった。
オーク達は、俺がいた頃の巣とは違う場所にいた。
天然要塞と言えばいいのか、いくつもの山のような場所に巣を構えていたようだ。
洞窟もあり、泉もあり、谷もある。
それらを上手く利用し、加工して自分達の巣にしていたのだ。
オーク達はいったい何百匹、いや何千匹?
見るだけでちょっと酔いそうになるほどの数だ。
守りのための軍隊も作られていたのだろう。
俺がいた頃には見かけなかったオーク達がいる。
弓矢を使うオーク、爆弾のようなものを投げてくるオーク、硫酸ビンのようなものを投げてくるオーク。
そして魔法使い、メイジタイプのオークがいた。
杖を持って、魔法を詠唱してやがる。
俺達の戦力は里を出た時点で、俺が見た数は300ぐらいに思える。
数の差では圧倒的にオーク達が有利だろう。
ただ、進化して様々な武器やアイテム、魔法を使ったところで、オークはオークだ。
一匹一匹がそれほど強いわけじゃない。
時々、ハイオーク戦士と思われる姿をしたオークがいるけど、それも問題なく倒していく。
さらに、ハールの召喚獣?の狼がすごい。
戦闘力はないのか、まったく戦わないのだが、この狼が結界のようなものを張る。
そのおかげで、里のみんなは傷つくことがほとんどない。
まったくの無傷とはいかないけど、軽傷で済んでいる。
オークロードクラスが出てきた時は無理せずに引いて、数人で対処している。
堅実な戦いぶりだな。
おまけにこっちには、ハールとリンランディアがいる。
ハールは好き勝手暴れている。
作戦も何もあったもんじゃない。
おそらくだけど、そもそもこいつには作戦で何かの指示出来るとは思えない。
この男が作戦通り動くはずがないと、リンランディアとかは分かっているんじゃないか。
好き勝手に暴れろ、それが彼に指示できる唯一の作戦だ。
リンランディアは氷の羽で飛びながら、空からみんなをサポートしている。
見たことのない戦闘型?のサキュバスが空を飛んで彼に襲いかかっているが、彼に得意の誘惑はきかないだろう。
清廉潔白の彼が、サキュバス如きの誘惑に負けるはずがないしな。
有利な状況で戦闘は進んでいくが、オーク達も反撃してくる。
ハイオークロードが出てきたのだ。
成長する前のアーシュでは倒せなかったハイオークロード。
それが登場すると、オーク達の勢いは戻り防衛線を再び構築していく。
みんながハイオークロードに対抗出来るわけじゃない。
アーシュ達以外の里のみんなの強さを知らない俺だったが、アーシュ達並みに強い者はそれほどいないように思える。
中には、アーシュ達よりも強そうな感じの者もいるが……絶対数的にそれほど多いわけじゃないだろう。
ただ、単体の強さが全てではない。
里のみんなは連携というか、経験というか、戦い慣れていて、サキュバス達が開発したと思われるあやしげな罠にもかからない。
こういった現場で即対応する能力は経験あってこそなんだろう。
アーシュ達はハイオークロードのいる場所に、あっちこっちへと向かっている。
カラスのような鳥が飛んできて、アーシュ達に指示を出しているのか、向かう先々にハイオークロードがいる。
俺から無限魔力供給があるアーシュは、常に電光石火を使っている。
ベニちゃんとラミアは、鬼神と白蛇は使っていない。
あれの疲労は半端ないからな。
ここぞという場面まで温存だろう。
それでも、3人でハイオークロードの相手をすれば、問題なく撃破出来ている。
1対1でも勝てると思うが、3人で1匹のハイオークロードを相手にすれば、ほとんど一瞬のうちに倒してしまうのだ。
このままいけば、ハイオークキングをハールが倒せば簡単に勝てるんじゃないか?
そう思ってちょっと楽観してしまった。
相手の陣地深くまで進んだ時、そいつ達はアーシュ達の前に現れた。
それは俺の記憶では、ハイオークキング。
ロードとキングの間に存在する高い高い壁。
その壁を乗り越えて進化したキング。
ロードとは比べ物にならない威圧感を放ちながらやってきた。
ただし、俺によって進化したハイオークキングなのか分からない。
なぜなら、ハイオークキングは……3匹いたからだ。
アーシュ達も驚いている。
事前の情報では、キングは1匹だと聞いていたんだろう。
いや、そもそも、どうしてキングが3匹いられるんだ。
俺の推測は間違っていたのか?
戸惑う俺達に考える時間をくれるほど、キングは甘くない。
大地を震わす雄叫びと共に、3匹のキングはアーシュ達に襲いかかってきた。