第14話 作戦
さて、新たにベニちゃんとラミアが持ち主となったわけだが、俺を持って戦わないと俺は成長しない。
つまり効率的にはアーシュから見たら3分の1になってしまう。
俺の成長システムに気付いているハールの指示なのか、1対1での試合形式での鍛錬をしていない1人が俺を持って狩りにいくことに。
しかも、その狩りにはハールがついてきた。
これなら絶対に安心だな。
ベニちゃんは、己の拳で戦うスタイルなので、棒で相手を叩くのが最初はちょっと苦手だった。
すぐに慣れたから大丈夫だったけど。
俺は棒なので、ヌンチャクにはなれない。
きっと、俺がヌンチャクだったら、ベニちゃんの武器として役に立っただろうに。
ラミアは鞭だけど、そもそも水魔法が使えるのだから、俺の魔力供給でどんどん水魔法を使って敵を倒していった。
無限魔力供給が面白いのか、ラミアもすごい量の魔力を要求してくる。
魔力レベルが上がれば上がるほど、供給するスピードも量も増えていった。
アーシュは紫電魔刀での俺を使い、さらに電光石火を己の力で制御するために使い続けた。
アーシュにも俺の無限魔力供給があるので、疲れ知らずで電光石火を使う。
電光石火を初めてみたハールは、本当に嬉しそうに笑っていた。
愛娘の成長を喜んでいるのだろう。
ついてきたハールの出番なんて無かったようなものだ。
1度だけ、グリフォンのような獣が襲ってきた時は、ハールが瞬殺させた。
別にラミアなら倒せたと思ったけど、単にハールが戦いたかったように見えた。
俺はベニちゃんとラミアの才能を引き出すために、どうしてあげたら一番良いか考えた。
考えた結果、魔力レベル10、鬼神と白蛇を10にする。
この条件が揃った時に、そのスキルを初めて発動することにしたのだ。
なぜなら、俺を持って普段戦うのはアーシュだ。
アーシュは天賦の才を見せつけ、電光石火を俺無しでも十分に使いこなし始めている。
むしろ、電光石火レベル5程度では、もうアーシュが自分で使う方が強いかもしれない。
才能のスキルは使う者次第だ。
最初の一歩だけ手伝ってあげれば、後は本人がその才能を伸ばすのだから。
だからこそ、最初の一歩で見せてあげるその才能は、俺が見せてあげられる最高のものにしようと思った。
ベニちゃんは最初闘気スキル1を取ってしまったので、余計にレベル1必要だけど、俺は魔力と鬼神、白蛇を均等に上げていきながら、魔力スキルが高まるたびに、俺から感じれる魔力の強さを、ベニちゃんとラミアに与えていった。
俺の魔力の変化を感じられたら、何か起きるという予兆になるだろう。
アーシュの電光石火のような才能に目覚めないことに失望することもない。
さて、ベニちゃんとラミアはそれでいいとして、問題はアーシュだ。
アーシュの電光石火を上げていこうと最初思っていたのだが、前述した通り、既に俺の助けを必要としないほど、電光石火を使いこなしている。
それなら、雷魔法を上げて、1人2役の威力を上げるべきか?とも考えたが、俺はあくまでもアーシュの刀であるのだ。
やはり基本3セットの初のレベル10到達を目指すべきじゃないか。
そもそも魔力スキルが上がれば、俺が雷魔法にスムーズに干渉出来るようになるから、アーシュの負担はより一層減るだろうしな。
アーシュの魔力供給の要求にも、より速く応えることが出来る。
俺は基本3セットを上げていくことにした。
それから毎日鍛錬の日々だったのだが、俺の紫電魔刀が強くなったり、魔力スキルのレベルが上がり、アーシュに深く干渉できるようになればなるほど、アーシュは俺に優しくなっていった。
そして、最近は嬉しいことが増えた。
アーシュが俺を磨いてくれるのだ。
艶々に磨いてくれたのだ!
最初、ハールからもらったヤスリのようなもので、俺を綺麗な円柱の棒にしてくれた。
そのヤスリでガリガリされた時はちょっと驚いたし痛かったのだが、
最近では、癖になってしまった。
んん♪ アーシュさん、優しくね? 最初は優しくね? んん♪
やばい、俺変なことに目覚めそうだ。
そして、これまたハールからもらった布で俺を艶々に磨いてくれる。
もちろん磨いてくれる時は、俺の優しい癒しの魔力をアーシュに流す。
するとアーシュは本当に嬉しそうな笑顔で、鼻歌なんか歌っちゃいながら俺を磨いてくれたりするのよ!
幸せだ。
ニニの時にも感じた幸せがここにある。
ニニはきっと王子と結婚しただろう。
王子のニニを見る目はあきからに恋していたし、最後ベルゼブブのところに向かう2人のじゃれ合いを見て、お父さんも王子に娘をあげることやむなしと思ったものだ。
ニニが幸せを得てくれていると思うからこそ、アーシュとの幸せに罪悪感を感じなくて済んでいる。
……マリアはちょっと方向性が違ったからね!
そしてさらに! 俺はちょっとした作戦で、さらなる幸せをゲットした。
アーシュはお風呂に行く時に俺を持っていってくれない。
当たり前だ、お風呂に棒を持っていく理由なんて、どれだけ探してもないのだから。
だが! 俺は諦めなかった!!!
アーシュが俺を置いてお風呂に行こうとする時、魔力を高めてみたのだ。
イヤイヤ! 僕も連れていって! 僕も一緒にいきたよ!!
というイメージで。
アーシュはぽかんとしていたけど、俺を持ってお風呂場に向かった瞬間、俺から流れる魔力のイメージが歓喜に変わったことで、きっと棒はお風呂に入りたがっている!と思ってくれたのだろう。
その日から、俺はアーシュと一緒にお風呂に入っている。
アーシュに洗濯スキルが無かったのは残念だが、俺を綺麗に洗い流してくれる。
初めてお風呂に一緒に入った時の感動は、言葉に表すことは出来ない。
言葉に出来ないが、あえて言葉にしてみようと思う。
女神がそこにいたのだ。
その女神は、湯煙で神秘なる身体を隠していた。
石鹸のようなもので、美しい身体を隅々まで洗う、
時々、俺を見つめてくれる。
もうその姿は女神そのものだ。
アーシュは俺を持って一緒に湯船に入ってくれた。
ちょっと心配そうだった。
たぶん、棒をお湯に入れていたら、腐ってしまうのではないかと思っているんだろう。
俺もちょっと心配だった。
地上世界で、聖樹の木だった俺は、腐ることなんてなかった。
どれだけ、マリアに洗ってもらっても。
それは聖樹だからなのか、それとも俺という存在がいるからなのか分からないが、今回もたぶん大丈夫だろうと、なんとなく思えた。
女神と共に風呂につかりながら、
俺はアーシュのために生きようと、心に強く誓った。
そして、こんなに可愛くて綺麗なアーシュが、オークに捕まらなくて、本当によかったと心から思った。
さらに幸せは止まらない。
お風呂に一緒に入った日、艶々の円柱の棒となった俺をアーシュは抱きしめたまま一緒にベットに連れていってくれたのだ。
それまでは、寝るときはベットの横に立てかけられていた。
俺は犬が尻尾を振るように、喜びの魔力を流し、アーシュとのお話タイムを満喫した。
この世界の言葉が分かれば本当に良いのにな……俺はアーシュの表情からどんなことを話しているのか想像しながら、優しい癒しの魔力を流して、アーシュを夢の世界に誘った。
アーシュの可愛い寝顔を見ながら、俺はこれからどこに向かっていくのか考える。
俺がなぜこの世界に再び来たのか。
前回、この世界に来たのは、俺の力でベルゼブブを倒すためだと思った。
それなら今回は?
それはきっとアーシュが、アーシュ達3人娘が、その答えを持ってきてくれると確信している。
ただ1つだけの不安を抱きながら……。
全てが終わった時、俺はまた戻ってしまうのだろうか?
この世界から弾かれてしまうのだろうか。
いま感じている幸せが、どこか儚げなものに思えてしまう。
アーシュのことを知って、信頼して、好きになればなるほど。
それを考えても仕方がないことだって分かっているつもりだ。
今は、この可愛い寝顔の彼女を守ろう。
彼女の顔が曇らないように。
いつも笑顔でいられるように。