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ここは人類最前線

ここは人類最前線

作者:小林晴幸
ジャンル:ファンタジーと言っていいのか微妙な感じです。
勇者と魔王は出てきますが、特に戦闘はしません。

変な村の変な日常の中で交わされる、変な会話。そんな感じ。
 私の村は、おかしい。…らしい。
 人類最前線という別名を戴くくらい、不便で物騒な場所に我が村はある。
 だというのに、この村は何故か平和だ。
 少なくとも、住民にとっては。
 所謂人里とは乖離した場所にあるというのに、国の流通とは別のルートで潤ってもいる。
 住む村の諸事情諸々に不満を抱くでもなく、村人達は日常を堅実に営んでいる。
 だからこそおかしいと、訪れる多くの人々からツッコミを貰いました。
 一番最近にそのツッコミを下さったのは、全人類の希望を背負って旅立ったという(伝聞)勇者様その人(多分本物)です。彼は最後の補給地として我が村を訪れ、愕然としていました。

 ここは人類最前線。

 そう呼ばれる原因は、誰の目にも明らかです。
 それはそう、この村が魔王城最寄りの人里であることが原因でしょう。
 その距離、なんと歩いて五分。
 直線距離なら二分短縮で、三分。
 ほぼ城下町(いや、村?)と言っても良いぐらいだ。住んでる住民が魔族であれば。
 だけど此処は人間の村。
 魔族の王たる魔王の居城の側で、何百年と昔から日々を佇む、牧歌的な人間の村。
 それが尚更おかしいと、訪れる人はみんな頭を抱えます。
 定住している私達にとっては、あまり変でもないんですけど。
 そんなに不思議ですか? そんなに奇妙ですか?
 …まあ、確かに、おかしいですよね。
 客観的に見ると、どう考えてもおかしいのでしょう。
 自分達のことなので、村に客観的に見る人はいませんが。
 生まれた時からこの暮らしですから。
 幼少期から築かれた、この村独特の『常識』という日常。
 きっと、他の地域ではこの村が平穏に日常を営んでいることすら『異常』なのでしょう。
 此処を魔王城の隣と知っていて開拓した御先祖様達には疑問を投げかけるばかりです。

 しかし、私達の村は事実、魔王城の側にあります。
 今更変えようのない事実に、悩んでも仕方がありません。
 そして村の場所も変えようがありません。

 いや…村を移動させようと思えば、できないこともないんですけれど……ね?
 誰もその気にならないというか。
 村人は誰一人として、村の場所に問題を感じていません。何故でしょう。
 偶に自分でも首を傾げていますけれど、普通に暮らしていたら問題も忘れます。
 その位、此処に村があることが、私達にとってはすっごくナチュラル。
 必要もないので、村を移動させようと誰かが言い出したこともありません。
 村の集会で議題になったこともありません。
 今日も問題なしの通常運転です。
 それを、人は異常という訳ですが…。



「おぅい、リアンカ」
「あ、まぁちゃん」

 我が村のおかしさを噛み締めていると、向こうから悠然と歩いてくる青年に会いました。
 私がまぁちゃんと呼ぶ彼は、私の従兄で名前をバトゥーリ。
 渾名と本名が一文字も擦っていませんが、誰も気にしません。

 まぁちゃんは銀髪黒目の美青年です。私の身内とは信じられないくらいの美形です。
 どのくらい美形かというと、宝石や鳥に例えられるくらい。
 …例えられる対象は、主にブラックダイヤモンドや黒鳥(ブラックスワン)ですが。
 彼は職業柄、常に黒い服装をしています。はっきり言って黒づくめです。
 ですが、それがまた独特の雰囲気を作り出していて、とても似合います。 
 長身ですっきりした立ち姿はしなやかで優雅。この人、本当に私の従兄でしょうか?
 偶に自分でも、彼との血の繋がりを疑います。

 これだけ美形だと身内でも気後れしそうですが、コレでいて中身は案外普通です。
 そこら辺の気安い兄ちゃんとあんまり変わりません。
 気さくで、人情家で、趣味に没頭する時間と甘い物が何より大好きな大酒飲みです。
 私は幼少時から彼の顔を見慣れていることと、中身をよく知っているので気後れナシです。
 ときめき? 何ですか、それ。
 彼に対して異性を意識するのも今更です。
 お陰で普通に従兄として親戚づきあいができます。
 美人は三日で慣れる…まさに、それと言った感じ。
 まぁちゃんも普通に接する私を気に入っている様で、無駄にキラキラ笑顔を向けてきます。
 今だってほら、道の向こうから。
 私に嬉しそうな顔を見せながら、まぁちゃんは早足に向かってきます。

 まぁちゃんは珍しく、今日はラフな格好です。でもやっぱり黒いです。
 その格好に「?」と思いながらも、私はまぁちゃんに笑顔を見せました。
 お互いに、空々しいまでに笑顔。
 まぁちゃんは張り付いた様な笑顔のまま、どことなく焦った様子で。

「頼む! 匿ってくれ。そしていつもの果実酒売ってくれ!」
「まぁたお仕事脱走したの? りっちゃんが激怒するよ。怒って追いかけ回してくるよ」
「止めろ…今はリーヴィルのことは考えない! それよりずっと楽しいことをするんだ!」
「真っ昼間からお酒呑むのが、楽しいこと? 幾ら好きでも、昼から飲酒はどうかな…?」
「ばぁか、今日のは祝い酒だ!」
「なんの?」
「今日は待ちに待った収穫日なんだよ! お礼も込めて、ヨハンさんに持ってくんだ」
「あ、とうとう収穫なんだ? おめでと! お酒はいつもの所にあるから持ってって良いよ」

 外見が完璧なまぁちゃんは、偶にお仕事を脱走する困った癖を持っています。
 日頃が仕事に忙殺されて忙しすぎる為、ストレス故だと思います。
 ゆっくり趣味に没頭する時間もないと、前に愚痴っていました。
 そんな彼のお目付役のりっちゃんは、その度にまぁちゃんを探して走り回る羽目に。
 同情はしますが、特に協力するつもりはありません。
 長い物に巻かれがちな私は、親戚づきあいも尊重します。
 まぁちゃんは時に良い見返りをくれるので、これからも親しくさせて頂くつもりです。

「匿うのは良いけど、まぁちゃんの行動パターンはりっちゃんも知ってるよ?」
「う…そうだな。そうだよな」
「うちに匿っても、すぐに見つかっちゃうって。時には違う行動を選択するべきだよ」
「それもそうか。リアンカ、助かる」
「いえいえ」
「助言、ありがとな!」
「うん。まぁちゃんも頑張ってね」

 軽く挨拶を交わして、まぁちゃんは去っていきました。
 足の進む先は…ヨハンさんの畑の方か。
 彼は最近、ヨハンさんの今は使っていない畑の一部を借りています。
 本人曰く、飢饉対策でジャガイモを育てているそうです。
 まぁちゃん一人が育てた分の芋程度じゃ、飢饉は防げないと思います。
 それでも健気な青年の夢を敢えて壊すことはないでしょう。
 私は意気揚々と畑に向かうまぁちゃんに、笑みと共に激励を贈りました。

 まぁちゃんは正確にはこの村の住人ではないのですが、職場(いえ)が近いので良く出没します。
 親戚の家も何軒か在るので、特に親戚筆頭の私の家によく入り浸っています。
 そしてそれを誰も気にしません。咎めるのはりっちゃんくらいです。
 彼は正確には村人ではないのですが、半村人みたいな扱いを受けています。
 アットホームすぎる我が村には、そんな扱いの半村人が結構います。
 幼い頃から互いに知っているとなれば、家族も同然ですからね。

 三叉路でまぁちゃんと別れると、今度は道の向こうから勇者様がやって来ました。
 勇者様が魔王討伐を目的に村へとやって来てから、今日で一週間と五日。
 魔王退治に来たはずなのに中々魔王城へ突入しない勇者様。
 何でも、この村に来て自信喪失したそうです。
 自信を喪失させたのはまぁちゃんなので、身内として私も少々心苦しいのですが。
 己を鍛え直す必要があると言って、勇者様は、今日も村に平然と滞在しています。
 彼はまぁちゃんの背中を見送る様に眺めた後、私の顔を見下ろします。

「やあ、リアンカ」
「こんにちは、勇者様」
「勇者様は恥ずかしいから、止めてくれって言っているだろう?」
「ですが、勇者様は尊い御身だと聞きますから。譲歩に譲歩を重ねて、ここが限度です」
「そっか………仕方ないのかな」

 そう言って心なしか悲しそうにしょんぼりとなさる勇者様は、何でもお国に帰れば『王子』の身分にあるそうで。こんな場所でうろうろしていますけど、地元には個人所有でお城も持っているそうです。とても豪華で庶民とは懸け離れた固定資産ですね。
 そして勇者様本人も、勇者の称号が大変に似合う好青年です。ついでに言うと美青年です。
 まぁちゃんと並んでも見劣りしない人間が、この世にいたんですね。
 王子様の身分に相応しく、とても上品な雰囲気の、豪華な美貌の持ち主です。
 勇者のイメージアップ戦略か、顔で選んだ勇者ではないか。
 私は彼の顔を初めて見て以来、それを疑っています。
 なんというか、とてもキラキラした物が似合う御方なんです。そう、肩書きさえも。

 そんな彼は女運が頗る悪いらしく、若干女性不信の気があります。
 女性を前にすると、面白いくらいに怯えます。まるで迷子のキツネリs…小動物のよう。
 美貌有り、実力有り、名声有りの身分有りですからね。仕方がないのでしょう。
 彼が女性不信になるまでの過程が、詳しい話を聞かずとも目に浮かびそうです。
 都会の女性は、とても恐そうですからね。特に良縁に食いつき良さそうな貴族とか。
 女性の秋波に散々な目に遭ってきたという勇者様は、私に気を許した笑みをくれます。
 それというのも、私がまぁちゃんという美形の身近にいたお陰で、美形に耐性がある為です。
 ある意味、これもまぁちゃんの身内特権でしょうか?
 若い娘さんには持て囃す人も多いですが…まぁちゃんを見慣れている村人には、勇者様の美貌に動じない人も沢山います。勇者という肩書きで憧れの目を向ける人もいますけどね。
 初顔合わせの時、勇者様の顔を見ても特に何の感慨も見せなかった私に勇者様は驚愕の顔をなさって…以来、懐かれました。年上の男性相手にこう言うのも何ですが、懐かれました。
 余程、嬉しかったんでしょうね。
 女性に普通の対応をして貰うこと、ましてや女性の友人を得るのは諦めていたとのことです。
 そんなことを遠い目で言う勇者様に、お疲れ様と無性に労いたくなった私です。

「ところで、まぁ殿は随分ご機嫌だったみたいだが…」
「まぁ殿? まぁちゃんのこと?」
「うん? あの方は『まぁ』という名では? 村の者は皆、まぁと呼んでいる様だが…」
「まぁちゃんの名前は、バトゥーリ、だよ?」
「…それで何故、『まぁ』なんだ」
「んー…職業に因んだ渾名、みたいなものかな。まぁちゃん、本名嫌いだし」

 まあ、まぁちゃんの名前は好き嫌い以前に殆ど呼ばれることのない名前ですが。
 私達村人は昔からまぁちゃんの事を知っているのでまぁちゃんとか、まぁ坊と呼ぶ人が殆どです。それ以外、まぁちゃんのお仕事関係の方は肩書きで呼ぶのが普通なので。
 私も時々、まぁちゃんの本名を忘れます。正式名称は無駄に長ったらしいし。

「それで勇者様は、今日も村の周辺へ自分磨き(レベル上げ)に行くとこ?」
「ん? ああ。自分の技量如きじゃ、まだまだだって思い知ったからな。当分はその予定だ」
「勇者様が村に来て、一週間以上経つけど。まだ魔王城には行かないんだ?」
「自分なんてまだまだ。自分は強いつもりだったけど、上には上がいることだし」
「まぁちゃんのこと?」
「ああ。彼にも、この村にも感謝しているんだ。此処に来て、自分がどれだけ狭い世界にいたか分かった。勇者なんて言われていても、俺は結局井の中の蛙だったんだ」
「腕試しでこてんぱんにされてたもんねー」
「あれで俺の慢心はへし折られた。本当、この村では固定概念を覆されてばっかりだ」
「例えば? どんな常識が村の外では普通なの? どんな常識が崩れちゃった?」
「そうだな。例えば…」

 勇者様が考え込む様に、遠い目をなさいます。
 それは思いつかないという顔ではなく、思い当たる部分が多すぎて迷っている顔です。

「例えば、この村のことだが」
「うん。最初に村全体と来ましたか」
「この村のことは以前から知っていたんだが、聞く話とは全く違っていてな」
「え、なんか噂されてる?」
「直接行った人の話、ではなくて立地条件故の認識…みたいなものなんだが」
「なんだか歯切れ悪いですね。そんなに言い難いことですか」
「その…俺も、この村に来るまで、この村は『魔族の力による支配下に置かれ、奴隷とされた人間達が虐げられながら暮らす、悲惨な場所』だと思っていたんだ」

 勇者様の仰った内容を理解するのに、ちょっと時間がかかりました。
 私は言葉を呑み込むまでの間に、右ー左ーと視線を廻らせます。
 視界に入る、超牧歌的な日常風景。うん。いつもの村。
 村には悲惨のひの字もなくて、奴隷どころか超健全善良な村人が野良仕事に勤しんでいる。
 誰だ? そんな超誤りまくりのデタラメ吹聴し回ったヤツ。

「うわー。それが都会での認識? 事実とのギャップが凄いね」
「そうだな」

 勇者様も苦笑しています。
 そりゃ、苦笑もするでしょう。認識に偽りあり。現実との差異激しすぎですから。
 ああ、でも、お陰で分かりました。
 村に初めてきた時、勇者様が呆然と突っ立っていたのは、そう言う訳だったんですね。
 あの時は新手の案山子かと思いました。どこかの芸術家が限界に挑んで作った感じの。
 物凄くビビって驚いてと、きっと平和な田園風景に度肝抜かれてたんでしょうね。

「この村は、悲惨どころか物凄く平和だ。それが一番釈然としないんだけど」
「というか、支配って何ですか。支配って」
「そうだな。………支配は、されていないな」
「私達にとって、魔族はただの気のいいお隣さん感覚なんですけど…」
「それが、普通は考えられない事なんだが!?」

 この話題になると、勇者様は頭を抱えます。
 なんでそうなるんだと、月に向かって叫んでいるのを見たこともあります。
 何故見たことがあるのかって?
 それはこの村に宿屋がなく、宿屋代わりに勇者様が滞在しているのが、村長宅(わがや)だからです。

 勇者様が頭を抱えられるのは、恐らく村と外の常識の違い。
 他の地域での魔族への認識が、この村と大きく異なるからでしょう。
 彼の反応を見てみれば、一般的な人里でどれだけ魔族が恐れられているのか分かります。
 ………嘘です。分かる気がするだけです。

 魔族は本来、とっても闘争心が高くて喧嘩好きです。
 それも、特に腕利きの猛者との戦いを求めます。
 強い相手と戦えるのなら、個人戦・集団戦の区別も無しです。
 その調子で他の地域へ進軍しては、強い相手を求めて無差別に暴れているんでしょう。
 ある意味本拠地すぐ側のこの村は、逆に安全な訳ですが。
 いや、だって、敢えてわざわざ襲ったり挑んだりする必要もないですからね。
 襲いかかる必要もないくらい、平凡で牧歌的で超平和なお隣さんやってます。
 それに魔族だって、弱者への労りがない訳じゃありません。
 強者は挑む対象ですが、自分達より弱い相手は庇護の対象と割り切っています。
 特に女子供と老人への労り、親切心は半端ないです。
 そして村の人口の七割は女子供と老人です。
 ほら、ね。だから村は超安全。
 身近な魔族よりも弱いことが分かり切っていますから、誰も手を出しません。
 彼等の弱者への慈悲深さは筋金入りで、子供は特に大切にしますし。
 そのことの証拠もあるんですよ?

「勇者様、村の広場に面した通りに、孤児院があるの知ってます?」
「ん? ああ、あの田k…辺境にしては大きくて立派な」
「別に田舎で良いですよ」
「…済まない」
「良いんですけどね。それで孤児院ですけど、入っているのはどんな子達だと思います?」
「どんなって…魔族に親を殺された子達、じゃないのか?」

 当たり前の様な顔をして、勇者様が言います。
 考えもせずにぺろっと言ったお言葉に、他の地域での孤児院事情が透けるようです。
 きっと孤児院の子の多くは魔族の被害者というのが、都会での認識なんでしょう。
 この村では、違いますけれど。

「この村の孤児院が立派なのって、魔族の皆さんが献金してくれたからなんです」
「は!?」
「更に言うなら、孤児院の子供の殆どは魔族が拾ってきた子供です」
「………魔族の、子供か?」
「いえいえ、人間の子供ですよ」

 勇者様が信じられない、意味が解らないという顔をします。
 さもありなん。
 この村以外では、きっと信じられない事実がそこにあるのでしょう。

「魔族さん達って、ちっちゃくてか弱いモノに弱いんですよね。特に子供とか」
「…は?」
「そんな法螺吹きを見る様な目で見ないで下さいよ。事実ですって」
「いや、だって、なぁ?」
「魔族ってちっちゃくて可愛いモノが好きなんですよ。犬とか猫とかよく拾ってきて。それと同じくらい、人間のみなしごもうっかり拾って情が移っちゃうんです」

 勇者様は信じがたいという顔で胡散臭そうに私を見ますが、事実です。
 何度も言いますが、魔族は自分より弱い存在には寛容です。
 あんまり弱すぎると、大丈夫か、生きていけるのかと心配になることも良くあります。
 特に、人間の子供。

 獣の子供なら、本能で生きることも可能です。
 でも人間や魔族の子供は、誰かが守ってあげなくては死んでしまうと不安になるそうで。
 魔族の軍勢が遠征に行った後は、特に拾いっ子ラッシュが起きます。
 行く先々で、か弱い親なし子を見つけると、拾わずにはいられないそうです。
 犬猫を見ると思わず拾っちゃうのと、正に同レベル。
 魔族の方々は図体の大きい子供だと思う。捨ててきなさいと言わないだけ、マシです。
 そして拾ったは良いものの、拾った後で戸惑うんです。右往左往するんです。

 放っておけなくて拾いはしたけれど、魔族よりずっと弱い人間の子供。
 育てるにも細心の注意が必要な人間の子供。
 その育て方が分からない。魔族の中で育てて大丈夫か分からない。
 魔族の皆さん、そう言っては子供の扱いに困って私達の村を頼ります。
 人間の育て方は人間に任せた方が、子供の為にもなるんだろうと。
 それはそれは名残惜しそうに、重々宜しくと頼みながら子供を預けていきます。
 あんまり沢山預けられるものだから、孤児院が創設されたのが、二百年前。
 以来、孤児院は一向に廃れる暇もなく。今日もお客さんが沢山来ます。
 ええ。預けた当の魔族が、自分の預けた子供の近況健康を気にして度々訪れますから。
 最早、日参の勢いで様子を見ようと手みやげ持参で訪れます。
 子供達の為にと、心付けもたっぷりです。
 あまりにも気遣うので、子供達の方も最初は警戒するのですが…大体、三ヶ月くらいで自分を拾ってくれた魔族に懐く様になります。そうなると擬似親子になるのも時間の問題で。
 子供が沢山いると孤児院も回らなくなりそうですが、心配無用です。
 何年か孤児院にいて、あまり手がかからなくなった頃、魔族の覚悟も決まります。
 そう、自分の拾った子供の、養い親になる覚悟が。
 孤児院は、これから親子になる魔族と人間の準備期間をおく場所の様なモノ。
 数年で親子としての接し方や育児で気をつけるポイントを互いに学び、最終的に魔族が自分の預けた子供を引き取るというパターンが常習化しています。
 こんな孤児院、きっと此処だけです。

「…という訳で、あの孤児院にいる子供達はある意味、魔族に救われた子ばかりなんです」
「………信じられない」
「みたいですね。でも、本当です」
「それが、本当だとして…魔族に育てられた後、子供達はどうなるんだ」
「それは、人によって様々ですよ?」
「かなり心配になるんだが…」
「心配無用ですよ? 大人になった後、この村に住む子が多いです。自分達と同じ立場の子供を支援しようと、孤児院に勤める子も多いです。というか孤児院の職員はみんな元孤児です」
「助け合い、支援の環みたいで、その点はとても素晴らしいと思う。だがなぁ…」

 勇者様の顔つきは、とても微妙なモノでした。
 彼が気付いていないだけで、実は村のそこかしこに普通に魔族がいます。
 潜んでいる訳でもなく、堂々と。
 だけど村を訪れる人々は大抵気付きません。
 あまりにも平然と溶け込んでいる為に。
 まぁ、日常的に村へ訪れる魔族さんは、外見が人間に近い方が多いですからね。
 さて、このことを勇者さんに教えたら、どんな顔をするでしょうか。

 A.それはそれは見事な唖然とした顔を披露して下さいました。

「そんな…」
「やっぱりビックリですか」
「俺の自分磨き(レベル上げ)に費やした一週間は、一体…」
「魔族と戦った方が精進できるのは分かりますけど、村ではやらないで下さいね」

 レベル上げの為に、村の外に出ては必死に魔物退治に明け暮れていた勇者様。
 魔物よりも高位の存在である魔族が、人間の村を彷徨いているなど、誰が思うでしょう。
 勇者様の経験値上げにも、魔物を追いかけ回すより魔族一人倒した方が効率的でしょう。
 村に来て直ぐの頃に知っていれば、きっと勇者様は魔族に襲いかかっていたはずです。
 この村の中でそれをやったら、通り魔扱いを受けてしまいますけれど。
 あー…でも、強い相手と戦うのが大好きな魔族さん達なら、大喜びで戦闘に応じそうです。

「こんなに堂々と村に入り込んで…それでも、平和だって言うのか?」
「勇者様の疑問はもっともかもしれませんけど、私達にとっては今更なんで」
「ああ、気の良い隣人だといっていたものな…だが、相手は魔族なんだぞ?」
「忠告したいって勇者様の気持ちも伝わってきますけど、こればかりは習慣みたいなもので」
「嫌な習慣だ…」

 勇者様が懸念なさる気持ちは、痛いほど伝わってきます。本当ですよ?
 ですが何度も言う様に、この村が魔族に襲われることはありません。
 それをしっかりと肌で感じて育ち、意識せずとも理解している村人達。
 どうしても、勇者さんの懸念は杞憂としか思えないんですよ。私達にとっては。
 だってやっぱり、この村が魔族に手を出されることはないって確信しているんですから。

 …それに、実は手を出したくても出せない内情があります。
 この村は、人間の村なのに魔族を恐れません。それどころか親切です。
 そのお陰で、この村は人間の集落で唯一、魔族と商業取引があるんです。実は。
 魔族も取引相手になる唯一の村を、わざわざ潰したりはしません。
 それに、この村に何かしたら、鬼神の様に怒髪天かます御方がいます。
 魔族の王様、『魔王』様です。
 この村は、『魔王』とも親密な繋がりがありますからねー。
 外聞悪すぎて、村の外で言いふらしたりはしませんが。
 いつかばれる様な相手以外には黙っておくのが、村の掟です。
 先にばらしておいた方が後々面倒が少ないと思ったら、ぺろりと喋りますが。

「…この村にいると、本当に色々と今まで培ってきた常識が崩壊しそうだ」
「頭の中、飽和状態って感じですか?」
「ああ。物凄く、混乱している。これ以上、常識の崩壊で頭の中が凄いことにならないうちに、この村を出た方が良いかもしれない…」
「それって、魔王城にとうとう挑むって事ですか? 使命果たさないと、帰れないんじゃ?」
「ああ。魔王を倒さないことには…な」
「倒せる自信はなさそうですね。自分磨き(レベル上げ)はもう良いんですか?」
「それなんだよ。俺の慢心に気付かせてくれたまぁ殿に勝てるまで、魔王城には挑むまいと思っているんだが…まだまだ、時間がかかりそうだ」
「…え。まぁちゃんに、勝てるまで? まぁちゃんに勝てたら、魔王城?」
「ん? そのつもりだが…」
「無理でしょ」
「はっきり言うなぁ…」

 いや、だって。
 だって、無理でしょう。
 というか、無意味でしょう。それ。

 私の言葉を、勇者様は自分の力量に対する不安と捉えたようです。
 憮然とした顔は若干拗ねている様に見えないこともありません。
 いや、私の言いたいのは、そんな事じゃないんですが…

「せめて、まぁ殿が共に魔王城へ行ってくれれば心強いんだが…」
「行くこと自体はともかく、それって魔王を倒す為に、ですよね」
「ん? ああ。それ以外にあるか?」
「…まぁちゃん、断ったでしょ」
「ああ…彼ほどの技量が在ればと思ったんだが。魔王を倒すのは自分には無理だと断られたよ」
「そりゃあ、そうでしょうね…」
「リアンカもそう思うのか? だが、彼でも無理となると、本当にどれだけ修練を積めばいいのか…見通しは暗いな。この村で何年修行すれば良いんだろう」
「いや、そう言う問題じゃないんだけどね」
「問題が、違う…?」
「うん。勇者様、気付いていないみたいだし」

 気付いていたら、間違ってもこんなことは言わないでしょうね…。
 気付かれていないことに、まぁちゃんが苦笑する顔が想像できます。
 勇者様にそんな提案をされて、彼も困ったでしょうねー…

「気付いていないって、なにに?」
「魔王城の主が誰か」
「魔王だろう?」
「うん。そうなんだけど…ね」

 ねぇ、気付いていないみたいだけど、勇者様。

「魔王って、まぁちゃんの事だよ」

 まぁちゃんの『ま』は魔王の『魔』なんだけどなー。
 先代魔王の息子さんで、今の魔王様は人間とのハーフで私の従兄です。



「……………え?」


 私があっさりと世間話のついでに教えた、驚愕の事実。いや、この村じゃ周知の事実だけど。
 よっぽど衝撃だったのか、勇者様は見事に硬直してくれたのだった。






 人類最前線の異名を授かる我が故郷、ハテノ村。
 村の通りを道行けば、魔王に遭遇し、勇者と挨拶を交わす。
 よくよく見てみれば其処此処で、魔族と人間の関係無しに談笑しながら闊歩する風景。
 村長の家の隣に聳える壁の向こうには魔王城。
 村の広場に面した孤児院には、魔族のお客さんが日を空けず差し入れ持参で訪問に来る。
 それでも此処は、人間の村。
 人間の村と、断言してみる。

 こんな村の最大の謎は、なんで御先祖様達がこんな場所に村を作ったのかと言うこと。
 そして、何故に魔族の皆さんが此処に村を作ることを黙って容認したのかと言うこと。
 ハテノ村七不思議に燦然と輝くその謎を、平素気にする者は村にはいない。

 …うん。やっぱり私達の村は、おかしいのかもしれません。






 ☆ 登場人物、備考 ☆

 リアンカ : ハテノ村村長の娘 
  何故か魔族と親交深い村の娘さん。血縁故に魔王とも親密。何げに大物。
  美形耐性が半端ないので魅了系の状態異常は常に無効化。人間だけど魔王の従妹。

 バトゥーリ : 魔王
  最近は畑仕事に嵌っている超絶美形魔王様。人間との混血なので外見はほぼ人間。
  牧歌的な雰囲気が大のお気に入りのマイペース魔王様。

 リーヴィル : 魔王お目付役
  銀縁眼鏡のとってもよく似合う黒髪の青年魔族。魔王に振り回される運命にある。
  魔王への忠誠は人一倍だが、あまり報われてはいない。

 セトゥーラ : 魔王の妹
  兄のシスコン振りを笑って受け流すお姫様風美少女。人間と混血故、外見はほぼ人間。
  作中出てこないけど、村に普通に出没している。

 ライオット・ベルツ : 勇者
  お国に戻れば王子様という豪華な美青年。魔王に挑む為、自分を鍛え直し(レベル上げ)中。
  彼がおうちに帰れる日は、まだまだ目処が立っていない。


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