第7章:計画まで後4日…
今日も朝からプリムとソフィアはランドの居る廊下の中に居た。
「ランド…記憶の方は大丈夫?何か思い出した?」
プリムは聞くが、首を横に振る。しかし、当初の気迫は抜けすっかりおとなしくなっており、段々と良くなっている様にも思えた。
しかし、まだ、プリムやソフィア…ルナ母さん等を思い出す事も無く、毎日の様にただ話しかけるくらいしか手だては無かった。
ソフィアも、今や獣人化をしランドに会うがそれでも何も感じなかった。
「プリムさん…どうしよう…。このままじゃ、回復の見込みが無いよ…」
それはプリムも思っていた。毎日の様に、廊下に来ては一日中はランドと共に居るが、一向に良くなる気配が無い。
やっぱり医者に見せた方が良いのか…。でも、クルシスランドに腕の良い医者は居ない。他の国から呼び寄せるにも、時間が無い。
「そうだ!ペペロンチーノさんとか(以下省略)さんに面会してもらったら?」
ソフィアが意見を出す。
「駄目よ…。ランドは、本当の親子と言う事に気付いて無かったわ。気付いてたのはペペロンチーノさんだけ…意味が無いわ」
プリムは却下する。
「じゃあ…ルナ母さんとか!」
「今、どこに居るのか分からないのよ!どうしようも無いわ…」
プリムは愕然とした。誰も居ない状況…。
「でも、後少しでソルとルルがルナ母さん連れて城に来るけど…」
ソフィアは鼻をヒクヒクさせて言う。
ルナお母様が来る!?プリムは顔を上げた。ソフィアが言うのだから間違いは無いだろう。
プリムはソフィアを置いて、城の玄関まで走る。先にキッシュの邪魔が入っては元も子も無い。しかし、ルナお母様は罪人の母…簡単に牢屋に入れるかどうか…。いや、何としてもランドに会わせる!そう思いルナお母様の所まで走る。
玄関の扉を開けると、目の前に3人が驚いた表情で立っていた。プリムは息を切らせながらルナの手を掴むと地下牢まで引っ張って行く。
「ちょっと、プリムちゃんどうしたの?」
ルナは叫ぶが、気にも止めずにランドの居る牢屋まで引っ張って行く。
「王女様っ!大変です!牢屋に見たことも無い少女が居たので引捕えました!罪人ランドは、今後この様な事態が無いように、独房へ…。先程の少女は、そのまま地下牢に入れました!」
門番が高々に叫んだ。
しまった!ソフィアの獣人化を解くのを忘れてた!
更に門番は続ける。
「独房は、騎士団長の命により面会しゃ絶になっております!」
やられた!キッシュの存在を忘れてた!
「王女の命により、独房の面会を許すわ!それと、地下牢の少女は無実よ!私が連れこんだの!今すぐ釈放しなさいっ!」
プリムは門番に向かって叫んだ。
「はっ!はいっ!お前ら、少女を釈放しろっ!」
門番は身近にいた兵士に命令をする。
「しかし、王女様!独房の面会だけは出来ません!こればかりは、騎士団長直々の命が無ければ、変える事は出来ません!」
「じゃあアナタは、王女より騎士団長の方が偉いって言うの!私がパパに言えば、アナタなんてクビになるわよ!」
プリムは所構わず叫んだ。今は出来る出来ないの問題じゃ無い。ランドの記憶を取り戻すのが先決。
「ひぃぃ!わ…分かりました。独房へ案内致します」
門番は震え上がり頭を下げた。プリムとルナは門番に案内されるがままに、地下牢よりも更に地下にある牢屋の階段を降り始めた。途中でソフィアを拾う事も忘れずに…。
「こちらでございます」
門番が案内したのは長い階段の一番下にあった暗い部屋。見たまんまの牢屋。
その一番奥に、ランドは座ってこちらを見ていた。プリムは門番に命令をして、牢屋の鍵を開けてもらい中に入る。
続いてルナ、ソフィアも中に入った。
「ランド…会いたかったわ」
とルナはランドに近付いた。ランドはいきなり近付いた人間に威嚇をし始める。
「ランド…こんなに痩せちゃって。傷だらけで、大丈夫?」
どんどんとランドに近寄るルナ。しかし、ランドは後退りをしながら威嚇を止めない。
「お母様…今のランドは、記憶を無くして昔の野生の狼状態なんです」
プリムは静かに言う。
「ランド…ほら、お母さんだよ」
ルナは手を広げてランドの前に座る。ランドは無防備の母の右肩に噛みついた。
「ランド!」
「お兄ちゃん!」
プリムとソフィアが叫んだ。しかし、ルナは表情を一つ変えずにランドを抱き締める。ランドは振り払おうと体を左右に振る。ルナの肩からは鮮血が、飛び散る。
「ランド…大丈夫よ。怖がらないで…」
ルナは片手でランドの頭を撫でた。
しかし、ランドはルナ体を振り払い突き飛ばすと、口を血まみれにしながらルナを睨んだ。
「お母様でも、駄目なの?ランド…」
プリムは膝をつきランドを見た。
「ランドは、怖いのよ…。急にこんな所に連れて来られて周りが信用出来てないだけ。ランド、こっちに来て顔をよく見せて」
ルナはにこりと笑いランドの方に近寄る。
「…獲物の息の根を止めるには、喉元を…」
ランドがぶつぶつと呟く。
「ソフィア!お母様が殺されちゃう!」
プリムが叫んだ。
『お兄ちゃん!駄目!辞めて!』
ソフィアも一生懸命に語りかける。
「人間、敵、人間、敵、人間、人間、人間…」
「ランド…」
「人間は殺す!人間は敵!人間滅ぼす!人間は…人間は…」
急にランドが苦しみ始めた。頭を抱え転がる。
「人間…人間…人間…」
「ランド…大丈夫よ。昔言ったでしょ?全人類があなたの敵になっても、私だけはアナタの味方だって…」
「人間…母さん…人間…敵…守る…人間…」
「さぁ、ランド。顔を上げて、お母さんに顔を見せて」
ルナはランドに近づいていく。
「人間…敵!殺す!」
ランドは顔を上げると、獣人化をしルナの体に爪を突き立てた。爪は、ルナの体を貫通し爪の先からは血がしたたり落ちる。
「ランド…やっと顔を見せてくれたわね…」
ルナは笑顔でランドの頭を撫でた。
「母さん…母さん…助けて母さん…」
ランドは正気に戻り泣き出した。
「ソフィア!早く、治癒をしてっ!」
プリムが叫ぶ。
ソフィアの目が青くなりルナの体は光に覆われる。
「母さん…頭の中で、狂気が…記憶や思い出が無くなって…助けて…」
ランドは獣人化を解いたと同時に、体を貫いていた爪も抜かれた。
「うっ…また…頭が……割れる…何も…思い出せない」
ランドはルナを突き放し、頭を支える。ルナは、それでもランドから視線を離さない。
「お兄ちゃん!お母さんを治して!私だけの力じゃ…」
ルナの体からは血が止まらなく溢れている。
「人間は敵のハズ…治せない…治さない…敵…人間…敵」
ランドはまた一人殻に閉じこもる。
「ソフィアちゃん。大丈夫よ。心配しないで」
ルナはソフィアを見て頭を撫でた。
「人間…治す…人間…治す…人間…治す…使命…」
ランドはまた獣人化を始めると、ウルフの目が青く光りだした。
ルナの傷口に手を当てる。傷口はみるみると傷が塞がっていった。
「お兄ちゃん…記憶がもどったの?」
しかし、ランドは返事はしなかった。本人自信も、記憶が戻っているのかも分からない状態で、今なぜこの人間を治しているのかも分からなかった。
「さすが母さんの魂を持ってる事だけあって、治癒の力が強い…」
ソフィアは呟いた。
本来なら、血を止め傷口を塞ぐ程度しか治癒はしないのだが、ランドは本家本物の聖なる狼の魂を持つ人間。
その力は、傷口を塞ぐだけで無く傷ついた内臓も修復していく。
ルナの治療が終わりウルフは少し後退りをした。
「が……う…頼む……俺を…ぐっ……クルシスの森へ……連れ…て……ってくれ…」
ウルフは苦しそうにプリムを見つめた。
「あの……森なら…この…頭の中の……狂気を…追い出せる…」
いくらプリムでも、勝手に罪人を外に連れる訳は無い。だが、ランドの記憶を戻し何とかキッシュの野望を打ち滅ぼさなければならない。
「プ……リム…頼む……また、お前らを……襲うかも…知れな…い」
プリムは少し間を開け何かを考え、そして答える。
「よーし!任せて!ルナお母様!ランドをヨロシクね!」
ルナはヨロシクの意味が分からなかったが、すぐに理解することになる。
「ソフィアは私と一緒に行くわよ!」
そう言うがままに、プリムは牢屋の外に飛び出して門番を殴り気絶させた。
ルナはランドを抱えて2人の後を追う。長い階段を上がり前の牢屋の兵士にも襲いかかる。
「まったく…無茶する子達ね…」
ルナは2人が暴れる姿を見ながら笑う。
牢屋から玄関までは、およそ300m…ランドを抱えるルナの足を考えると10分は兵士の足止めをしなければならない!
プリムは舌打ちをした。これだけ騒ぎを起こせば、キッシュの耳にも入るだろう。でも、そんなことは百も承知!キッシュさえこの玄関ホールにさえ来なければ勝算はある!
プリムは暴れる王女を押さえようとする兵士達を次々に倒していく。
「後少し…」
玄関が見えた。後少しで外に出られる。外に出られれば、ソルとルルも居る!
ルナも出来るだけ急いで玄関に向かう。その間もランドはずっとうつ向いていた。
玄関にたどり着くとドアを蹴り破る。なん百万とする宝石が散りばめられたドアが一瞬にして砕けていった。
外では驚いた表情でソルとルルが見ていた。
「煙玉か何か持ってたら投げて!早く!」
ソルが一度、昔に──カマキリ男と戦った時に──煙玉を投げた事を思い出しプリムは叫ぶ。
「わ…分かったっす!」
服の内側に縫い付けてある袋から数個玉を出すと、追い掛けてくる兵士に投げつけた。煙玉は地面に当たると煙をボワッとはきだした。兵士達はみんな咳き込む。その間に、5人+1は逃げ出した。
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「ふぅー着いたっす!」
ソルは背中に乗せていた弟を湖の畔に置いた。
「ここに来るのも久しぶりだね」
とルル。
「そうっすね。俺らが、ランドを殺そうと罠にハメた時以来だかんな…」
「お兄ちゃんを殺そうとした!?どーゆう事よ!」
ソフィアはその言葉を聞きソルにつっかかる。
「違うっす!昔の話っすよ!」
ソルは一生懸命に弁解をする。
「ほらほら、みんな!いつまでもここにいると、狼が襲って来るわよ!さぁ、帰りましょ」
ルナが叫ぶ。
「お母様!私…ここに居ても大丈夫ですか?」
プリムは胸を押さえながら聞いた。
「駄目…ここは、ランド1人に任せなさい。きっと、ランドは大丈夫だから。さぁ…行きましょ」
ルナはプリムの肩を叩いた。プリムは今、とても切ない気持ちになっていた。
「私…いつもランドに助けられてばっかで…。ランドがこんな状態になっても、ソフィアやお母様に頼って…私、結局なにも出来なかった…」
「そん……な…事…無い」
ランドは声を振り絞り答えた。
「ええ、ランドの言うとおりそんな事無いわよ」
「でも!私…本当に何もしてない」
「がっ……あああ……ぞんなごと……ない…」
プリムはランドの方を見た。
「だって、今回も国が滅ぼされるって言うから!ランドの記憶を戻して、助けを待つだけ!何も出来ないし、何も…」
プリムは座り込んだ。そんなプリムを見て、ランドは上半身だけ起こす。
「プリムは、……ぐっ…俺の記憶を……戻す…事に…精一杯……頑張ってくれた……。俺を…牢屋から……出してくれた……俺に光をくれた」
そう言うと、またランドは寝転がる。相当辛いのか、ひどく咳き込んだりした。
「ほら、プリムちゃん。大丈夫、自信を持って!私達だって、プリムちゃんが伝えてくれなかったら、ランドがピンチだと言う事に気付かなかったんだから」
ルナはプリムを起こした。そして、ランドの方を見た。
「ランド…計画まで、後4日しか無いわ…」
ルナは辛そうに悶えるランドを見る。
「それまでに、何とかしなさいっ!分かった?」
「ああ…任せてくれ…」
その言葉を聞き、ルナ達は森から出ていった。
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