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企画モノ

【和モノ納涼企画】ある旅館のおかしな骨董品屋

作者: 芝高ゆかや

 水琴窟(すいぎんくつ)と敷石、青緑色の苔が広がる日本庭園が有名な旅館の一角に土産物屋があった。宿泊者が立ち寄りやすいように玄関近くにある土産物屋――そのさらに奥に、実はひっそりと営む骨董品屋がある。

 昔ながらのやり方で鑑定書を和紙に小筆で書き綴る長髪の男が、背伸びをしながら欠伸(あくび)をすると、ポワンと埃が舞い、面影に幼さを残す少年となった。


影絶(えいぜつ)、気がゆるんでるよ?」


 淡い鶯白緑(うぐいすびゃくろく)色の着物を着た女が手に懐紙の包みを持ち、浅葱(あさぎ)色の暖簾(のれん)がかかっている骨董品屋の入口に立ったまま、そう忠告する。


月湖(つきこ)か……。妖怪といえども、こう暑い日が続くと夏バテを起こす」

「だから、涼しくなる和菓子を持ってきてあげたよ?」

「旅館の方は大丈夫なのかよ、若女将なんだから客の出迎えがあるだろ?」

「まだ到着までには時間がある。ココは玄関の側だし、間に合うよ」

「サボりに来てるとしか思えない」

「それなら戻るよ?」


 旅館の若女将――月湖が『涼しくなる和菓子』を包んだ懐紙を手にしたまま、土産物屋の方へと踵を返す。


「待て! その和菓子はココに置いていけ」


 妖怪の骨董品屋の主――影絶は、和菓子が大の好物だ。慌てて月湖を引き留める。


「その前に『悪かった』とか謝罪はないの?」

「なんの謝罪だ?」

「『サボっている』って言われた。名誉毀損」

「馬鹿馬鹿しい」


 文句を言いながら店の奥に来た月湖から懐紙を受け取れば『用済み』とでも言うように、影絶は鼻で笑った。


「なんだ『きんぎょく』じゃなくて、『翁飴(おきなあめ)』か」


 期待していた菓子と違っていたようだが、懐紙から一摘まみして口に放り込む。


「翁飴も涼しくなるでしょ?」

「見た目だけな? 今度から冷やしたモノを持ってこい」

「わかったわよ、和菓子に目のない『座敷わらし』さん」

「分かれば良い」


 影絶の不躾な態度に苦笑いしながら、月湖は宿泊客を出迎えるために「じゃあね」と告げた。


「ああ、月湖。今度、いつでもいいから客を紹介しろ。できれば浮世絵に精通しているヤツがいい」

「また妖怪界から掘り出し物?」

「違う。久しぶりに空雷(くうらい)が浮世絵を描いたものを譲り受けた」

「くうらい……誰?」

「お前、浮世絵師の空雷と言ったら一人しかいないだろ?」

「へ? まさか……あの空雷!? でも江戸時代後期に生きてたヒトで、とっくに亡くなったハズじゃ。……って、あのヒト、妖怪だったの?」


 月湖は「とんでもない有名人が妖怪だったなんてことは、よくあるけれども、今回のはかなり驚きだわ」と独り言をブツブツ呟く。そんな月湖を見て、影絶は嬉しそうに目を細めながら爆弾を投下する。


「約200年ぶりの新作だ。人間界に売ってやる。ありがたく思え」

「いやいや、マズイでしょ!」

「『蔵を整理したら見つかった』とか、そんな理由は適当に考えればいいんだよ」

「えー! それより、お客さんを紹介したとして、いくらで売るつもり?」

「4750万かな」

「!?」


 守銭奴な座敷わらしと同僚仲間の若女将の掛け合いは、土産物屋の主人が「若女将、出迎え!」と呼ぶまで続いた。

 

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