曇天
冬の海は、気紛れなクラゲをふよふよと上昇させた。
曇った水面をキラキラと反射する不機嫌な太陽が、少しだけ暖かい。
私が小舟に乗り、島を離れてすぐのことだった。
「やあ」と、クラゲが言う。「僕は今 最高にハッピーなんだ」
「どうして?」私が聞くと、クラゲは「友達が出来たんだ」と答えた。
嬉しそうなクラゲの隣には、ビニール袋が浮かんでいた。
「コイツ、無口でさ」クラゲが続ける。「何か喋ればいいのに」
クラゲがあんまり嬉しそうなので、私は真実を告げるべきなのか否か途方に暮れてしまう。
「ウミガメは、クラゲと間違えてビニール袋を食べちゃうことがあるらしいよ」私は、それとなく話してみた。「おかしいよね」
クラゲはそれはもう大ウケで、ふよよふよよとカサを揺らし、手足を震わせた。「ウミガメって、バカだなー」
私も笑った。笑うしかなかった。
長旅を終えたウミドリも、束の間の休息。
キラキラした水面をビニール袋が遮断して、波に合わせていったり来たりするのを、ただ静かに見つめて居た。