ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第4話の11
 太陽が西の空に沈んで行こうとする時刻、先頭をアプケロスに乗って

進んでいたロイとベアルドがふいに立ち止まって背後を振り返る。

「砂岩地帯に入った。今夜はここで夜営すべきだと思う」

「よし! 夜営の準備だ!!」

「キャンプを張る場所は、あの岩場が最適だ」

「よし! あの岩場に行くぞ!! 遅れるなよ!!」

 デクスター海岸に到着した際、そこには何もない一面の砂原が広がっ

ていた。しかし、砂漠を進めば進むほど、砂の中にまるで巨塔のように

突き出した岩が目立つようになってきた。

「リーダーの意味ないじゃん、あの人……」

 ベアルドの意見を復唱するように号令をかけるロイを見て、フェンリ

ルは誰にも聞こえないように呟いてみる。ほぼ同時に、ベアルドがアプ

ケロスの手綱を引いて、つい先ほど自分が指差した岩場に向けて歩き始

めた。

「おい! ベアルド! 俺が先頭だ! 前に出るな!」

「すまん。悪かった」

 さっそく文句を垂れるロイを遠目に眺めながら、フェンリルは知らず

知らずのうちに伸びをしていた。さすがに、一日中アプケロスの背で揺

られていれば疲れを感じる。ようやく手足を伸ばせると思うと、身体中

から緊張感が抜ける思いだった。

「やっと降りれる~」

「そうだな」

 背後の父親を見れば、特に疲れているようには見えなかった。そう言

えば、父親は砂漠に出てから割り当てられた水も軽食も一切、口にして

いないということを今更ながら思い出した。父親の分は、すべて自分が

貰っている。

「ねえ、パパ。大丈夫なの?」

「何が?」

 さすがに心配になって聞いてみたが、父親の顔はいつもと変わらない。

自分が異様によく食べるからそう見えるだけかもしれないが、もともと

父親はあまり食べる方ではなかった。けれど、これだけの暑さの中、水

も食糧も一切、口にしないというのは気にかかる。

「パパさあ、何も食べてないじゃん。水だって飲んでないし」

「気にするな。大丈夫だ」

「本当に?」

「俺は普通の人間とは違うから」

 何だか大変なことをあっさり言われた気がしたが、父親がそう言うな

ら、そうなんだろう、と単純に信じることにした。

(でも、俺は普通の人間だよな……)

 考えてみればおかしな話ではある。フェンリルの周りにいる者たちは

みな人間の形こそしているものの人間ではない。森羅万象と時空を操る

モンスター、鬼龍である。父親もまた、鬼龍なのだと“知っている”。

けれど、フェンリルは自分が鬼龍であるという自覚は全くない。

(どうしてパパは鬼龍なのに、俺は人間なのかな……)

 今までそれとなく疑問に感じていたことではあったが、改めて考えて

みたことは無かった。しかし、深く考えるとこれ以上ないほどイヤな結

論を導いてしまいそうな気がして、フェンリルは軽く頭を振った。

(どうでもいい。考えないようにしとこ。パパが一緒にいてくれるなら

それでいい)

 大事だと言ってくれる。ずっと一緒にいてくれる。可愛がってくれる。

大切にしてくれる。我がままを聞いてくれる。それだけが、今のフェン

リルにとって必要な真実だった。

「完全に日が落ちる前に休めるようにしよう」

「やすめる、ように、しよう!」

 辿り着いた場所は、岩と岩の間にできた小さな空間だ。その場にいた人

間が、かろうじて横になって眠れるほどのスペースしかなく、足元は砂で

はなく岩のようだった。二つの巨岩が寄り添うようにしてできたその空間

は、上を見上げれば、今にもバランスを崩して岩が崩れてきそうな錯覚を

覚える、何だか落ち着かない場所だった。漆黒に閉ざされゆく夜空には、

眩いばかりの星が輝き始めている。

「役割を決めて、分担して作業を進めた方が早い」

「やくわりをして、ぶんたんをきめろ!」

 アプケロスの背中から降りた彼らは、岩場に深く杭を打ちこみ、それに

手綱を括りつける。次の指示を待っている彼らの前で、ベアルドの言葉を

ロイが不自然に復唱していた。

「リーダーはそこで作業の監督をしておいてくれ。細かい雑用は俺がする」

「おれは、りーだー、だ。かんとくは、ざつよう……だ?」

 その時、三人組の女性ハンターの一人が忍び笑いを漏らした。その瞬間、

顔色を変えたロイがその女性に向って大股で近寄って行く。そして、ベア

ルドが止める間もなく、ロイは思いきり彼女の頬を殴りつけた。

「よせ、ロイ!」

「ふざけんじゃねえ! ふざけんじゃねえぞ! てめえ、いま、おれの

ことわらっただろ!? わらったよな!? わらったぞ! ぜったいに

ゆるさねえ! ゆるしてなんてやらねえ!!」

 女性ハンターを、ロイが更に両腕で突き飛ばす。たたらを踏んで地面

に尻もちをついた彼女の前に、残りの二人が立ちはだかった。ほぼ同時

に、ベアルドが後ろからロイを羽交い締めにし、離れた場所へと引きず

っていく。大柄のベアルドに抱き上げられると、ロイはまるで小さな子

供のように見えた。

「フェンリル。まさか……」

「違うよ。ロイさんじゃない」

「……」

 父親の言わんとしていることを先取りして否定すると、何とも言えない

苦い顔をされてしまった。

「本当だよ」

「……勝手にしろ」

 怒っている様子はなかったので、内心で激しくほっとした。父親と気ま

ずくなるのは耐えられない。

「サイテーね。頭の中、完全にイカれてる」

 立ち上がった女性ハンターは、殴られたことを特に気にする様子もなく

腰についた汚れを振り落としながら仲間に向ってそう零していた。

(すげえ……。女の人なのに)

 自分の勝手なイメージだが、女の人というのは殴ったり、殴られたり、

蹴ったり、蹴られたり、そういった暴力事には無縁のように思っていた。

勢いよく殴られたにも関わらず、顔色ひとつ変えない女性というのは、

少しばかり衝撃的だった。

(ハンターって、そういう職業なのかな)

 考えてみれば、ハンターは男女に関係なく銀介のような大型モンスター

と戦うのだ。小さな人間に殴られたくらいで顔色を変えているようでは、

とても務まらないのかもしれない。

「なんか、すごいね、ハンターって」

「何が?」

「なんでもない」

 無意識に、繋いでいた父親の手を強く握りしめる。その時、一連の出来

事を我関せずと言った顔で見ていたヤンが重い口を開いた。
 
「まったく、ロイには困ったものだネ。理性なんてほとんど残っていない

くせに、どういうワケだが、おかしなプライドだけは残ってる。困るんだ

よネ、ああいう手合いには。さて、と。リーダーと副リーダーが諸事情に

より、この場を離れたということで、ハンターランクが一番上の私が指揮

をとらせてもらうヨ。小さな子供さんもいらっしゃることだしネ。さっさ

と夜営の準備を整えてしまおう。そこのお譲さんたち、君たち3人で食糧

を配ってくれタマエ。私とクレスで焚き火を用意するヨ」
今日の夜、もう1話アップいたします~。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。