3rdフレーズ
俺とソイツが出会ってから、二度目の冬が来た、ある日。
部屋に帰ってくるなり、俺を抱き上げた。
撫でられ、喉を鳴らす。……俺も丸くなったもんだ。
一息つくと、こんな事を言った。
「参ったよ、ホーリーナイト。絵入り新聞の挿絵の仕事、断られちゃった」
おいおい、それは唯一の収入源だったんじゃないのか?
ソイツの絵はまだまだ画廊に並ぶような代物では無かった。だから、日々の糧は挿絵を描いたり、公園で絵を売って得ていた。
定期的な仕事は、新聞の挿絵だけ。その仕事が無くなった。
それから1カ月。仕事は見つからなかった。
絵を売ろうにも、雪の降る公園に散歩に来て、絵を買おうなんていう物好きは居ない。
もともと、仕事以外で描くのはほとんど俺の絵ばかり。
この国では、黒猫は不吉の象徴以外の何者でも無い。そのことが、わをかけて絵を売れなくしているのは、俺にも分かった。
さらに1ヶ月が経って、少ない蓄えは底をついた。
普段から不十分に思えたソイツの食事は、回数も量もさらに減った。
それなのに、俺への餌だけは変わらなかった。
抗議の意味で俺が餌を食わないと、ソイツも食事を取ろうとしないので、仕方無しに餌を食べた。
さらに半月が経って、ソイツはとうとう寝込んだ。
食事も取らず、丸1日寝た後。
のそりと起き上がったソイツは、ほとんどのページが俺の黒い姿で埋め尽くされたスケッチブックの、最後の1ページを破き取る。
そして、短い手紙をしたためた。
玄関を出ようとして、つまづき、倒れる。
顔のそばに座る俺を認めると、ソイツは消え入りそうな声で言った。
「ホーリーナイト、お願いがあるんだ。走ってくれないか?」
走る? どこへだ? 俺は小首をかしげる。
「そう。走って、走って、こいつを届けてほしいんだ。夢を見て、故郷を飛び出した僕の、帰りを待ってくれている恋人へ」
……あぁ、分かった。
俺が手紙をくわえるのを認めると、ソイツは目を閉じた。安らかな顔。一緒にベッドに入っていた、あの時と変わらない。
外はどんよりとした冬の曇り空。
俺は、部屋を出た。 |