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第五話
「ちょっと、失礼」
 そう言って医者(白衣を着ているから…たぶん)が俺の…というか船迫ふなさこ かなめの腕をとって脈を調べる。
 さっきの看護士が血圧計を持ってきて計り、体温計を腕にはさむように言われた。
「具合はどうだい?」
「頭痛と吐き気が…」
「ううーん、血圧も正常、体温も…うん大丈夫だね。君、あれを持ってきてくれないか」
「はい」
 あれ、と言われて看護士が持ってきたのはそんなに深くない銀色の容器だった。
「どうしても気持ち悪くなったら、これに吐きなさい。君、船迫さんには連絡をいれたんだろうね?」
「はい、すぐにいらっしゃるそうです」
 医者は大きくうなずいて、腕時計を見る。
「色々検査をしなくちゃならないから、また後で会おう」
 そう言って、頭痛と吐き気には何の対処もないまま立ち去った。
「ちょっと…」
 引きとめようとして吐き気がおそい、仕方なく俺はベッドに横になった。
 横向きになろうが仰向けになろうが気持ち悪さは治らず、何度も身体からだの向きを変える。うつ伏せになってみようか…なんて考え始めた頃、病室のドアがいきなり開いた。
 看護士がベッドの周りのカーテンをひらいて行ったので、入ってきた人と目がばっちりと合ってしまった。
 第一印象、ケバイ。もとい、派手な格好かっこう
 いや、本当に病院にくる格好かよって感じ。
 印象が悪かったので、俺の言葉もぞんざいになる。格好だけで判断するのは好きじゃないけど、何しろ吐き気と頭痛で機嫌が悪い。タイミングが悪かったと思って欲しい。などと思いつつ、俺はにらみながら言ってしまった。
「あんた誰? ノックもなしで入ってこないでくれる?」
 途端にその人物…派手な女性は一瞬、驚いた顔をした後、ベッドの横にあるソファーに泣きくずれてしまった。
 っつーか、誰?
 いらいらしていると(俺から質問するつもりは毛頭もうとうない)看護士があわてた様に、その女に駆け寄って身体を支えていた。
「看護士さん、その人誰?」
 看護士も驚いたように俺を見て、さらに女を見る。
「お母様…ですよね?」
 看護士が確認するように言った。
「お・か・あ・さ・ま?」
 がばっと身体を起こして女…もとい、お母様は看護士に詰め寄った。
「どういうことですのっ!?」
「い、いえ。私にも何が何だか…」
 どうやらこの女が船迫 要の母親らしい。青空あおぞらも家族の写真ぐらい見せておけって。しょぱなから失敗しちゃったじゃないか…。
 まさか要もお母様なんて呼んでいたわけじゃないだろうなぁ。
 ママか? いや、俺のガラじゃない。
 母さん? お母さん? 
 俺が無言で考えていると、少し落ち着いた母親が俺の顔を覗き込んだ。
「要…お母さんのこと忘れちゃったの?」
「えっと、忘れてないよお母さん」
 その途端にまた、わっと泣き出してしまった。
 何なんだよ…まったく。
 こっちは頭痛と吐き気で大変なのに。
 俺はため息をついて布団ふとんかぶった。
「要!」
「いい加減にしてくれよ! 頭痛いんだよ!」
「お母様、一旦こちらへ」
 看護士が病室から要の母親を連れ出してくれたおかげで、頭の痛みが少しだけやわらいだ。
 布団を被ったせいで、眩暈めまいまで起こしてしまい俺は目を閉じる。
 こんなとこでのんびりしているひまはないのに、満足に身体も動かせないときた。
「要くん大丈夫?」
 看護士が戻ってきて、小さな声でそう聞いていた。
「頭痛と吐き気がひどいです」
「そう……ねぇ、本当にお母様のことわからないの?」
 俺は布団をゆっくり元に戻して顔を出した。
「さっき、何で泣いたかわかりますか?」
「あのね。要くんはいつも、ママって呼んでいたみたいよ」
 お母さんのこと忘れちゃったの? っていうから、てっきりお母さんって呼んでいると思っちゃったんだけどなぁ。
 深くため息をついて、俺は点滴てんてきを見上げた。


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