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フリーナイン
作:スグル



第26話「誰かのために生きられるなら(後編)」


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ブォオオオーーーン!

アパートの近くに、車のマフラーの音が聞こえた。
駐車場から青いカラーのインプレッサが出てきた。
運転席には、豪が居た。
インプレッサは、ボンボンの豪の車であった。
後部座席には、目は覚ましたが病で呼吸が乱れているレビンと、純太、キエラがいた。
助手席には、レビンの様子を聞いて現れた武田が。
未だに、レビンは熱でうなされている。
それを、心配そうに4人は思っていた。

「レビンちゃん、まだ俺たち結婚してないだろ!!元気になれよ!!」
と助手席から、振り返って武田が叫んだ。
「婚約してないだろ!!このグレート・エロ・ティーチャーが!!」
純太が、そうツッコんだ。
「お前ら、うるせぇ!!」
運転しながら、豪は叫んだ。
キエラは携帯を、九乃助にかけていたが繋がらない。
「なに、やってるんだよ・・、九乃助・・」
と言って、携帯を切った。
レビンは、この4人の姿を見ていると、自分が悪夢で苦しんでいるのを忘れられた。

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九乃助は電話に出られる状況ではない。
男の靴のつま先部に、金属のプレートが仕込まれている。
腹に当たった感触で、九乃助は解った。
「あははは!!」
男は笑っている。
「・・」
目には、柑橘類の液体。
そのせいで、目が開けない。
これをいいことに、男は一撃、背中に拳を入れた。
「ぐっ!!」
骨に激痛が来た。
これは、素拳での痛みでない。
男は、両手にメリケンを付けていた。
メリケンがもう一撃、腹部に来た。
それに、九乃助は血を吹いた。

「ペッ・・」

今度は、どこに来るんだ・・。
そう九乃助は、頭を巡らせた。
「うひひ・・」
男の笑い声は、未だにしている。
そのことが、九乃助の怒りに油を注いだ。
目潰しという卑怯に、小細工。
一方的に、人をぶん殴って喜んでいるということが、物凄く許せなかった。
しかも、こいつは素手で殴っていない。
人を殴った拳には、感触がある。
自分の拳だって痛む。
だが、メリケンには、それを感じさせない。
殴るとはいえ、相手に触れない。
人を、なんとも思っていない。
段々、九乃助の血液が沸騰してくる。
「おい・・」
「ん・・」
九乃助が、殴られつつも口を開いた。
「俺が・・、目が開いた瞬間・・」
喋ってる途中に男の右のメリケン拳が、九乃助の顔に迫った。
男は、容赦などしない。
だが・・。

「!?」

男はゾッとした。
さっきの右の拳を、九乃助の右手がキャッチした。
目は開いていないのに。
九乃助は、音と拳からの風圧でメリケンを捕まえた。
それほど、喧嘩慣れしていた。
または、怒っていた。

メキメキ・・

そして、メリケン拳には握力からの圧力が来た。
九乃助の握力は、万力のように徐々に強くなってきた。
「ひっ!!」
それに男は怯えた。
九乃助が、また血が垂れた口を開いた。
「俺の目が開くまで・・」
そして、握っていた右手を離した。
男は、すぐに後方に退いた。
「覚悟しとけ・・」
そう言った瞬間、九乃助の目が開いた。
眼球が血走っていた。
まるで、鬼のように。
「ひっ・・」
男は怯えた。
九乃助の怒りが感じ取れる気迫に。
血管が、額と拳に浮かんでいた。

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「痛っ・・」
病院に着いたレビンは、ベッドに横になって点滴と栄養剤の注射を打たれていた。
そのせいか、彼女は少し楽になってきたようである。

そして、他の4人は、そのベッドから離れた場所で、医者から話を聞いていた。
「彼女は、ただの夏風邪ですね・・」
と、眼鏡をかけた中年の男性の医師が言う。
それを聞いて、4人は安心した。
「しかし・・」
医者が、もう一言を言い始めた。
「精神から来る不調というものが、あるんですが・・」
と、語り出した医者の言葉を4人は聞き始めた。
人は大した病気でなくとも、深刻な病気だと思い込めば悪化する。
更に、それを治す方法がないと思い込めば、更に悪化。
要するに、精神が追い詰められれば、追い詰められるほど逃げられなくなる病の悪化。
それと同じように、レビンは風邪を引くこと自体に嫌な思い出があって、そのトラウマが、ただの夏風邪を悪化させた。
悪夢と、過去に風邪を引いた時の父親の姿を思い出して、精神が不安定になったのであった。
だが、彼女は時間とともに治まった。
要するに、時間が彼女の精神を、少し癒した。

以上のことを、医者は語った。
それを聞いて、キエラ、純太、豪の表情が固まった。
まるで、彼女の過去に触れてしまうようで。
だが、4人はレビンの過去は知らない。
いつかは、知らなければならないと思うが。

武田は話を聞いてから、徐に喫煙所に足を向かわせた。
「あの娘も・・、九乃助と一緒か・・」
そう、歩きつつ言った。

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目が血走った九乃助は、徐々に男に向かっていった。
「ごめんなさい!許してください!!」
急に男が、土下座をした。
「すいませんでした!!勘弁してください!!!」
と、何度も頭を地面にぶつけて謝罪をしていた。
「けっ・・」
土下座を見た九乃助は、足を止めた。
そして、口から垂れる血を吐いた。
「二度と、顔を見せるな・・。ったく・・」
そう言って、男に背中を向けた。
九乃助は、また足を進めた。

「ばーか・・」

男は、土下座の体制で、左手をコートに潜り込ませた。
そして、ナイフを取り出した。
取り出した瞬間、男は立ち上がった。
足早に、九乃助の背中に目掛けて走った。
男は、フェイクの土下座をしたのであった。
卑怯にも、背中を向けた者に対してナイフを・・。

「やっぱりな・・」

ため息ながらに、背を向けた九乃助は言う。
足音がしなくても、九乃助は男の行動に気づいていた。
こういう奴は、何度も出会ったのだ。
そして、あしらった。
だから、不意打ちへの対応なんかは慣れている。

「焼野原ーー!!!!」
狂気になった男は、叫んだ。
足音が近づいてくる。
男の体は、徐々に迫ってくる。
それに対して九乃助は、首だけ振り向いた。

「ペッ!!」

九乃助は、口から血を水鉄砲のように飛ばした。
べチョッ!!
男の顔に血が、かかった。
そして、目に入った。
「うわぁ!!」
血の目潰しであった。
それによって、男の行動は止まった。
「この!!」
目に入った血を拭こうと、男はナイフを地面に捨てた。

「俺の血は、柑橘より目に効くぜ・・」

九乃助は、低い声で言った。
体の向きは、そのままで、足を後ろに目掛け大きく蹴った。
バゴッ!!
男の顔面に入った。
感触で、九乃助は解った。
そして、男が気絶したか振り向いて確認せず、自分の愛車の方に向かう。
もう、この男の顔は見たくなかった。

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時間は、午前の3時になった。
レビンの症状は良くなり、4人は安心していた。
インプレッサで送り出した豪は、見舞い品を置いて去った。
武田は、キエラに追い出され気味で帰る。
純太、キエラは随分、心配してたせいか、看病しながらレビンの部屋でそのまま眠り込んだ。
よっぽど、疲れていたようだった。

しかし、アパートに戻ったレビンにまた悪夢が襲う。
具合は、良くなったが精神的な面が、まだ良くはなかった。
悪夢への恐怖が、悪夢を生んだ。
「うっ・・」
ベッドの上で、魘されている。
また、彼女は苦しんでいる。
夢の内容も、また同じ。
どうしようもない不安が、彼女を襲う。
一人での葛藤が始まっていた。
しかし、そんな時・・。

「おわっ!キエラ、こんなとこで寝るな!!踏んじまうとこだったぞ!!」

悪夢の途中で、声が聞こえた。
この声は・・。
「純太も居たのか。踏んじまった・・。まぁ、いいか・・」
九乃助の声である。

「九乃助さん・・!」

そう言って、レビンは目を覚ました。
悪夢から、目を覚ましたのだ。
ベッドから、レビンが起き上がった。
「あっ・・」
起こしてしまったかと、九乃助は焦った。
「悪い、悪い・・、今、帰って来たんでよ・・。ちょっと様子見に・・」
と、笑って謝罪した。
それを見ると、さっきまでの悪夢が、彼女にはどうでも良くなってきた。

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見舞い品のリンゴを、九乃助は食べやすいように切っている。
皿に置いて、フォークに刺した。
「こいつら、遅くまで看病してたみたいだな・・」
と、九乃助は、眠っているキエラ、純太を見て言った。
「本当に、嬉しいです・・」
と、レビンは言う。
「あたしのために・・」
キエラ、純太、豪、武田が、こうして自分のこと心配してくれるのが、堪らなく嬉しかった。
みんなが、ここまで、心配してくれるのが。
今までのことと、このことを考えると、彼女には自然と涙が出て来る。
過去と比べられないくらいの優しさに。

「おいっ・・」
急に、レビンは泣き始めた。
それに、九乃助は驚いた。
これで、彼女が泣き出す目に合うのは2回目。
「泣くなっつの!!泣くな!!こら!!」
自分が泣かせたみたいで、九乃助は困った。
それでも、泣いている。
「ったく・・」
とりあえず、九乃助は泣き止むまで、彼女の傍に居た。
傍に居ながら、泣きじゃくる彼女の肩に手を掛けた。
その状態を、ずっと続けた。

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泣き出してから、だいぶ時間が経っていた。
しばらくすると、彼女は泣き止んだ。
パジャマの袖が、濡れていた。
泣き止んだ彼女に九乃助は、ティッシュペーパーを3枚渡した。
「ありがと・・」
それを受け取って、レビンは礼を言いつつ鼻をかんだ。
鼻が赤くなっている。
物凄く泣いたせいか、だいぶ、彼女は落ち着いていた。
窓を見ると、明け方の空模様であった。
まるで、彼女の心のようであった。
薄暗い夜空に、太陽が出ている。

「ごめんなさい・・、こんな遅くまで・・」
と冷静になったレビンが謝った。
さっきまで、取り乱れて泣いた姿を見られたせいか、彼女は気恥ずかしい気分である。
彼女の様子を見届けた九乃助は、立ち上がった。
「また悪夢見るようだったら、何度でも呼べ。何時でも、何処に居ても、アフリカに居ても、宇宙に居ても、地獄に居ても悪夢を覚ましてやるよ」
そう言って、レビンに背中を向けた。
九乃助の背中を、レビンはやけに大きく感じた。
まるで、自分の本当の父親のようであった。
もしくは、それ以上の存在に感じた。

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