少女がその写真
私は、写真が嫌いだ
あれを撮ると必ず、少女がその写真の中に入っているのだ
しかも見たこともないのである
だから、私はその怖い思いをしたくなくて
写真を撮る行事はできるだけ避け
どうして物場合は、出るだけ出て
写真撮影となると、急いでトイレやどこかへ避難した
しかしながらこれの一番やっかいなことは
私にしかその写真の少女は見えていないと言うことだ
物心が付いたとき
わたしは、母にその女の子がどの写真にも写っているのを発見して
騒いだことがあった
其れもまるで、大発明をしたようなのりであったが
母は、そんな私のはしゃぎようとは別に
酷く心配そうに私を見て
ついには、あまり良い記憶のない
病院まで連れて行ったが
私に異常が見つかることはない
其れで結局私は口をつぐみ
そのことは、私の中でとぐろを巻いたように
居続けるのである
学校は良かった
まだ、理由が付けられた
しかし、社会では、理由など合ってもないようなもの
特にこんな話では、どうにもならない
幸いか、会社ではそのようなことは
殆ど気がつくものも居なかったし
大体、居ても騒ぐような大人は少ない
でも、恋愛は違う
私は今そのことをはなせずにいた
だから、彼の写真はあっても、私自身の物は
一枚もない
ある晩、私たちは少し高めのフランス料理屋にいた
其れは高級品などは出なかったが
味は其れには劣らない物があると噂であり
肩に力をあまり入れなくてもいいような
アットホームよりな
ごちゃごちゃと整頓されているような店内であった
「美味しかったね」
彼は言う
私が雑誌の取材で、訪ねたときに前から来たいと思っていたので
ちょうど良かった
「うん」
私たちは並んで歩く
もう夜の九時で、辺りはだいぶ冷え込み
みな、コートを羽織っている
「実は、話があるんだ」
彼は言った
ふと星が見たくて空を見上げたが
曇りで見えない
私はそのまま彼の方を向いた
「何」
「家に来てくれないか」
今まで一度も誘われたことはない
どういう風の吹き回しだろうか
もしかすると結婚もすることもなく
ただ、年老いていくのではと
心配したほどだった
でも、今日はどうなのか
エレベーターが、静かに、あがる
私は彼を見るが
どうもそわそわしているように見えなくもない
ただ無表情ではないが
余りなかみが見えないような人だ
それでもそう思うのは
十年以来の知り合いだからか
部屋にはいると
エアコンをつけて
ソファーに案内された
彼は私が座るのを待って
向かい側のいすに座って
手を膝の上でくんだ
まるで祈りをしているように見えるが
何かを悩んでいるのだろう
「」
時間ばかり過ぎる
エアコンの音が部屋の中で唯一聞こえる音だ
「ぼくはきみがすきではないんだ」
彼は顔を上げると
そう言った
「でも、ぼくは君から離れられない」
何を言っているのだろう
・・・よく分からない
でも、離れられないって
「君は、こんな女の子を知っているかい」
彼は、胸元からクリアファイルを出すと
中から一枚の紙を置いた
「・・っ」
其れを見たとき私は床が消えたのかと思うほど
驚くというか
感覚が鈍る其れはあの写真に写る少女だった
「彼女綺麗だろ」
男は言う
「僕もはじめは、信じられなかった
でもいつの間にか、僕は彼女のことが・・・
なあ、どうすればいい」
私は何か警告を頭の中でならしている気がする
彼が立ち上がった
いつの間にか
その手には、ながいものが握られていた
包丁だ
私がそう思ったとき
彼がこちらを見た
「もうやだ、君と一緒にいる彼女のために
どうして僕は君と一緒にいなくちゃいけないんだ
僕は彼女が、彼女が
もうがまんができないんだ
君が居なくなれば
君から離れるだろう
そしたら僕はあの世で、彼女と」
そのとき私は、何かが前を歩くのを見た
其れは後ろ姿で
そして其れを見たことがある
しかし、実際に見たのは
これが始めてであった
それは、彼に近寄る
彼は見えていないらしい
その小さな腕が
彼の首を絞める
首から上の色が変わる
しかし私は、動けない
自分の意志か
金縛りという奴なのか
単なる腰が抜けたのか
ふと目眩がして
そのまま気を失った
翌日私の元へ警察がきた
なんでも、彼が橋の上から飛び降りたとか
其れには目撃者もいるらしい
でもおかしな事に、死亡推定時刻が
死んだ時間よりも前だというのだ
見解としては、別人なのか
それとも、飛び降りた彼が流れ着いた場所が
工場の暖かい廃棄水が流れる場所だったせいなのか
結局に三日事情聴取を、取られた後
彼らが、来ることは二度と無かった
それでも、今でも写真を撮ると写る彼女は
一体、何なのでしょうか