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追話 約束

「ままならぬなぁ」

「ままなりませんねぇ」

 いつものやり取りだ。

「余が思うに、カール王子は優しすぎるのだ」

「優しくなければ、走り遂げることは出来ませんでしたよ?」

 二人で浮かべる苦笑い。

 これもいつものやり取りだ。

「ままならぬなぁ」

「ままなりませんねぇ」

 全くもって人の心はままならない。

 自らの生み出す罪悪感から逃れる術など無い。

 あのスケルトンくんことミハイル・ヤロスラヴィチもそうだった。

 世界の融合が訪れるその以前から、ずっと、ずっと、長い時間を自らの仕出かした大罪に苦しんでいた。

 自己保存の欲求、自己増殖の欲求、さらに強い罪悪感の苦悩が、自らの死を赦さなかった。

 享楽的でゲラゲラと笑う、空元気の集団。

 中身が空っぽなだけにお似合いだ。

 私を同類と一瞬で見抜いた洞察力、さすが元は優秀な軍人さんだっただけのことはある。

 そんな一人である彼等が塩の混じった湖の中で、私にこう言ったのだ。

「俺を破ったカール・グスタフよ!! 頼みがある!! 虫の良い頼みだが、他のミハイル達にも俺達と同じように終わりを与えてやってくれ!! 今でも、俺は苦しんでいるんだ!! だから、頼む!! 頼んだぞ!! 戦友よ!!」

 約束されてしまった。

 一方的に。死人から遺言を託された。死人の遺言、なんて悪い冗談なんだ。

 怒りは一時でも後悔は永遠に。

 脳は記憶を無くしても魂魄はそれを許さない。

 罪悪感のために生きることはできず、罪悪感のために軽々しく死ぬことも出来ない戦友が、この世界のいたるところで救いの時を待っていた。

 だから、俺は旅発たなければならない。

 周辺諸国のヘイトも買いすぎた。

 ドラゴンに乗った少年など私とアーサーくんしかいないのだから。いずれはバレる。

 人の噂も七十五日、数年経てば記憶も薄れることでしょう。

 マリア王女……いや、マリアの臨月を待ったのは、私のわがままだ。

 産まれた赤ん坊を目にしてしまえば決意が揺らぐ、でも、その肌の温もりから離れることも出来なかった。

 先生の見立てでは男の子と女の子の双子だそうだ。

 母子になんらかの事故があったときには医療サービスが働くようにお願いをしておいた。

「カール様、御発ちになる前に、子供の名前を決めていただけませんか?」

 「寝取られ号」に跨った俺と、どうしても離れない姪っ子を連れ、これから俺は旅に出る。

 無駄に増殖した戦友に引導を渡すためにだ。

 だから、父として考えておいた取って置きの名前を授けた。

「男の子にはカール。女の子にはシャルロットだ。きっと仲睦まじい兄と妹になるぞ!!」

「む~、カール様! あの野生児と同じ名前だなんて娘が可哀想ですわ!!」

「ははは、そう言うな。では、子供達よ! せいぜい暴れまわってマリア達を困らせるんだぞ!! とくにマクシミリアンの方を重点的になっ!!」

 何の因果かヒルダの側も男の子と女の子の双子なので、あとでバレたなら、とっても楽しいことになるだろう。

「では、飛べっ! 向かうは東だ! ガンダーラだ!」

 「寝取られ号」が飛び立ち、数秒もせずにマリアとマクシミリアン陛下の姿は見えなくなった。

 そうして見えなくなってから、マリアは涙と共に崩れ落ちた。


 すまないな、マリア。これが君の愛した男の生き方なんだ。



「我が主カールよ。東の地へ向かう前に、ちょっとしたことを告げておかねばならぬのだ」

「なんだい? 「寝取られ号」よ」

「我も一万余年と長く生きているのでな。「日本語」も嗜んでいるのだ」



 …………………………………………………………………………ごめんなさい。


Q3:END NEXT:Answer

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