第4話 怪しい転校生
田茂百合というアイドルが人気らしいです。
「へぇ?」
今日は二日目です。今日から授業も本格的に始まります。なので、優等生な僕は早起きして、部屋に鍵をしていたのになぜか隣にいた諏訪さんに驚きながらも起こし、既に準備してくれていた朝ごはんを一緒に食べ、登校しました。
教室に入ると数人の男子が雑誌を見ながら興奮していたので、そういう雑誌なのかと思いこっそり見たら、アイドル雑誌でした。…………別に残念じゃないですよ?
「歌って踊れて、しかも演技力も新人女優賞をとるほどの期待の新人。それが百合ちゃんだ! しかもスタイルも抜群に最高で、もう神だ! くぅー、こんな子と付き合ってみてぇよ! お前は関係ないがな! 死にやがれゲス野郎!!」
「なんなんだよ!?」
僕はいきなり怒りだした男子生徒から離れます。
でも僕はしっかりとそのアイドルの載っていた雑誌を見ていました。
「確かに可愛かったな……」
歌っているときに撮られた写真だったのでしょうか。きらびやかな衣装を身に纏い、髪をツインテールにした美少女が笑顔でマイクを持っていました。
「……存さんはこのような女性が好みなのですか?」
少しトーンの低い声音で諏訪さんが言いました。若干、表情もムッとしています。……どうしたのでしょう? さっきからなぜか機嫌が悪そうです。
「私の方が可愛いです」
確かに可愛いので反論できません。というかわざわざ言わなくてもいいのに。そんなこと分かりきっていますし。
その時、諏訪さんが僕の手を握ってきました。
「え、あ……」
顔が赤くなるのを感じます。彼女の気持ちは本当に嬉しいのですが、なぜか素直に受け入れられません。やはり、なにかの冗談ではないのかと心のどこかでまだ疑っているからかも知れません。
「存さん」
僕を真正面からしっかりと見据えて、諏訪さんは言いました。
「今から保健室に行って、いつものお医者さんプレイをしましょう」
「えぇ!?」
「いつものだとぉ!?」
僕の絶叫を欠き消すように、教室にいる全ての男子が僕を睨みながら叫びました。
「ツッコムとこそこじゃないでしょ!? それにそんなプレイしたこともない!」
「昨日四回もしたじゃないですか!」
「してないよッ! ってかなんで四回なの!? あたかもあったかのような反応しないで!」
「他にどんなプレイしたの?」
冷静を装いながらも興味津々なのを隠しきれない眼鏡の女の子が聞いてきました。
「初めて会ったその瞬間にSMプレイをしました」
「僕の人格を否定するような発言はやめてッ!!」
「ほら、席につけ」
そこで先生登場です。このクラスを受け持つ担任の飯島佑樹先生です。
「山羅も、変態プレイが好きなのはわかったから黙れ」
「勝手に決めつけないでください!」
「勝手ではない。状況的判断から論理的思考で過程を想定し、結果を履行することで答えを導き出しただけだ」
「…………な、なんて流れるような……って違うよ! 全然違うよその推理! 矛盾があるさっきの『状況的判断』は! だって僕なにもしてないもん!」
「では朝のHRを始める」
「待って! うやむやにしたまま終わらせないで!」
僕の抗議はまるで死刑判決が決まった死刑囚が最後のあがきをしている醜い場面のように、誰もが関心ありません。
「…………あのー」
僕が諏訪さんに、『これであなたは私の愛の虜囚ですね』『な、なんでそんな結論に……うわぁ離れてよ!』とキスを迫られそうになっていると、そんな控え目な声が聞こえました。
「え?」
見るとそこには。
「えぇ!?」
変な帽子と大きなマスクに真っ黒なサングラスを掛けたとても怪しい人物が!!
「先生! 後ろに不審者が!?」
「ん? 俺に憑いてる悪霊が見えるのか?」
「悪霊!?」
僕は逃げ出そうとしましたが、冷静に考えると冗談に決まっていると改め、席に座り直しました。
「先生、その人のどこが悪霊なんですか?」
「はぁ? この子は転校生だ。悪霊なら、ほら、今は山羅の頭の上で『殺してやる』と何度も呟いてるぞ」
「キャーー!!」
僕は大きく退け反りました。……あ、あれ? なんでみんな冷静なの? 悪霊だよ?
「…………座りなさい」
「…………はい」
その優しい声に泣きそうになりながらも、僕は静かに座り直しました。
そんな僕を無視するように、転校生の紹介が進められます。
「紹介しよう。真中百合さんだ」
二日目なのに転校生で、ものすごーく怪しい格好ですが、クラスのみんなは、
「よろしくね!」
「さっそくだけど、質問タイム!」
「ねぇ、名前からして女の子なの?」
「趣味は?」
「どこから来たの?」
「山羅を殺したいと思う?」
と意外に友好的に質問しています。……なにやら不穏な質問が含まれていましたが、気のせいでしょう。
「山羅をぶっ殺したいと思う?」
「山羅をブチ殺したいと思う?」
「山羅を惨たらしく殺したいと思う?」
「山羅をグロテスクに殺したいと思う?」
いい加減しつこいぞテメェら。
「あ、あの…………、ぁ」
声からして女の子だと思われるその人は、なにかを言おうとして固まりました。目が合ったかはサングラスでわかりませんが、僕と向き合ったまま動きが停止しています。
「タモ………くん?」
「タモリ!?」
タモくんとは僕のことでしょうか!?
「タモくん……だよね?」
「あ、いや……僕はタモくんじゃないよ。山羅存だよ」
「私は山羅日登美です」
「違うでしょ!?」
妻ですとか夫婦ですとか諏訪さんが嘘を説明するのを必死で否定するも、お揃いの手錠をしている僕達を見てなにを思ったのか、
「……そっか」
となにやら納得されたような雰囲気が!?
「ま、待って! ナニカを納得したみたいだけど勘違いだと思うヨ!? 僕はノーマル! 諏訪さんがアブノーマル! だから中和され…………ない!? しまった! アブノーマル度が高すぎる! ……って違うだろ僕!! 僕個人はノーマルなんだ! 二人合わせたらアブノーマルに決まってるじゃん!」
ドツボにはまっていきます!
「あ、違います違います! ただ……」
ぶんぶん手を振って真中さんは、
「ただ……」
キィーンコォーンカーンコー……ぶぁっくしょい! ちくしょうめ!
「なにコレぇ!?」
チャイムとクシャミと謎の声。誰かが口でやってるの!? まさか昨日から感じてた違和感の正体ってこれ!?
そんなこんなでチャイムで授業が始まり、真中さんの、ただ……、の先を聞くことができませんでした。
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