山羅くんの不幸(68/69)PDFで表示縦書き表示RDF


今回から短編です。
なお、今回のは山羅くんと日登美が家ではどんな感じなのかをストーリーにしました。

それから短編ですので、一話の話が『長っ!』と感じたり逆に『短っ!』と感じたりしても笑って許してください。
山羅くんの不幸
作:紫水晃



第55話 山羅家の一日


 



「存さーん。夕食できましたよー」

 日登美の声と扉を叩く音が聞こえてきたので、僕は宿題をしていた手を休めて顔を上げます。

「今行くよー」

 うーん、と伸びをして椅子から立ち上がります。続きは夕食の後にするとしましょうか。

 部屋の扉を開けると、日登美の笑顔がすぐに目に入ってきました。学生服の上からエプロンを付けているその姿は最初は変にドキドキしていたものですが、最近になってようやく慣れてきました。

 一度、日登美からこんな提案をしてきたことがあります。

「存さんが望むなら裸にエプロンもしますよ?」

 それに対し、

「そんなことをしたら君を追い出す」

 と僕が返してからはこの話題は二度としてきませんでした。……え? 別に残念じゃないですよ!

 一階に降りて台所に入ると、食欲をそそらせる良い匂いが鼻孔をくすぐってきました。

「今日の夕食のオカズはなんなの?」

「野菜の山羅スペシャル炒めです」

「へぇ。今日は野菜炒めなんだね」

 山羅スペシャルに関しては無視しても結構です。

 他愛ない雑談をしながら二人で食事をします。『今日は桐花から逃げていたら隠れ場所を教えてくれて助けてくれたけどすぐに裏切りやがったね』『裏切っていません。桐花さんが昔の存さんの写真をくれると言うので喜んで教えただけです』『それを裏切ると言うんだ!』などなど。

 食事も終わり、ふぅ、と一息吐きます。日登美の料理は、ものすごく、とまではいきませんが、それなりに美味しい部類に入ると思います。好き嫌いがないからいつも綺麗に平らげている僕を、日登美が本当に幸せそうに見てくるので、なんだか気恥ずかしい気分になります。

「あ、存さん。置いていてもらっても良かったですのに……」

「いーや、何度も言うけどこれだけは譲れないよ。君に何事も任せっぱなしにするのはダメだからね」

 食器を片付けようとする僕に日登美が制止の声を掛けてきましたが、僕は笑って首を横に振ります。

 食器を片付けると、風呂が沸いているということで一番風呂を浴び、風呂が空いたことを日登美に伝えて自分の部屋に戻ると宿題を再開します。

 そしてちょうど宿題を終えた頃、日登美が部屋にやって来て『それでは今から寝ますね』『うん。また、明日』『はい。お休みなさい』『お休み』というやりとりをして、僕もそろそろ寝ようと部屋の電気を消し、ベッドに横になります。

「……………………」

 豆電球の明かりを静かに眺めながら、僕は一人涙を流します。

 長かった。……本当に長かった。と、積年の努力がようやく成就されたことに喜びを噛み締めているのです。

 さっきまでの日登美との一連のやりとりは、なにも最初からあんな感じだったわけではありません。最初の頃は、こいつどうしてくれようか、と頭を何度も抱えるほどのどうしようもなさだったのです。

 ……では、それがどんな感じだったのか。今回のお話は、日登美が僕の家に来た頃の山羅家でのやりとりを語るとしましょう。



……………………………



〜登校前〜


 朝起きると、隣で諏訪さんが眠っていた。

「なんで!?」

 僕はガバッと飛び起きるとベッドからすぐさま離れ諏訪さんから距離を取ります。そして改めて左手首を見て、鎖で繋がれていないことに安堵の息を吐きます。昨日、泉水が手錠を釘バットで断ち切ってくれたのは夢ではないようでした。

「…………あ、おはよう……ございます……」

 僕が慌ただしく動いた音に目が覚めた諏訪さんが、目を擦りながら体を起こしました。

「き、君なんで僕の部屋にいるの!?」

 その当然の疑問をぶつけると、なぜか諏訪さんは困惑の表情を浮かべました。

「……え? 存さん、昨日の夜のこと……私に言ったことを覚えていないのですか?」

「へ? な、なにを?」

 僕の記憶では、昨日の夜は一緒に眠ろうと提案してくる諏訪さんを必死になってやめてもらうよう説得していただけのはずですが。

「存さんが私に言ったのですよ? 『一緒に寝てくれないと今から警察署に行って婦警さんに服を脱ぐよう強要しながら自分も服を脱ぎだすよ』……と」

「言わないよそんなこと!? というかなんで警察署まで行ってそんなことをする必要があるのさ! 捕まってくれって言ってるようなもんじゃん! よくもまあふざけたことを思い付くね君は!」

「あ、ありがとうございます!」

「褒めてないよ!?」

 出てけー! と諏訪さんを部屋から追い出し、肩で息をしながらとりあえず制服に着替えることにしました。

 着替えを終えて部屋を出ると、諏訪さんが笑顔で僕を迎えてくれます。

「存さんのエッチな本の隠し場所はベッドの下なんですね」

「げぶふっ!!!???」

「定番ですね。もう少し隠し場所には気を使わないと他の誰かにバレてしまいますよ?」

「……だ、黙れぇーっ!! 君にそんなことを心配される必要はなーい!!」

 あまりもの恥ずかしさに激昂して怒鳴りつけてしまいます。しかし諏訪さんはこたえた様子はなく、笑顔で付け加えます。

「安心してください。存さんがお姉さん系の本しか持っていないことは誰にもバラしませんから」

 なぜでしょう。今日にでもバレてしまうような悪感がするのは。

 それは気のせいであってくれと願いながら一階に降り、それなりに美味しい諏訪さんの朝食に舌鼓を打ちます。

「……あの、美味しいですか?」

 若干不安そうな表情を浮かべています。……なるほど。さっきから箸も手につけず僕をじっと見ているのはそれが原因か。僕は諏訪さんに満面の笑みを向けて嘘偽りなく答えました。

「うん、美味しいよ」

「……よかった」

 ほぅ、と安堵の息を吐きます。

「隠し味を入れたのですけど……その調味料と他のを間違えていたかも知れなかったので安心しました」

「へぇ、隠し味かぁ。ちなみに、なにとなにを間違えそうになってたの?」

 味噌汁をすすりながら尋ねます。隠し味がなんなのか気になるし、なにと間違えそうとなったのかも気になるので一石二鳥の質問をしたのです。

 諏訪さんは嬉しそうな笑顔を浮かべて教えてくれました。

「はい。コカインとヘロインです」

 それは入れる前提からして間違えてる。

「げぶふぁっ!!!? なんてものを食わせるんだァ!?」

 盛大に噴き出します。咳き込みながらも諏訪さんに怒声を浴びせました。

「ほんの些細な間違いじゃないですか!」

「些細!? 些細だとっ!? 料理で調味料と調味料を間違えるならまだしも麻薬と麻薬を間違えるなんておかし過ぎるだろ! というかそもそも入れようとすること自体が間違いだし麻薬を調味料として認識してる時点でもう常識を間違えまくってるよ!」

 あとついでに、それを平気で僕に食べさせているところでも人として間違えてる。

 怒り心頭の僕でしたが、このあとすぐに諏訪さんから『冗談ですよ』と聞かされるとすぐに怒りも霧散しました。……冗談ぐらい笑って許せる僕の懐の広さが、後に諏訪さんの冗談好きを加速させることになるなんてこのときの僕は気付きすらもしなかったのです。

 そんなこんなで朝食も食べ終わり、お弁当も作ってくれているということで諏訪さんにありがとうと感謝を述べてそれを鞄に詰め、僕達は揃って学園へと向かいました。



……………………………



〜帰宅後〜


「し、……死ぬかと思ったぁ……」

 九時も近くなった頃、僕はようやく我が家へ帰ることができました。体のあちこちには擦り傷ができていますし、制服はところどころ破れています。疲労困憊といったていで、扉を開けると倒れこむようにして玄関に入ります。

「あ、存さんおかえりなさい」

 僕を死にそうな目に遭わせた張本人がのほほんと姿を現しました。

「………………」

 一瞬怒りが芽生えましたが、溜め息と一緒に内側から吐き出すと『ただいま』と言って靴を脱ぎます。

「夕食とお風呂、どちらを先にします?」

 諏訪さん……じゃなくて日登美にそう聞かれ、僕はお腹がかなり空いていたので夕食を優先することにしました。

「じゃあ、夕食で」

「夕食は作っていません」

「選択肢の意味は!?」

 なんなんだこの人。僕は深ーい溜め息を吐くと、先にお風呂に入ることにしました。

「……もういいよ。先にお風呂に入って後でラーメンでも食べるから」

「わかりました」

 とぼとぼと自分の部屋に向かい、着替えを持って風呂場へ目指します。

「…………?」

 なぜだろう。さっきから日登美が自分の着替えの服を持って僕の後ろにピッタリくっついているのは。

「……なに? どうしたの?」

「今からお風呂に入るのですよね?」

「そうだけど……」

「私と一緒に入るのですよね?」

「なんで!? そんなこと話題にすら上がってないだろ!」

「全身隅から隅までくまなく丁寧に洗って差し上げますよ?」

「そ、そんなことしなくていいから!」

 一瞬心が揺らぎましたがなんとか悟られずに否定します。

 そして風呂場前での押し問答は、僕が日登美の不意を突いて風呂場にすぐに入り、扉に鍵を掛けるまでの三十分ほど続きました。

 風呂から出ると、頬を膨らませた日登美が視界に入ってきました。それから無精無精といった感じで僕と入れ替わるように風呂場へ入っていきます。僕は勝ち誇った笑みを浮かべて台所へ向かい、買い置きしてあるカップラーメンを食べ始めました。

「……………………」

 微かに聞こえてくるシャワーの音になぜかそわそわしてしまいます。落ち着かない気分になりながらも、ラーメンをすすって気を紛らわせました。

 やがてシャワーの音がやみ、しばらくして扉の開く音が聞こえると足音がどんどん近付いてきました。

「今、上がりました」

 その声に、内心の動揺をおくびにも出さないよう気を付けながら振り返りました。

「ああ、うん――ってなんじゃそりゃぁァアア!?」

 日登美の姿を見て僕は思わず叫んでしまいます。

 なんと! 日登美はバスタオル一枚というとんでもない格好でそこにいたのです!

「さっき着替え持ってたじゃん!?」

 なんでそんな格好を! とツッコム前に動揺からか先にそれからツッコンでしまいます。

 すると日登美は頬をポッと赤らめると、

「……では、今から一緒に寝ましょうか」

「無視!?」

 今度は僕の部屋の前できわどい格好の日登美との押し問答が繰り広げられました。



……………………………



 ……というような毎日が二週間ほど続き、最近になって僕の努力も実を結んだのか、日登美もおとなしくなったものです。

 とまあ、長くなりましたが。そんな回想の旅は終えて、さっさと寝ることにしまょうか。

 ふぁ……ぁ、と欠伸をすると、ようやく得られた安眠を噛み締めるように静かに目を閉じ、深い眠りの奥底へと沈んでいきました。





 ……そういえば、時を同じくして日登美はよく部屋に閉じ籠るようになり、ときどき日登美の部屋の前を通ると中から『……二億アクセス突破……さすが存さん……』という怪しげな声が聞こえるようになったのですが……それはまた別のお話としましょうか。






(第56話へ)


 
 
山羅「今回からやっと短編が始まったね」

日登美「私の出番はまだですか!」

山羅「今回たくさんあったよね!?」

桐花「私の出番は!」

山羅「なくていいよ――待ってそれはさすがに僕も死ぬごぶふぅ……」

桐花「次回はもちろん私の出番よね、作者?(返り血を浴びて凄絶に笑う)」

は、はい……! もちろんですとも!

日登美「私の出番まだですかは!」

今回さんざんあっただろ!

日登美「まだまだ足りません! もっと出してください!」

……で、でも新キャラが、

日登美「……(桐花ばりの殺意に満ちた目をする)」

わかりました! それは約束しますので新キャラの登場もさせてください!

日登美「……約束ですよ?」

はい!



……ということで、次回は桐花さんのお話をさせてもらいます。











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