第51話・トリプルデート?【百合編】 満足するまで
《PM05:00》
目を覚ますと、目の前にゾンビがいました。
「これなんてホラー!?」
僕は驚愕で跳ね起きるように体を起こしてしまい、僕の顔を横から覗き込んでいたゾンビの顎に頭部をヒットさせてしまいました。互いに『『痛ッ!』』と苦悶のうめき声を上げ、僕は頭を、ゾンビは顎を押さえて痛みを堪えます。
「うぅー……。タモくん痛いよー」
「あれ? その声は……もしかしてユーちゃん!?」
後ろを振り返り、すぐに納得します。確かに顔はゾンビですが、首から下はユーちゃんが着ていた服なので間違いないでしょう。
「な……ご、ごめんねユーちゃん! 大丈夫っ?」
なにその顔!? とツッコミをいれようとしてすぐにやめます。謝るより先にツッコミをいれるのは人としてどうかと思ったのもありますが、なんというか、今日一日で何回ツッコミしたんだろう、という考えが一瞬脳裏をかすめ、なんだか無償に哀しくなってきたのが理由です。
「う、うん。私は大丈夫。タモくんも頭、大丈夫?」
「僕も大丈夫だよ。……というか、その顔はどうしたの?」
気になって結局ツッコミをいれてしまいました。この瞬間、『嗚呼……僕は、……ツッコミキャラ……なんだな……』と自分がツッコミキャラだと認めた貴重な瞬間でもありました。
「……えーと、タモくんが、その、さっき気絶したでしょ?」
僕は、あっ、と思い出します。そういえば、僕はメリーゴーランドに一万円を……! じゃなくて、そのあとそのあと。えーと、馬に跨ったら、…………。まあ、以下省略して。僕はその光景に気絶してしまったのですよね。そこまでは分かります。
「ゾンビの皆さんも『まさかこれに一万円を使って乗る人がいるとは思わなかったし初めての客だからつい調子に乗ってやりすぎたよ。ごめんね』ってこの被り物をくれたの」
「へぇー。じゃあそれを被っているということは、僕に対する嫌がらせだと受け止めてもいいんだね?」
僕がニッコリと能面のような笑顔を向けると、アハハ……、と引きつった笑みを浮かべながらユーちゃんがゾンビの被り物を外しました。
「た、タモくんも気絶してたし、少しだけ被ってみようかなぁ、なんて興味本意で被っただけなんだよ? 本当だよ?」
それにしては僕がお化け屋敷に入ってからよく意地悪をしてくるような気がしますが、ここは深く言及すべきでしょうか?
「……まあ、いいや。それで、ここはどこなの?」
とりあえず状況を確認しましょう。まだお化け屋敷の中にいるのは辺りの薄暗さを見れば分かりますが、気絶する前には近くにあったメリーゴーランドが今は近くになければ墓石もありません。
「お化け屋敷の出口前だよ」
「えっ? もうそんなところにいるの? ということは……もしかして、ユーちゃんがここまで運んでくれたの?」
「え、あ、違うよ! えーと、……そうっ! ゾンビの人達がタモくんを担いでここまで連れてきてくれたの! 別にタモくんの中に悪霊が入って動かしてくれたわけじゃないから安心して!」
ど、どどどうしよう! ここはツッコムところなのかな!?
ユーちゃんの言動には信用すべきか信用すべきではないかの境界の曖昧さを感じるも、僕はツッコムべきではないと判断し、スルーすることを決めました。
「……うーん。結局、お化け屋敷もあまり楽しめなかったなぁ」
叫んでわめいて気絶して。情けないところをユーちゃんに見られただけの散々な結果になってしまいました。数々の醜態を晒してしまい、自分が恥ずかしくなってきます。
「…………?」
はぁ、と溜め息を吐いて何気無く腕時計を見たときでした。僕は思わず目を擦り、もう一度まじまじと見ます。
「え……嘘だろっ?」
あぐらをかいて座っていた僕はその事実にバッと立ち上がります。中腰で座っていたユーちゃんも一緒に立ち上がると、首を傾げて僕を見てきました。
「どうしたのタモくん?」
「これ見てよユーちゃん! もう五時過ぎだよ! このままじゃあ遊ぶ時間がなくなっちゃうよ!」
腕時計を指で差して事の重大さを伝えます。しかし、ユーちゃんは更に首を傾げて疑問を浮かべるだけです。
「だから、もったいないでしょ? せっかくここまで来たのに少ししか遊んでないんだから。移動時間を考えるとさすがにもう全部のアトラクションを回ることはできないけど、満足するまで楽しもうよ!」
それに、まだユーちゃんは一回も満足に乗り物には乗ってないし、このお化け屋敷ではそれほど楽しんでないのです。せっかくの休日なのに僕のせいで台無しにするのは心苦しいです。
……まあ、僕も本心では今まであった嫌なことを一時でもいいから忘れたいという気持ちも確かにあります。でも、それ以上に“ユーちゃんと一緒に楽しみたい”という気持ちの方が断然強いです。
「……うん、そうだね。それに、私もタモくんと一緒にもっと楽しみたい」
どうやら考えは同じのようです。
「そうと決まれば、さっさとここを出て次のアトラクションに行こう!」
僕はユーちゃんの手を握ると、引っ張るようにお化け屋敷から出ていこうとします。
「あ、タモくん」
「なに?」
「タモくんに憑いてる悪霊の名前、興味ある?」
「へ? ……まあ、あるにはあるけど。どうしたの急に?」
「――『アフリマネス』だよ。覚えててあげてね」
「???」
なにがなんだか分かりませんが、一つ頷いてみせると、ユーちゃんはちょっと複雑そうな表情をしてブツブツと呟きました。
「…………まさか悪霊までも虜にするなんて、タモくんってホントに……」
なんか僕に対する不平不満を言っているようですが、できれば本人の前でするのは遠慮してほしいです。
僕なにかしたっけなぁ、と内心首を傾げながらも、僕達はお化け屋敷から出ました。
……………………………
その後、僕達はいろんなアトラクションを楽しみました。水の上を滑走する乗り物『ウォータークラッシュ』に乗り、
「うわ、スッゴい! 左右に弾けたはずの水があらゆる物理法則を無視して僕に向かってくる!? なんだよコレ! 意思を持ってるとしか考えられないよ!」
となぜか僕だけびしょぬれになったりしましたが、隣でユーちゃんの楽しそうに笑う顔が見られたのですから良しとしましょう。
それから『スノー・ウォーズ』というアトラクションでは、人工的に積もらせた雪を使って敵と雪合戦をしました。
「子供向けだと思ったけど、大人の人もちらほら見えるね。えーと、ルールでは事前に渡された手袋の色で敵味方に分かれるみたいだけど……あれ、おかしいな。辺りを見回しても赤の手袋をした人しかいないや。僕は白なのに……え? ま、待って! 係員さんッ! 白は僕しかいないよ!? なのにどうしてスタートの合図をするんですか!? って、速ッ!? 一瞬で囲まれた!? ま、待ってください皆さん! 大人数が(見た目は)女の子一人に雪を当てる図は道徳的に問題ないですか!? 一斉に僕に向かって投げる構えをしないでください! いくら雪でも当たるとイタ――痛いッ!? 痛すぎる!? ちょマジ待って! なんでこんなに痛いの!? あ痛ッ! 痛い痛い! 痛……って、あぁぁあっ!! 僕に当たって割れた雪玉の中から石がでてきた!? 誰だこんな悪質なことをしたのは!? ……え、えぇぇえぇ? なんで皆さん頭下げるんですかっ!?」
僕以外の全員が敵という理不尽すぎる戦いは、僕以外全員の反則により勝利を納めました。……つまり、ユーちゃんまでもが雪玉に石を入れていたということ……!
「ち、違うの! 雪玉は渡してもらったものだから中に石が入ってるなんて知らなかったの!」
というのがユーちゃんの弁です。……もちろん、僕はユーちゃんのことを信じていますが。
その他にもいろいろなアトラクションを体験しましたが、どれもこれも楽しいものばかりでした。途中、ゾンビちゃんとすれ違うこともありましたが、正体はバレていないようなのでホッとしました。
そうして遊び疲れてきた頃、辺りはすっかり真っ暗になっていました。
「はい、ユーちゃん」
売店で買ったアップルジュースをベンチに座っているユーちゃんに手渡し、僕もその隣に腰掛けます。
「ありがとう」
礼を言い、一口ジュースを口に含むと、コクリと咽下します。
「はぁー……。今日は久し振りにいっぱい遊んだなぁ。……当分は遊園地はもういいかも」
互いに苦笑のような笑みを浮かべると、揃って空を見上げます。今日は快晴だったので、数多くの星が目に映ります。
「……………………」
「……………………」
しばし無言となります。でも、それにしては気まずくもない心地の良い空間が僕達を覆っていました。
「…………ねぇ」
それを最初に破ったのはユーちゃんでした。
「最後に乗りたいのがあるんだけど…………いい?」
僕にそれを断る理由なんてありません。
「うん、いいよ」
そうしてユーちゃんが口にした最後の乗り物の名前は、意外でもなんでもない、僕ですらも予想できたものでした。
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