第50話・トリプルデート?【百合編】 ものすごく不自然
【第一ビビりポイント】
当然のことですが、お化け屋敷には客を驚かす仕掛けが数多く設置されています。
女の子ならそれに驚いてキャーキャー叫んでも可愛らしいものですが、男がしたらみっともないと冷笑され、『男のくせに度胸のないビビり野郎』という汚名を着せられてしまいます。これは絶ッ対おかしいです! 男だって驚いてもいいはずだ!
「ふ、ふんっ。だけど僕は大丈夫だもんね! 来るなら来やがれ! 僕は驚いたりしないぞ!」
「わっ!」
「ヒギャァァアアアア!? ……ってユーちゃん!? なにするんだよ!」
「タモくんが、僕は驚いたりしないぞ! って言うから……」
「だからって僕の耳元でするのやめてよ!」
まだバクバク動く心臓を押さえて歩いていると、どこからともなく女の人の声が聞こえてきました。
――……一枚…………二枚…………三枚……
「こ、これは……!」
僕は身震いすると、ユーちゃんと腕を組む力を内に引き寄せるように強め、前方を親の敵を睨むように見つめます。
これはまさしくかの有名な怪談『皿屋敷』の演出でしょう。その昔、奉公に出ていた下女の『お菊さん』が、自分に管理を委任されていた十枚揃えないと意味のない家宝である毒消しの皿のうちの一枚を、何者かにわざと隠されてしまい、紛失した責任として井戸に吊され責め殺されてしまうというお話です。
その日以来、その井戸からは夜な夜なお菊さんが皿の枚数を数える声が聞こえてくるのだそうです。
――……四枚…………五枚…………
「マズイ! このまま『九枚』まで聞いたら僕達死んじゃうよ!? クッ、ユーちゃんここは僕に任せて逃げるんだ! 大丈夫。僕は死んだフリをしてここを乗り切るから……!」
「タモくん、相手は熊じゃないよ!?」
混乱している僕をなだめながら、ユーちゃんは僕を引っ張って声がする方へと向かっていきます。ここを通らないと先へ進めないので仕方ないのです。
――……六枚…………七枚…………
僕達が前に進むにつれて声もどんどん近付いてきます。身を強張らせる僕に、ユーちゃんは安心させるように笑顔を向けてくれました。
「大丈夫だよタモくん。霊が生者に触れることは決して出来ないんだから」
それは、霊が見えるユーちゃんが言うからこその説得力がありました。
だけど……。
「……ただ、憑かれたら最後、生命エネルギーを徐々に吸われてゆっくりと病死させられるけど」
そんなこと聞きたくなかった……!
今現在進行中で悪霊に憑かれている僕としては気が気でありません。
――……八枚……
そうこうしているうちに声がすぐそこまで近付いていました。……そう。すぐそこの、大きな墓石の裏側から……!
僕は意を決して、ユーちゃんと一緒に覗き込みました。
「――……九枚…………おいコラ……十万しかねぇぞテメェェェェッ!!」
「ひぃぃぃぃぃすみません明日までにはお借りした残り十万円をお返ししますからぁぁぁ!!」
「えええぇえぇぇえぇっ!? 借金取りが万札数えてただけかよぉぉぉ!?」
どうやら借金取りの女の人が万札をゆっくり数えていただけみたいでした。皿屋敷とかまったく関係ありませんでした。
「ってかなんでこんなところでお金を招集してるんですか!?」
「うるさいガキ! てめぇには関係ないことだ!」
消えろ! と脅され、僕達はその場から足早に通り過ぎました。
「もしかして……今のがこのお化け屋敷の仕掛けじゃないよね?」
ユーちゃんが後ろをチラチラ見ながら疑問を口にしました。だとしたらこのお化け屋敷は『こわい』の種類を間違えています。さっきのは『怖い』じゃなくて『恐い』の方です。
「この遊園地なら有り得なくもないけど……。たぶん違うとは思うよ」
「……でも、さっきのはビックリしたよね」
「うん……。お化け屋敷で驚くのとは違う意味だったけどね」
……………………………
【第二ビビりポイント】
しばらく歩いていると、道の真ん中に『埋葬注意』と書かれた古い立て札が僕達を迎えました。
「な、なんだろうこの意味深な立て札は……」
もしかして埋葬されないように気を付けろよと注意を促すためのものでしょうか。だとしたら、誰に埋葬されるというのでしょう。僕は唾をゴクリと飲み込むと、立て札の側を通り過ぎようとして……、
「…………へ?」
足首に、誰かに掴まれたような感覚。僕は前へ倒れそうになりながらもユーちゃんにしがみついてなんとか倒れるのを防ぎましたが、僕はそのとき下を見てしまったのです。
……地面から生えた、青白い『手』が僕の両足首を掴んでいるのを……!!
「きゃああああああ!」
僕は女の子らしい悲鳴を上げます。僕の足がその手に掴まれていなかったら軽く一メートルは飛び上がっていたでしょう。腰を抜かして尻餅を着きそうになりながらもユーちゃんに助けを求めます。
「ゆ、ユーちゃん助けて! 手が、……手がっ!」
こ、このままじゃ下に引っ張られて土へと埋葬させられてしまいます!
「わ、わかったよ!」
するとユーちゃんはなにを血迷ったのか、僕の頭を何度も叩いてきました。
「痛ッ、痛いよ! なにするのユーちゃん!?」
「え、え? だって『手が、……手がっ!』って言うから、タモくんの頭の上にある血濡れた手を退けてほしいんだと思ってなんとかしようと……」
「こっちが一番怖い!?」
ユーちゃんになんとか頭の上の手を退けてもらい、僕は自力で足首を掴んでいる手を剥がすとこの場を素早く離れました。
……………………………
【第三ビビりポイント】
ようやくお化け屋敷らしくなってきた。と歯をカチカチ鳴らしながら強がっていると、ユーちゃんに腕を軽く引っ張られました。
「ねぇ、タモくん。あそこ見てみて」
「絶対嫌です!!」
「そ、そんな力強く拒否しなくても……。だ、大丈夫だよ! 怖いものじゃないから、ね?」
そう言われ、僕は怖々としながらもユーちゃんが指差す方向へ目を向けます。
そこにはなんと、……メリーゴーランドがありましたァッ!?
「ものすごく不自然!?」
しかもかなり綺麗です。こんなものは無視するべきだと当然のように僕は思うのに、ユーちゃんが興味津々といった感じで近付いていこうとします……!
「私、あれに乗ってみたいなぁ……」
「そうなんだ! じゃあ一人で楽しんできて!」
「タモくん……」
「うっ……。そ、そんな目で見ても駄目だからね!」
「…………………」
「……わかったよぉっ! 乗ればいいんでしょ乗ればっ!」
潤んだ目で上目使いに見つめてくるのは反則だと思います!
僕は渋々ながらもメリーゴーランドへと近付いていきます。
「って、どうやって動かすのコレ?」
墓地にあるのだから壊れていてもおかしくありません。……あること自体がおかしいのですが。
「ここにお金を入れたらいいみたいだよ」
ユーちゃんがお金の挿入口を指差して教えてくれました。
「あ、ホントだ。……って一回一万円!? 高過ぎだよコレ!」
「あ、私が乗りたいって我儘言ったんだから私が払うよ」
「いや。僕もこんな格好だけど男だ。僕が払うよ」
せめてこんなときだけでもいいから男らしくさせてください。
この一万を手にするのにどんなに苦労したことか。僕は微かに光る目元をユーちゃんに見られないようにしながら、一万円を挿入口へ入れます。
すると、ギギギ……とメリーゴーランドの馬が動き始めました。
――来る。きっと来る。きっと来る。奇跡は白く。来る。遠ざかる。謎の死をあなたに贈る♪
「なんでリ○グの歌が流れるの!?」
普通ファンシーな音楽が流れるんじゃないの!?
そんな疑問を感じながらも、僕とユーちゃんはゆっくりと回る馬の背中へ一緒に跨ります。
その瞬間。
「………………?」
すぐ側で、ドサッ、というなにかが落ちる音が。
後ろから僕のお腹に手を回しているユーちゃんもその音に気付いたのか、耳元で『聞こえた?』という確認を求めてきました。
嫌な予感をバリバリ感じながらも、僕達は揃って下へ目を向けました。
……そこには、皮膚という皮膚がただれ、肉という肉が腐り、骨という骨がところどころ見え隠れし、内蔵という内蔵を惜しげもなく晒してる、
ゾンビがいました。
「…………………」
地を這うゾンビと目が合い、互いに口元に笑みを浮かべます。和やかな雰囲気は一瞬。またもやすぐ側でなにかが落ちる音がし、僕は笑みを浮かべたまま逆方向に首を向けました。
「…………………」
……そこにも、同じようなイデタチのゾンビがいました。
そして続けて近くで、ドサドサドサドサドサドサドサッ、となにかが連続で落ちる音が聞こえたことに気付いた僕は、
「た、タモくんッ!?」
……ユーちゃんの叫び声を最後に、真っ暗な闇の中へと意識を沈めていきました。
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