第49話・トリプルデート?【百合編】 お化け屋敷
《PM04:00》
お化け屋敷。
人を怖がらせるような音響に、人を驚かせるようなからくりなどを駆使して、利用者に対し幽霊や怪物に対する恐怖を疑似体験させる娯楽施設のことです。
言うなれば、所詮はただのこけ脅しです。恐怖の疑似体験だって? ハッ。そんなもの、桐花から本物の恐怖体験を日々経験させらている僕にとっては子供騙しもいいところです。
と、そのとき。
「ねぇねぇ、タモくんタモくん」
ユーちゃんに肩を叩かれました。どうしたのでしょう? 僕は首だけを軽く後ろへ向けました。
「……え?」
しかし、そこには誰もいませんでした!?
「ひぃやぁアアアアア!? だ、だれ? ダレ!? 誰なの!? ご、ごめんなさい嘘です怖いです許してください女の子の前だから強がっていただけなんです助けてください!!」
すぐさま土下座して頭の上で手を合わせて拝み始めます。まだ僕の後ろにはこの世にいないはずのさ迷える魂がいるかも知れないのです! だから全身全霊を込めて成仏を願うことしか生者にはできないのです!
「た、タモくん、私はこっちだよ……?」
その声にハッとして顔を上げると、僕が向いた逆方向にユーちゃんが立っているのが見えました。
「……………………」
「……………………」
一瞬だけユーちゃんと見つめ合うと、僕はゆっくりと立ち上がり、膝に付いた埃を軽く払ってから、何事もなかったかのように爽やかな笑顔でユーちゃんに言いました。
「さあ、先に進もうか?」
「うん。私達、まだ一歩も進んでないからね」
お化け屋敷の入口に入ってからまだ一歩も前に踏み出していません。だけどそれは僕が怖がりだからという理由でそうなったわけではありません。……だが、今はあえて認めよう。僕はチキン(怖がり)です。
「ふふ……。タモくんってこういうところ苦手なんだね」
暗い通路をようやく歩き始めてしばらくすると、先ほどの僕の醜態を思い出しているのか、ユーちゃんがクスクス笑いながら僕を見てきました。
「うっ……。しょ、しょうがないでしょ。僕が小学生の頃、両親にお化け屋敷に置き去りにされたトラウマがあるから……」
家族で遊園地に行ったときのことです。僕は初めての遊園地にそれはもうはしゃぎにはしゃいでいました。そんな僕を見て悪戯心が芽生えたのか、なにも知らない僕に『今から楽しいところに行こう』と両親が笑顔でそう言うものだから、僕もワクワクしてお化け屋敷へと行ったのです。
楽しい気分でいた僕がなにかがおかしいことに気付いたのは、お化け屋敷に入った直後でした。辺りは薄暗く、不気味な雰囲気だったので僕はどんどん怖くなっていき、ゾンビの役者が飛び出してきたときにはあまりのも怖さに腰を抜かし、とうとう泣き出してしまいました。
さて。こんなとき親は子供にどうするべきなのでしょう?
慰めたり、おんぶかだっこをしてあやしたりするはずです。もしくは、他の方法で子供のためになにかをしてくれるはずです。
しかし! あいつらはあろうことかカップル時代を思い出したらしく、僕の泣き叫ぶ声が耳に入らないほどいちゃいちゃいちゃいちゃし始め、しまいには僕の存在を完全に忘れて置き去りにしやがったのです!
あのときの深い哀しみと憎しみは未だに心の中にくすぶっています……!
「……僕はまあ仕方ないとして、ユーちゃんってなんだか堂々としてるよね。怖くないの?」
女の子ってお化け屋敷が苦手というイメージがあるのですが。
「え? あ、……うん」
ユーちゃんは少し苦笑して言いました。
「……見慣れてるからね」
僕は、ああ……、と納得しました。本物の幽霊が見えるユーちゃんには、お化け屋敷は本当に子供騙し程度なのでしょう。
「あれ? この先ってどう進めばいいのかな?」
ようやく薄暗い通路から少し明るい、いかにも出そうなところに来ました。墓地をイメージに造られているようで、墓石が目の前にずらりと並んでいます。結構な広さがあるのか、薄暗さもあり奥が見えません。
「ちょっとそこの係員さんに聞いてみるね」
正規ルートから外れてはいけないので、ユーちゃんが係員さんに聞いてくれるようです。僕はその間、ちゃんとルートを示すような表示でも備え付けていろよなぁ、と強がりから出る愚痴を呟き……気付きます。
「……ユーちゃん?」
あれ? 係員さんに話を聞きに行ったはずなのに誰と話しているのでしょう。『すぐそこに通路が……』『あ、はい。そこを真っ直ぐ…………そうです……』と声が聞こえてきます。
「どうしたの?」
と僕が背中越しに聞くと、ユーちゃんは後ろを振り返って答えてくれました。
「あ、この人達も進むべき道が分からないみたいだから入口への道筋を教えてあげてたの」
うわ、僕達の他にも道が分からない人がいたんだ。
「表示ぐらい設けてくれよなぁ……」
また愚痴りながらユーちゃんに近付いていきます。
「って、あれ?」
ユーちゃんの近くに寄って僕は違和感に気付きました。
「誰もいないじゃん?」
「え? そんなことないよ。ほら、今そこに……」
あ……。とユーちゃんはなにかに気付いたのか、目を閉じると、ゆっくり頷きました。
「……そっか。もう、……この世にはいない人達だったんだね……」
こえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
僕は背筋に冷たいものを激走させると、すぐ近くのユーちゃんの腕に抱きつきました。
「た、タモくんッ!?」
ユーちゃんの慌てる声が聞こえますが無理です。離れられません。偽物ならまだしも本物には人間では敵わないのです!
「……た、タモ……くん…………あぅぅ……」
僕は青ざめているのに対しユーちゃんは顔を真っ赤にさせています。しかしその様子は恐怖に怯える僕は気付きません。
「ね、ねぇユーちゃん! も、もういない!? さ迷える魂は無事ここから抜け出すことができた!?」
「え、え? あ、うん! ええーと、でも、いま、タモくんの背中に……」
「えっ、なんで僕の背中にいるの!?」
「ち、違うの! さっきの人達は入口から向こう(あの世)に逝ったけど、タモくんの背中に憑いてる悪霊が……、あ、ううんっ! …………なんでもない」
「言ってよ!? なんで途中でやめるの!? 悪霊が僕の背中でなにをしてるの!?」
「……服を着替えてる」
「え、マジで? チクショウ見えねぇ! って違う! 別にそんなことなら言っても構わないから思わせぶりなことはやめてよね!」
ちょっとパニクっておかしなことを口走ってしまいましたが、ようやく落ち着いてこれました。
でも……。
「……ね、ねぇ……ユーちゃん?」
「な、なぁに?」
「その……う、腕を組んだままで、いいかな……?」
今頃になって恥ずかしくなってきた僕ですが、恐怖心の方が強く、ユーちゃんの腕を離そうにも離すことができないのです。
「う、ん……。い、いいよ……」
「ありがとう……」
「……………………」
「……………………」
なんとなしに無言になりましたが、僕達はとりあえず前へと進み出しました。
「あ、そういえば」
僕はふと思い出してユーちゃんに聞きました。
「係員さんに話を聞きに行くって言ってたけど、行くのやめたの?」
「ううん。すぐそこにいたからちゃんと道筋も詳しく教わったよ」
「え、すぐそこって?」
どこで係員さんと話をしたのでしょうか。そんな姿は見られなかったのですが……。
「……タモくんが見えないってことは、つまり、……そういうことだよ」
「………………………」
ここって、本物のお化け屋敷じゃないよね?
誰か、嘘だと言ってください……!
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