第46話・トリプルデート?【百合編】 デッドコースター
《PM03:10》
「あ、危なかった……本当に危なかった……」
あの嫌がらせコーヒーカップから奇跡の生還を果たした僕は、荒息を吐きながらユーちゃんの元へと向かいます。……すぐ後ろで係員の舌打ちが聞こえましたがそれにツッコム気力もありません。
コーヒーカップの縁に両手両足で掴まること数分、なんとか踏ん張っていた僕ですがマッハ1に達するような回転についに敗れ、落ちてしまいました。
コーヒーカップの中ではなく、外に。
それがせめてもの幸いでした。体のあちこちにコーヒーが飛散してしまいましたが、全身びしょ濡れと比べたら大分マシです。
「た、タモちゃんお疲れ様!」
あははと作り笑いを浮かべるユーちゃんに出迎えられ、僕は満面の笑みを浮かべます。
「君は僕を見捨てたことを忘れるかも知れない。だけど僕はいつまでも覚えているぞ……!」
「ご、ごごごごめんなさい! ま、待ってよタモちゃーん!」
必死に謝りながら僕の後に付いてくるユーちゃん。その泣きそうな顔を見ていると意地悪くしてやろうと思った気持ちもすぐに薄れ、苦笑を溢して左手でユーちゃんの手を握ります。
「次はどこに行こうか?」
「……え、あ……そ、そうだね! それじゃあ……」
泣きそうな顔から一転して、戸惑ったような嬉しそうな顔をすると、やがてうつ向いてポツリと呟きました。
「…………タモくんと一緒なら、どこでも」
ちゃん付けではないのを指摘する雰囲気ではないことは僕でも分かります。
そのユーちゃんの言葉に鼓動が早くなるのを感じた僕は、……なぜか、日登美の姿を思い浮かべていました。
彼女はいま、なにをしているのでしょう。
……………………………
【ジェットコースター】
遊園地に行くときに必ず乗るとしたら、やはりジェットコースターは外せないでしょう。あのスリル満点の恐怖や興奮に絶叫し、ストレス解消にも役立つ乗り物は僕も大好きです。それに遊園地の醍醐味でもあるためか、この遊園地ではジェットコースターは三台設置されているのですごく楽しみです。
「ユーちゃん、今度はジェットコースターに乗ろうよ!」
頭上からジェットコースターの騒音と、
「ギャアアアアア!!」
「ヒィイイイイイ!!」
「死ぬぅぅぅぅぅ!!」
乗客の悲鳴が通り過ぎる音をBGMに、ユーちゃんに同意を求めました。
「………………………」
しかし、ユーちゃんは僕から手を離すと、青ざめた顔でガタガタ震え始めたので僕は慌ててしまいます。
「ど、どうしたのユーちゃん!?」
「…………こ、怖いよ。ジェットコースターは怖いよぉ……」
泣きそうな目でいやいやと首を振ります。
そういえば、ジェットコースターが嫌いな人って結構いるんですよね。面白がってムリヤリ乗せようとする人もいますけど、嫌なことをさせて楽しかった気分を台無しにさせるのはやめてほしいですよね。せっかく来たのですから、楽しい思い出にしたいですし。
「うん。わかった。ユーちゃんが嫌ならジェットコースターには乗らないよ」
と、僕がユーちゃんを思って発言すると、なぜかユーちゃんはまたいやいやと首を振りました。
「え、どうして?」
理由が分からず戸惑う僕に、ユーちゃんは震える指で頭上を差しました。
その指の向けられた方向を見ると、
「………………………」
うん。アレは確かに怖いや。
「って、なにアレぇッ!?」
一拍置いて、僕はあまりにも光景に絶叫してしまいます。
なんと頭上では、……懸垂棒のようなものにぶら下がって高速移動する集団が舞っていたのです!
「まさか……アレも……ジェットコースター……なの……?」
腕の力だけで縦横無尽に空を駆け回るその集団を見て、僕は顔が青くなるのを感じました。……思えば、さっき通過した悲鳴は心の奥底からの絶叫だったのかも知れませんね。
「……うん。アレには絶対乗らないから安心してユーちゃん。アレは多分……そう。自殺志願者のために設置された、ジェットコースターならぬデッドコースターなんだよ」
「……え? じゃあタモちゃんが乗るの?」
「なんで!? ユーちゃんには僕が自殺志願者に見えるの!? それはないからね! 僕はこの世界でやり残していることがまだまだ沢山あるし、それに僕はこの世界が大――」
そのとき、脳裏に僕が今まで受けてきた世界からの理不尽な仕打ち(僕の今までの不幸)が走馬灯のようにかすめました。
「――ッ嫌いだよチクショオオオオオオッッ!!!!」
でも、こんな世界でも、好きになれるように、頑張っているんだよ……?
「ハァハァ……じ、じゃあまだ他に二つあるから、それに乗ろうか?」
「…………うん」
落ち着きを取り戻したユーちゃんに微笑みを向け、頭上に舞うデッドコースターに『絶対乗らねぇよ!』という睨みを向けると、再びユーちゃんと手を握ろうと左手を差し出そうとして……、
〈ガシッ〉〈ガシッ〉
「へ?」
両側から、二人組の係員に腕を掴まれました。
「えーと……」
僕はおどおどと二人を見ます。二人はただ、笑顔で僕を見つめているだけです。……なんで僕は掴まれているの?
「……あ、あの、すみません。離してくれませんか? ……えっ? なに?」
二人組は一緒に頭上を指で差しました。
視線を向けると、そこには件のデッドコースターが……?
僕が視線を頭上から二人組に戻すと、二人は同時に笑顔になり頷きました。
「ま、まさか……アレに乗りましょう……だって!? なんでなんでなんで!? なんで乗らないといけないんだよっ! ……はい? ものすごく乗りたそうな目で見ていたから? 見てねぇよッ!! 『絶対乗らねぇよ!』って睨み付けていただけだよ! くそぅ離せっ! 離してッ! ……クッ! 離さないと言うのなら、僕の本当の力をギィィヤァァァ痛い痛い痛い痛い! ちょっ待っ――その間接はそっちに曲、が、ら、な、いぃからぁぁぁぁぁ!!!!」
必死に抵抗するも、ズルズルと僕は引きづられていきます……!
「え、またこの展開なの!? い、嫌だよぉッ! このネタ一回で十分じゃん! なんで再び繰り返すの!? 人間は過ちを繰り返さないことができる生き物なんだよ!? だから僕達は成長できるのに! やめようよ! 僕はまだ、この世界を好きでいたいんだァァ!」
僕の涙ながらの訴えが功を成したのか、二人の係員はピタリと止まってくれました。
「え、やめてくれるの?」
僕が希望を込めて二人を見ると、なぜか僕は万歳をさせられました。
「え?」
そしてなにやら棒らしき物を掴ませられ、なにやら手袋のようなものを填められます。
そこでバカな僕はようやく気付くのでした。
すでにデッドコースターの入口に入っていたということに……!
「あ、あは」
機械の動く音と共に他の乗客の皆さんと一緒に宙へと浮く僕。そしてゆっくり、ゆっくりとレールを上がっていきます。
「あは、あはははは」
やがて真っ青な青空と、燦々とこの世界を照らす太陽が空へ飛び立つ僕を温かく迎えてくれました。
……そして、頂点へと昇りきったデッドコースターは位置エネルギーを最大限に発揮し、あとは急降下して運動エネルギーによる今日二度目の空のフライトの始まり始まりです。
「あははははははははははははははははははははははははははははははは!」
僕はこのクソッタレな世界に、狂ったような笑い声で別れを告げました。
……余談ですが、しっかり両手は固定されていたので落ちる心配は全然ありませんでした。
(つづく) |