山羅くんの不幸(56/69)PDFで表示縦書き表示RDF


 マクドナルドにさ、赤い髪をした奴がいるだろ? ……そうそう、なんかピエロみたいな奴。






 奴に殺される夢を見た。



 三日経った今でも、あの恐怖を忘れることができない……。
山羅くんの不幸
作:紫水晃



第43話・トリプルデート?【百合編】 そしてまた一人


 



《PM02:20》


「う、うぅ……。大丈夫かなぁ……誰にもバレないかなぁ……」

 キョロキョロと挙動不審に辺りを見回すのは、二つに束ねたツインテールがよく似合う美少女……ではなく、女装した僕です。ついさっきまでのユーちゃんの立場と逆転し、僕がユーちゃんの背中に隠れて辺りの様子を窺いながら歩いています。もし男だとバレたら変態だと罵られる人生を歩むことになるので内心かなりビビりまくっているのです。

 変装するユーちゃんのことをどうせ他人事だと思っていましたが、いざ自分がそうなるとユーちゃんの大変さが身に染みてわかります。……ごめんね、ユーちゃん。今なら君の気持ちが痛いほどわかるよ。

 髪型がツインテールなのは、ユーちゃんが『ロングだとつまらないから髪型変えようよ』ということでツインテールになりました。ただ単に髪の毛で遊んでみたかったそうです。

「ね、ねぇユーちゃん。僕、ちゃんと女の子に見えてる?」

 恐々とした表情で後ろから問い掛けると、ユーちゃんは上半身だけ振り返り、綺麗な笑みを浮かべて力強く頷きました。

「うん! タモくんはどこからどう見てもものすごく可愛い女の子だよ!」

「そ、そうかなぁ? アハハハハ……はぁ」

 僕は愛想笑いを浮かべるしかありません。可愛い女の子と言われても全然嬉しくないです。溜め息を一つ吐いて肩を落としていると、誰かに背中を叩かれドクンと心臓が跳ねました。

 ま、まさかまたゾンビちゃんが? 僕は恐怖に震えながら、恐る恐る後ろを首だけ振り向きました。

「やぁ」

 なんと僕の目の前にいるのは! …………誰?

「ねぇ君達さ、二人だけなの?」

 へらへらとした笑みを浮かべているその人に僕は見覚えがありませんでした。チャラ男と言うべきか、茶髪にピアスをしたその人を見ても僕には誰だかわかりません。でも、なんでこうも慣れ慣れしいのだろう?

「俺さ、実は一人だけなんだよね。君達も二人だけじゃつまんないだろ? だからさ、一緒に回ろうよ。ね? いいだろ? ね?」

 はあ? と僕は眉をしかめます。なんで見ず知らずの人と一緒に回らないといけないのでしょう。勝手に決めつけないで欲しいです。それに実はと言われても興味なんてありませんし、一人だけで遊園地ってこの人は友達いないのかな? ……なんてことを思いながら、ふと気付きました。

(……もしかして。これって、……ナンパ、されてるの?)

 君達ってマジ半端なく可愛いねぇ、俺と付き合おうよぉ、と言うチャラ男の台詞を聞きながらゾゾゾと背筋に嫌なものが走ります。男にナンパされるという不愉快もありますが、一番嫌なのは目でした。

 なんか、胸とか腰にまとわりつくような嫌な視線を感じるのです。……僕も男なのでそこに目が向いてしまう気持ちはわかりますが、かなりの居心地の悪さを感じます。

 なるほど。女の子っていやらしい目で見られるとこんな気持ちになるんだなぁと、女装してみて女の子の気持ちというのを初めて理解できました。僕もこれからは気を付けないと。こんな発見があるのだから、女装というのも、

(ダ、ダメだァアッ!!)

 僕は頭を抱えて目を剥きます。一瞬でも『女装も案外悪くないかも』と思ってしまった自分を殴りたくなります。なんてことでしょう。このままでは変態街道まっしぐらです。

「お断りだよ。それに私達は二人だけで来ているわけじゃないし、私は付き合ってる人がいるから」

 僕は真人間僕は真人間僕は真人間……と壊れたCDのように何度も繰り返し呟いていると、ユーちゃんの冷たい響きのある声が聞こえてきたので顔を上げました。チャラ男に厳しい視線を向けているユーちゃんの姿が見えます。

「……へぇ。付き合ってる奴、いるんだ。誰?」

 なんでこの人には関係ないことなのに聞いてくるんだろう。僕はナンパしたことないからよくわかりませんが、やっぱり諦めたら負けなのでしょうか。

「わ、私の付き合ってる人は……」

 ユーちゃんはそこで一旦区切ると、僕をちらりと見てきました。僕も誰の名前を言うんだろうと気になってユーちゃんを見たので、一瞬、目が合うことになります。

 多分適当な人の名前を言うんだろうなぁと思う僕の前で、ユーちゃんはハッキリと、その名前を口にしました。



「山羅存くんだよ」



 ………………………。

 …………え?


(えぇぇえぇえぇぇ!?)


 僕は急いで両手で口を押さえたので絶叫が漏れるのを免れます。まさか僕の名前がでてくるとは思いませんでした。おそらく誰も思い浮かばなかったので、すぐ近くにいた僕を見て思わず言ってしまったのだろうと推測します。

「…………………」

「…………………」

 しかし、気恥ずかしい。ユーちゃんは自分の発言にみるみるうちに顔を真っ赤にさせてうつ向き、僕は自分の顔が熱くなってくるのを感じます。

「ふーん……。あ、そう」

 チャラ男はそれを聞いてユーちゃんに興味がなくなったようです。そしてチャラ男の視線は僕へと移行。

「うぇ……」

 露骨に顔をしかめて後退りしたのに、チャラ男は僕に顔をずいっと寄せてきました。

「君は彼氏いんの? いなくて彼氏募集中なら俺と付き合わねぇ?」

「え、えぇっ?」

 僕はその唐突な申し出にカチンと硬直します。彼氏はいませんが、僕が募集中なのは彼女のほうです。野郎なんてまったくこれっぽっちも興味ありません。あってたまるか。

 しかしどう答えるべきかと迷う僕に、ユーちゃんが慌てて助け舟を出してくれました。

「そ、その子も付き合ってる人がいるからダメだよっ!」

 それを聞いてチャラ男は目を細めると、

「誰?」

 と聞いてきました。


 だからあんたには関係ないだろ!


 そう怒鳴ってやりたいところですが、さっきのユーちゃんのように誰かの名前を言ったら諦めてくれるようなので適当な人の名前でも言おうかなとしばし思案します。しかしたとえ嘘でも男の名前を言いたくない葛藤があります。いったい僕はどうしたら……!

 そんな僕の内心の葛藤を察してか、ユーちゃんがまたもや助け舟を出してくれました。



「その子も山羅存くんと付き合ってるんだよ!」



 舟は非常に残念な方向へ向かってしまいました。


(って、ユーちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!??)


 僕はまた両手で口を押さえて絶叫します。

(なんで君が付き合ってる人と僕も付き合ってることになってるの!? それって二股してるってこと!? もしくはハーレム!? っていうか僕が自分と付き合ってるって言われてるような感じがしてかなり複雑な気分なんだけど!)

 心の中でツッコミしつつチャラ男に視線を向けます。やはり案の定、怪訝な表情を浮かべているのが見えました。

「君達って……同じ奴と付き合ってんの?」

 ユーちゃんもそこでようやく、しまった、という表情をして自分の間違いに気付きます。ここでどうにか修正しないと嘘がバレてしまいます。

 しかし、

「そ、そうだよ! 私達、山羅存くんと付き合ってるんだから!」

 もう取り返しのつかないことをユーちゃんが口走ってしまいました。どうやら行くところまで行くしかないと判断してしまったようです。

「そ、それにその子は山羅存くんと身も心も一つになってるんだからね!」

(えぇぇ!?)

 ユーちゃんの助け舟はどうやらバミューダ三角地帯に迷い込んでしまったようです。二度と戻ってこれないところまで行ってしまいました。

「へぇ……そうなの?」

 チャラ男が確認してきます。

「え……? あ、えーと……その……」

 僕はどう答えるべきなんでしょう。身も心も一つになってるって言ったって、元々一つなんですけど。

「…………はい」

 でもここまで来たら頷くしかありませんでした。

「……そう。ふーん、山羅存ねぇ……」

 チャラ男は僕が頷いたのを見て、入場ゲートのところにあった写真に写ってた奴か……、とぶつぶつ呟きながら僕達から離れていきます。

 そして最後に聞こえてきたのは、『……興味なかったけど、山羅を殺すアトラクションに参加するか』という言葉でした。

 ……ここにまた一人、僕を抹殺する使者が増えてしまいました。

「……ふぅ。なんとか追い払えたね」

 ナンパ男を回避できたことに清々しい表情を浮かべて喜ぶユーちゃんに、僕は涙を堪えた薄い笑みを浮かべ『そうだね……』としか言えませんでした。






(つづく)


 
 
山羅「あれ? 今回、全然乗り物に乗ってないような気がするのは僕だけなのかな?」

百合「気のせいじゃないよタモくん。今回も例によって例のごとく作者が嘘を吐いた結果なんだよ」

山羅「そっか。まあ僕達も読者のみんなもどうせ嘘だと思ってたけどね」

百合「でも、どうして作者は嘘ばかり吐くんだろ?」

山羅「ああ、そのことをこの前僕が直接作者に聞いてみたんだけど、開き直った憎たらしい顔で『ネタが思い付いちまったんだから仕方ねぇだろ』だってさ」

百合「作者……全然反省してないね」

山羅「ホントこの人死んだらいいのに」



申し訳ない。

やはり、最初に普通のストーリーを創って、それからネタを付け加えるというやり方だと長くなります。

しかしやめるつもりはありません。

それが私の今までのスタイルなのですから。


……本当にすみません。読者の皆様、気長に、どうか気長にお付き合いしてください。











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