山羅くんの不幸(54/69)PDFで表示縦書き表示RDF


 スーパーカップのバニラアイスを二日で十五個食べた。




 特に意味はない。



 どうもお久しぶりです。覚えていますか? 紫水晃です。

 かなり遅れて申し訳ないと思いますが、仕事がなかなか思うようにいかないのでまだまだ遅れてしまいそうです。

 現場の異常を処置するための書類を作成しているのですが、ワードなんて数えるほどしかやったことのない私には難しいです。だから遅々としてそれを行っているのです。はい。言い訳です。

 それに先輩からのサッカーの誘いが断れないのです。はい。言い訳です。


 ……読者の皆様の、これからも変わらず応援しようという忍耐強さがあることを願いつつ、これにて。
山羅くんの不幸
作:紫水晃



第41話・トリプルデート?【百合編】 変装心得その1


 



《PM02:00》


 ユーちゃんのジェット機に乗ってから数十分。初めての空へのフライトに少しワクワクしていた僕は、雇われ運転手のスティーブンさん(純日本人)のスリル満点の操縦のおかげでとても気分が悪いです。

「ウプ……」

 ふらふらとした足取りでジェット機から降りると、僕は堪らず地面に手を付いて胃からの逆流物を吐き出しました。

 ただでさえジェット機はGが凄いというのに、旋回したり急降下したり急上昇したり雷雲に突っ込んだりワザと操縦異常警報を鳴らしたりして僕を失神寸前まで陥られました。……顔面蒼白の僕の隣で楽しそうに笑っているユーちゃんは正直異常だと思いました。

 もうジェット機も飛行機も乗るもんかと空への決別を誓い、僕は袖で口元を拭うと四肢に力を込めてなんとか立ち上がることができました。とにかく、目的地に無事着いたことを喜びましょう。

 今いる所は目的地である遊園地の航空施設です。まさかこんな場所まで設けてあるとは驚きです。僕達のように空から訪れる客のために設置されたのだと先程ユーちゃんに教えてもらいました。

「……あれ? そういえばユーちゃんはなにしてるんだろう?」

 ユーちゃんがまだジェット機から降りてきていないことに気付きます。

 なにかあったのかなぁ、と僕は少し心配になって後ろを振り向きました。

 すると、

「……へ?」

 目深く被った帽子とグラサンとマスクで表情を隠し、分厚いコートを身に纏った見るからに怪しい人物がジェット機から降りてくるのが見えました。

「ふ、不審者!? ――じゃなくてユーちゃん!? なんでそんな格好してるの!?」

 ユーちゃんが転校してきたときと同じイデタチに僕は度肝を抜かれます。

「なんで、って……目立たなくするためだよ?」

「目立ちまくりだよ!? 十人が十人振り向いて注目するような格好だよそれ!」

 表情は見えませんが不思議そうな顔でそう言うユーちゃんが容易に想像できました。

「で、でも誰も近付いてこないと思うよ?」

「確かに誰も近付いてこないと思うけど、代わりに警官が近付いてくるよ!」

 そうでした。ユーちゃんは天下の超人気アイドル。一般人に姿を見られると暴動が起きてしまうので変装をしないといけないのでした。しかし見ての通りユーちゃんの変装センスは残念ながらナンセンス。ここは僕が一肌脱ぐしかありません。

「ね、ねぇユーちゃん。ちょっと時間いいかな?」

 僕はユーちゃんに近寄ると、昨日朱雀から教わった変装のやり方をユーちゃんにそのまま説明します。

 それを聞き、ユーちゃんは半信半疑な表情を浮かべていましたが、やがて一度頷くと、

「……うん、やってみる。タモくんを信じるよ」

 そう言って、ユーちゃんは着替えるためにジェット機の中へ再び入っていきました。


 というわけで、朱雀から教えてもらった変装心得を紹介していきたいと思います。



……………………………



【変装心得その1】
〈まずは見た目から変えてみよう〉


「うぅ〜……。ほ、本当にこんなので大丈夫なのかなぁ……?」

 不安そうにキョロキョロと辺りを見回すユーちゃん。挙動不審で落ち着きがありません。でもそれは仕方ないでしょう。数多くの人がごったかえす入場ゲート入口付近で、ユーちゃんは髪型しか変えていないイデタチなのですから。

 いつものツインテールではなく、桐花のようなポニーテールにしています。どことなく雰囲気が怖くなったように思えたのは、それは僕がポニーテールに対してなんらかの恐怖を抱いている証拠なのでしょうか。

 ちなみにですが、なぜポニーテールなのかというと、ユーちゃんが『タモくんはポニーテールは好き? 嫌い?』と聞いてきたので『どちらかというと……苦手かな』と遥か遠くを見る目をして答えたら『うん、わかった。ポニーテールにするね!』となり決まったわけです。……ユーちゃん、これはなにかのイヤガラセなのかな?

「や、やっぱり帽子とサングラスとマスクとコートだけでも身に付けた方がいいんじゃ……」

「だ、大丈夫なはずだよ」

 不審者スタイルに変装したがるユーちゃんに、僕は自信なさげにですがフォローして止めます。

「えーと、僕の親友が言うには、人間っていうのは視覚からの情報が大部分なんだけど、ただ見るだけでは判断が曖昧なんだって。たとえば、ユーちゃんのような有名人に街中で会ったとしても、本物なのかどうかはそこでは判断できないらしいんだ」

 朱雀の言葉を思い出しながら説明するもまだ不安そうな顔をするユーちゃんに、僕は安心させるように笑みを浮かべました。

「髪型を変えただけでも印象というのは大分変わるから心配ないよ。変えよう変えようとしてやりすぎたら逆に怪しくなっちゃうし、……それに、せっかくユーちゃんとデートしに来てるるのに、その綺麗な顔が見えなかったら僕が残念だしね」

 僕が笑顔を向けたことが功を成したのか、さっきまでの不安そうな表情は消え、代わりになぜか顔を真っ赤にさせて僕から目を反らしました。

 あ、あれ? 僕、そんなに恥ずかしい顔してる?

 ユーちゃんの行動に若干傷付きながらも、僕達は入場ゲートをくぐりました。






(つづく)


 
 
山羅「というわけで、今回は本編が短かったのでオマケエピソードをお送りしたいと思います」

百合「次回も本編は短くなる予定だけど、読者の皆様、怒らないであげてね?」

山羅「……まあ、予定じゃなくて確定してるんだけどね」

百合「……どうか読者の皆様、作者を見捨てないであげてね」


言い訳はしない。

ただ、一言だけ言わせてほしい。


私は頑張った、と。



【オマケエピソード1】
朱雀と戦神の今日この頃
〈能無しの所以〉


 腕っ節が強く、それ故に〈戦神〉と呼ばれることになった俺にも弱点がある。

「く、屈辱だ……」

 俺は勉強机の前で頭を抱えて唸っていた。

「こいつに勉強を教わることになるなんて……」

「お前は文句を言える立場ではないだろう」

 〈復讐者〉と重々しい呼ばれ方をしているいけすかないクソ野郎がバカにした目で俺を見てきた。

「なぜならお前は、バカ、なんだからな」

「クッ……!」

 俺のいるここ『特別区』ではまるで学校のように教養する場がある。なので、当然テストのようなものも存在していて……。

「お前だけが赤点なんだ。そんなお前に勉強を教えてくれと主君から頼まれた俺に感謝こそはされ、文句を言われる筋合いはない」

 俺は頼んでないのに。そう文句を口にしたいところだがやめておく。悔しいが、こいつには口では勝てない。

「問題をだすから、お前はそれに答えていくだけでいい。まあ、クレペリン検査だと思ってやってくれ」

 俺が赤点を取ったのは数学だ。こいつは数学が得意なので主君から白羽の矢が立ったのだろう。……にしても、クレペリン検査ってなんだ?

「では最初の問題だ。……1+1は?」

「お前……俺をバカにしてるのか?」

 クレペリン検査はわからないが、それだけはわかるぞこの野郎。

「なにを言っている?」

 心底から不思議そうな顔でほざく。

「バカにしてるに決まっているだろう」

(チクショオオオッ!!)

 悔しさに歯噛みする。

「どうした。まさか、わからないのか?」

「なわけねぇだろ!」

「ならさっさと答えろ」

「フンッ。へいへい」

 まったく、バカにしないでもらいたい。こんな誰でもわかる問題を間違えるはずないだろ。当然、1+1の答えは――、

「――1、だろ?」

「お前は本物のバカだな」

「な、なにぃ!?」

 俺は完璧な答えを言ったはずのになんでバカにされてるんだ!?

「な、なに言ってんだよてめぇは! 1+1は1だろうが!」

「お前こそなにを言っているんだ。まさか、1+1が1だなんて本気で言っているのか?」

「本気だッ! 親父から教わったんだから間違いねぇッ!」

 それを聞き、

「なんだ、親子揃ってバカなのか。ここまでくると嘆かわしいな。遺伝子レベルにまでバカが浸透しているとなるとさすがの俺でもお手上げだ」

 ものすごく納得したように頷きやがった。

「……てんめぇぇッ!!」

 激昂した俺の攻撃を難無く避けながら復讐者はなおも続ける。

「お前は今日から〈戦神〉ではなく〈能無し〉と名乗れ」

「なんでそうなる!」

「能無しだからだろう」

「黙りやがれ!」


 それ以降からだ。あいつが俺のことを〈能無し〉とたまに呼ぶようになったのは。

 これが、俺が〈能無し〉と呼ばれる所以である。




はい。オマケエピソードはどうでしたかな?
会話だけにしようとしましたが、限界だったのですこしだけ描写を付け加えました。
これからは、本編が少ないなぁ、と感じたらこんなオマケエピソードがあると思います。皆さん、我慢して見てください。

我慢できない人は、我慢しなさい。











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