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山羅くんの不幸
作:紫水晃



第35話・トリプルデート?【特別編】 朱雀の受難


 



 ……どうしてこんなことになったのだろう。

 朱雀翔影(偽名)は自らをそう嘆く。自分に次々と降りかかる災厄に、……まるで山羅くんのような不幸に、頭を抱えたくなる気分だった。

 確か……ユートピア商店街の入口であの変態と会ってからおかしくなってきたんだよな。朱雀はそう過去を振り返る。


 ……それは、山羅くんが百合のマンションに着く七時間前にまで遡る。


……………………………


 自分に近付きつつある気配に気付いた朱雀は、何気無く横を向いた。

「……は?」

 そうして彼は絶句する。

 彼の目の前に……股間を丸出しにした露出凶がいたからだ。

「そこの君、この近くにジョジョエンがあると聞いたのだが、そこはどこにあるのかね?」

 しかも普通に話しかけてきた。その上から目線の物言いに少し不快になる。どう見ても、こいつは底辺の存在なのに。

 上半分はジェントルマン、下半分は変態というよく分からない組み合わせだ。最近の露出凶達の間で流行りのファッションなのだろうか。……確か露出凶というのは、自由になりたい、自慢したい、という心理的欲求からそうなるらしいが、……別段、自慢できるような大きさでもなし。なにかから自由になりたいのだろうか?

「いや、ジョジョエンのある場所は知らないが、……警察署までの道のりなら知っている。そこなら案内してやるよ」

 とりあえず、取っ捕まえるか。朱雀が股間を蹴って失神させてから縄で縛って連れていくかな……なんて考えていると、後ろから誰かに話しかけられた。

「おい、そこのバカ」

 その存在だけで不愉快な気分にさせる人間はこの世にただ一人。朱雀は後ろを振り向いた。

「なんだ、本物のバカ」

「んだとコラァ!」

 いつもと変わりない反応に溜め息を吐きそうになる。〈戦神〉という称号を与えられたそいつが、憤然とした様子で近付いてくる。……その前に、なんでこんな時間にいるんだこいつ。人のことは言えないが。

「まさかお前もこの変態の仲間か?」

「違うッ!」

 朱雀の嫌味を込めた言葉に否定の叫びを上げたのは戦神ではなかった。露出凶が右手を前に突き出して制止するような表現をして言ったのだ。

「ド変態だッ!」

 そう断言する露出凶。……はて、なんに対してド変態だと言っているのだろうか。戦神に対してか? ということはつまり、“戦神はド変態の仲間”ということになる。……うむ。それはそれで納得だ。朱雀は一人頷く。

「……おい〈復讐者〉。どこをどう見たら俺がこの変態の仲間に、」

「違うッ!」

 戦神が露出凶の声を無視して朱雀に詰め寄っていると、戦神の言葉を遮るようにまたもや露出凶が声を張り上げた。

「ド変態だッ!」

「てめぇは黙ってろ!」

 戦神が声を張り上げて露出凶を威嚇する。かなり睨みを利かせているがしかしそれもどこ吹く風で、露出凶は涼しい顔をして流している。

「まずはてめぇから再起不能にしてやる……!」

 戦神が指をポキポキ鳴らしながら露出凶へと近付いていく。再起不能にするのは朱雀も異論はない。戦神がやってくれるのならと、自分が動くのも面倒なので傍観することにする。


「覚悟はいいか変態!」


「違うッ!」


 戦神が殴りかかろうと動いたと同時に、露出凶は後ろへ大きく跳躍すると回転しながら塀の上へと着地した。


「「…………は?」」


 朱雀と戦神は絶句する。高さ二メートルはある塀の上まで余裕で跳べるその跳躍力に、この露出凶がタダ者ではないことを二人は同時に悟る。


「ド変態だッ!」


 露出凶はそう叫ぶと塀を蹴り、未だ呆然としている戦神へと向かって一直線に跳んだ。足を大きく開き、まるでその股間を戦神の顔にぶつけるが如く正確に狙って向かっていく……!

「う、うわぁあぁぁあぁぁぁぁッッ!!!!」

 戦神が心の底から悲鳴を上げる。無理もない。朱雀は冷や汗を額に浮かべた。俺もされたら叫ぶかも知れない……!

 戦神はなんとか屈んで前へと跳んで避けることができた。すぐに後ろを振り向き体勢を立て直すと、さっきまでは股間が気になって反らしがちになっていた相手を、目を離さないようしっかりと対峙する。

「な、なんなんだこいつは……!」

 戦神はあきらかに脅えていた。それもそのはずだ。顔に向かって成人男性の股間が迫ってくる恐怖は、当事者にしか分からない。

 しかもこれは極端に偏った諸刃の刃なのである。もし当たったら、相手は自らの股間に受ける激痛で再起不能になるだろう。……そして、こちらは肉体的なダメージはないが、かなりの精神的なダメージを受けることになる。

「フ、フハハハハハ!」

 戦神はびくりと体を震わした。突然、露出凶が笑いだしたからだ。

「ふむ。君もなかなかやるようだが、ワレにはやらなければならないことがあるのでね。……もっと楽しみたかったが、すぐに終わらせてもらうよ」

 そう宣言すると、露出凶は両手を大きく前に突き出した。それに反応して身構える戦神。朱雀もまた得体の知れない相手の行動に注目する。

「ふぉぉぉ……」

 露出凶はその手を今度は横に広げると、次に頭の上までゆっくりと上げていく。そして、その手を上から下へ降ろしていき……、

「「……………は?」」

 二人が見ている前で、自らの手を股間に押し当てた。


「君達は……ここでおしまいだ」


 露出凶は両手を前に突き出し、勝ち誇るようににやりと笑う。……そこでようやく、二人は露出凶の意図に気付いた。

「……ま、まさか……!」

「…………な、なんて野郎だ……!」

 二人は驚愕して後退りする。……そう。この露出凶はとんでもない攻撃をしようとしているのだ。

 露出凶は言った。


「この手で、“君達を触ってあげるよ”」


 露出凶のその言葉に、二人の背中に悪寒が走る。ぞわりとした気味の悪さ。かつてない恐怖。まるで、……それはまるで、ゴキブリを素足で踏ん付けたときにツブツブとした卵がドロリと出てきたような究極的な気持悪さ。生理的嫌悪が最大限まで発揮される。

「まずは君から触ってあげるよ……!」

 戦神へと向かって露出凶は突進した。もちろん、両手を前に突き出したまま!

「く、来るなァァ!!」

 戦神は戦闘意欲を完全に失い、全力で逃げ始めた。決して恥ずべき行動ではない。朱雀も納得の行動である。なぜならそれは逃亡ではなく、撤退なのだから。……だが。

「……ん? おいっ。なぜ俺に近付いてくるっ?」

「うるっせぇ! てめぇも道連れだァ!!」

 なんと戦神は朱雀に向かって走ってくるのである。朱雀も露出凶に触れられたくないので全力で逃げ始めた。

「ク……! 貴様、こっちに来るんじゃないっ」

「やなこった!!」

「フハハハハハハハ!」


 ……こうして、二人の地獄の鬼ごっこが始まったのであった。 





(つづく)












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