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山羅くんの不幸
作:紫水晃



第33話・トリプルデート?【百合編】 デートの条件


 



 田茂百合は人気アイドルである。

 彼女のデビューは今から十年前。五歳のときだ。

 デビュー曲【天国への切符】は、その愛くるしい顔立ちに、幼いながらも素晴らしい歌唱力で瞬く間に大ヒットした。その歌を聞いた九十近い歳の多くの老人達が『天使の歌声じゃあ……』と涙を浮かべ次々と昇天していった逸話は今では伝説である。……そう。彼女は本当に天国への切符を彼等に渡したのだ。

 翌年に発売された第二弾の【パパ大好き】では、自らの父に贈る意味を込めて、彼女自身が作詞した。それも爆発的に売れに売れ、……しかし同時に、爆発的に日本中にロリコンブームが訪れてしまうという大惨事を迎えることになった。ツアー中に『僕は君のお父さんだよ!』と彼女に同行していた実父の前でそう叫ぶ輩が急増したときは『私に贈ってくれた歌が……』と実父は涙したという。

 そうして一年に一度は様々な社会現象を起こしてきた彼女の最近の音楽活動は作詞。そのタイトルは【山羅くんの不幸】。作曲はなんと諏訪グループのご令嬢の諏訪日登美である。そして歌手はこのタイトルのモチーフであろう山羅存という少年。

 これも例年通り大ヒットしたのだが、ファンにとっては『こいつ誰だよ』という気持ち。まだその姿を見せない謎の人物に注目が集まった。

 ……そうして、昨日。

 新作発表ということで記者会見に訪れた彼女に、…レポーター達は聞いてしまったのだ。


《この山羅存さんとはどのような人物なのですか?》


 と。

 そのレポーターも興味半分に聞いたに過ぎない何気無い質問。だが、それは生放送中の出来事であり、もちろん編集やカットなどできるはずもなく。慎重に答えるべきその場で、彼女は頬を赤らめ、まるで恋する乙女のような表情で、答えたのだ。


「その人は…………私の、“大切な人”です」


 …………それはもはや爆弾発言ではなく、核爆弾並の発言だった。



「「「なにぃぃぃぃぃっっっ!?!??」」」



 その衝撃は一瞬にして全国を襲った。大声で泣き叫ぶ者、怒りのあまり自虐する者、怨み言を呟きながら踊り出す者。様々な奇行を発症させた。

 そんな彼等の心を占めるのは等しく同じ。


 ――山羅ブッコロス。


 という殺意。もちろん、当の本人はこんな騒動になっているとは想像すらしていない。

 ちなみにだが、この日、熱狂的百合ファンであるアメリカ在住のアーノルド・ツュワルシェネッガーさんが友人に、

「ヤツをターミネート(抹殺)してくる」

 と、そう言い残し、彼は出掛けたそうだ。それ以来行方知らずだという。

 とまあ、こうして山羅くんは全国に敵を作ることになってしまったのである。……不幸なことに。


 …余談だが、田茂百合は芸名で、本名は真中百合なのだが、なぜわざわざ『真中』を『田茂』に変えているのかは、その理由はあまり知られていない。

 デビュー当時。《なんで名字だけ変えているの?》と幼い百合に優しく問い掛けたレポーターに、彼女は元気良く答えている。


「それは、たもくんのことがだいすきだからです!」


 ……答えにはなっていないが、だいたいの理由は分かったと思う。


《PM00:00》


 ……どうしよう。

 僕は迷っていました。

 さきほど桐花と別れたばかりなのですが、それじゃあユーちゃんの家へ…と歩き出そうとして気付いたのです。不覚なことに、僕はユーちゃんの家がどこにあるのか知らないのです。

「困ったなぁ……」

 僕は公園をぐるぐる歩きながら頭を悩ませます。ユーちゃんに聞こうにも電話番号は知りませんし、桐花に聞こうにもさっき別れたばかりだからなんか気まずいし。……ん?

 僕は自分の携帯が鳴っていることに気付きました。ポケットから取り出すと、そこには『肉奴隷』という文字が!

「なにコレ!? 絶対日登美からだよ!」

 というかいつのまにこんな名前で登録したのでしょうか。後で直そうと思案しつつ、電話に出ます。

「もしもし」

『あ、存さん。おはようございます』

「いや、今はこんにちはだから」

『そうでした。あの、存さんはいまどちらにいらっしゃるのですか?』

「えーと…【せせらぎ公園】というところだけど」

『え…………』

 電話の向こうで息を呑む音が聞こえました。

「どうかした?」

『い、いえ……なんでもないです。…あの、存さんは百合さんの家がどこにあるのか知らないですよね?』

「え、……あ、うん。それでいま迷ってるところなんだ」

 そう言うと日登美はユーちゃんの家の住所を教えてくれました。ここからすぐ近くのマンションのようです。

「ありがとう日登美。助かったよ」

『どういたしまして。……あ、それから存さん』

「なに?」

『存さんの部屋の机を分解していたら中から【姉弟禁断の愛】というDVDが出てきたのですが』

「え、……なにあさってんの!?」

 そこでブツッと電話を切られました。……まさか厳重に隠していたDVDまでも見付かるとは……。どうか『お前、姉が付くならなんでもいいのか』とつっこまないでください。つっこむなら『なんで机を分解してるんだ!?』にしてください。僕も同じ気持ちです。

 恥ずかしさに顔を真っ赤にさせつつも、僕はユーちゃんの住むマンション目指して進み出しました。


……………………………


 真中百合は壊れかけていた。

「ヒッヒッフー、ヒッヒッフー、ヒッヒッフー…」

 なぜかベッドに腰掛けてラマーズ法式の呼吸を繰り返す百合。なにかが産まれそうなのだろうか……。

(落ち着け……落ち着くのよ、百合!)

 どうやら彼女は深呼吸をしていると思っているようだ。

 あともう少しで山羅くんが来ると思ったら心臓がバックンバックン飛び跳ねるので落ち着かせていたみたいである。間違った落ち着かせ方だが、効果はあるようで、徐々に動悸は収まっていく。

 十時頃に目を覚ましたときはこんなことはなかったのだが、オシャレをし、少しだけ化粧をし、勝負下着を……しようかどうか迷うもやめて、さあ準備できた! ドンと来い! となったときに、あ、タモくんに私の住んでるところ教えてなかった! ことに気付いたところで心臓が跳ねたが、ついさきほど日登美から『もうそろそろ着くと思いますよ』という電話に、ここで一気に緊張感が襲ったのである。

(……もうすぐ)

 百合は拳をギュッと握り締めた。

(もうすぐ、タモくんが来る……)

 だけど、浮かれているばかりではいられない。

 なぜなら、この二人きりのデートには“ある条件付き”ということで成立しているからである。その条件を付けることであの日登美もしぶしぶ承諾したのだ。

 その条件とは、


[条件:デートの邪魔をしても構わない]


 というなんともまあ嫌らしい条件だ。

 さて、桐花や日登美はどんな邪魔をしてくるのだろうか……。桐花はおそらくは直球的な邪魔をしてくるので、不意打ちのようなものがくるとは思えない。ただ、日登美だけはなにをしてくるのか未知なのでかなり怖い。


 ――ピンポーン。


 ……そのとき、来客を告げる音が、耳に入った。

(……来た!!!!)

 百合は、ようやく正しい深呼吸をしながら立ち上がる。胸を押さえながら逸る気持ちを抑え、玄関へと向かった。






(つづく)


 
 
山羅「今回から百合編が始まりました! そして桐花と代わり、ユーちゃんがこのコーナーを受け持ちます!」

百合「は、初めまして! 百合です! が、頑張りますっ!」

山羅「ユーちゃん落ち着いて。このコーナーに緊張することなんてないよ」

百合「だ、だだだって、私、初めてだし……」

山羅「そうだったね……。ごめんね。ユーちゃんは来なくていいなんて心ないこと言っちゃって。あのあと桐花にデンプシー・ロールを喰らわされてかなり反省したよ……」

百合「い、いいよいいよ! だって私のことを考えて言ってくれたんでしょ? だから自分を責めなくていいよ。ね?」

山羅「あ、ありがとう…………っ」

百合「ど、どうしたのタモくん? なんで泣いてるの?」

山羅「……ぅぅ…グスッ……ユーちゃんが、グスッ、あまりにも優しすぎて…………ずっ、グスッ、と……僕……虐げられてきたから……」

百合「タモくん……」

山羅「……ぅぅ…………うわぁぁぁん………!」


……なんか山羅くんが泣き出したのでこれにて。そっとしてあげてください。
思えば、山羅くんはこのコーナーでも不幸だったから、ユーちゃんと一緒のときだけは幸せにさせてあげましょう。




と言うとでも思ったか?


山羅「なにぃ!?」


クックック……。
次回のコーナーを楽しみにしておけ!


山羅「えぇ。そ、そんなぁ……(ガクリ)」


さて、と……どんなことしよっかなぁ♪


あ、前回の引っ掛け問題の答えは、【十一人目はバスの運転手】です。あなたの職業はバスの運転手ですが、友達と一緒の旅行にわざわざ自分が運転する必要はないですよね。簡単すぎましたかね。
それではこれにて。
あ、それから、不思議なぐらいやる気というのが出るので、感想とかお待ちしてます!











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