第30話・トリプルデート?【泉水編】 ア○ム
《AM10:00》
時間の流れとは早いものです。気付けばもう十時になっていました。
「……ま、まさかもののふ姫の主題歌で満点を出すとは…恐れ入ったわ……」
「……き、君も『千の風邪を引いて』で満点を出すとは思わなかったよ……」
互いに互いを讃え合います。点数を競っていたらいつしか互いの意外な一面を見ることができました。
「…そ、そろそろ出ようかしら。もう十時になってるし……」
そう言って泉水が深呼吸します。僕は氷が溶けて薄くなったメロンソーダを一口で飲み干してから立ち上がりました。
……おっと、レジに行く前に泉水に言っておかないといけないことがあります! それは、僕の散財を減らすための精一杯の抵抗……!
「お、お金はそんなにないからほどほどにね!」
「ア○ムがあるでしょ」
「あ、アト○ですか?」
「○コムよ♪」
僕の精一杯の抵抗は無駄に終わりました。
彼女はどうやら僕に借金をさせてでも買わせるつもりのようです。……嗚呼、鉄腕のロボットが僕を助けに来てくれないかなぁ。
どんよりと肩を落としてカラオケ代を払いながら、僕はそう思いました。
【AM10:05】
……いや、薄々は気付いていたんですけどね。
泉水の後ろを歩きながらなんとも複雑な気持ちになります。
今の時間帯は人通りも多くあり、当然、その中に男性もいるわけでして。
「うわ……可愛い……」
チラチラチラチラと男性達の邪な視線が泉水に向けられています。
「んで……後ろの冴えない奴は誰だ?」
グサグサグサグサと男性達の射るような視線が僕に向けられます。
……ええ、ええ。不釣り合いだということは百も承知ですよ。だからって敵意を込めた視線を向けなくてもいいじゃん!
「……なーんか視線を感じるわね」
泉水が自分に向けられる視線に気付いたようです。不愉快そうに眉をしかめ、
「ねえ存、なんかおかしなところある?」
その場でくるりと回って僕に向かい合うとそう尋ねてきました。そのときにふわっとスカートが浮き、パンツが見えそうで見えない絶対領域になると男性達の『チィィッッックショオオオォォォォウッッ!!!』という本心からの嘆きが聞こえてきました。嘆きすぎです。
「……ううん。おかしなところなんてないよ」
そう言っても泉水は納得していない表情をします。少し恥ずかしいですが、仕方ないです。僕は言うことにしました。
「え、と……それは多分…………泉水が、……まあ、綺麗だからみんな見てるんだと思うよ」
「へ?」
それを聞いて泉水は目を丸くしましたが、すぐにニヤッとした笑みを浮かべました。悪巧みを思い付いたときの顔です。
「ふーん……なーるほどねー……」
泉水がそう呟きながら周りを見回すと、泉水をチラチラ見ていた男性達が鼻の下を伸ばしてにへらーとした笑みを作りました。
「……よし!」
泉水はそれを見てなにを思ったのか、
「え!?」
僕の腕に抱きついてきました!
「な、なにしてんの!?」
泉水の双丘が腕にぎゅぅぅっと押し付けられ、その柔らかさに声が裏返ります。日登美のとはまた違った柔らかさに僕の脳が沸騰寸前です!
「ふ、ふん! 嫌がらせよ、嫌がらせ!」
顔をものすごく真っ赤にしながらそんなことを言います。
「い、嫌がらせ?」
な、なるほど。僕は納得します。見れば、さっきまで敵意をみなぎらせていた男性達の視線が殺意へと進化していました。その顔は憎悪に歪められ、『コロシテヤル』と邪念を練り混めるように何度も何度も口にします。…………ねぇこれ危ないんじゃないの? 主に僕の明日が。
「そ、そうよ! 嫌がらせのためにしてるのよ! それ以外にどんな理由があるっていうのよ!」
なぜか泉水は逆ギレ気味に耳元で声を荒げます。
「わ、わかった! わかったから!」
このままではラチが明かないと僕は泉水に腕を抱きつかれたまま歩き出します。早くここから逃げ出したいのです。
「………あー、えーと、泉水……?」
しかし、しばらく歩いてから堪えきれず口を開きます。その間、約三秒。
「な、なによ」
僕はコホンと咳払いして、
「あの……む、…胸が当たってるんですけど……」
そう言いました。日登美でいくらかは慣れているとはいえ、歩く度にふにゅっとした柔らかさが何度も腕から伝わるので落ち着きません。
「……日登美ちゃんとどっちが気持ちいい?」
「うへぇ!?」
泉水にそう返され僕は意味不明なうめき声を発しました。
「え、えぇーと弾力ならいず…ってなにを言ってるんだ僕は!?」
慌てた僕は思わず口を滑らせてしまいました。自己嫌悪に陥ります。
「……へぇー、日登美ちゃんと比べたら私は弾力があるんだぁ」
泉水がニヤニヤと僕を見てきます。僕は顔を真っ赤にさせて泉水の視線から顔を反らしました。
そして反らした視線の先には…………!
「…………………………………………………………………………………………………………………………」
「どうしたの?」
絶句する僕に泉水が聞いてきます。
「いやなんでもないさあ行こうか今すぐに」
僕は爽やかな笑顔を泉水に向けました。
「うん?」
泉水は少し怪訝そうにしていましたが、気にせずに付いてきてくれました。
……………よかった。
僕は安堵します。
……まさか、泉水に………、朱雀の…………朱雀のあんな姿を見せるわけにはいけません…………!
僕は、友の窮地を救ったのです。
【AM10:20】
目的地である洋服店に着く前に、僕達はふと見掛けた【占いの館】と書かれたお店に入ることになりました。淡い赤色をした布で覆われたお店です。
「ここ良く当たることで有名なのよ!」
泉水がそう興奮して説明したので僕も興味が沸き、占ってもらうことにしたのです。
「お邪魔しまーす」
中に入ると、やはりと言うべきか、怪しげな物品が数多くありました。骸骨やら、骸骨やら、骸骨やら………あれ? 骸骨しかないや。……それはそれで不気味です。しかも等身大で妙にリアルでした。
「……いらっしゃい」
店の奥から四十代に見える初老のおじさんが出てきました。目がギラギラとしていて少し恐いです。
「……なにを占います?」
占し師さんは水晶玉を取り出すと聞いてきました。
「存からでいいわよ」
それではお言葉に甘えて。僕から占ってもらうことにします。
「……えーと……じゃあ……」
僕は壁に掛けてある『占い一覧表』から[おまかせ・五百円]という一番安いのを選びました。
「……わかりました」
占い師さんは水晶玉に手をかざすと、目を瞑り、瞑想を始めました。
そうして十秒程過ぎて、占し師さんはゆっくりと目を開けると、僕に言いました。
「あなたは死にます」
「えぇ!?」
衝撃的な結果です!
「今日の夜に」
「早ッ!?」
しかも今日です!
「犯人は私です」
「あんたかよ!?」
しかも犯人はこの人! あぁだから占いも当たるわけか! ……って!
「これって殺人予告!? この人殺しめ!」
「失敬な! まだ四人しか殺してな……あ、ゲフンッゴフンッ……まだ四人しか殺してない!」
「なに今の!? 咳で誤魔化そうとしたの!? まったく誤魔化せてないし同じこと言ってるじゃん!」
なんなんでしょうかこの商店街は。変な人ばっかりです。
「次、私ね」
え、えぇ!? 泉水が流れを完全に無視して占い師さんに[恋愛運・一万円]を頼みました。……ってか恋愛運高いなぁオイ!
「わ、私の恋愛が成就するかどうか占ってみて!」
「……はい」
占い師さんも流れを無視して占いを始めました。……あれ? 水晶玉しまうんですか。すぐ横の戸棚の引き出しを開いて水晶玉を入れ、閉めました。ちなみにその戸棚には紙が張られていて、そこにはこう書かれていました。
[レプリカ]
見本かよ! じゃあさっきの占いはなんだったんだよ!
僕の抗議の視線など気にもせず、占い師さんは泉水をじっと見つめます。
「……わかりました」
一分程見つめて、ようやく占い師さんは口を開きました。
「……残念ながら、あなたの恋愛は成就しま――」
占い師さんはそれ以上言葉を発することができませんでした。
「…………(ドサリ)」
……泉水の手刀によって意識をごっそりと刈り取られたのです。
「い、泉水……」
それってあんまりじゃあ……。
「出るわよ!」
泉水が不満顔でそう怒鳴ります。僕はいいのかなぁと思いつつも、お金を払わずにそのまま店を出ました。
……泉水って好きな人がいるんだなぁ……、と、なぜか少し寂しい気持ちを抱きつつ。
(つづく) |