第28話・トリプルデート?【泉水編】 その理由
《AM07:45》
泉水を見失ってしまいました。
「…い、……ゼェハァ……いったい、なに…ゼェハァ…が……」
僕は息も絶え絶えに呼吸をします。汗まみれな顔を袖で拭い、辺りを見回しました。
つい先程のことです。先々進んでいく泉水が通路の角を曲がって姿が見えなくなると同時に、『あーっ!』と叫び声がしたので、なにかあったのかと思い急いでそこへ向かおうとしたのですが、
「ファック・ユー!」
と、なぜか見知らぬ金髪マッチョの外人さんがいきなり現れ僕に敵意を剥き出しにして追い掛けてくるので逆方向へ逃げ出し、逃げ切ったかと思えば、
「覚悟ォー!」
と、どこか時代錯誤をした服装をした剣士風のおじさんが木刀を振り回しながら追い掛けてくるので訳も分からず逃げ出し、逃げ切ったかと思えば、
「父の敵ィー!」
と、身に覚えもない恨みを僕に向けた女性がナイフを持って追い掛けてくるので命からがらに逃げ出し、いまようやく逃げ切れたところです。そのため完全に泉水を見失いましたし、自分がどこにいるのかも分からなくなりました。つまり迷子です。
「僕……なにかしたっけ……?」
大きく深呼吸して息を整えます。裏路地に逃げ込んでいるので辺りに人の姿は見掛けませんが、油断は禁物です。
このバイ○ハザードみたいな状況に、ふと僕はここ【ユートピア商店街】にまつわる伝説があったことを思い出しました。
……その昔、パンツ一丁で商店街を駆ける少年がいたそうです。
その少年の後を、老若男女少年少女問わず意思を感じさせない虚ろな表情をした数多くの人が追い掛けていたそうです。その中に警察官の姿があったので、それは露出狂である少年を捕まえようとしていたのか、それともその少年が彼等に追い掛けられていたのか、そのどちらかなのか、そのどちらでもないのか、……未だに真実は定かではないようです。
…………あれ?
僕は首を傾げました。
この話は小学生の頃に泉水から聞いたものなんですが……でもこの話、また最近どこかで誰かの口から聞いたことがあるような……………どこだったかな?
そう過去を振り返ろうとしていると、背後から、
「キル・ユー!」
というのが聞こえてきたので急いで逃げる体勢を作ると同時に叫びます。
「またあんたかよ!」
さっきの外人だと思っていましたが、ちらりと後ろを見て驚きます。
「……へ? い、斑鳩先輩っ?」
そこにはニヤリとした笑みを浮かべた一つ上の先輩、斑鳩新明先輩がいました。僕を聖帝第一学園へと誘ってくれた人です。どうしてこんなところにいるの? ってかさっきの声は先輩? と僕は混乱します。
「久しぶりだな山羅くん」
「はぁ。お久しぶりです……」
話しかけてくる先輩に間の抜けた返事を返すと、思い出したように謝罪を口にします。
「……あ。あの、すみません。さっき怒鳴ったりして」
「いや、いいよ。……………いい画も撮れたし」
「は?」
「いやいやなんでもないこっちの話」
怪訝に思いながら先輩を見ていると、さっきから気になっていましたが、先輩の腕に抱きつくようにして寄り添う女の子と目が合いました。
「あの……そちらの方は?」
聞くと、先輩は渋い表情を作りました。
「……義妹の希望だ」
「初めまして!」
先輩が簡単な紹介すると、にっこりと輝かしい笑顔を僕に向けてお辞儀しました。笑顔の似合うかなり可愛い子です。どうして先輩は渋い表情をしているのでしょうか。
「私は斑鳩希望です! キボウと書いてノゾミと読みます! あなたのことは義兄さんからよく聞かされています!」
なんとも元気な人です。それに少し気圧されつつも挨拶を返します。
「こちらこそ初めまして。僕の名前は山羅存です……って、先輩から聞いてるんですよね?」
「ええ! “不幸体質でもうすぐ死にそうな人”だと!」
「えぇ!?」
なにその若干的を突いていそうだから反論しにくい説明は。なにか言いたいけどどう言えばいいのか分かりません。
「せ、先輩……?」
少し睨むようにして先輩を見ると、先輩はすまなさそうに軽く頭を下げました。
「すまんすまん。“もうすぐ死にそうな人”ではなく“もう死にそうな人”だった」
「更に違う!?」
「あ。“すぐ死にそうな人”か」
「根本的なことから違います! 僕はまだまだ死にません!」
二人の様子を見ていると、なんかからかわれているような感じがします。早々と退散することにしましょう。それに僕は泉水を探さないといけませんし。
「あの、先輩。僕、人を探しているのでここで…」
そう言い置いて去ろうとしましたが、その前に先輩に尋ねられました。
「誰を探してるんだ?」
「一人で歩いてる小さな女の子です!」
「違いますっ! 僕の幼馴染みの泉水桐花です!」
この僕が言ったかのように先に言う嫌がらせ……。なんか斑鳩希望さんが日登美に見えてきました。なるほど。だから先輩は渋い表情をしたのか。先輩も苦労してるのかな……。……というかさ、なんで僕の周りの女性ってこんな人ばかりなんだよ。
「泉水桐花……いつもポニーテールしてる子か」
「先輩、知ってるんですか?」
なにやら知っているような口ぶりなので意外に思います。
「ん? ああ、俺のクラスに【聖帝第一学園学年別美少女ランキング】というのを命を賭して創ってる奴がいるんだが、そのランキングの一年生部門で三位に入ってたから覚えてたんだ」
泉水が三位……。まあ、納得です。確かに僕から見ても泉水は可愛いですし、スタイルも良いです。
「ちなみに、一位と二位は誰なんですか?」
ちょっと興味が湧いたので聞いてみました。
「一位が真中百合で……二位が諏訪日登美だったと思う」
やはりアイドルであるユーちゃんの人気は高いようです。それに次いで日登美が二位ですか。
「ちなみに、二年生部門では私が一位だよ!」
自慢するように胸を張る斑鳩さん。とりあえず拍手でもしておきましょう。パチパチパチ…。
「誠意を感じない!」
パチパチパチ!
「魂が込もってない!」
パチパチパチッ!
「手が砕けるまで!」
「パチパ……出来るかァッ!」
「やったぁ噂通りのツッコミ!」
僕のツッコミにどんな噂が流れているのでしょうか。誰か教えてください。
「……あの、三年生部門の一位は誰なんです?」
一年二年と聞いたので、最後についでとばかりに聞きます。
「現生徒会長の双海麗美だな」
双海麗美さん……。確か『茶道部』の部紹介のときに見掛けた記憶がありますね。遠目から見ても綺麗な人だったので覚えています。
「先輩、そろそろ泉水を探しに行きたいので失礼します」
他の二位と三位を聞くのはやめておきます。先に泉水を探しましょう。
「おぅ。引き止めて悪かったな」
「その泉水さんとはどんな関係なの?」
「…………お前なぁ」
空気を読めない斑鳩さんに先輩が呆れて溜め息を吐きます。僕は苦笑しながらも答えました。
「ただの幼馴染みですよ」
「それだけ?」
「え? 他には…………うーん……無茶を言ったりしたりする泉水に、僕が振り回される……関係かな」
そんな感じでしょうか。
「例えばどんな無茶をするの?」
なぜかどんどん質問されていきます。僕も聞かれるままに次々と答えていきました。
フェルマーの最終定理を答えろ三秒以内でという不可能なことや、小学生の頃に万有引力の実験だとか言って崖から突き落とされたことや、中学生の頃に作用と反作用を身近で感じようということでなぜか紐なしバンジーをさせられかけたことや、完全犯罪を思い付いたらしく『将来あんたに試すから』と宣言されて戦々恐々な毎日を過ごしているとか……、とにかくいろいろなことを聞かれ、話しました。
「へぇ! 面白い人生を送ってるんだね!」
斑鳩さんにそう締め括られました。僕にとっては生きていることが不思議な壮絶な人生なんですけど。
「……そして最近は諏訪日登美や真中百合に振り回されている、と」
先輩が同情するように呟きましたが、顔が笑いを堪えている表情をしているので釈然としません。
「……泉水ほどではないですけどね。ただ、ユーちゃんは言動で暴徒を生み出すし、日登美は……故意に僕を困らせている感じですから厄介なんですよね」
それを聞いて斑鳩さんが、うーん、と唸ると、
「……ねぇ、山羅くん。諏訪ちゃんと百合ちゃんとは最近知り合ったばかりなんだよね?」
「? そうですけど?」
「山羅くんが二人をそう呼ぶのはこの間の全校集会で知ってるんだけど……」
斑鳩さんは不思議そうに言いました。
「どうして、昔からの幼馴染みの泉水ちゃんだけ名字のままなの?」
それを聞いて、
「へっ?」
僕は素っ頓驚な声を発しました。
斑鳩さんは続けます。
「昔からの幼馴染みなんだし、下の名前で呼び合ってもいい仲だと思うんだけど」
「それは………そう…、ですよね……」
あれ?
「泉水ちゃんは、山羅くんのこと『存』って下の名前で呼んでないの?」
「いえ………そうですね…はい。呼んでます……」
…………どうして僕、泉水のこと、ずっと名字で呼んでるんだろう?
というかそもそも……泉水っていつから僕のことを『存』って呼ぶようになったんだっけ?
目を瞑り、過去を思い返そうとしますが、昔のことなど思い出せるわけもなく……すぐ諦めました。
「なんだかなぁ……」
僕は大きく息を吐きました。
この間、朱雀に『お前は名前を呼ばない』と言われたばかりなのに、泉水に名前を呼んでないままでした。……でも、『泉水』って呼ぶ方がしっくりするんですよね。
「……あ、そうか! わかったよ!」
その斑鳩さんの声に視線を向けると、うんうんと頷いて一人でなにかを納得していました。
「なんですか?」
「ほら、泉水ちゃんはいつも無茶ばかり言って山羅くんを困らせてるんでしょ? その理由がわかったの! いつまで経っても名前を呼ばない山羅くんに怒ってるからしてるって!」
「えぇっ?」
「一理あるかもな」
驚く僕をよそに先輩が同意を示しました。
「俺だって、長年一緒にいる友達に名字でしか呼ばれなかったら複雑な気持ちになるしな」
……そう、なのでしょうか。
だとしたら、すぐにでも名前で呼んだ方がいいのかな?
「ダメだよ!」
却下されました。
「シチュエーションが大事なんだよ!」
望ましいのは……と斑鳩さんからそのシチュエーションというのを教えてもらいます。
僕は少し迷ってから、その教わったやり方で名前を呼ぶことに決めました。
「あの、……二人共ありがとうございました。それでは失礼します」
「頑張れよ」
「泉水ちゃんに良い服を買ってあげなよ!」
そうして二人に送り出され、僕は裏路地を出ました。
すると、
「アイルビーバック!」
金髪マッチョが再び現れた!
「戻ってこなくていいよ!」
僕は再び逃げ出します。
なんで斑鳩さんが、僕が泉水の服を買うことを知っているのかという疑問は、頭の片隅に追いやって。
(つづく) |