第27話・トリプルデート?【泉水編】 ジョジョエンにて
《AM07:00》
紆余曲折はありましたが、ようやくジョジョエンに来ることができました。
「うわぁ……重々しいなぁ……」
看板の『ジョジョエン』の文字から今にも、ゴゴゴゴゴ…、と聞こえてきそうで、思わずたじろいでしまいます。
「さ、入るわよ」
臆することなく意気揚々と入っていく泉水に続いて僕も店内へと入ります。
すると、
「いらっしゃいませ……!」
実に個性的な方々が出迎えてくれました。どう個性的なのかは、まあ、ご想像にお任せします。
「あちらの席へどうぞ」
天にも登りそうな髪型をした店員さんに連れられ、奥のテーブルの席に座ります。そして僕の向かい側に泉水が座ると、早速注文しました。
「一番高い肉をじゃんじゃん焼いてきて」
「かしこまりました」
「ちょ、かしこまらないでくださいっ! メニューで注文しますから!」
チッ、と舌打ちする泉水に睨みで牽制しながら、メニューを開きます。
「えーと……あ、僕はこの【スター・プラチナ】定食をお願いします。泉水は【デス・サーティン】定食でいいよね?」
「どういう意味かしら?」
「ど、どんな意味もありませんことよ!?」
若干、うわっ似合うなぁ、とは思いましたが。
「……ま、いいわ。それお願いします」
ムスッと僕から顔を背けて言います。それを聞いて店員さんは黙礼すると、厨房へと向かっていきました。
そうして泉水と二人きりになります。
なにか話そうかなと思いましたが、泉水の顔が、怒っているような、恥ずかしがっているような、後悔しているような、微妙な表情を代わる代わる変えていて忙しそうなのでやめました。仕方ないので、初めて来る高級焼き肉店の中ををキョロキョロと物珍しそうに見渡します。僕達以外にも客はちらほら見掛けますね。
「……ね、ねぇ」
厨房から『俺は人参を(使うのを)やめるぞォー! 料理長ォォォ!!』というのが聞こえてきたのでそこに注目していると、泉水が僕から顔を背けたまま口を開きました。若干顔が紅いような気がします。
「な、なに?」
さっきの【デス・サーティン】定食について怒っているのかと思い、少し緊張しながら聞きます。ちなみにこのとき、厨房から『黄身がッ! 焼くまでッ! 炒めるのをやめないッ!』というのが聞こえてきました。
「さ、さっきのことだけど……」
更に顔を紅くし、ますます僕から顔を背けながら続けます。僕は『調子に乗ってすみませんでしたァ!』と土下座するべく臨戦体勢に入りました。ちなみにこのとき、厨房から『こいつはクセェー! ゲロ以下の臭いがぷんぷんするぜーッ!』というのが聞こえてくるのでなにがあったのかものすごく気になります。
「忘れなさい!」
「調子に乗っ……って、え? な、なにを?」
土下座しようとしてやめたので、万歳した状態で聞きます。
「……い、いま思い出してたんだけど、……あれはないわ。最悪だわ。信じられないわ。……だから、忘れなさい」
「だからなにを?」
その当然の疑問に、うっ、とうめくと、ごにょごにょと呟くように言いました。
「…………わ、私があんたに……その……抱きついたことよ……」
それを聞いて、ああ、と僕は思い出します。変態が登場した際、泉水が僕に抱きついてきたことを。
「……え、と…………なんで?」
別に構わないとは思うのですが。
「だって、みっともないでしょっ!」
顔をトマトのように真っ赤にさせ、怒鳴るようにして言われましたが、僕はキョトンとしてしまいます。
誰だって変態……しかも下半身丸出し……に遭遇したらあんな反応をすると思うのでみっともないとは思いません。特に女の子なら尚更です。……確かに男がしたらみっともないですが……いやそれどころか、逆に殺意が芽生えるかも知れません。気色悪いんだよっ、と。これが男と女の優遇の差の違いか……。
とまあある意味真理なバカな考えは止めて、僕はキョトンとしまま泉水に思わず言ってしまいます。
「え、全然みっともなくなんかないよ? むしろ女の子らしくて可愛かったけど………………ぁ」
…………しまった。
僕の顔色がサッと青くなります。
失言です。このままでは『女の子らしい? それじゃあ普段の私はなんなのかしら?』とバッドエンドルート突入です。
しかし、
「か、可愛かった……?」
予想に反して、泉水は満更でもなさそうな表情をすると、瞬時にハッとした顔をしてすぐに不機嫌そうな表情になりました。
「ふ、…ふーん………か、可愛かった、ねぇ……」
髪の毛先をくるくると指でいじりながらそれ以上なにも言いません。
「……………………」
……な、なんでしょうかこの雰囲気は。どういうわけか意味もなくそわそわしてしまいます。お、落ち着け……素数を数えろ。素数は孤独な数字。素数は誰にも割ることはできない。…………マズイ。数え方が分からない……!
「お待たせ致しました」
素数とはなんなのか考えていると、神父のような服を着た人が料理を運んできました。胸にあるネームを見ると、『プッチ』さんと言うらしいです。
「【デス・サーティン】定食を注文したお客様は?」
「私よ」
泉水が軽く手を挙げて示します。店員さんは泉水の前に料理を置くと、僕を見てきました。
「【死ぬな】を選んだチャレンジャーはあなたですね?」
「え、なにそれっ!?」
僕はいつか聞いたことがあるその名の恐怖に涙目です。
「僕は【スター・プラチナ】定食です! なんだよ【死ぬな】って! 完全に【死ねよ】じゃないか! 殺意すら感じるよ! というかそれしか感じないよ! なんで今頃またでてくるんだよ! もうやめてくれよ! そのネタは一回で十分なんだよ! え、なにっ? 『だが断る』だってっ? 僕が言いたいよ! そう言って断りたいよ!」
僕の必死の訴えが功を成して、なんとか【死ぬな】を退けました。
「いやぁ……あんたのツッコミっていつ聞いても惚れ惚れするわねぇ」
泉水が牛カルビを食べながら感心した様子で言いました。
「私は名付けるわ。山羅存のツッコミ……略して『不幸込み』と」
「なにその消費税込みみたいな言い方? しかも略されてないし」
僕は牛タンを食べながらツッコミます。泉水は牛カルビをふんだんに使った定食で、僕のは牛タンでした。名前との由来は一切ありません。
「略されてるわよ。『山羅存=不幸』はすでに決められた定理であり略なんだから」
いろいろと不条理なこの世界を嘆きたいところですが、いつもの泉水に戻っているので安心感でホッとします。やはり泉水はこうでないと。
ずっと、こんな調子で今までやってきたのですから。
「そういえば……」
僕はふと呟くと考え込みました。泉水はすっかり忘れているようですが、変態が登場する前、朱雀が逃げていたことがとても疑問なのです。彼なら変態の股間を蹴り砕くのを躊躇も容赦もなく平気ですると思うのですが……、なぜ逃げていたのでしょうか?
しばらく考え込んでいましたが、朱雀も変態には弱いのだろうと結論付け、泉水と他愛ない話をします。
「そういや泉水と二人きりで出掛けるのって久し振りだよね」
「何年振りかしら?」
「二、三年振りぐらいかな? 泉水が『ダメだこいつ……早くなんとかしないと……』って僕を撲殺しようとして以来だね」
「そんなこともあったわねぇ……」
「うん。ありすぎだよねぇ……」
泉水は懐かしそうに、僕は泣きそうになりながら過去に思いをはせます。今までよく生きてこれたなぁ僕……。
「次はどこに行く?」
しみじみとしていると、泉水が聞いてきました。僕は少しだけ悩み、提案します。
「カラオケはどうかな?」
確か八時から開くお店があったはずです。
「……そう。あんたがどうしても行きたいんなら、止めないわ」
どうしても行きたいというわけではありませんが、いい時間潰しになりますので、どうしても行きたいな、と言うことにしました。
「わかったわ」
すると、なにを思ったのか、泉水は釘バットを異空間から取り出すと、僕に狙いを定めてきました。
「え、えーと……泉水様? な、なにやっているのでございまするか?」
「ん? あんたをカンオケに入れる準備よ」
「一文字違いで大惨事!? 違うよ! カンオケじゃなくてカラオケに行きたいのっ!」
「なーんだ。どうしても逝きたいっていうから勘違いしちゃったわ。先に言いなさいよ」
「先に言ってるよ!」
そんなやりとりをしながら席を立ちます。あらかた食べ終えたので、会計を終えようとレジに向かいます。
「×××××円になります」
「た、高……」
泉水が食った食ったと先に店を出ていく間に、僕はその額に呆然としながらお金を払います。
懐は軽くなったのに足取り重くとぼとぼとジョジョエンを出ると、泉水がニッと笑みを浮かべて僕に手を振ってきました。
「早く行くわよー!」
そうしてどんどん先に進んでいきます。それを見て、溜め息を吐くと同時に安堵している自分に気が付きます。
自己中心的で、傍若無人で、我儘で、強気で、意地悪な………泉水。
僕はいつもそんな彼女に翻弄されてきました。
それはこれまでもそうでしたし、そしてこれからもそうなるでしょう。
……だからもし、その関係が変わってしまうことになると思うと、胸の辺りがもやもやしてしまうのです。
…………なぜでしょうかね?
「病気だよ」
「誰ですかあなたは?」
通りすがりの人に言われました。
憮然としながらも、次の目的地であるカラオケへと向かいます。
(つづく) |