第25話・トリプルデート?【泉水編】 世界終焉
《AM06:00》
六時まで『ヤマラクエスト』をしていた僕は、『ふじみのヒトミ』と呼ばれる少女を仲間にしたら後ろからグサリと刺されてしまい死んでしまったのでそこでゲームをするのをやめました。
「だから言ったじゃない。あのとき『なかまにする』じゃなくて『にくどれいにする』にしろって」
「絶対嫌だよ! というかなんだよこのゲーム! なんで良い方の選択肢を選んだらすぐ死ぬんだ!」
「人生そう甘くないということを伝えるためよ」
「厳しすぎるよ! それになんで『500+64=?』で『564』って答えたら『わかりました。あなたをコロシます』になるんだよ!」
「生きていればそんなことも起きるでしょ」
「起きてたまるか!」
とまあ、そんな言い合いをしていると、泉水が時計を見て立ち上がりました。
「よし、行くわよ!」
「え、どこに?」
「朝飯食いに、『ジョジョエン』によ!」
ジョジョエンとは高級焼肉店のことで、店員さんが個性的なことで有名であります。……ああ、確かここは開店が六時でしたね。そして閉店が九時です。
「……って、え? 朝から焼肉? それに高級焼肉店だから…………」
そのお金誰が払うの? そんな疑問、泉水の顔を見たらわかりましたよ。ええ、そうですよ。僕ですよ。ちくしょう。
「じゃ、行くわよ!」
泉水に促されるままに僕は家を出ました。家には日登美一人しかいないので用心のために鍵を掛けます。……本当に用心すべきは彼女かも知れませんが。
「そういえばさ……」
道中。泉水が懐かしむように目を細めて、ふと思い出したように口を開きました。
「あんたが女を連れ込んで生活してるなんてタケさんが知ったら、どうなるかしらね?」
「父さん?」
泉水の言うタケさんとは僕の父さんの愛称です。僕は少し目を閉じて父さんの顔を思い出し、少し笑みを浮かべました。
「うーん……たぶん『お前ってやつは……なんて……なんて羨ましいんだァア!』って叫んで母さんに頬をつねられてると思う」
「……あはは。ありそう」
その情景を容易に想像できたのか、泉水は苦笑いを浮かべました。
「……まあ、それに。僕と日登美の婚約を勝手に決めたの父さん達だし、問題はないと思うよ」
「ああ……、入学式初日に全校生徒の前でそんな言い合いしてたわよね」
二十年前に婚約したとかどうとか。そんな言い合いしていた過去も、遠い昔のように感じられます。
「……それで学生結婚とかしたら、タケさん達の模倣になるわね」
そう苦笑いして言う泉水に僕も苦笑いを返します。僕の父さんと母さんの成れ染めを嫌というほど聞かされている僕達はそんな反応になってしまうのです。
当時十七歳だった父さんは、ある事情で引っ越さないといけなくなり、僕の通う学園に通っていたのですが、三年生になると同時にそこを離れ、近くの県立高校に通うことになりました。そこで当時十五歳の母さんに一目惚れされたらしく、毎日毎日猛アタックされ、毎日毎日それをあしらっていましたが、半年が過ぎた頃、ついに折れた父さんは母さんと付き合うことにしたのですが……。
「なぜか結婚していたってタケさん言ってたわね」
そのなぜかがカオスらしく、父さんも不思議がっていました。気付いたら母さんの両親の前で結婚すると報告していたんだと。
ちなみに、父さんが母さんと付き合うことになったきっかけは、ちょっとした悪ふざけで言った言葉で友人から激しく嫌われしまい喧嘩別れみたいになっていたのを、母さんが諭してその友人と仲直りさせてくれたからだそうです。
「そんで、月夢さんのところに婿養子になったのよね」
僕の父さんは天涯孤独だったのでそうなったそうです。月夢とは、僕の母さんの名前です。
「…………お。もう着いみたいよ」
泉水の声にハッとして辺りを見回します。気付けば、目的地である『ユートピア商店街』に着いていました。僕も、泉水も、昔を懐かしんでいたので気が付きませんでした。
「んじゃ、行くわよ」
泉水が先頭をきって歩き出します。堂々としたその歩き方からは、自分はお金は払わなくていいのだという余裕が見え隠れしています。僕は足りるかなぁ…と財布の中身を確認しつつ、泉水についていきました。
…………あ。
そういえば、母さんの名前は言いましたが、父さんの名前を言っていませんでしたね。
僕の父さんの名前は……武瑠。
山羅武瑠。
旧姓は、向井武瑠です。
《AM06:20》
この『ユートピア商店街』には泉水と何度も来たことがあります。小学生の頃からここで買い物をしていたので馴染みの店も多くあり、顔見知りの店員さんだっています。でも、さすがに今の時間は準備中のお店ばかりです。
そういえばこの近くに朱雀の家があるんだよなぁ……と思い出していると、前方の通路の角から、誰かが勢いよく飛び出してきました。
「……へ?」
僕はびっくりします。飛び出してきた人物が朱雀だったからです。
「あれ……朱雀?」
泉水も朱雀に気付き目を丸くしました。
その朱雀は焦ったような表情を浮かべ、こちらに向かって走ってきます。そうして僕と泉水の横を通り過ぎるとき、ふと、朱雀と目が合いました。
朱雀は僕に気付いて一瞬目を丸くすると、口を動かしました。え、……なんだって? ……に、げ、ろ、……?
どういうことなのか聞こうと口を開こうとしたとき、さきほど朱雀が飛び出してきた通路から、また誰かが勢いよく飛び出してきました。
「……は?」
「……へ?」
僕と泉水は揃って間の抜けた声を発しました。その人物があまりにも異様だったからです。
最初は、紳士に見えました。上から、黒い帽子に、チョビ髭、そしてタキシードに……(絶句)……すね毛に、黒い靴。
なぜすね毛が見えるのか?
それは短ズボンだからではありません。
……それは、なんというか……思わず絶句してしまうような……マルを出すというか……モロを出すというか…………口に出すことをはばかれるような…………そう……その人物はなんと……、
ズボンはいてません。
フルチンでした。
「きゃぁぁあぁああぁあああぁぁぁ!!!!」
唖然とする僕の横で女の子らしい悲鳴。それは泉水から発せられた叫び声でした。
いやぁぁ! と泉水が目を瞑って僕の腕にしがみつきます。その女の子のような悲鳴と行動に、僕はそういえば泉水は女の子なんだよなぁと改めて気付かされました。
そして僕は、目の前にいる人物に震えながら叫びました。
「へ、変態だッ!」
「違うッ!」
その人物は、僕の言葉を否定し、間違いを正すように言い直しました。
「ド変態だッ!」
「わかってるよ! というか自分で言うなよ!」
僕は泉水を僕の後ろに回し、その人物と対峙します。
「あ、あなたはなにをしてるんですか! あなたがしていることは猥褻物陳列罪という立派な犯罪ですよ!」
「違うッ!」
その人物は断言しました。
「ド変態だッ!」
「だからわかってるよ! そんなのを聞いてるんじゃないんだよ!」
こちらの言葉が全然伝わっていません。
「いいや! わかってない!」
その人物は威風堂々とした様子で語り始めました。
「“ド”エロ! “ド”スケベ! “ド”変態! ただ“ド”あるのとないのとでは激しく違う! なあ、君もそう思うだろ!?」
「僕に同意を求めるなよ!」
「だって君もド変態だろう!?」
「決めつけるな!」
「決めつけではない!」
その人物は当然のことを言うかの断言します。
「君はドMだろう!」
「違うよ!」
「なに!? ではドSなのか!?」
「違う!」
「ならどっちだ!」
「え、ど、どちらかと言われたらエ……ってなんでこんな話になってるんだ!」
そんな言い合いをしている間、泉水は僕の後ろで震えています。さすがの悪魔も、変態の前ではただの女の子になるようです。ただ気になるのは、ぶつぶつと聞こえてくる『こんな悪質なの誰よぅ! ……まさか日登美ちゃん!?』という泉水の声です。なにか心当たりでもあるのでしょうか?
それはともかく。
「ズボンはけよ!」
目の前の変態をどうするかです。
「無理だ! ワレがズボンをはいたら世界が滅びる!」
「なんだよその因果関係!?」
くそぅラチがあきません。
「ね、ねぇ存っ?」
いまだしがみついて離れない泉水が目尻に涙を浮かべて震えながら言いました。
「そ、空を飛ぶから、存は私の翼になって!」
「泉水落ち着いて!?」
泉水はまだ相対したことのない変態にパニクっています。
ど、どうすれば……!
悩む僕。こんなとき、泉水が正気だったら……!
「そ、そうだ!」
閃きました!
「泉水!」
僕は泉水の肩を掴むと、無理矢理僕と目を合わさせました。
「なに……?」
涙目で見つめられ、思わず、うっ、とさせられます。か弱い泉水ってちょっと可愛いなぁと照れつつ、僕は言いました。
「……泉水、あいつを見るんだ」
「……え?」
なにか裏切られたような傷付いた表情になる泉水。
「大丈夫」
僕は微笑みながら続けます。
「僕を信じて」
その言葉に、泉水がゆっくりと頷いてくれました。そうして恐る恐る変態へと目を向け……、
「あ」
と気付きました。
「む?」
変態は泉水の視線に気付き、その先にある自分の股間へと目を向けました。
「こ、これは……!」
変態もようやく気付きました。
「ワレのサン(息子)がモザイクに!?」
「サンとか言うな! ……そう! ここは『全年齢の世界』! この世界では卑猥な言葉は伏せ字に! あなたみたいな人はモザイクになるんだ!」
「な、なにぃぃ!?」
変態はその事実に愕然とします。
そのときです。
「…………………」
「い、泉水……?」
そんな変態へと、一歩泉水が踏み出しました。
ゆらりと、異空間からある物を取り出し、近付いていきます。ドス黒いオーラを発しているところから、相当怒っていることがわかります。
「あ、あれは……!」
泉水の待っている物。それは泉水破壊三大神器が最強・『世界終焉』でした。……どんな形状、どう世界が終焉なのかは、僕の口からは言えません。
「な、なんだこの禍々しい気は……!」
生存本能がなにかを感じとったのか、変態はじりじりと後退りしていきます。
「……この腐れ変態が」
泉水のドスの効いた低い声が轟きます。
「塵となって散れ」
……これから起こる出来事もまた、僕の口からは言えません……。
(つづく) |