第24話・トリプルデート?【泉水編】 超大作RPG?
予想された衝撃はなく、代わりにパチンという軽い衝撃が僕の額を貫きました。
「………あれ?」
呆気に取られて目を開けます。
すると、僕の目の前に右手を突き出している泉水と目が合いました。指の形からして、どうやらデコピンをされたようです。
「……………」
泉水は無言でじとーと睨んでいましたが、やがて軽く息を吐くと、苦笑じみた表情を浮かべ、バンッと僕の頭を叩きました。
「あいたっ!?」
「アハハ、目ぇ醒めた?」
「え……? ……あ、ああ、うん」
なぜかカラカラと笑い出す泉水に、僕は目をパチパチさせて答えます。
「ヘタレのあんたに、据え膳を食う勇気なんてあるわけないわよねー」
うんうんと頷き、なにやら妙に納得しています。
それは男としてどうなのかな……と僕は憮然とした表情を浮かべながらベッドから降りました。泉水の登場に、メイド服の日登美のおかげですっかり目が冴えています。……なぜここに日登美がいるのかを本人に問い正そうと思いましたが、幸せそうに眠っているのでやめました。それに、問い正してもどうせ変なことを言って煙に巻かれるだけです。
「ほら、さっさと着替えな!」
泉水が勝手に僕のタンスの引き出しから服を取り出すと、僕の前にポンッと投げました。
「今日の泉水コーディネートはそれよ!」
「……って、学園指定の制服じゃないか!」
紺色のブレザーという見慣れた地味な制服を持って抗議します。
「なに、文句あるの?」
にっこりとした笑顔に死の恐怖を感じました。
「文句なんて閻魔様にはあるけどあなた様にはありません」
小学生の頃からのやりとりが自然と口から出ます。もう条件反射の域です。
僕はしぶしぶと制服を着ようとして……、
「……ねぇ、泉水」
「なに?」
「着替えるんだけど…」
「だから?」
「その……出ていってはくれないでしょうか?」
「なんのために?」
「えぇっ? なんのためと言われても……ぇ、と…………僕のために?」
「じゃあ嫌だ」
「なにが、じゃあ、だよ! 頼むから出てってよ!」
僕は『別にいいじゃーん』と食い下がる泉水をなんとか追い出して扉を閉めます。そしてまた着替え始めようとして……、
「……スー……スー……」
寝ている日登美の寝息に気付き、振り向きます。
……狸寝入りとかしてないよね?
普段の行いが悪いお人なので疑心暗鬼になります。
と、そのとき。
「存さん!」
いきなり眠っているはずの日登美が叫びました。僕はビクッとして後退りします。
「…………また……そんなところで裸になって……」
むにゃむにゃとそんなことを言います。……なんだ寝言か。
「……ってか、日登美の夢の中の僕はなにをしてるんだ」
「……生放送番組に裸で乱入しました」
「キミ起きてるだろ」
僕の呟きに答える日登美にツッコミします。……反応はありません。本当に眠っているのか狸寝入りしているのか分かりませんが、もうどっちでもいいやと着替えを再開しました。
《AM05:10》
制服に着替え終えた僕が自分の部屋を出ると、所在なく佇んでいた泉水が顔を上げて不敵な笑みを浮かべました。
「ねぇ存。ちょっと聞くのが遅れたけど、私を見てなんか思うことない?」
腰に両手を置いてふんぞり返るように聞いてきました。
「え、と……」
そう聞かれてもよくわかりません。とりあえずなにかを言おうとして出た言葉は、
「……白い?」
「よいしょっと」
泉水が釘バットを異空間から取り出しました。
「うわぁタンマタンマッ! えーと、…その、……あ、き、綺麗だよ! うん! 泉水の見た目は清純そう……じゃなくて、泉水の清楚な雰囲気にぴったりでよく似合うよ!」
慌てて言いました。だけど口からのでまかせではありません。今日の泉水は本当に綺麗でした。
「そ、そう?」
満更でもなさそうに頬を赤らめる泉水。
……でも、そんな泉水に気になる疑問が一つあります。
「ねぇ、泉水」
「なに?」
「……どうやって僕の家に入ったの?」
「そういえば一階にプレ2のある部屋があったわよね。そこに行くわよ」
あからさまなスルーをされました。
僕は、はぁ、と溜め息を吐きながら一階に降りていく泉水についていきます。彼女が将来犯罪者にならないよう祈るばかりです。
「それで、なんのゲームするの?」
友達を呼んだときのための遊び部屋であるそこに入ると、僕はその疑問を口にしました。
「我が山羅部の精鋭達が勢力込めて創った自主ゲームをするわよ!」
ゲーム創ったの!? と驚愕する僕の目の前に、泉水が異空間からそれを取り出しました。
「超大作RPG……『ヤマラクエスト』よ!」
「ヤマラクエスト!? ……って、なんだよそのネーミング!」
直訳すると『ヤマラの探求』だけどなにを探求するんだ!
「ま、やってみなさいよ。六時から行きたいところがあるから、それまでの時間潰しとしてね」
そう言いながら泉水はゲームを起動させました。
……………………………
【おおっ ヤマラよ! しんでしまうとはなさけない!】
「え、なにこの始まりかた!? 『はじめから』を押したのに続きからみたいなんだけど!?」
「斬新でしょ?」
「斬新すぎるよ! ……ま、まあ、それはいいとして。このあとどうするの? 神父さんに話しかけても【おおっ ヤマラよ! しんでしまうとはなさけない!】しか言わないんだけど」
「外に出たらいいわ」
その言葉通り外に出ると……、
【ゆうしゃ イズミがあらわれた!】
「いきなり戦闘シーンになったよ!? ってかなんでイズミがゆうしゃなんだよっ!」
「『そうび』のコマンドを押して自分のステータスを見てみなさいよ」
「え? あ、うん……え、な、なにコレ!? 僕の職業『まおう』になってる!?」
「主人公が魔王で敵が勇者って面白いと思わない?」
「そりゃ面白いかもしれないけど……なんか複雑な気分だ」
魔王は泉水がふさわしいと思うので。
「……しかもなんだよこの装備! 『とうさつようかめら』『ごうとうようないふ』『はずかしいふく』って変なのばっかじゃん! しかも外そうとしても【ほんにんがきにいっているのではずすことができない!】ってでるし!」
「本人が気に入ってるんだから仕方ないでしょ」
「気に入らないから! ………く……よ、よぉーし。ねぇ、泉水、こ、攻撃してもいいのかな?」
「倒さないと先に進まないでしょ」
「そ、そうだよね! じゃあ攻撃するよ……!」
攻撃してもいいという泉水の許可をもらったので、なんの憂いなく僕は『こうげき』のコマンドを押しました。
【ミス! イズミにはぶつりこうげきはつうようしない!】
「なんだよそれ! 無敵じゃないか!」
「でも魔法は通用するってことでしょ?」
あ、そうかと僕は『まほう』のコマンドを押します。イズミのターンでは【イズミはこちらのようすをみている】だけだったので助かりました。
「……え、あれ? …『マヤク』? ……『ウラガネ』? こ、……これ魔法じゃなくて違法じゃないか! これでどう戦えっていんだよ!」
「とりあえずどれか押してみなさいよ」
言われた通り適当に選んで、『マヤク』を押してみました。
【ヤマラはイズミにマヤクについてかたりはじめた!】
【しかし イズミにむしされた!】
「意味ないじゃん!」
そしてイズミのターン。
【イズミのこうげき!】
グシャ!
【ヤマラに∞のダメージ! 山羅存は死んだ! やったね!】
「おぉい!?」
もうどれからツッコメばいいのかわかりません。なぜ∞なのか。なぜ漢字になってしかも僕の名前をだすのか。最後のやったねはなんだよとか。こんなのどうやって倒すんだよとか。
「ヒントあげようか?」
泉水がニヤニヤとした笑みを浮かべながらそう言いました。
「……うん」
僕は少し悔しいですが頷きました。
「『にげる』か『とくぎ』の『ドゲザ』をすれば勝てるわ」
「えぇ!? なにその情けない勝利は!? それに土下座が特技なんて嫌すぎる!」
「しょうがないでしょ。このゲームは情けなくなれば情けなくなるほど強くなるシステムなんだから」
「なんでそんなシステムにしたんだよ!」
「あんたにぴったりだからよ」
真顔で言われガクリとします。
「じゃあ最初からね」
【おおっ ヤマラよ! しんでしまうとはなさけない!】
また神父さんのところからやら直しです。
「……ああ、つまり。この神父さんは褒めてるわけか。情けなくなれば強くなるから」
「そのとおりね」
そうして再びイズミとの戦闘シーンになりました。
「『にげる』でいいんだよね?」
「そうよ」
僕は『にげる』のコマンドを押しました。
【ヤマラはにげだした!】
【しかし ヤマラはバカだからにげられない!】
「なんでだよ!」
「ああ、ごめん。人間の相手には『ドゲザ』しないと駄目なんだった。ほら、逃げるのは簡単だけど、完全に逃げられるのって難しいでしょ? 逃げるってのは、周りの状況を判断して、且つ、相手の行動を読み取り裏をかかないとできない高等技術でもあるし」
なんでそんなところはリアルなんだろう。
そんな疑問を抱きながらも、なにも言わずにテレビ画面を見ます。【イズミはバカにしたようなわらいをした】で攻撃されませんでしたので、僕のターンで『ドゲザ』のコマンドを押しました。
【ヤマラはドゲザをした!】
【イズミはそのなさけなさにあきれ みのがしてくれるとやくそくしてくれた!】
テレレッテッレッレー。
【ヤマラのなさけなさのレベルが5あがった! あたらしく『クツをおなめします』をおぼえた! なさけない!】
「ほんと……情けなさすぎる……」
なんか涙がでてきました。
「ほらほら、さっさと進めなよ」
泉水は楽しそうですが、僕は全然楽しくありません。
これどんなストーリーなんだろう。そんな唯一の謎だけを求めるため、僕は六時まで『ヤマラクエスト』を続けました。
(つづく) |