外伝その3 朱雀家訪問・七
夕食の時間になりました。
目の前に並べられていく料理を前にして、僕はヨダレを……垂らそうとしましたが、日登美になにかを言われるかも知れないのでやめました。…あ、日登美が残念そうな顔をしています。……狙ってたなキサマ……!
ちなみに、戦神さんの彼女(?)のラキヤさんは、崇城さん達が戻ってくる前に僕と朱雀の説得によりしぶしぶバッグの中へ戻っています。
「よし、これで全部ね」
崇城さんが持ってきたお椀が最後のようで、それは僕の前に置かれました。これで全部のようです。
しかし……。
「……………………」
戦神さんがぷるぷる震えています。それは怒りを抑えるためか、屈辱に耐えるためか。それとも両方か。
「……なんだ、これは」
ようやく出した声は平坦でした。
「なんだ、と言われてもな」
朱雀の声もまた平坦です。
……戦神さんが怒るのは無理もないです。なぜなら、彼の前に置かれているのは……、
「……三角コーナーじゃねぇか!」
その言葉通り、三角コーナーそのものが置かれていました。もちろん生ゴミもオプションで付いてます。
「ゴミのお前にはお似合いではないか」
朱雀はそう皮肉げに言いましたが、ハッとした表情をすると、すぐにすまなさそうに謝罪しました。
「……すまん。これは失礼だな。まだ肥料として使える生ゴミの方がまだマシか」
全然謝ってない!?
「……テンメェ……!」
「なんだ。騒がしいぞゴミ」
「てめぇはいつもいつも……何様のつもりだァ!」
「神様だ」
ドーンと言い切りました。
「んな……! い、言うにことかいて神か!」
「うむ、当然だ。俺とお前とではそれぐらいの差があるだろう?」
「……フンガー!」
ゴミと神様との差…………、根本的にお前と違う、と言いたいのでしょうか。
「もう許さねぇ!」
そうしてガタッと立ち上がった戦神さんに、
「食事中はお静かに」
大和さんの制する声が。
「まだ食事中じゃ……、」
「食事中はお静かに」
「いや、だから、」
「食事中はお静かに」
「…………すみません」
戦神さんはすぐに降参して座り直しました。……ヘタレですが、賢明です。
「それでは皆さん手を合わせて!」
崇城さんの掛け声と共にみんなが手を合わせます。
「いただきます!」
「「「いただきます!」」」
そう言って、僕は目の前に置かれているお椀に手を伸ばすと、野菜炒めらしきそれを口に運びました。
……………………………
むかしむかーしあるところに、山羅くんという少年が大きな家に住んでいました。
そこには泉水桐花という少女と、諏訪日登美という婚約者と、なぜかゴリラという野生動物が一緒に住んでいました。
泉水は放火するぞと脅して、日登美はムリヤリ押し掛けて、ゴリラはいつのまにか山羅くんの家に住んでいました。
そんなある日。山羅くんが山に芝刈りに行く予定だったので家を出ると、日登美は川へ洗濯しにいくと見せかけて山羅くんをストーキングしに行き、ゴリラはゴリラなのでどっかにあるバナナを取りに行きました。
そうして一人残された泉水は家の中でなにをして遊ぼうかと迷いました。基本的に働くつもりがないようです。
「存がいないから暇だなぁ。……部屋を荒らすか」
人としてどうかという呟きをします。
「でも、昨日荒らしたばっかりだし…」
しかももう実行してました。悪魔です。
「そういえば、いまこの家って私一人……そうだ!」
なにかを思い付いたようです。可哀想に。山羅くんはその瞬間から不幸を約束されました。
… … … … … …
夜。
「ただいまぁ」
山羅くんがみんなより遅く帰ってきました。ストーキングしていた日登美から逃げていたら道に迷ってしまったからです。
すると……、
「存ーッ!」
泉水が怒鳴りながら向かってきました。しかし顔は笑顔です。不気味です。
「な、なに?」
「しらばっくれてんじゃねぇ!」
ドコグシャ!
「ぐはぁ!」
哀れ山羅くん。女子とする前に床に熱烈で破壊力抜群なキスをしました。まだ婚約者の日登美とも済ませてないのに。
「な……、なに……が?」
山羅くんは理不尽な暴力に脅えています。
「あんた……」
泉水が声を震わせながら言います。その後ろから、怒ってるような、恥ずかしがってるような、微妙な表情の日登美とゴリラがいました。
「私達の部屋をあさったわね!」
身に覚えありません。
「え、な、なに!?」
「私達の部屋が荒らされていたんです」
「ウホッ(あたい達の部屋にこのような紙があったの)」
「あ、メスだったんだ……」
山羅くんはゴリラが持っていた紙を取りました。なにか書かれています。
[犯人・山羅存参上! 下着は貰った!]
「えぇー!? あからさますぎだろぉ! なんで自ら犯人って名乗りでてんだ!!」
「ウフフ……」
泉水さんが素敵な笑顔を浮かべました。
「問答無用♪」
かくして、泉水から不当な暴力を受けた山羅くんは、二日後、『永遠に眠ることにしました。探さないでください』と家に置き手紙を残して二度と家に帰ってくることはありませんでした。
そうして山羅くんの家は泉水のモノとなり、泉水と日登美とゴリラは末永く幸せに過ごしたとさ。
メデタシメデタシ。
……………………………
「全然めでたくないよ!?」
僕はガバッと起き上がりました。
「……ハッ、ここは?」
きょろきょろと周りを見回すと、心配そうに僕を見てくる日登美と目が合いました。
「……ひ、日登美……」
すがるように言います。
「……僕、生きてるよね?」
「ご臨終です」
「生きてるだろ!!」
そんなやりとりで自分が生きていることを確認していると、朱雀が申し訳なさそうに謝ってきました。
「すまん。まさか美姫の料理が紛れ混んでいたとは思わなかった。あれは俺が責任持って三角コーナーに捨てたから安心してくれ」
「オイ!」
戦神さんが声を荒げますが、食べないのであれば別にいいのでは。……え、まさか食べるの?
「……謝らなくていいよ。こうして生きてるんだから」
別世界の僕は死んだようですが。
「……そっか。崇城さんの作った料理だったんだね」
泣きそうな表情をしている崇城さんに、僕は優しく言いました。
「きっと上手になれます。諦めず料理の勉強をして、これからも頑張って作ってください」
「……ありがとうございます」
しゅんとしてうなだれる崇城さんの頭を、神於さんが撫でました。
「………………美姫」
「……なに?」
「………………頑張らないで」
「……………」
そこは頑張れと言わないと。
……………………………
〔朱雀視点〕
……………………………
夕食も終わり、存達が帰る時間となった。
玄関まで見送りに行くと、真っ先に戦神が扉を開けて捨て台詞を吐いた。
「二度と来るか!」
「もう二度来たけどな」
「うるせぇ!」
もう三度来るか! そう怒鳴って逃げるように戦神は去った。結羽が『可哀想……』ということで夕食を馳走してやった恩はないのかあいつは。
「ハハハ……」
存が苦笑してそんな戦神を見送ると、俺達に向き直って頭を下げた。
「今日は夕食ごちそうさまでした。おいしかったです」
「一部を除いてな」
「黙りなさいよ!」
俺の余計な一言に美姫が殺気を向けてくる。それを軽く流した。
「結構話をしたが、疲れたか?」
夕食の間もいろいろな話をした。主に女性陣からの質問に答えるだけだったが。しかし、なぜ女というのは次から次へと話題が尽きないのだろうな。
「……そうだね。ちょっと疲れたかな」
「そうか。では明日はゆっくり休んでくれ」
「……無理なんだよね」
存が苦笑した。
「どうした?」
「明日、泉水と服を買いに行かないといけないんだ」
「ほう。主君と、三人でか?」
「違います。泉水さんと二人でです」
存の代わりに主君が答えた。てっきり主君と三人で行くと思っていた俺は少しだけ驚く。
「……それにしては、あっさりしているな」
嫉妬するかと思いきや、主君は平然としている。……なにか、怪しい。
「…まぁ、いい。それでは」
そのデート、楽しんでくるんだな。そう言おうとしたが、次の存の言葉に遮られる。
「しかもそのあと、ユーちゃんとデートすることになってるし」
………………。
「……なんだって?」
「うん? 昼までに泉水と服を買って、昼からユーちゃんとデートすることになってるんだ。……あ、ユーちゃんって言うのは転校してきた子で、間中百合ちゃんって言うんだけど、実は、あのアイドルの田茂百合ちゃんなんだ」
それを聞いて美姫が、あの人気アイドルの!? と驚愕したが、俺は知らん。それよりも……。
「存」
俺は存の名を呼んだ。
「なに?」
きょとんとした様子で存が俺を見てくる。
その顔から、こいつはなにも分かっていないんだなと感じさせられた。
「……いや」
俺は内心溜め息を吐きつつ、首を振った。
「……なんでもない。これは、お前自身が気付くべきことだ」
また内心で溜め息を吐く。
「まあ、それにしても、アイドルとデートか……。効果的な変装の仕方を教えてやろうか?」
明日の負担を少しでも減らしてやろうと、俺は助言することにした。
それを聞いて、存は不思議そうな顔をする。
「え、そんなのでいいの?」
「ああ。……こいつらの、お墨付きだ」
後ろにいる美姫達が苦笑して頷いた。
「……へぇ?」
よくわかってないようだがそれでいい。こいつには知らなくていいことだ。
「教えてくれてありがとう朱雀。それじゃあ、僕達は帰るよ」
「ああ。じゃあな」
「うん。またね」
「お邪魔しました」
最後に俺達にお辞儀して、存と日登美は家を出た。
その後ろ姿を見送って、ふと、今朝の夢のことを思い出す。
……そういえば、あのとき俺は、惜しんでいたんだよな。……こうしてこいつらと会えるのはもうあと少しなんだな…、と。
偽られていた関係だった。だからもう、そのまま卒業と同時に会うことはないと思っていた。
だが、主君の計らいで再び出会い、偽られた関係だと知られ、しかし、存は、それでも俺を親友だと言ってくれた。
正直、嬉しかった。
「……………さて」
俺は後ろを振り返ると、俺を見てくる少女達に言った。
「片付けるか」
嫌そうな顔をする者もいたが、そいつらの頭を軽くはたいて先を行く。
…………明日、か。
片付けに行くまでの間、ふと明日のことが気になった。
明日存が二人きりで女とデートをするというのに、主君が平然としていたのが未だに引っ掛かる。
……俺は、明日はなにもすることはないな。
それで、明日の予定が決まった。
……少し様子を見に行ってみるかな。
まさかあんな騒動に巻き込まれるとは、このときの俺には分かるはずもなかった。
(おわり) |