外伝その3 朱雀家訪問・六
自己紹介も終わり、新たに戦神さんも加わり、次は互いに質問をする質問タイムの時間になりました。
「質問のある奴」
「「「はい!」」」
「……………はい」
朱雀の声に、女性陣全員が手を上げました。僕と戦神さんは元気すぎる女性陣に呆気に取られます。
「では………主君」
「はい」
当てられた日登美はなぜか僕を見ました。
「なぜお姉さん系のエッチな本しか買わないのですか?」
「え、なにその質問!? ってかなんで僕に質問するんだよ! 違うでしょ!」
周りからの生暖かい視線に僕は顔を真っ赤にさせて日登美に注意します。
「僕と日登美は朱雀達に質問するの!」
「なるほど、わかりました。それでは……大和撫子さん」
日登美は大和さんに静かに言いました。
「存さんはあなたのようなお姉さん的な人が欲情の対象ですので襲われないよう気を付けてください」
「その言い方やめてくれないかな!? しかも質問じゃないし!」
この人は普段僕をどう思っているのかものすごく気になりました。
「僕は人を襲ったりはしないから!」
「でも私をベッドの上で襲ったじゃないですか」
「いつだよ!?」
「いつですか?」
「知らないよ!」
マズイです。日登美のペースに巻き込まれてしまいました。このままではまたないことないことを言われてあらぬ誤解をされてしまいます。なんとか逃れないと……!
「す、朱雀に質問!」
僕はバッと手を上げました。やはり話を反らすのが効果的です。
「なんだ?」
「42731×37564は?」
「1605147284だ。質問ではなく問題だろそれは」
なんなく一瞬で答えられました。さすがソロバン一級。凄すぎます。
ちなみに、さっきの問題でなにかに気付いた人は……なんの特典もありませんので無視してください。
「では次だ」
僕の思惑通りに話を反らすことができ、朱雀が次の人を指名しました。
「美姫」
「よしきた!」
崇城さんは僕を見ると、友好的に話しかけてきました。
「山羅さんはアニメって見る?」
「あ、はい。……最近は(生きるのに)忙しくて見てませんが」
「じゃあ『天空の城ラピュ夕』って知ってる?」
「ああ、ジブルの! 知ってますよ」
天空の城ラピュ夕とは、ムスコというロリコン野郎がベータという少女を追い掛けるギャグアニメ映画で、恋敵のバズー(34)と駆け落ちするベータを捜すのが主なストーリーです。このアニメには名台詞が数多くあり、有名なのは、カップラーメンを前にして『三分間待ってやる』と言ったムスコが、一分しか経ってないのに勢いよく食べようとして飛び散った汁が目に入り『目がァー! 私の目がァァー!』と叫んでラーメンを落とした彼の最後のシーンでしょうか。
「あれは傑作だったわよね〜」
と、しみじみとする崇城さん。
「最後に流れるスタッフロールにムスコの名前がでてこないという主人公にあるまじき仕打ちは伝説よね」
他にも『ゲド戦死』や『蛍のバカ』などで盛り上がりました。
「次は……暁」
控え目に手を上げていた神於さんに朱雀が指名しました。
「……………………」
神於さんは僕と日登美を交互に見ると、
「…………お似合い」
それだけ言いました。……えーと……質問ではなく、誉めてくれたのでしょうか。でも付き合ってるわけではないのでどう反応すればわかりません。
「ありがとうございます」
悩んでいる僕に対し、日登美は頬を赤らめて嬉しそうにお辞儀しました。
「必ず結婚初夜の情景を小説にして出版します」
「なぜそんな結論に!?」
どう思考回路が働いたのか、神於さんの言葉を日登美はそう捉えたようです。
「次はリュンだ」
日登美の発言を無視して朱雀は淡々とそう言いました。
「山羅さんに質問なのですが……」
セトレノルさんはちらりと朱雀を見ると、少し躊躇いがちに言いました。
「……彼は過去に誰かと付き合ったりしたことはあるのですか?」
朱雀が眉をしかめてなにを聞いてるんだという表情をしましたが、口には出さず黙っていました。
それにセトレノルさんの言葉に少女達はなぜか真剣な目をして僕を見てくるので、僕は無難に答えることにしました。
「……僕の知るかぎりでは、ないです。中学生になって久しぶりに会ったときは少し雰囲気が変わってて彼女でもできたかと思ったけど、引っ越しで疲れていたようでしたし、それからも浮いた話は聞いたことないです」
そう答えると、セトレノルさん達はなぜかほっと息を吐きました。それを見て日登美は、
「つまりは童貞です。よかったですね」
ぶはっ、と僕は息を吐き出し、朱雀は嫌そうに顔をしかめ、少女達は顔を赤らめました。
「変なこと言わないの!」
僕は日登美の口を塞ぎました。
と、そこで、よくわかっていない様子の須寿ちゃんが口を開きました。
「どうてい、ってなんですか?」
……どう説明すればいいのか。しばらく性教育の難しさに苦しみました。
大和さんの『諏訪さんは山羅さんが好きなのですか?』の問いに『違います。愛しています』との日登美の答えで恥ずかしくなったり、崇城さんの『もうしたの?』『なに聞いてるんですか!?』『しました』『なにをだよ!?』『手を繋ぎました』『『そっちかよ……』』との一連に崇城さんと僕が呆れたところで、神於さんがぽつりと呟きました。
「…………お腹空いた」
同時に、くー、と可愛らしくお腹が鳴ります。腕時計を見ると、気付けばもう五時になっていました。
「……それではそろそろ夕食の準備に取り掛かりましょうか」
そう言って大和さんが立ち上がり、少女達が次々と立ち上がります。
「結羽も手伝う」
と須寿ちゃん。
「よし、なら私も手伝うわ!」
と崇城さん。
「あの世に逝く手伝いはしないでください」
とセトレノルさん。
「しないわよ!」
「………死にたくない」
「あ、暁〜……」
ときゃいきゃい言いながら居間から出ていきます。
「…………………」
僕はふと横を見ます。
「…………………」
そこには、誰にも質問されずにいて蚊帳の外にいた戦神さんがぽつんと座っていました。
「あ、あの戦神さん……?」
僕が遠慮がちに声を掛けると、ちらりと僕を見てきました。
「……同情するなら金をくれ」
「……あげてもいいですが、そのときあなたの胸の内になにが生まれます?」
「……虚しい」
がくりとうなだれます。僕は慰めようと口を開きました。
「で、でも戦神さんには彼女がいるじゃないですか! 彼女ならわかってくれますって!」
「…………そうだな!」
僕の言葉に元気になってくれました。嬉しいです。
しかし……。
「そういえば俺の彼女を紹介してなかったな!」
調子を取り戻してきたのか、彼女のいない朱雀に勝ち誇った笑みを向けながら、どこから取り出したのか黒いバッグの中身を探りだしました。
「紹介する……」
戦神さんはゆっくりと中からそれを取り出しました。
「俺の彼女、ラキヤだ!」
彼が手に持っていたのは、…………美少女フィギュアでした。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
僕、朱雀、日登美、絶句。
なんとなくアニメ『もののふ姫』の斬という少女の容姿に似ているそのフィギュアを、僕達に見せびらかしてきます。
それはもう幸せそうに。そこには一片の曇りもない、純粋すぎる愛を感じました。
「…………………ぅ」
僕は口元を右手で覆うと、はらはらと涙を流しました。
……あなたは、……そこまで……追い詰まれていたんですね……。
そう思うと涙が止まりませんでした。
「戦神……」
朱雀が軽蔑も哀れみもない、穏やかで柔らかな口調で呼び掛けます。
「な、なんだよ! 可愛いだろ! うらやましいだろ! こんな姿になっちまったけど、こいつはこいつなんだ! いつか本当の姿に……!」
異常なことを口走り始める戦神さんに、奇しくも僕と朱雀の声がハモりました。
「「もういい……」」
それはもう優しく。
「「……もういいから」」
そうして僕はポンと肩を叩き、朱雀は微笑を浮かべました。
「な、……なんだよ二人共……変に優しいな。……でも、嬉しいぜ。……って、あ、あれ、なぜだろう…………涙が、止まらないや……」
大切ななにかをなくしてしまったことに、無意識の内に涙を流す戦神さん。
……そんな戦神さんに、僕達はただただ優しい目で見ることしかできませんでした。
(つづく) |