外伝その3 朱雀家訪問・五
「まずは自己紹介からやってみよう!」
「「「イェー!」」」
「……………イェー」
ポニーテールの少女に呼応するように女性陣全員がグッと手を上げました。
「……なんでこんなにテンションが高いんだ?」
「……さあ?」
僕と朱雀は付いていけません。
そんなこんなで、まずは自己紹介から始まります。
「それでは私から」
上品そうな少女から口を開きます。艶やかな黒い長髪、澄んだ黒色の瞳は思わず吸い込まれそうなほど魅力的で、その上品な雰囲気からはまるで古き良き日本人女性、大和撫子を思い出されます。
「私の名前は、大和撫子です」
そのまんまかい!?
「趣味は料理で、ほぼ毎日の夕食は私が作っております。山羅さんと諏訪さんに今日の夕食をご馳走致したいと思っていますので、是非食してください」
「あ、はい!」
「こちらこそ是非お願いします」
大和さんが頭を下げたので、僕と日登美も揃って頭を下げます。
「美味いぞ」
朱雀がそう簡潔に教えてくれました。
「じゃあ、次は私ね!」
ポニーテールの少女が口を開きました。どことなく活発な印象があるのは、誰かさんと同じ髪型だからか。
「私の名前は、崇城美姫。美しい姫と描いてミキよ。趣味は……、」
と、そこで朱雀が皮肉げに言いました。
「笑えるだろ。こいつが美しい姫だとよぐぅっ」
朱雀がうつ向いて悶絶します。どうやら机の下から弁慶の泣き所を蹴られたようです。
「趣味はこいつを痛めつけることよ」
崇城さんがニッコリ笑い、そんな彼女の姿がボヤけて見えます。あれ……? 僕は目元を手の甲で拭いました。……それは涙でした。
ああ、そうか。
僕はなぜ涙が流れたのかを考え、すぐにその答えに気付きました。
……それは、彼女から泉水に近しいオーラを感じることに。
朱雀と崇城さんを見ていると、僕と泉水を見ているようで涙が止まらないのです。
「君も……苦労してるんだね……」
僕は同士を見るように朱雀を見つめました。
「……やめてくれ」
朱雀は重い息を吐くと、やれやれと首を振りました。
「…………………」
そのとき、無表情の少女が立ち上がりました。みんなの視線がその子に向きます。
「………………神於曉」
それだけ言って座りました。え、と……自己紹介したのかな? 神於さんの特徴は、寝癖かどうかはわかりませんが、髪がぼさぼさなのが印象に残ります。
「あー……恥ずかしがりやなんだ」
朱雀がフォローしました。
「では私ですね」
銀髪の外人さんがにこにこしながら自己紹介します。そのエメラルドのような瞳を見ていると、その昔、泉水が『外人の瞳って売れるかなぁ……』という危険な言葉を呟いたことを思い出されます。
「私は、リュンセルグ・ウェトラーナ・J・フォルテクス・ギン・セトレノルです」
「な、長いですね」
「はい。偽名ですから」
「おぉい!?」
僕はズルッと前のめりになりました。
「ほ、本名は?」
「言っても構いませんが、一週間掛りますよ?」
えぇ!? そっちがそんなに長いの!?
「……そ、それにしても日本語上手ですね」
「日本生まれですから」
「それはつまり、生まれも育ちも日本だということですか?」
「その通りです」
「だからエセ外人なんだ」
と、朱雀が言い、セトレノルさんのこめかみをひくつかせました。……君はなぜそう余計なことを言うのかな?
「あ、あの……」
五人の少女達の中でも一際小さい……小学生ぐらいの女の子が手を上げました。お人形さんみたいに愛くるしい顔立ちを見ると、将来は余程の美人になるだろうと思われます。
「……私は、須寿結羽です」
どことなく緊張を含んだ口調に僕は微笑ましくなります。僕は優しい口調で須寿ちゃんに言いました。
「僕のモノにならない?」
「このおかしな人は諏訪日登美って言うんだけど、ときどき意味不明なことを口走るから気を付けてね?」
また変なことを言った日登美の頭をはたきながら言いました。
これで朱雀家の自己紹介は終わり、次は僕と日登美の番です。
「それじゃあ僕から。僕は山羅存。一応、朱雀の親友を自負しています。趣味はいろんな種類の切手を集めることです。特技は………………………生き延びることかな」
暗い陰を落としながらここ数週間で身に付いた特技を言いました。
「コホン。それでは…」
次に日登美が自己紹介しようとしたので、僕は日登美の口を塞ぐと、耳元にこそこそと囁きました。
「……変なことを言ったら怒るからね?」
ニコリとして頷いたのを見て、僕は諦めて手を離しました。……おそらく変なことを言うつもりです。今までの経験上、日登美が僕の言うことを聞いたことなどないのですから。
だからせめて、日登美に不適節な発言があれば否定していきたいと思います。
「私は山羅日登美です」
「違うから。諏訪日登美だから」
「山羅存さんとは結婚しています」
「まだ婚約者の間柄だから」
「存さんはこう見えて絶倫です」
「自己紹介で他人の説明しないから」
「私のお腹の中には存さんとの子が……」
「いないから」
「……存さん」
日登美が僕を見てきました。
「なに?」
「つまらないです」
僕の冷めたようなツッコミがご不満の様子。
「だって君……僕が騒いだら喜々として煽ってくるもん」
「そんなことしたことありません!」
「自覚症状ないの!?」
だとしたら日登美は思っていたよりも遥かに厄介な人です。
「いつものようなツッコミしてください!」
「好んでツッコミなんてしてないから!」
「ツッコミをしない存さんなんて炭酸のないコーラも同じです! だって存さんの存在意義はツッコミじゃないですか!」
「何気に酷くない!? だ、だったら日登美の存在意義はあれだよ!」
「なんですか?」
すみませんわかりません。つい勢いで言ってしまったわけなのですがしかしなにかを言わなければ負けたような気がする…。
「え、え、と………………あれだよ。日登美の存在意義は、……僕の近くにいることだよ」
「た、存さん……」
「なにノロケてんだ」
苦しまぐれに言った言葉に日登美が感激し、朱雀が呆れました。……だって、近くに日登美がいないと(いろいろな意味で)不安になるもん。
「存さん……私、嬉しいです!」
日登美にひしっと抱き締められ、僕の顔は真っ赤になります。それを見て朱雀がジト目になり、朱雀家の少女達は苦笑し、戦神さんが復活しました!?
「戦神さん!?」
ぼろぼろで立っているのがやっとに見える戦神さんの登場に僕は驚きの声を上げます。
そして、朱雀がそんな戦神さんを見て一言。
「なんだ……生きていたのか」
「……なんでそう残念そうな顔をするかなぁテメェは?」
「残念だからだ」
「クソッタレ……!」
今すぐにも朱雀に飛び掛りたいようですが、疲弊した体は思うように動けないみたいです。
「お呼びじゃないんだよ覗き魔。失せろ」
「そ、崇城さん……?」
なんとまあ冷たすぎる台詞を吐き捨てる崇城さんに背筋に冷たいものが走ります。
「ク……、この悪魔め」
戦神さんが後退りしながらも崇城さんを睨みつけると、そう吐き捨てました。それを聞いて、僕はわなわなと震えました。
「あ、悪魔……だっ、て……?」
「ああ、そうだ! お前も気を付けろよ! 外面はいいがな、こいつは俺をも半殺しにする実力を持つ中身はまるで悪魔のような……、」
「ちょっと待ったァアアアアア!!!!」
僕は聞き捨てならぬ言葉を聞いたのでバッと立ち上がると、戦神さんに『待った』を掛けました。
「な、なんだなんだ!?」
朱雀ならまだいい。泉水のことを知ってるから。だけど、彼女を知らない戦神さんが悪魔という言葉を軽々しく口にすることは許せないのです!
「戦神さん、軽々しく悪魔と口にするなァア!」
うろたえる戦神さんにビシリと人指し指を向けます。
「な、なにっ?」
「あなたはまだ暴力を受けただけだろう! 半殺しがなんだ! 僕なんか九十九・九パーセント殺しされたぞ! なんでコンマ一パーセント残すんだよ! いっそ殺してくれよ! こんな地獄の責め苦を受けるぐらいなら死んだほうがマシだ! …………ってハッ、そんなことはどうでもいいんだ! 本当の悪魔というのはな……会話の途中でなんの脈絡もなく撲殺してくるような行動に、笑顔で首吊り自殺を勧めてくるような性格に、ビルの屋上から真下のトランポリンに落ちたらどれぐらい跳ねるのかなと突拍子もなく提案して実践させようとするような非情さを持ち合わせた者が悪魔と呼ばれるんだ! そんなのは一人で十分だ! 二人も三人もいらないんだよ! ってかいてたまるかァア! でもいるんだよォオ! 一人!」
僕の激情に、戦神さんだけではなくこの場にいる全員が唖然としました。
……やがて、戦神さんが謝るように口を開きました。
「……お前も、苦労してるんだな」
戦神さんはまるで同士を見るような目で僕を見つめてきました。
「あなたならわかってくれると思ってました……」
こうして僕と戦神さんはどちらからともなく右手を差し出すと、握手を交しました。
奇妙な友情が芽生えつつある僕達を見て、朱雀がぽつりと呟きます。
「…………いや、別に存のいうようなのも悪魔とは言わんぞ」
僕にとってはそれが悪魔の定義なのですよ。
(つづく) |