外伝その3 朱雀家訪問・四
「なぜお前がいる?」
俺は自らの家の前で、呼ばれざる客にそう聞いた。
「……なんだよ。俺がいたら不満かよ」
戦神が不満そうに口を尖らせた。
「フン。お前の存在自体が不満なんだ。今更いるいないで不満になっても仕方がないだろう」
「こんにゃろう……!」
まさに一触即発の雰囲気。そこに慌てて存が仲介に入る。
「とりあえず能無しは死んでください!」
「んだとコラァ!?」
「えぇ!? 違う! 違うよ!? ってか僕の声に似すぎだろ日登美! それに僕が喋ろうとするときに先に喋るのはやめてくれよ! 勘違いされるだろ!」
戦神が存を睨み、存が主君を怒鳴る。そして主君は存に素の感情を向けられていることに喜んでいるようで、笑顔だ。
「……………ふぅ」
俺は軽く息を吐き、やれやれと首を振った。
存達が来るのが遅いので様子を見ようと外に出るのと、存達が敷地内に入ってくるのはほぼ同時であった。ばったりと出会って最初の一言が、さっきの冒頭での会話だ。
「……それにしても、よくまあここに来る勇気があったな」
含みのある口調で俺は戦神を見る。うっ、と少し後退ったが、強い口調で詰め寄ってくる。
「お、俺はお前に文句を言いにきただけだ!」
「さっきあいつ殺してやると言ったような……」
「虚勢ですよ。本当は復讐者が怖くて仕方がないんです」
「そこの二人は黙ってろ!」
……ふむ、文句か。会う度にいつも文句を言われるので慣れているが、不愉快なのは変わりない。
「……俺もお前に文句がある」
「な、なんだよっ」
俺の言葉に幾分かの焦りを滲ませ、そう虚勢を張る。
「この前に来たときに、風呂を覗いたことだ」
「えっ?」
「なにぃ!?」
なぜか主君と存が過剰に反応した。
「戦神にはそんな趣味があったのですね……」
「し、しかも男相手に……」
「ちげぇよッ!!」
顔を真っ赤にさせて怒鳴る戦神。
「そ、それに俺が覗いたのはこいつじゃねぇ!」
「覗いたと認めたな?」
「ハッ!?」
あのときは事故だ陰謀だと騒いで否定していたが、ボロを出したな。
「覗いたって……朱雀と暮らしてる人達を?」
存の疑問に頷いて答える。
「結局失敗に終わり、しかるべき報復を与えたが、まさかまた懲りずに覗きにきたかこの変態が」
周りの冷ややかな視線で、反論を言おうにもなにも言えなくなる戦神。うむ。これで文句を言うことはできなくなっただろう。
しかしこいつもまだまだだな。風呂を覗いたことでの文句はすでに終わったことだ。それに対してまた文句を言うのは器の底が知れるというもの。それを利用して反論すればよかったのにな。
「……まあいい。上がれ。覗きは未遂に終わったからな。あいつらも…………そんなには、怒っていない」
「そ、そんなには怒っていない、だって……?」
戦神がガタガタ震えながらオウム返しに呟いた。
「あ、あんな地獄のような目に合わせて……あれで“そんなに”は怒っていないのか!?」
あのときの恐怖を思い出してしまったのか、目に涙が溜っている。
「…………あれに関しては、俺も酷いとは思っているが」
その点に関しては同情しよう。生きていることに感謝するがいい。
「いったいどうしたの……?」
存が戦神の変化になんらかの恐怖を抱いているようだ。……いや、本能的に危険を察知しているのかも知れない。
「そうだな……」
だから俺は、わかりやすく、簡潔に、答えた。
「……ここには、泉水並の悪魔が数名いるということだ」
……存は、無実の罪で捕えられた人間が死刑宣告を受けたような表情をした。
……………………………
〔山羅視点〕
……………………………
泉水並の悪魔が数名いるという言葉に、僕は失神寸前にまで陥りました。
泉水一人だけでもこの世を滅ぼしかねない暴君(もしくは地球外生命体)なのに、この家には泉水と同等の暴君(もしくは地球外生命体)が数名いるというのか……!?
「…………どうした?」
躊躇する僕に朱雀が入ってくるように促してきます。その間に先に戦神さんが魔物の巣窟に入るが如く足取り重く家の中へ入っていきます。
「……フッ、泉水と比べたら、そこらの悪魔なんて小悪魔にしか過ぎないよ」
僕は今まで泉水から受けてきた不当な扱いを思い出し、それで…………自分を鼓舞しようとしましたが逆効果でくじけそうになりつつも、泉水以上の存在がいないと信じ、僕は朱雀の家に一歩足を踏み入れました。
と、その瞬間――。
「ギィィィィァァァァァアアアア!!!!」
という戦神さんの壮絶な悲鳴……!
「さよなら!」
「―――――」
僕はすぐに背を向けて逃げ出そうとしました! が、朱雀に僕の服を掴まれ引き止められて逃げられない……!
「泉水と比べたらそこらの悪魔は小悪魔にしか過ぎないのだろう?」
「小悪魔でも悪魔と相違ないと気付きまして!」
「……諦めろ。それに、性格は泉水に比べて……、」
「いいのっ?」
「いや、悪すぎる(断言)」
「ダメじゃん!」
「案ずるな。きつく存には手を出すなと言いつけてある」
「し、信用できるの?」
「できないな(断言)」
「ダメじゃん!!」
「そもそもお前が昨日の夜にいきなり今日来ると電話してくるからいけないんだ」
「えぇ!? それいま関係あるの!?」
「ない(断言)」
「ダメじゃん!!!」
ギャアギャアわめき散らしましたが、朱雀の有無も言わせぬ力で家の中に放り込まれてしまいました。
すると、目の前に少女達の姿が飛び込んできました。
「あなたが……山羅存さん?」
少し誰かさんを思い出させるポニーテールの少女にそう問われましたが、僕はほうけてしまって答えられませんでした。
いや、なんとまあ……美少女揃いです。それぞれ個性のある魅力を放っていて、僕は思わず顔を赤らめて視線を反らしてしまいます。
その反らした先に…………廊下の角でボロクズのように横たわる戦神さんの姿が!?
「せ、戦神さん……?」
「………………………………………………………………………………………」
へんじがない。ただのしかばねのようだ。
「え、と………」
いったいなにが起きたのか。僕は冷や汗を流しながら視線を少女達に向けます。
ニコリ。
そんな表情をしていましたが、泉水の『口を開くな小僧』のような表情を思い出されるので、なにも言うことができませんでした。
「どうぞこちらへ」
上品に微笑む少女に促され、僕はびくびくしながら廊下を歩きます。
「って、あれ?」
僕はふと立ち止まり後ろを振り返ります。そこには朱雀の姿がありました。
「……日登美は?」
朱雀が無言で指を差します。
指の先に、日登美はいました。……ボロクズのように横たわる戦神さんをパシャパシャと携帯のカメラで撮っています。
「……なにしてるの?」
「題名は『愚者の末路』です」
よくわからない返答をもらいました。
散々撮って満足したのか、日登美は定位置(左隣)に収まると、一緒に歩き出しました。
僕達が案内されたのは居間らしき部屋でした。四角い机の回りにある座布団に、みんなそれぞれの座り方で座っています。
僕は空いている座布団に正座して座りました。日登美は僕の横に座ると、……頭を僕の膝に乗せ、寝転がりました。
「……なにしてるの?」
「男のロマンです」
「君は女でしょ」
軽くツッコミし、膝から退いてもらいます。
その様子をポカンと……若干羨ましげに見ていた少女達に、僕は苦笑して説明します。
「ハハ……いつものことなんです。気にしないでください」
「女の子を見るといきなり服を脱ぎ出して『僕を見て!』と叫ぶ性癖がありますが気にしないでください」
「気にしまくるよ!? なにその異常性癖!? そんなの持ってないからね!?」
「わかりました。……そういうことにしておきます」
「えぇぇ!? やめてよその言い方!」
いつもの調子全開です。そんな僕達を呆気に取られて見ている少女達に気付き、僕は顔を真っ赤にさせて座り直します。
「……すみません」
そこでつっ立ったままでいた朱雀が僕の目の前の向かいの座布団に座り、口を開きました。
「山羅存に、諏訪日登美よ。ようこそ我が家へ」
……戦神さんが抜けてますが、スルーしましょう。
「なにも準備していないので大したもてなしができないのですまないが、そのぶん今日という僅かだが貴重な時間の間、存分に語り合おうではないか」
その言い回しに、ポニーテールの少女が半目になります。
「……用は自己紹介等して互いを分かってもらったところで雑談でもしようってことでしょ」
「うむ」
「だ、そうよ」
だ、そうです。
(つづく) |