山羅くんの不幸(26/69)PDFで表示縦書き表示RDF


山羅くんの不幸
作:紫水晃



第21話・不幸な毎日【木曜日編】 やっぱり今日も


 



 
 ヤバいです。

 僕がまともに一日の授業を受けたのはなんと二日しかないのです。

 初日・気絶。(理由不明。薬物の疑い有)

 二日目・無事? 一日は終わる。

 三日目・六時限目の全校集会途中退場。(暴徒誕生の日)

 四日目・無事? 一日が終わる。

 五日目・心を強くするために早退。(しかし意味はなかった…)

 六日目・暴徒再誕の日。逃亡のため早退。(富士山の頂にて捕縛される。五時間に渡る逃亡は、数人の高山病の発症者と、数十人のサバイバル知識の向上で終わりました)

 そして今日は七日目です。

 ……今回のお話は、今日も無事? 一日を過ごしていくための努力をする僕・山羅存が受ける授業風景です。


……………………………


【朝のHR】


 飯島先生がむっつりとした表情で壇上に立っています。そして若干野性味を帯たクラスのみんなに向かって静かに口を開きました。

「昨日はお前らが午後の授業をボイコットしたせいでなぁ…………散々校長先生に褒められたんだぞ!」

「えぇーー!?」

 あちこち絆創膏を貼った僕が世の不思議に対してツッコミします。

「なんで褒めるんですか!?」

「お前が大ッ嫌いだからだ!」

「なんだよそれ!」

 どうやら僕の敵は生徒だけではないようです。

「みんなも山羅が嫌いだよなっ!」

「「「はいっ!」」」

「なにこのイジメ?」

 僕は頭を抱えて机に突っ伏します。

 そんな僕を弁護するように、今日の仕事はオフで隣の席にいるユーちゃんと、これまた隣に座っている日登美が立ち上がりました。

「私はタモくんのこと大好きだよ!」

「私は愛しています!」

 ……いや、気持ちは嬉しいんですけどねお二人さん。それは反って男子生徒の反感を買ってしまうのですよ。

「なんでなんだ百合ちゃん!?」

 田茂百合ファンの人でしょうか。すぐ後ろの席にいる彼は涙を流しながら僕をびしっと指差してきます。それも中指で。

「こんな奴のどこがいいんだ! こいつは裸で校庭を走り回って『この地球を愛してます!』って叫ぶような変態だぞ!?」

「なにその異常行動!? やめてよそんな嘘で人を貶めるようなことをするのはっ!」

 僕の名誉のために言いますが、断じてそんなことはしてません!

「嘘じゃねえ! 俺の“夢”の中でしてたじゃねえか!」

「だから夢でしょ!? 現実と夢を一緒にするなよ!」

 ……とまあ、こんな感じで……いつも一日の授業は始まります。


【一時限目・国語】


 国語を受け持つのは香山芳幸かやまヨシユキ先生です。見た目は人を何人も殺しているような凶悪面ですが、“まだ”誰も殺してないそうです。

「おぅ、山羅ァ……37ページ読んでくれるかいのォ……」

 その筋の人だということは一目瞭然ですが、なぜ教師をしているかは不明です。

「は、はい! えーと……『桃太郎』……?」


《むかしむかしあるところにおじいさんとおばあさんが……死闘してました!? おじいさんは大鎌、おばあさんは大剣を持って相手を殺そうとしています。そのとき川から、どんぶらこ、どんぶらこと大きな桃が上流から流れてきます。それを見た二人は『一時休戦としようか』と互いの得物を片手に持つと、もう片方の手で、一緒に大きな桃を川から持ち上げました。そうして地面に置くと、二人は再び得物を両手で持ち、渾身の力で、おじいさんは横に、おばあさんは縦に斬りました。……二人は恍惚の表情を浮かべました。斬った感触が肉を斬ったように心地好かったからです。そこで、斬られた桃が四等分に分かれました。……同時に、赤黒い液体が四方に飛び散りました。……それは、血でした。……なんと、中に人がいたのです。しかも赤子でした。それを見た二人は、納得したように頷くと、同時に口を開きました。


『よし、この子を山羅存と名付けよう』》


「ってなんでだよ!?」

 僕はバンッと教科書を地面に叩き付けました。全然桃太郎じゃないばかりか僕が主人公です。しかも死にました。無茶苦茶だ!

「なんですかこれ!?」

「桃太郎だ」

 香山先生は当然とばかりに頷きます。

「反論があるならあとで東京湾……おっと違うな……職員室に来な」

「反論ナンテアリマセン」

 東京湾に沈められそうなので、僕は教科書を拾うと再び朗読を始めました。


……………………………


【二時限目・理科】


 理科を受け持つ先生は保志利津子ほしリツコ・二十三歳(独身)先生です。ちなみに、二十三歳の前に(永遠の)が付きます。本当の歳はと聞くのは禁句です。その罪を犯した者は……僕が知る限りでは、不登校になるそうです。

「ねぇ、百合ちゃんはなんで山羅クンのことが好きなの?」

 教え方が分かりやすくて人気のある先生ですが、全然授業と関係ないことを突然言い出すのでたまに傷です。

「え……?」

 ユーちゃんは顔を真っ赤にさせて保志先生を見ると、ちらと僕を見て答えました。

「……そ、それは、…や、優しいですし……」

「男は体目当てだといくらでも優しくなれるのよ」

「なんてことを……」

 枯れた発言に対して僕は憮然としました。

「かっこいいですし……」

「眼科に行きなさい」

「どういう意味ですか……?」

 そりゃあ自分でもかっこいいとは思わないけども。

「頼りがいがありますし……」

「ハッ……」

「鼻で笑った……!?」

 なんなんでしょうこの人は。

「うんうん。百合ちゃんは山羅クソが本当に好きなんだね」

「いまクソって言った!?」

 ン、ではなく、ソ、でした。僕はしかと聞いたぞ!

 ……でも、なかなか嬉しいものですね。人から好かれているというのは。もちろんユーちゃんの、好き、は恋愛方面ではないとしても。

 ……あ、ちなみに日登美もこの質問は二日目のときに受けました。もちろん、ふざけたことばかり言っていました。


……………………………


【三、四時限目・社会】


 社会(地理・歴史合同)を受け持つのは刀根山人志とねやまヒトシ先生です。地理と歴史を二時間掛けて教えてくれます。

「あー……やる気ねぇー」

 しかし、いつも授業を面倒臭そうに教えています。なぜ教員になったのか理由を聞くと、

「夏休みがあると思ったから」

 だそうです。

「あーあ、みんな死ねばいいのに!」

「どこぞの金八先生のようなこと言わないでください」

「特に山羅はすぐに死ねばいいのに!」

「なんてことを!」

 憤慨してガタンと席を立ちます。

「そうですよ先生!」

 眼鏡の女子生徒……粟野さんもガタンと立ち上がります。

「彼はいますぐ死ぬべきです!」

「いや、即刻だ!」

「いやいやこの瞬間!」

「違う! この刹那!」

 クラス中で僕がいつ死ぬべきか議論が始まりました。僕は教室の隅に行き、その場に座り膝を抱えると、グスンと泣きました。


……………………………


【昼休み】


「ねぇタモくん、一緒に食べよ」

 ユーちゃんが弁当を持って僕の側に来ました。

「日登美さん、いいかな?」

 若干挑戦的な視線を日登美に向けます。

「いいですよ」

 涼しげに答え、自分の弁当を隅に置きます。……一つの机に三つの弁当箱、さすがにきついです。それに、

「おっす、来たわよ」

 泉水登場です。昼休みになると来るのはもう日課ですね。

 これで女子三人と一緒に食べるシチュエーションになり、男子生徒からの憎悪の波動が強くなりました。歯ぎしりどころか歯が砕ける音が聞こえてきます。

 が、しかし。

「邪魔」

 泉水は僕の襟首を掴むと、椅子から引き剥がし、そこに座りました。

「…………」

 僕は本当に泣きそうでした。

 仕方なく机から弁当箱を取ろうとすると、泉水が代わりに取ってくれました。

「あ。ありが、」

 泉水は自然な動作で僕の弁当箱を、感謝しようとする僕の目の前で、開いてる窓に向かって……ぶん投げました!?

「なにをする!?」

 僕は窓に駆け寄ります。すると、投げられた弁当箱の先に……校長先生の姿が!?

 ゴツッ。

 その鈍い音に思わず目を瞑ります。数秒が過ぎ、ゆっくりと目を開けると、こちらを睨みつけてくる校長先生と目が合いました。

 いや、僕じゃありませんから! ……と弁解する前に、校長先生は僕に向かって中指を立てると『あとで校長室に来なさい!』と怒鳴り、去っていきました。

「………………」

 僕は呆然と立ち尽くしました。もちろん、校長の頭に当たったためカツラがズレていることに気付き『校長……カツラだったんだ……』と呆然としているのもあります。

 やがてゆっくりと後ろを振り向くと、クラスメイト達のざまあみろという視線と、心配そうに見てくる二つの視線と、何事もなかったように弁当を食べている悪魔の姿が見えました。

 そのとき、僕の心に暗い感情が芽生えました。


 いつかバーカって言ってやる。


 ……こうして、僕は校長室で二時間も怒られ、今日も無事一日を過ごすというミッションを攻略できませんでした。

 あ、明日こそは!






(おわり)


 
 
山羅「はい、お馴染になりつつあるこのコーナー。今日の話はゴブフゥ」

泉水「私が存をぶん殴るのがお馴染になりつつあるこのコーナー。今日の話は外伝についてよ!」

諏訪「短編で創った『まともじゃない奴ら』のことですか?」

泉水「そうよ。作者が『外伝って別にした方がいいのかな?』って勘違いしたせいで枠から離れた可哀想な作品よ」

諏訪「今度それを消して、『山羅くんの不幸』に戻すようですね」

泉水「そのようね。読んでない人も読んでる人も、まあ、気楽に待ってね」

山羅「い、いつになるかわからないからね」

泉水「……ちっ、生きてたか」

山羅「あからさまな舌打ちやめてよ!」

諏訪「では終わりです」

山羅「え、もう終わり!? 僕、まだ――」

泉水「また次回!」



だんだん山羅くんの影が薄くなる、そんなコーナーです。

山羅「やめてくれよ!」











ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう