第17話 最恐! 最凶? 最強コンビ!!
「……ふむ。××会社からの命令か」
朱雀は納得したように頷くと、ちらりと視線を下げます。
そこには『俺は近々結婚するんだ!』と泣きながら全てを話してくれた男Fががっくりとうなだれていました。
「うむ。全てを話してくれたようで嬉しいぞ。幼稚園の頃からの想い人を大切にするんだな」
「は、はい! ありがとうございます!」
朱雀の優しい言葉に、ぶわぁ、と涙が溢れています。
……それにしても、彼の婚約者との出会いから結婚までの軌跡の話は、そんじょそこらの恋愛映画より感動できました。この場にいるほとんどの人が涙ぐんで『おめでとう!』『お幸せに!』と拍手したほどです。……え? どんな話かって? それはご想像にお任せします。大恋愛・大純愛の感動大作です。
ちなみに、日登美は【第四章・初めての相手があなたで良かった】というちょっと18歳未満禁止の場面に突入したときに気絶しました。……自分で言うのは平気なのにピュアですね。僕は床に座って、その膝に日登美の頭を乗せてあげています。そうしてくれないかと傑さんに頼まれましたので。
「それにしても、いつ俺が……いや、俺達がスパイだって気付いたんですか?」
「最初からだよ」
傑さんが男Fに近付いてそう言いました。
「さ、最初から!?」
男Fは愕然としました。
「そんな……。じ、じゃあなんで今日になって?」
「復讐者が帰ってきたからね。いい機会だし、仕事中の君達を呼び出して復讐者に久しぶりの仕事をしてもらっただけだよ」
「え、そ、それだけ!?」
男Fは、ガーン、とショックを受けました。
「うん。それだけ」
傑さんはにっこりとそう言いました。
「もちろん、その前からも君達が情報を漏らさないように注意を払っていたよ。仕事も雑用のようなことを任していたし、住み込みにすることで監視することもできたし」
「そ、そうか……。だから俺達はいつも雑用ばかりだったのか」
納得したのか、放心した様子で乾いた笑いをしました。
「ハハッ、……これでクビ決定だな」
「なんでだい?」
傑さんが聞くと、男Fは諦めたような顔で言います。
「……もう一年も経つのに、情報どころかスパイだとバレたんだ。クビ確実だろう?」
「そこの会社ではそうだと思うけど、僕は君をクビにしようとは思わないよ」
え? と男Fは傑さんを見上げます。傑さんはにっこりとしました。
「君にやる気があるのなら、いつまでもここで仕事をしてもいいんだ。もちろん君だけでなく、他の五人も。それに君の奥さんも連れてきてもいい。そのために『居住区』があるものなんだから」
「……ほ、本当にいいのかっ? お、俺はずっと騙して……。そ、…それに! 俺が寝返ったと知ったら家族が危険に……」
「それは問題ない」
朱雀がフッと笑うと、自信たっぷりに言いました。
「俺達がさせないからな」
不敵。
『特別区』の皆さんがそんな表情を浮かべました。
「大船に乗ったつもりになってもいいよ。復讐者と戦神の最強コンビが復活したんだから。……今日限りかも知れないけど」
復讐者と戦神さんは顔を見合わせると、ムスッとした表情をしてお互い違う方向を見ました。
「……復讐者……戦神……。ああ、……あの『三キョウ』か……なら、安心かな……」
そして、男Fはゆっくりとうつ向くと、体を震わせ、それ以降は顔を上げようとしませんでした。……泣いているのでしょう。
「三キョウ……?」
僕が思わず疑問を口に出すと、傑さんが教えてくれました。
「復讐者と戦神のコンビは結構有名でね。……出会った者、その雰囲気に恐れを成す『最恐』。出会った者、その不幸に自らをこう嘆く『最凶』。出会った者、その強さに思わず呟く『最強』。ってね。それで三キョウ」
簡単にすると、『最恐』は喧嘩している二人の様子は恐いことを表しています。『最凶』は、やっべー、こいつらが来やがった! という心理状況を表しています。『最強』は、強すぎだろぉ……あーあ、ギブギブ。ギブアップ! を表しています。
「……俺と戦神が最強コンビか」
そこで朱雀がぽつりと呟きました。
「こんな役だたずとコンビを組んでも一人でやってるようなものだ」
それに戦神さんは反論します。
「それはこっちの台詞だ! それから、役だたすじゃなくて役ただずだよバーカ!」
役だたずだよバーカ。
みんな心の中でそう思いました。もちろん僕も。
「フン。先程のことを忘れたか? 俺は五人、お前は一人しか倒してないではないか」
「一人じゃねぇ! 二人だ!」
「どちらにしてもお前の方が少ない」
「それは俺が出遅れただけで……!」
「認めたな?」
「クッ、……なら、お前を倒してどっちが強いか白黒はっきりしてやる!」
そして再び戦闘再開します。……が。
「あ、ユーフォーだ」
「なにぃ!?」
と、なんの捻りもないやり方に簡単に騙され、また気絶しました。
……ま、まあ、とりあえず、これにて一件落着ということで。
……………………………
帰る時間がやってきました。
『特別区』の皆さんに見送られ、僕達は玄関前にあるリムジンへと歩いていきます。
あの六人はここに残ることを決めました。そしたら対処は早かったです。××会社にちょっくら行ってくると朱雀と目を覚ました戦神さんが行き、一時間足らずで戻ってきました。……帰る直前にニュースを見ると、社長や幹部の不正が多く発覚して倒産したと流れていました。……恐ろしいです。
日登美はやっと目を覚まし、僕の腕を組んで『今晩にでも私達も……』と熱い眼差しで見てくるので、僕は無視するのに精一杯です。
僕の家まで諏訪夫婦も送りに来てくれるそうなので、一緒にいます。あとは来るときと同じメンバーです。運転手に輝閃さん、そして朱雀……は、一つ違うところがありますね。メイド服ではないので。
車に乗り込もうとしたときに、戦神さんの呼び止める声がしたのでみんな振り返りました。
「なんだ?」
朱雀が怪訝そうに聞くと、戦神さんはぶっきらぼうにこう言い捨てました。
「……またいつでも帰ってきやがれ」
そしてずしずしと去っていきました。
「………………」
しばらく朱雀は無言でしたが、
「………………ああ」
やがて小声でそう呟きました。
……その横顔は、とても悲しげでした。
まず運転席に輝閃さんが乗り込み、次に朱雀が隣に座ります。僕と日登美はその後ろに一緒に座り、諏訪夫婦がもう一つ後ろの席に座りました。
「ん?」
すると後ろの席で傑さんの怪訝な声がしたので振り返ると、
「ああ!?」
傑さんがあの爆破スイッチを持っていました。忘れてたァ!
「傑さん、それ押さないでください!」
僕が必死にそう叫ぶと、傑さんは『え?』とすまなさそうに頭を掻きました。
「……あ、ごめん。さっき座ったときに押したみたいなん…だ」
「ナニィィィッ!?」
僕はあらん限りの絶叫をしました。
爆破。
爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破。
その文字が頭の中を覆い尽し、僕は茫然自失とうなだれました。ああ、我が家よ……栄光あれ。(意味不明)
「存くん……」
うなだれて別世界へと逃避しようとする僕を見て、傑さんが心配そうに話しかけてきました。
「冗談だよ?」
「……えっ?」
僕はガバッと顔を上げました。目には大粒の涙が溜っています。
「日登美に言われなかった?」
傑さんはにやりとしました。
「僕は冗談が好きなんだよ?」
ここかっ! ここでそうきましたかっ!
おそらく、僕も、ここを見ている人も(いるとすればですが)、傑さんが冗談が好きだという設定は忘れていたことでしょう。
「やめてくださいよぉ!」
僕は泣きながら傑さんに言います。
「あはは、ごめんごめん」
そんな僕達を見て微かに朱雀は笑うと、隣の輝閃さんに半ば諦めたような口調で言いました。
「……さっさと車を動かしたらどうだ」
……………………………
僕の家に着きました。もちろん爆破した様子は見当たりません。少しばかりほっとします。
「それじゃあ、私達はこれで」
諏訪夫婦は娘の日登美の頭を撫でたり、抱き締めたりしてから車に乗り込みました。
「…………」
日登美はギュッと僕の腕にしがみついたまま二人を見ています。……やはり寂しいのかなと、その横顔を見てそう思いました。
「しばらくお別れだな」
朱雀が腕を組んでそう言いました。
「そうだね。……でもそのうち、今度は僕から会いに行くから」
僕がそう言うと、朱雀は苦笑して、ああ、と呟きました。
「そのときは私も一緒ですよ」
という日登美の言葉にすぐにムスッとした表情になりましたが『ま、いいだろう……』とフッと笑いました。
「……また、な」
手をひらひら振って、朱雀も車に乗り込みます。
「山羅様……」
最後に輝閃さんが話しかけてきました。
「子作り頑張ってくださいね」
「はい!」
「君が返事しないでよ!? 僕が言ったみたいに聞こえるじゃない! それに子作りしないから!」
「でもいつかはします」
「そりゃあ……って違うっ! 今日はしないからね!」
「今日『は』?」
「そこを強調しないでよ!!」
そう言い争っている間に、輝閃さんも車に乗り込んでしまいました。
「それでは」輝閃さん。
「じゃあな」朱雀。
「また会おう」傑さん。
[安産祈願]日登美のお母さん!?
「最後のなに!?」
そうして、車は去っていきました。
二人残された僕と日登美。車が見えなくなるまで見送ると、
「……入ろうか?」
「はい」
と、家に入ろうとして……扉が開いていることに気付きました。
「…………へ?」
僕がお姉さんコレクションがなぜか玄関に綺麗に並べられているのを発見するのは、そう遅くはありませんでした。(だってすぐだし…)
……………………………
山羅存達の姿がバックミラーに映らなくなったところでゴホッと咳をする復讐者に、後ろから諏訪傑が話しかけた。
「……今日の二人を見て、君は存くんと日登美が付き合うことになにか異論はあるかい?」
それを聞き、彼は鼻で笑うように答えた。
「ない」
あんなに反対してたのに。そう傑は笑う。
「ハハハ……。ああ、それから、……もしあの二人が結婚することになったら、君は仲人をやってみないか?」
彼はその問いにはすぐに答えようとせず、遠くを見るように上を見上げた。微かに笑っているところを見ると、遠い未来、もしくは近い未来の、二人の仲人をしている自分を想像しているのかも知れない。
……だが。
「…………グッ…ッ……!」
その顔は、すぐになにかを堪えるような苦悶の表情へと変わる。
「……大丈夫かい?」
傑の言葉に無言で頷く復讐者。それを見て傑は悲しそうに目を伏せた。
「……私達の前では、無理をしなくてもいいんだよ」
それを聞いて気が弛んだのか、彼は手で口を抑え、大きな咳を連続して吐き出した。
……数分もの間。
その間、車中にいる二人は目を伏せていた。輝閃だけは前だけをじっと見ていたが、その瞳は涙に濡れていた。
「…………ああ」
ようやく咳が終わった彼は、まるでなにかを懐かしむような声で淡々と、呟く。
「……そうだな」
ゆっくりと視線を自分の手に落とす。そこには……
「……それまで俺が、生きていられたらな」
……黒く濁った血の塊が、べったりと赤く、手を汚していた……。
(おわり) |