第15話 メインディッシュ
〜食堂にて〜
夕食は僕と朱雀が来てちょうど出来たところだそうです。結構庶民的な机の回りの椅子に座ります。
傑さん、その隣に日登美のお母さん、朱雀、その隣に輝閃さん『なぜ隣に座る』『同じメイド仲間ですし』『だから違うと……っ』と言い合いしてます。で、僕、やはり隣に日登美。
「え、と……日登美?」
隣に座るのは別に構わないのですが……。
「なんですか?」
「君の服に貼ってあるその紙はなにかな?」
ちょうど胸のところに『メインディッシュ』と書かれた紙があるのです。
「今夜のメインディッシュですよ?」
にこりとします。
「味付け自由です。お好みのままに食してくださいね?」
頬を上気させ、日登美が潤んだ瞳で(別にギャグじゃないですよ?)見てきます。
「あ、食事を持ってきたみたいだよ」
華麗にスルーして、ポニーテールが自慢のちょっと誰かさんを思い出させる〈倒壊者〉さんが食事を僕達の前に置いていきます。
その豪華な品々に思わず涎が出そうです。
「存さん! 女性を見たら条件反射で涎を出すのはもうやめてください!」
「えぇ!? ないっ! ないよそんな特殊な反射行動はっ! 食事を見たからに決まってるでしょ!!」
僕は毎度ながら変なことを口走る日登美にツッコミし、ふと見た朱雀の食事を見て唖然とします。
これって……。
「なんだこれは」
代わりに朱雀が抑揚のない声で言いました。
「『生ゴミ』ではないか」
そうです。朱雀だけ台所にある三角コーナーの中にありそうな生ゴミが、そのままお皿に盛られているのです。う、異臭がしてきました。
「お似合いですよ」
平然と日登美がそんなことを言います。犯人は君か。
「………………………」
朱雀は無言で日登美を一別すると。
「主君が最後におねしょをしたのは……」
「倒壊者さん。お下げして新しいのを」
日登美が間髪入れずにそう言い、生ゴミが下げられ、ちゃんとした食事を持ってこられます。朱雀は勝利者の笑みを浮かべ、日登美は悔しそうに唇を噛みました。
……日登美が最後におねしょしたのはいつなんだろう。
僕はものすごく気になりました。
それにしてもようやく食事ができます。飲まず食わずで歩き回ったので、僕の空腹は最高潮です。目の前に並べられた豪華な食事を前にして、お腹の虫がグギュウグルグルと奮起の雄叫びを上げています。さあ、戦の始まりだ!
「では、手を合わせてください」
傑さんが手を合わせ、僕達も手を合わせます。
「いただきます!」
「ごちそうさまでした!」
「早ッ!?」
いただきますを言おうとした僕は驚いて隣を見ると、すでに日登美は完食していました。
「君は……早食いの世界チャンピオンか?」
「お母様は私より早いですよ?」
え? と僕は日登美のお母さんを見ますが、まだ食べていました。……傑さんと[あーん、してください]『あーん……もぐもぐ』[私にも、あーん、してください]『あーん』としていて、見ているこちらが恥ずかしくなってくることをしていました。
「女たらし様、この流れだと私達もするべきかと」
「どんな流れだ。そして女たらしと呼ぶな」
こちらも第三者から見ればいちゃいちゃしてるように見えます。
「存さん、寝室に行きましょう」
「……ぶっ飛び過ぎだと思わない?」
こっちはこっちで次元が違います。
「それに、僕はまだ食べてないから」
「私をですか?」
「違うよ! 食事をだよ!」
「なら私は食後のデザートですね」
「君はメインディッシュでしょ! ……あ、いや食べないけどさ!」
もう疲れてきました。とりあえず僕はいただきますを言い、食事を再開しました。
〜寝室にて〜
食事も終わり、僕は用意してくれてある寝室に案内されました。
「……ねぇ、日登美」
「はい?」
僕の腕を組んで離さない日登美に、僕は何度目になるかわからない溜め息を吐きます。
「そろそろ離してくれないかな?」
「どうしてですか?」
「入れないから」
「入れますよ?」
扉を開け閉めします。
「いや、そういう意味じゃなくてね……」
「どういう意味ですか? ……もしかして、そういう意味ですか?」
頬を赤らめてうつ向きます。もちろん、僕のそういう意味と、彼女のそういう意味は全然違います。
僕は一人で入りたいという意味なのですが、彼女はどういう意味を想像したのでしょうか。
僕はなんとか説得して、一人で寝室に入りました。
「……今晩、頑張ってくれると言いましたのに」
「言ってないから!」
そうして扉を閉めました。優しくしてあげようと思っていますが、二人きりで寝室に入ったとき、僕の理性が欲望に果たして勝てるかどうかがとにかく心配でした。
……心配、といえば明日の決闘もそうです。電気を点け、ベッドの上に横になり、僕は目を閉じました。
朱雀も心配ですが、戦神さんがもっと心配です。どちらも怪我してほしくないなぁ。
いったいどうなるのか。
それは明日になればわかります。
疲れからか、僕はお風呂に入るのを忘れて、そのまま眠ってしまいました。
〜深夜〜
扉を叩く音がしたような気がして僕は目を覚ましました。
コンコン……。
気のせいではないようなので起き上がります。腕時計を見ると、三時でした。
こんな夜遅くになんの用だろう。そう思いながらも扉を開けました。
「!?」
僕は訪問者の顔を見て驚きました。
「やぁ」
そう言って笑うその頬にある大きな傷。
「戦神さん……?」
がいたのです。
「夜分遅くに申し訳ないが、君にちょっと聞きたいことがあるんだ」
彼は部屋に入ってくると、僕がさっきまで寝ていたベッドの上に腰掛けました。僕は扉を閉めると、近付きました。
「聞きたいことって、なんですか?」
「復讐者の弱点を教えやがれ」
うわぁ、笑顔でそんなこと言ってますよこの人。つまりこの人は、僕に朱雀の弱点を聞き出す為にきたのですね。
卑怯ですね。
「いま卑怯だと思ったろ」
図星を突かれ、ギクッとします。
「そんなことはないぞ。これも立派な戦術の一つだ。もちろん、なにをしなくても確実に勝てるが、万が一……いや兆が一の可能性がある。それをなくすために必要なことなんだ。わかってくれ」
てゆーか、わかれ。笑顔の裏からその言葉が浮かんできました。
「え、と……申し訳ないですけど、僕は知らないです」
本当に知らないので頭を下げると、戦神さんが睨みつけてきました。
ひぃ!? 僕は身震いしました。だって本当に知らないもん!
「……そうか」
しばらくして、重い溜め息を聞こえました。
「やっぱりあいつに弱点はないか。……ありがとな。参考にならなかったけど」
分かりやすいほどがっくりとしています。僕はちょっと哀れに感じたので、必死に朱雀の弱点かも知れないことを思い出そうとして……思い出しました。
「あ、でも……!」
「なにかあるのかっ?」
輝いた瞳で僕を見てきます。僕は言いました。
「確か、子供が苦手だって言ってました」
「……なぁ、それは暗に俺に子供を人質にして戦えと言ってるのか?」
……非人道的な光景が思い浮かばれます。
「ちっ、役ただずだな」
そんな酷いセリフを残して、彼は部屋を出ていきました。
普通ならムカつきますが、僕は本当に哀れに感じていました。
……戦神さん。
役ただず、ではなく、役だたず、ですよ。
僕は、朱雀が彼を能無しと呼んでいるのは正しいことなんだと思いました。
(つづく) |